甲状腺:専門の検査/治療/知見② [甲状腺 専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 内分泌 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 専門医 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等 糖尿病編 をクリックください
(目次)
放射線と甲状腺
甲状腺の病気で注意する事
- ヨウ素(ヨード)と甲状腺 ヨウ素(ヨード)と葉酸(ようさん)は全くの別物
- 禁煙指導;タバコは甲状腺の病気に悪影響・受動喫煙の恐怖;甲状腺に忍び寄る副流煙
- 甲状腺と風邪薬/痛み止め 急性扁桃炎(溶連菌感染)でバセドウ病再発!
- チラーヂンS錠で副作用 チラーヂンS錠が下痢/食事/薬で吸収されない?
- 甲状腺と茶, コーヒー,活性酸素 甲状腺とアンチエイジング・ビタミン
- セレン欠乏症・亜鉛欠乏症は甲状腺機能低下症 甲状腺と銅
- ゴイトロゲン(甲状腺を腫れさせる食物) 大豆で甲状腺機能低下症になるは大うそ(大豆と甲状腺)
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病と熱中症
甲状腺と遺伝
甲状腺と似ている病気①
- 似ている、合併している副腎皮質機能低下症 甲状腺腫瘍と副腎腫瘍
- 髄膜炎菌/肺炎球菌で副腎クリーゼ(急性副腎不全)、副腎出血
- 成人成長ホルモン分泌不全症
- 甲状腺と似ている合併している亜鉛欠乏症、甲状腺でむずむず脚症候群
- 甲状腺と似ている女性更年期障害 男性更年期障害
- 現代日本にも脚気(かっけ)・ビタミンB1欠乏
- 食べ物がのどに引っかかる感じ。甲状腺それとも?
- サルコペニア/サルコペニア肥満症・フレイル
- 甲状腺と高マグネシウム血症 甲状腺機能亢進症/バセドウ病と似ているセロトニン症候群・カルチノイド症候群
甲状腺と関節痛、関節リウマチ、筋肉痛・筋けいれん
甲状腺と認知症、てんかん、神経内科、橋本脳症、精神神経病、頭痛
- 甲状腺で認知症? 甲状腺と老年症候群 ロコモティブシンドローム 加齢黄斑変性と甲状腺
- 甲状腺とてんかん
- 甲状腺と神経内科(パーキンソン病,多系統萎縮症,本態性振戦,手根管症候群)
- 橋本脳症 脳梗塞と甲状腺 脳腫瘍と甲状腺
- 甲状腺機能亢進症と精神神経病 甲状腺機能低下症と精神神経病 甲状腺と異食症 人格変化 神経性やせ症、神経性過食症
- 甲状腺機能低下症と頭痛 甲状腺機能亢進症/バセドウ病と頭痛
- ダウン症候群・ターナー症候群と甲状腺
- めまい・ふらつき/メニエールと甲状腺/動脈硬化
甲状腺と免疫(IgG4、胸腺、APS)
薬剤性甲状腺機能障害
甲状腺と血液の病気
- 甲状腺と再生不良性貧血
- 多発性骨髄腫と甲状腺・高カルシウム血症
- 甲状腺と出血①後天性血友病A/後天性von willebrand病 ②特発性血小板減少性紫斑症(ITP)
- 血栓性微小血管症(TMA)と甲状腺 甲状腺と血球貪食症候群 赤血球増加症 ・血小板増加症
甲状腺と泌尿器(前立腺・膀胱)
甲状腺と似ている病気②
甲状腺と救急・外科手術
- 橋本病急性増悪
- 甲状腺と救急:甲状腺損傷・気道閉塞・そのくすりダメ 甲状腺と救急(アウトドア編) 甲状腺の手術合併症
- 橋本病の手術・橋本病の巨大甲状腺腫に131-Iアイソトープ治療
- 甲状腺内視鏡手術・甲状腺ロボット手術
- 穿刺細胞診(医療従事者用) 気道狭窄を伴う甲状腺手術の気道確保 ECMO 甲状腺手術中の麻酔
- 内臓逆位と甲状腺 甲状腺手術で胸骨切開/胸骨切除 手術の痕を目立たなくする皮膚縫合 経皮経食道胃管挿入術(PTEG/ピーテグ)は禁忌 脳死と甲状腺 甲状腺と歯科治療・抜歯・顎関節症
甲状腺未知の領域
- サイログロブリン、一体何をやってるの? 甲状腺アミロイドーシス
- ウイルスと甲状腺;伝染性紅斑(リンゴ病)、突発性発疹、ヘルペスと無痛性甲状腺炎・橋本病・バセドウ病
- 手術不能・適応外甲状腺腫瘍にラジオ波焼灼療法(RFA)、iPS細胞から甲状腺細胞が作れる?、腫瘍抗原ペプチドワクチン療法、甲状腺がん探知犬
- 乳癌と甲状腺
甲状腺の社会問題
ヨウ素(ヨード)は制限、葉酸(ようさん)はドンドン摂取
長崎甲状腺クリニック(大阪)では混同を避けるため、患者さんには「ヨード」と言う表現に統一しています。しかし、世間では、ヨウ素(ヨード)と葉酸(ようさん)を混同している方が多くいます。甲状腺の悪い方にヨウ素(ヨード)の過剰摂取制限は必須(ヨードと甲状腺)ですが、葉酸(ようさん)は摂った方が良いのです。特に甲状腺機能低下症/橋本病の妊婦さんは、
- ヨウ素(ヨード)制限を厳格にして(ヨードと甲状腺)
- 葉酸(ようさん)を可能な限り摂取
しなければなりません。
葉酸(ようさん)とは
葉酸(ようさん)は水溶性ビタミンB群の一種で、妊娠期に欠かせない栄養素として注目されています。その名(葉っぱの酸)の通り、
- ほうれん草やブロッコリー、アスパラガスなど陸生植物の緑葉に多く、
- イチゴや夏みかんなどの果物類
- 大豆や納豆など
にも含まれています。葉酸(ようさん)はタンパク質や核酸合成の補酵素として、細胞合成に必要です。また、ビタミンB12と共に、赤血球合成に必要です。
甲状腺と葉酸欠乏
甲状腺と葉酸
- 甲状腺機能低下症では、葉酸の吸収障害・利用障害により
- 甲状腺機能亢進症では、葉酸の需要増大により
葉酸欠乏が起こります。
妊娠と葉酸
故に、妊娠期において葉酸は胎児の体を形成するのに必要不可欠です。胎児の細胞分裂が最も活発な妊娠初期(4週~12週)の葉酸欠乏は、二分脊椎症など神経管閉鎖障害の発症リスクが高くなります。
葉酸を強化した、おそらくパンや小麦を原料としたおやつ類(現在、81か国が推奨)を食べ続けた妊婦は、そうでない妊婦と比べると、子供の前頭・側頭部の皮質厚が増加するとされます。(JAMA Psychiatry. 2018 Jul 3.)
また、授乳期の葉酸欠乏は、乳児の発育障害の原因になります。
葉酸は動脈硬化を予防
葉酸は、動脈硬化の危険因子のホモシステインの産生を抑制します。ホモシステインは、必須アミノ酸のメチオニンが代謝されて生成されるアミノ酸です。血中ホモシステインは、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症、深部静脈血栓症の危険因子です。甲状腺機能低下症、2型糖尿病、葉酸・ビタミンB6・ビタミンB12欠乏で高値になります。
葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血
葉酸はビタミンB12とともに、造血に不可欠です。葉酸欠乏は、巨赤芽球性貧血という大球性貧血(大きな赤血球だが数は少ない)をおこします。
詳しくは、 巨赤球性貧血と甲状腺・副腎・糖尿病 を御覧ください。
葉酸欠乏による口内炎・皮膚炎・肌荒れ
葉酸が欠乏すると新陳代謝が活発な口腔内や皮膚、粘膜などに炎症や肌荒れが現れます。
葉酸(ようさん)をどの様に補給するか?

妊娠希望女性は葉酸1日400μg、妊婦推奨量は440μgです。葉酸400μgは、ほうれん草約200g(1把分)に相当しますが、そんな量のほうれん草を食べ続ければシュウ酸カルシウムの過剰摂取になり、腎臓結石・尿路結石になります。甲状腺機能低下症/橋本病で甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS錠)を服用中の方なら、ほうれん草のシュウ酸カルシウムと食物繊維がチラーヂンS錠の腸吸収を妨げます。
その他、ブロッコリー、アスパラガスなど陸生植物、イチゴや夏みかんなどの果物類も同じく食物繊維がチラーヂンS錠の吸収障害を起こし、納豆など大豆製品はチラーヂンS錠を吸着し、腸から吸収させないようにします(チラーヂンS錠で副作用・ チラーヂンS錠が下痢/食事/薬で吸収されない?)。
甲状腺機能正常橋本病で甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS錠)を服用する必要のない方は、気にせずこれらの食品を摂取して問題ありません。これらの食品は甲状腺を腫れさせるゴイトロゲンと呼ばれるものが多いですが、動物実験のみの話で、甲状腺に問題が出た報告は1例もありません。(ゴイトロゲン(甲状腺を腫れさせる食物))
葉酸は、加熱に弱いため、調理中に失活しますが、だからといって特に夏場、生のままで食べれば食中毒の可能性がないわけではありません。
結論として、最も簡単で確実なのは、葉酸サプリメントを飲むのが良いでしょう。ただし、ヨウ素(ヨード)が入っているのは止めてください。
筆者がお勧めなのは、大塚製薬の「ネイチャーメイド」で、余計なものが一切入っていないのが良いです。(筆者も服用しています)
甲状腺を腫れさせる物質、ゴイトロゲンを含む食物、キャベツ、ハクサイ等あるが、常識量を普通の人間が食べても甲状腺が腫れたり、甲状腺機能低下症おこしたりしない。高容量を使った動物実験のみの話。唯一の報告は異常な量のゴイトロゲンを長期間摂取した超非常識な88歳の中国人女性、生のチンゲン菜を1日推定1.0~1.5kg、数ヶ月間食べ続けた。甲状腺腫瘍・甲状腺癌の大きさを増大させる可能性も、理論上は有るが一例の報告もない。ゴイトロゲンは食物繊維を多く含みチラーヂンSの吸収障害おこすので、ゴイトロゲンが直接、甲状腺を腫れさせたり、甲状腺機能低下症を引き起こす様に錯覚する。
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ゴイトロゲンの真実
甲状腺腫瘍・甲状腺癌の大きさを増大させる可能性も、理論上は有り得ます。ただし、だれも証明した人はなく、そのような報告もありません。ゴイトロゲンには、以下のようなものがあります。
- 大豆
- アマの種子[亜麻仁油(アマニ油)]
- サツマイモ・タケノコ
- イチゴ・ナシ・モモ
- キャベツ、メキャベツ、ハクサイ、カリフラワー、ブロッコリー、カブ、チンゲン菜、ルッコラ、ダイコン、ワサビ、クレソン
- ホウレンソウ、ミズナ、ノザワナ、コマツナ、チンゲンサイ
- ピーナッツ
以上、ゴイトロゲンと言われる食品は、甲状腺機能低下症でチラーヂンSを服薬されている方には問題起こす可能性があります。それは、いずれも食物繊維を多く含むため、チラーヂンSの吸収を邪魔するのです。あたかも、ゴイトロゲンが直接、甲状腺を腫れさせたり、甲状腺機能低下症を引き起こすような錯覚を起こすのです。
詳しくは、 チラーヂンS錠で副作用・ チラーヂンS錠が下痢/食事/薬で吸収されない? を御覧下さい。
糖尿病があり、ダイエット目的で生のチンゲン菜を1日推定1.0~1.5kg、数ヶ月間食べ続け、粘液水腫性昏睡になった88歳の中国人女性の報告があります。生のチンゲン菜は、グルコシノレートを加水分解するミロシネーゼを含み、グルコシノレートの分解産物のチオシアネート、ニトリル、オキサゾリジンは、動物実験で使用する程の高濃度では甲状腺ホルモン合成阻害作用があります(甲状腺へのヨウ素の取り込みを阻害)。加熱調理でミロシネーゼは不活性化されます。(N Engl J Med. 2010 May 20;362(20):1945-6.)
大豆と甲状腺は、深い関係があります。しかし、大豆製品を食べて甲状腺機能が低下するのは大うそです。確かに、イソフラボン類(大豆の有効成分でゲニステインやダイゼインなどがある)が甲状腺ホルモンの合成を抑えるという動物実験は複数存在します(逆に甲状腺ホルモン合成を促進するのもあります)。あくまで、動物実験です。英国、米国、中国などヨード欠乏国では色々な報告(甲状腺ホルモン合成を抑制・促進両方)がありますが、実際、日本人で起こった事実はありません。
動物実験の話で、実際、人間、特に日本人で起こらない
イソフラボン類(大豆の有効成分でゲニステインやダイゼインなどがある)が甲状腺ホルモンの合成を抑えるという動物実験は複数存在します。あくまで、動物実験です。実際、人間、特に日本人で起こった事実はありません。動物実験は、通常ではありえない大量のイソフラボン類を強制的に投与し(そもそも動物実験とは、そう言うものです)、血中濃度を異常な高値(薬理学的濃度と言います)にします。それに対して、生物(動物も人間も)の通常血中濃度を生理的濃度と呼び、この濃度では何も起こらないのです(一般的に薬理学的濃度は生理的濃度の数百-数万倍です、正に「薬も毒になる」)。
信じるに足るだけの直接証拠がなく残念なのですが、1例だけ、「普通に市販されているイソフラボン類の健康食品(大麦若葉)を6カ月摂取して潜在性甲状腺機能低下症が重症の甲状腺機能低下症になった」と言う関東の症例報告があります(J Med Case Rep. 2017 Sep 5;11(1):253.)。ただ、元々、橋本病の抗体が強陽性の高齢者で、イソフラボン類が原因と断定できる直接の証拠は提示されておらず(偶然かもしれないし、ヨード・海藻系など他の原因かもしれない、普通に考えれば重度の無痛性甲状腺炎、IgG4甲状腺炎(橋本病型IgG4甲状腺炎))、他の橋本病患者で同様の報告は1例もありません。さらに、画像はCTのみで、甲状腺超音波(エコー)検査の画像が無く、所見は腫れている以外記載されておらず、甲状腺に何が起きたのか(破壊は進んだのか、その後回復したのか、内部血流はどうなのか等)判断できません。
筆者が診ている橋本病患者で、大麦若葉を服用し、甲状腺機能低下症が悪化した人が数人いましたが、全てチラーヂンSの吸収障害でした。特に、IgG4甲状腺炎(橋本病型IgG4甲状腺炎)は、橋本病抗体強陽性者の30%に見られる橋本病(慢性甲状腺炎)の急速進行型で、甲状腺機能低下が速いのが特徴。おそらく、関東の症例はこれだろうと筆者は考えます。
ヨード欠乏国では色々な報告があるが・・
日本は国際的にも稀なヨード過剰摂取国(ヨードと甲状腺)。日本以外はヨード欠乏国で、島国なのにヨード欠乏国の英国では、日本の平均摂取量よりやや少ないイソフラボン類(大豆の有効成分)の摂取で、潜在性甲状腺機能低下症から顕在性甲状腺機能低下症へ進行するが、日本で同じことは起こらない(Nutrients. 2016;8. pii: E754)。筆者の推測ですが、イソフラボン類摂取で、益々ヨード欠乏が進んだからではないでしょうか?どの道、日本では関係無い事です。
その一方で、ヨード欠乏国の中国の報告では、橋本病患者にイソフラボン類の一つゲニステインを与えると甲状腺刺激ホルモン(TSH)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO-Ab)、抗サイログロブリン抗体 (Tg-Ab)が有意に減少、甲状腺ホルモンFT4が有意に増加(要するに、甲状腺を破壊する抗体が減り、甲状腺機能が改善)したそうです。(Immunobiology. 2017 Feb;222(2):183-187)
そもそもイソフラボンは、フィトエストロゲン(女性ホルモン、エストロゲン活性を有する植物由来の化合物)なので、橋本病の自己免疫を抑える作用があっても不思議ではありません。あくまで、ヨード欠乏国の中国の報告であり、日本で同じ事が言えるか不明です。
群馬大学の研究データでは、イソフラボン類のゲニステインとダイドゼインが甲状腺ホルモン受容体を介して、甲状腺ホルモン刺激伝達経路を活性化するとの事です。人間で同じことが起こるか不明ですが、前述のデータの根拠の1つになります。(Toxicol Sci. 2018 Aug 1;164(2):417-427.)
食べ物がのどに引っかかる感じがして、長崎甲状腺クリニック(大阪)を受診される方が多くいます。甲状腺の病気の事もあれば、他の原因の事もあります。
- 甲状腺:橋本病・バセドウ病などの甲状腺の腫れ(びまん性甲状腺腫)、甲状腺腫瘍・甲状腺癌による食道圧排
- 口内乾燥・口内炎症
シェーグレン病
脱水;糖尿病・尿崩症亜鉛欠乏・鉄欠乏性貧血・ビタミンB12欠乏性貧血・葉酸欠乏性貧血SLE(全身性エリテマトーデス)、ベーチェット病 - 反回神経麻痺:甲状腺癌、肺癌、食道癌、胸部大動脈流
- 全身性硬化症(強皮症)
- 脳血管障害(脳梗塞・脳出血など)による麻痺(嚥下障害の約40%)・加齢
- 変形性頚椎症
- 認知症、うつ病などで食欲制御が傷害:精神疾患患者の32%が嚥下障害を持っている(Dysphagia 21 (2): 95-101.)
5~7なら他の医療機関でも診断できますが、1~4は他の医療機関で診断が難しい様です。長崎甲状腺クリニック(大阪)では、1、2(シェーグレン病・SLE・ベーチェット病の確定診断は他院膠原病内科)、3(甲状腺癌のみ)、4(確定診断は他院膠原病内科)に特化して検査します。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の精神障害、橋本脳症で人格変化。異食症は土・紙・毛・氷などを食べる。甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病で起こる鉄欠乏性貧血・亜鉛欠乏症、精神的ストレス(妊娠など)、精神疾患、精神発達遅延、認知症が原因で、抜毛症→食毛症→毛髪胃石。神経性やせ症〈神経性食思不振症〉は、やせ願望や肥満恐怖から極端な食事制限を行う。やせ、低栄養による代謝機能低下、低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)により甲状腺機能低下症と同じ症状、検査所見。神経性過食症は、むちゃ喰いと自己誘発性の嘔吐・下剤乱用を繰り返す。
突然、人格が一変し、穏やかな性格が、怒りっぽく、攻撃的、凶暴な人格になる事があります。常識的に考えれば、何かの病気である可能性が高いですが、甲状腺が原因の事もあります。
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病の精神障害(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の精神異常 )
- 橋本脳症
鑑別を要する疾患は、
などです。
異食症(いしょくしょう)は、栄養価の無いもの(要するに食料じゃない物)を無性に食べたくなる病態。土・紙・毛・氷などが代表的。日本では、19歳以下が87%、女性が97%とされ、甲状腺の病気と同じく女性に多いとされます(臨外会誌1984;45:1500 -3.)。
毛髪胃石
胃石とは胃内で食物・異物が不溶性の結石を形成したものです。構成成分により植物胃石、毛髪胃石、その他胃石に分けられます。日本では植物胃石が胃石の大多数を占めます。
毛髪胃石は、異食された毛髪が胃内で胃液の作用を受け塊状となったもの。大きくなると
- 食事摂取不能
- 潰瘍や穿孔
- 毛髪胃石が小腸に移動し腸閉塞
内視鏡的摘出は困難で外科摘出になる事があります(Surgery 1968 :2: 339-43.)(Gastroenterol Endosc 1993; 12:3110.)。最近では、コカ・コーラなどの炭酸水による溶解療法が注目され、炭酸ガスにより線維密度が緩くなるためと考えられます(Gastroenterol Endosc 2014;56:3340-6)。

甲状腺機能低下症が合併すると、
- 身体活動性の低下
- 精神神経障害・認知症の増悪
- 胃の蠕動機能低下
- 脱毛
- 鋤
などが加わり、毛髪胃石が起こり易くなるとされます(写真含みGastroenterol Endosc 1998; 40:896-900.)。
その他の胃・腸内異物
小児・認知症・精神発達遅滞では、口に入る物は何でもあり、思うもよらない物の事があります。CT画像で異物を特定するのは困難。
神経性やせ症〈神経性食思不振症〉(制限型)は、やせ願望や肥満恐怖から、自己体重・体型を過剰に気にして、極端な食事制限を行います。その結果、著しいやせ(るいそう)状態となり、
- やせ、低栄養による代謝機能の低下
- 低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)
から
- 低血圧
- 徐脈、心嚢液貯留(22~71%)、僧帽弁逸脱症(Mehler and Brown Journal of Eating Disorders, 2015; 3: 11.)
- 低体温
- 浮腫
- 皮膚乾燥、黄染(柑皮症)
- 産毛密生、脱毛
- 無月経(体重減少によりGnRH分泌が抑制、視床下部性無月経)
- 骨粗鬆症
- 便秘
が生じ、甲状腺機能低下症と同じ症状になります。血液検査も甲状腺機能低下症と同じ様に、肝機能異常、高コレステロール血症、貧血の所見を示します。
神経性過食症では、やせ願望や肥満恐怖があるものの、極端な食事制限を続ける程、意思が強くなく、むちゃ喰いと自己誘発性の嘔吐や下剤の乱用を繰り返します。(心理的サポートが必要な肥満症;神経性過食症)になります。
甲状腺手術のピットフォール
巨大甲状腺腫や高度肥満による気道狭窄で甲状腺切除手術での気道確保困難が予測される場合、VV-ECMO(体外式膜型人工肺)開始後、気管支鏡を用い、術前に減量で挿管。内臓逆位では心血管・消化器系の奇形を合併しなくても左右の反回神経の走行が逆になるため注意。巨大甲状腺腫、甲状腺癌の転移・浸潤が胸骨に及ぶと胸骨切開(全切開、部分切開)/胸骨切除が必要。甲状腺手術の皮膚縫合は美容上の問題から形成外科が行う事も。
ECMO(extra-corporeal membrane oxygenation:体外式膜型人工肺)は、人工肺とポンプによる体外循環を行う装置です。
- VV-ECMO;肺炎などで肺の機能を補助する場合、静脈(Venous)から静脈(V)に血液を送る。重症化した新型コロナウイルス肺炎で使用されます。
- VA-ECMO;心臓の機能を補助する場合、静脈(V)から動脈(Artery)に血液を送る
があります。
VV-ECMOは
- 詰まりにくい大口径カニューレがよい
- 回路内に血栓症ができるのを防ぐため、抗凝固療法が必要なので、、圧迫止血し難い鼻腔吸引・胸腔ドレナージを避ける
- 導入後はVILI(呼吸器関連肺傷害)を予防し、肺を休めるため、弱い人工呼吸器設定(Lung rest)にする
- 酸素交換した血液を再度脱血しないよう(リサーキュレーション率を小さくするよう)、脱血、総血カニューレの置を離す
- 1週間以上、人工呼吸器管理し、VILI(呼吸器関連肺傷害)を受けた肺にVV-ECMOを導入しても予後不良が多い
気道狭窄を伴うため手術を予定されている巨大甲状腺腫の患者が、間に合わず心肺停止した際、挿管困難が予想され、体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)下に緊急気管切開術と、それでも不十分なので、甲状腺腫減量術(いきなりここまでやる救命病棟すごいわ。救命病棟24時がノンフィクションに近いのが納得できます)を追加し救命した報告があります。ECMOがあればこそ可能な処置とも言えます。(Jpn J Respir Care 2019;36:173-7.)
甲状腺癌の浸潤による高度気管狭窄で気管切除・形成手術を行う場合、気管内挿管も手術自体も困難です。ECMO補助下に術野から離れた場所を気管切開し、気道確保した報告例があります(耳鼻咽喉科臨床 2016;109(3):195-201)(麻酔 2013;62(1):78-82.)
再発を繰り返す甲状腺がんの気管浸潤による高度気管狭窄で、気管内ステントを留置する時にもVV-ECMOが有用です(麻酔 2016;65(2):142-145)。
甲状腺手術中の麻酔管理は、
- 手術し易い様、肩枕を入れ頚を伸ばすため気管内チューブが浅くなり、外れてしまう危険性あり
- 甲状腺は血流が非常に多いので、血圧を上げ過ぎると出血量が多くなる
- 横隔膜が動いたり、自発呼吸が出ると、頚部(術野)が動き術者の手元が狂うため、麻酔深度に要注意
完全内臓逆位は5,000人に1人、右胸心は1,000人に1人で男女差はありません。心血管系・消化器系の奇形を約60%で合併し、心奇形、無脾・多脾、肝臓奇形、腸回転異常を認めます。(日臨外医会誌 52:2734-2741,1991)。
内臓逆位では心血管系・消化器系の奇形を合併しない場合でも、甲状腺手術時、左右の反回神経の走行が逆になるため、反回神経を傷付けないよう注意が必要です(反回神経麻痺 )。
本来、右迷走神経枝は右鎖骨下動脈を、左迷走神経枝は大動脈弓を反回し、甲状腺背側を逆走します。
内臓逆位が無くても、右鎖骨下動脈起始異常などの血管走行奇形では、迷走神経が反回できず右非反回下喉頭神経(nonrecurrent inferior laryngeal nerve,NRILN)になり走行が変わるため、要注意。
甲状腺手術は首の辺を切開するのは当然ですが、胸骨切開(全切開、部分切開)/胸骨切除が必要な事があります。
- 縦隔進展する巨大甲状腺腫
- 甲状腺癌の転移・浸潤が胸骨の所まで及ぶ
などの場合です。胸骨切除は大胸筋皮弁形成必要となり、炎症による胸水貯留おきる場合もあります。

甲状腺手術は首の辺を切開するのは当然ですが、胸骨切開(全切開、部分切開)/胸骨切除が必要な事があります。
- 縦隔進展する巨大甲状腺腫(縦隔内甲状腺腫 )
- 甲状腺癌の転移・浸潤が胸骨の所まで及ぶ
などの場合です。胸骨切除は大胸筋皮弁形成必要となり、炎症による胸水貯留おきる場合もあります。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、経皮経食道胃管挿入術(PTEG/ピーテグ)は行っておりません。
甲状腺の病気があれば、経皮経食道胃管挿入術(PTEG/ピーテグ)は禁忌です。
経皮経食道胃管挿入術(PTEG/ピーテグ)とは
そもそも経皮経食道胃管挿入術(PTEG/ピーテグ)は、経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG/ペグ)が不能・困難な場合、
- 胃が無い(胃切除後)
- 腹水・腹腔が邪魔、腹水貯留、腹膜透析、脳室腹腔シャント(VP-shunt)留置
- 食道裂孔ヘルニア、横隔膜ヘルニアで胃が持ち上がった
などで適応です。
経皮経食道胃管挿入術(PTEG/ピーテグ)の甲状腺への影響
経皮経食道胃管挿入術(PTEG/ピーテグ)行うにあたり、頸部食道瘻造るための頚部切開で、甲状腺が問題になります。
- 甲状腺が大きかったり、甲状腺腫瘍があったりすると、頚部切開できるスペースが無くなります。
- 甲状腺に頚部切開部の炎症が波及するため、甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に何らかの影響を与える可能性があります。
2010年、臓器移植法が改正され、ドナーカードが徐々に普及し、移植ネットワークもそれなりに機能し、脳死患者からの移植は緩やかに増加しています(2017年で76件)。生体腎移植・生体肝移植のみが目覚ましく発展しています。
欧米なら「死ねばただの物体、魂は肉体を離れ主の御許に旅立たれた」と割り切れる人が多いでしょう。日本人特有の死生観では、死んでいても一個人であり丁重に体を荼毘に付さねばならない。「例え器械で心肺が動いていても、脳が死んでいれば人の死である」と頭で分かっていても、それは物体ではなく一個人であり、生前ドナーカードで臓器提供の意思を持っていても家族が承諾しない事例もあるでしょう。
強制はしないと言いつつ医療者側は、臓器提供のプレッシャーを掛けてきます。
また、筆者の個人的な考えですが、臓器を提供するに値する病気なの?(不節制と周囲に受動喫煙の害を与えまくり、挙句の果ての心筋梗塞、糖尿病腎症、タバコ肺)と疑問を持たざる得ません(それおかしいで!?心臓移植の基準)。
臓器移植はドナーとその家族の善意で成り立っているため、日本で脳死移植が定着するのは難しいと思います。

脳死移植ドナーでは脳浮腫などにより下垂体機能低下症に至ります。脳が不可逆的に機能を停止しているため、当然です。また、時間との闘いでもあるため、迅速な投薬が必要になります。
- 脳死患者の約80%で尿崩症;抗利尿ホルモン(ADH, AVP, バソプレッシン)測定は間に合わないので臨床的尿崩症と診断し、デスモプレシン補充開始
- 中枢性(続発性)副腎皮質機能低下症;副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)・コルチゾール測定は間に合わない。高容量の副腎皮質ステロイド薬は、ドナー臓器の炎症、脳浮腫を抑える効果もあるので最初から投与
- 中枢性甲状腺機能低下症;甲状腺ホルモン(FT4,FT3)・甲状腺刺激ホルモン(TSH)測定は間に合わないので、血行動態不安定な場合、心機能低下している場合、デスモプレシン、副腎皮質ステロイド薬に併用して甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS静注液200μg)を点滴静脈注射
甲状腺機能が正常なら(FT3 and/or FT4、TSHが正常範囲)歯科治療・抜歯を受けて大丈夫。甲状腺機能亢進症/バセドウ病で未治療、治療途中、服薬自己中断など甲状腺ホルモンが正常でない時に抜歯、インプラント手術など高侵襲の手術ストレスが加わると危険な甲状腺クリーゼになる危険。甲状腺機能低下症/橋本病で甲状腺ホルモン濃度が正常範囲に到達していないと①全身麻酔効き過ぎ②免疫不全で歯周病菌・口腔内細菌が傷口から血液中に入り⇒急性化膿性甲状腺炎・全身膿瘍・感染性心内膜炎。甲状腺機能低下症/橋本病では顎関節症の有病率が高く、矯正歯科治療に反応しない。
甲状腺機能低下症/橋本病であれ、甲状腺機能亢進症/バセドウ病であれ、甲状腺機能が正常にコンントロールされていれば(FT3 and/or FT4、TSHが正常範囲に収まっている)、歯科治療・抜歯を受けて大丈夫です。
※甲状腺以外の病気については、分かりません。
※キシロカインアレルギーなどアレルギー反応については分かりません。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病で未治療(見つかっていない)、治療途中、服薬自己中断など甲状腺ホルモンが正常でない時に抜歯、インプラント手術など高侵襲の手術ストレスが加わると、全身の臓器が過剰な甲状腺ホルモンと炎症に耐えられなくなり、生命に危険が及ぶ危険性があります。このような状態は甲状腺クリーゼと呼ばれ致死率が十数%です。
同じく、甲状腺ホルモンが正常でない甲状腺機能亢進症/バセドウ病で、甲状腺ホルモンと同じ交感神経刺激作用を持つエピネフリンの局所麻酔は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病を悪化させる可能性があります。
リドカイン(キシロカイン)の局所麻酔は、甲状腺機能亢進症には原則禁忌です。キシロカインアレルギーがあれば、間違いなく禁忌です。おそらく、頻脈・不整脈に干渉するのが理由だと思われます。代用品として、プロピトカイン、メピバカインがあるなら、そちらを使った方が良い。
顎の手術など全身麻酔が必要な手術は、甲状腺ホルモンが麻酔薬の代謝分解に関与します。
甲状腺機能低下症が見逃されたり、甲状腺機能低下症と診断されても患者自身が治療を放棄、あるいは、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)補充を開始して間がなく、血中甲状腺ホルモン濃度が正常範囲に到達していない状態では、麻酔薬が効き過ぎます(甲状腺機能低下症で麻酔効き過ぎ)。
甲状腺機能低下症では免疫不全の状態にあるため(甲状腺機能低下症と免疫力低下)、甲状腺ホルモンが正常でない時に抜歯・歯科治療行うと、歯周病菌・口腔内細菌が傷口から血液中に入り⇒急性化膿性甲状腺炎・全身膿瘍・感染性心内膜炎(糖尿病と歯周病⇒急性化膿性甲状腺炎・全身膿瘍・感染性心内膜炎 )
顎関節症と甲状腺
顎関節症の原因は
- 咬み合わせの悪さ
- 左右どちらか一方でばかり噛む癖
- 頬杖、うつ伏せ寝、左右一方に偏った寝相などによる変形
- 首の筋の過緊張
などです。
顎関節症の治療は
- ストレッチ運動や、首の回りや、あご関節の周辺をマッサージして、筋肉をほぐすのも効果的。くれぐれも甲状腺の場所をマッサージしない様に!
- 歯科的にはスプリント(マウスピース)による治療
- 矯正手術;前項の甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症と歯科治療・抜歯のごとく、甲状腺機能が正常にコンントロールされていれる必要があります。
甲状腺機能低下症/橋本病と顎関節症
甲状腺機能低下症/橋本病では顎関節症の有病率が高く、矯正歯科治療に反応しない顎関節症は甲状腺機能低下症/橋本病を疑うべきとされます。(J Orofac Orthop. 2018 Jul;79(4):277-288.)
※長崎甲状腺クリニック(大阪)は、生命保険に対するサポートは一切行っておりません。相談等も、一切お受けしておりません。

医療情報の氾濫は、間違った知識・病気に対する偏見を広げる事が多々あります。「橋本病は治らない病気だから難病だ」と言う、あまりにも短絡的な誤解が世間に蔓延している現実があります。人間の偏見はゾンビより恐ろしいのです。
東京都予防医学協会の調査報告では、生命保険会社16 社中、橋本病患者の加入不可1 社、条件付きで加入可10 社、加入可1 社、回答できない4 社(ダメなんでしょうね)との事です。(第55回 日本甲状腺学会 P2-02-05 橋本病患者が被っている社会的不利益の現状)
確かに橋本病は治らないでしょうが、治療方法は100%確立され、甲状腺ホルモン剤を飲むだけで健康な人と同じ生活ができるのです。不治の病であっても難病ではないのです。
糖尿病はどうでしょう?薬を飲んでも良くならない人が多く、毎日インスリンの自己注射までしてもコントロール不良で、透析・網膜剥離に至る人が後を絶ちません。これこそ難病やん!
高血圧・高脂血症の人は、例外はあっても薬が合えば、健康な人と同じ状態を維持できます。薬を止めれば、もとに戻るため、治った訳ではありません。橋本病と一体、何が違うのでしょうか?高血圧・高脂血症については、子供でも「塩分摂り過ぎは良くない。」「卵はコレステロールが多い。」と知っているのに、橋本病に対する知識が普及していないのが原因と思われます。人は、得体のしれない物には排他的になり、偏見を持ちます。
世界甲状腺デーが新設されたのを契機に、日本甲状腺学会も本腰を入れて甲状腺の病気の普及活動に乗り出しています。橋本病に対する偏見も消える日は来るでしょうか?
「ヒヤリハット」=インシデント、誤った医療行為などが実施前に発見されたり、誤った医療行為が行われたが患者に影響を及ぼさなかった場合
「処方ミスによりチウラジールとチラージンを間違えて飲む」=アクシデント、誤った医療が実施され、患者へ影響を及ぼした場合
ヒヤリハットの語源は、「ヒヤリとした」「ハッとした」で、間違った医療行為が行われそうになる事態です。「ハッ」と間違いに気付き、事なきを得ればよいのですが、間違いに気付かなければトンデモナイ事(処方ミス)になります。甲状腺の世界で長らくヒヤリハット(気付かず処方ミス)の原因であり、いまだに解決される見込みのない「チウラジール」と「チラージン」の問題。チラージン(チラーヂン)S錠は、誰でも知ってる国民的な甲状腺ホルモン剤で、甲状腺機能低下症の治療薬です。一方、チウラジール(50mg)錠は、過剰な甲状腺ホルモンを低下させるための甲状腺機能亢進症/バセドウ病の治療薬です。この相反する薬効の2つの薬は、名前が非常に似ています。


甲状腺専門医療機関の門前薬局の薬剤師なら間違える事は、まずありません。しかし、あまり甲状腺の患者さんが訪れない院外薬局や、甲状腺薬の経験に乏しい薬剤師・アルバイトの薬剤師の中には、「チウラジール」と「チラージン」の区別が付いていない人が少なからずおられます。恐ろしいことですが事実です。
特にチラーヂンS(50)錠とチウラジール(50)錠は、数字まで同じなので、最も間違えやすい様です。
たとえ間違えられても、何度か同じ処方を受けていれば、シートの色が違うので患者さんの方が気付きますが、
- 初めて甲状腺の薬を処方された場合
- 認知症の掛かったお年寄り
ならどうでしょうか?何の疑いもなく飲んでしまったら!?
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、このようなヒヤリハット(気付かず処方ミス)を予防するため、田辺三菱製薬製の「チウラジール」でなく、あすか製薬製の「プロパジール」を使用することにしています。
※「チウラジール」も「プロパジール」も、商品名は違えど、同じ成分、PTU(プロピオチオウラシル)です。
日本人の死因の一位を占める癌と、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の合併は、それ程、珍しくなくなっています。他臓器癌合併した甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、抗がん剤等の使用状況で、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)使えなくなる事があります。
大阪大学の報告では、甲状腺機能亢進症/バセドウ病にメルカゾール投与開始、副作用なく減量中、乳癌見つかり、切除後、 抗がん剤投与しWBC1090、RBC187万、Hb5.3、Plt2万 と汎血球減少おこる。メルカゾール中止、KI投与後、131Iアイソトープ治療を施行したそうです。(第60回 日本甲状腺学会O8-1 癌合併例のバセドウ病治療について)
地震、水害、台風など巨大災害時の避難生活は、余震、避難所でプライバシーが守られない、眠れないストレスから①甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病の動脈硬化、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の相対的な心筋虚血により高血圧、狭心症・心筋梗塞が顕在化②バセドウ病は、たこつぼ型心筋症、致死性不整脈、甲状腺クリーゼ誘発。避難所の共用トイレは汚く行きたくないので、水分摂取を控え、甲状腺機能亢進症/バセドウ病で発汗量多いと脱水。車の中で寝泊まりすると甲状腺機能亢進症/バセドウ病は凝固能亢進のため血栓症(深部静脈血栓、肺梗塞;エコノミークラス症候群)の危険。
もはや現在の日本で巨大災害は他人事ではありません。甲状腺の病気を持つあなたも被災に備えねばなりません。
2018年は災害の年でした。特に長崎甲状腺クリニック(大阪)のある西日本は北部大阪地震、台風21号に続けて見舞われ大変でした。長崎甲状腺クリニック(大阪)は、大阪市の南に位置するため、北部大阪地震では揺れただけで特に被害はありませんでした(揺れ始めた時は、ついに南海地震が来たのか!揺れ終わると、言うほど大した事なかったやん!と高をくくっており、まさか大阪北部とは夢にも思いませんでした)。しかし、台風21号では網戸の網が3カ所破れた他、屋上の3層ある防水構造の1層が剥がれかけ、屋上すべての防水工事をやり直さねばならなくなり、予想を超える被害が出てしまいました(実は火災保険に入っていたため、修理費が出ました!火災保険は台風災害にも適応されるのです)。
地震、水害、台風などの巨大災害時の避難生活ではなどの巨大災害時の避難生活では、
- 余震や、避難所でプライバシーが完全に守られない、眠れないストレスから高血圧、狭心症・心筋梗塞など心血管障害が起こり易いとされます。甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病では、すでに動脈硬化が進行し狭心症・心筋梗塞が隠れている可能性があり、ストレスで顕在化する危険があります(甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症から動脈硬化と狭心症/心筋梗塞)。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、既に甲状腺ホルモンの直接的、交感神経を介する間接的刺激により、心筋細胞の酸素需要が高まり、相対的な心筋虚血状態にあります。ストレスで狭心症、心筋梗塞に移行する可能性があります(甲状腺機能亢進症/バセドウ病から急性冠症候群、弁膜症、肥大型心筋症、突然死)。また、たこつぼ型心筋症、致死性不整脈、甲状腺クリーゼが誘発される危険性があります(バセドウ病の突然死)。
- 同様の理由で甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症/バセドウ病では高血圧が悪化・顕在化します(甲状腺の血圧管理・高血圧 )。冬なら避難所内に暖房があるという保証は無く、あってもドアが開いていれば寒気が流れ込み血圧上昇します。意外にも避難所には自動血圧計が設置されている事が多く、血圧管理はできますが、降圧薬をもらいに行こうにも病院も被災し機能していません。
- 避難所の共用トイレは、大抵誰も掃除しない(掃除道具無い、ドメスト無い、水も無い)ため、汚いです。行きたくないので、水分摂取を控え、脱水おこします。 甲状腺機能亢進症/バセドウ病で発汗量多い場合、脱水おこす危険性は高いです。
また、脱水状態では、血液が濃く(粘っこく)なり、脳梗塞や下記の深部静脈血栓症(DVT)の危険が生じます。
- 車の中で寝泊まりする場合、避難所であっても狭いスペースで寝ると体位変換、下肢挙上できなくなり、下肢血流が悪化、血栓症[深部静脈血栓(DVT)、肺梗塞]起こります(エコノミークラス症候群)。特に、 甲状腺機能亢進症/バセドウ病では凝固能が亢進しているため、血栓症おこす危険性が更に高くなります(バセドウ病/甲状腺機能亢進症で血栓できやすい?)。
- 風呂は、近くの温泉施設などの無料券が配布されたり、自衛隊が定期的に簡易風呂を設置しますが、不足します。甲状腺機能亢進症/バセドウ病は、新陳代謝が活発過ぎて皮脂が増え、ニキビができたり、汗のため汗疹(あせも)ができやすくなります。風呂に入れなければ雑菌が繁殖し毛包炎、皮膚炎おこす危険性があります。(甲状腺ホルモン異常と皮膚・脱毛 )

災害拠点病院は、トリアージで選別された重症患者の対処に掛かり切りになるため、甲状腺の薬まで構ってくれません(当たり前だ)。それこそ、着の身着のままの避難を余儀なくされる差し迫った避難なら仕方ありませんが、避難勧告・指示が前もって出ている余裕のある状況なら甲状腺の薬を忘れてはなりません。
河川の氾濫、堤防の決壊など水害の場合、薬が流されてしまう事もあります。
前述の様に、震災、避難所の過剰なストレスで既に甲状腺機能低下症/橋本病に、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が悪化する環境にあります。
服薬を欠くと、甲状腺機能低下症/橋本病では最悪、命の危険:粘液水腫性昏睡に、甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、最悪、命の危険:甲状腺クリーゼ に至る危険性があります。
阪神淡路大震災で370名以上の報告があったクラッシュ症候群(クラッシュシンドローム・挫滅症候群)で低カルシウム血症と代償性の2次性副甲状腺機能亢進症が起こります。
2時間以上がれきの下敷きになり、筋肉が挫滅、がれきの圧迫から解放された時、
- 挫滅筋から放出されたミオグロビン(Mb)、カリウムが血中に流れ込み、ミオグロビン(Mb)が腎臓の尿細管を閉塞、急性腎機能障害(AKI)・急性腎不全、高カリウム血症おこし致死的になります。(Ren Fail. 1997 Sep;19(5):647-53.)
- ①急性腎不全に伴う低カルシウム血症
②腎障害が無くとも、障害された筋肉や皮下軟部組織の細胞膜透過性が亢進、カルシウムが入り込み、長期に渡り低カルシウム血症
→代償性の2次性副甲状腺機能亢進症(Emerg (Tehran). 2017;5(1):e7.)
→高カリウム血症の心毒性が高まる(Japan Medical Association Journal. 2005;48(7):341–52.)
急性コンパートメント症候群と甲状腺
急性コンパートメント症候群は、緊急に筋膜切開しなければ
- クラッシュ症候群(クラッシュシンドローム・挫滅症候群)・横紋筋融解症へ移行
- 感染症合併
で致死的になります。
昆布(コンブ)・モズク不作で甲状腺の病気が減る
日本は国際的にも稀なヨード(ヨウ素)過剰摂取国で、海藻類(昆布・ヒジキ・モズクなど)の摂り過ぎによります。日本人に甲状腺の病気が多いのはヨード(ヨウ素)過剰摂取が原因です。
ヨード(ヨウ素)過剰摂取になる最も多い食材は昆布(コンブ)で、特に出汁(ダシ)が見落とされがちです。
日本の昆布(コンブ)の90%以上は北海道で採れるが、地球温暖化などの影響で、2019年の昆布(コンブ)生産量は過去最低となり、小売価格も過去最高でした。昆布(コンブ)と同程度のヨード(ヨウ素)含有量のモズク、ヨード(ヨウ素)含有量少ないノリ、ワカメも不作でした。
地球温暖化そのものは、危惧すべき環境問題ですが、日本人のヨード(ヨウ素)過剰摂取が減れば、甲状腺の病気も減少するので怪我の功名と言えます。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の熱中症が増える
甲状腺ホルモンが正常化していない甲状腺機能亢進症/バセドウ病の方(治療途中、未治療)が熱中症おこしやすい(甲状腺機能亢進症/バセドウ病と熱中症 )。地球温暖化の影響で真夏日が続き、酷暑になれば甲状腺機能亢進症/バセドウ病の方は危険です。
甲状腺機能低下症/橋本病が発見され難くなる
そもそも、甲状腺ホルモンは糖や脂肪(燃焼するものが無くなるとタンパク質も)を燃焼して熱エネルギーを作るホルモンです。寒ければ多くの熱エネルギーを必要とするため、多くの甲状腺ホルモンが必要です(相対的に不足)。よって、甲状腺機能低下症では、冬場に甲状腺ホルモン不足が深刻になり、寒さに弱い、低体温、倦怠感、便秘、むくみなどの症状が出やすくなります。
地球温暖化の影響で暖冬になれば、甲状腺ホルモン不足は深刻化しないため、甲状腺機能低下症/橋本病が発見され難くなります。
FT4(甲状腺ホルモン;サイロキシン)の値は、男性は年齢と伴に低下、女性は影響なし。老年症候群は甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病でも起こり得る症状。甲状腺ホルモン値が正常範囲の高い方にある人は、加齢黄斑変性が起こり易い。ロコモティブシンドローム(運動器症候群)は①加齢に伴う筋力低下②関節や脊椎の病気③骨粗しょう症などにより要介護や寝たきりになる、リスクの高い状態。高齢者の貧血の約30%は悪性腫瘍(癌)、甲状腺機能低下症は1%。
FT4,甲状腺ホルモン,老年症候群,甲状腺機能低下症,橋本病,甲状腺機能亢進症,/バセドウ病,加齢黄斑変性
日本では少子高齢化が進み、近い将来、1人の若者が1人の高齢者を支えねばならない超高齢化社会がやってくるでしょう。高齢者が健康であれば、若者への負担が減り、持続可能な超高齢化社会を迎える事ができるかもしれません。
日本は先進国の中で最も高齢化率が高く、かつ甲状腺機能異常は加齢に伴い増加します。
老年症候群、「齢のせい」、老衰でなく、実は甲状腺が原因であり、正しく治療すれば健康状態が回復するかもしれません。
老年症候群(GeriatricSyndrome)と言う、取って付けたような病名。 「高齢者は、色んな病気を一杯持っていて、複数の診療科で治療し、同時に介護・ケアも必要になる」と、分かり切った事にそれらしい病名を付けて喜んでいる方々がいるらしい。
老年症候群は、「加齢に伴い高齢者に多くみられる、医師の診察や介護・看護を必要とする症状・徴候の総称のことです。老年症候群の症状・徴候は50項目以上が存在します。」と、何を言っているのか良く分からない不明な病態です。
そもそも、通常では起こらない症状・徴候があれば、医師の診察や介護・看護を必要とするのは当たり前で、年齢とは無関係です。敢えて、老人に限定する意味は、症状が複数になり、複数の診療科を受診するのが若年、中年の人と異なるからなんでしょうが。そりゃ、年をとれば病気も増えるわな。
老年症候群には2つの状態が混在、
- 生理的老化;病気ではない、加齢で起こる変化、耳が遠くなる、夕方になると目が見えにくくなる、就寝中のトイレの回数が増える、坂道を上ると息切れする、軽度の認知症。「齢のせい」、老衰と言うやつですね。
- 病的老化;病気が増えて体の機能が落ちていくもの
どちらも、甲状腺の病気、甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病でも起こり得る症状なのです(甲状腺機能は亢進?低下?)。つまり、甲状腺の病気を老年症候群と関違いしている事が多々あると言う事です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)には、様々な症状から自身の甲状腺異常を疑い、あるいは、他科の医師が甲状腺異常を疑った患者さんが来られます。甲状腺の症状は何でもありなのです。長崎甲状腺クリニック(大阪)で検査の結果、本当に甲状腺の病気の事もあれば、甲状腺以外が原因の事もあります。
いずれにせよ、甲状腺を調べない事には、結論が出ません。老年症候群、「齢のせい」、老衰と決めつけずに甲状腺を必ず調べましょう。
(図;健康長寿ネットより改変)
ただ単に加齢だけで運動器障害おこり、運動能力低下するのでなく、甲状腺の病気により加速される、あるいは甲状腺の病気を見逃し加齢によるものと決め付けている可能性があります。
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病の筋力低下(甲状腺と筋肉痛・筋けいれん )
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病の関節障害(甲状腺と関節痛 )、甲状腺癌骨転移
加齢黄斑変性は、中高年以降、黄斑部脈絡膜の異常な血管増殖が起こり、
- 急激な片眼の視力低下
- 物が歪んで見える
- 中心暗点
などの症状を呈します。
喫煙と加齢は加齢黄斑変性のリスクファクターです。
加齢黄斑変性の診断は、
- 眼底検査で黄斑部出血を認める
- フルオレセイン、またはインドシアニングリーンを用いた蛍光眼底造影検査で異常な血管増殖を描出。
機序は不明ですが、甲状腺ホルモン値が正常範囲の高い方にある人は、加齢黄斑変性が起こり易いとされます。オランダのロッテルダムスタディ(研究)という大規模な追跡調査の結論です。(BMC Med. 2015 Apr 23;13:94.)
高齢者の貧血
スポーツと甲状腺
レスリング選手は過度の減量が酸化ストレス(活性酸素)を増加、減量極期(計量日)FT3低下、FT4上昇、FT3/FT4比低下、 低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス) になる。女性アスリートの3主徴①エネルギー不足;運動量に見合う摂取エネルギー不足、低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス) ②無月経視床下部/下垂体性無月経;低ゴナドトロピン性(LH,FSH)、低エストラジオール(20pg/mL未満)血症、未発達の子宮・薄い子宮内膜③骨粗鬆症;女性ホルモン不足で閉経後骨粗鬆症と同じ。特に低体重・低体脂肪が求められる長距離走、器械体操、新体操が危険。自転車競技の選手は骨粗鬆症に。
- レスリング、ボクシングなどの階級別競技と甲状腺
- 女性アスリートの甲状腺
- 自転車競技
- スポーツで甲状腺損傷

レスリング、ボクシングなどの階級別競技では低階級で戦う方が有利なので、選手は短期間で体重を落とし、計量翌日の試合まで一日で急激に体重を増やす無茶をします。”あしたのジョー”で力石徹が過酷な減量(ただし、これは矢吹丈(ジョー)と戦うため同じ階級になるのが目的です)をしていたのが記憶にあります。力石の死後、成長期で階級を維持できなくなった丈(ジョー)自身も、最後は血を抜いて体重落とす禁じ手に出ます。
群馬大学の報告では、レスリング選手は
- 過度の減量が酸化ストレス(活性酸素)を増加させる
- 減量極期(計量日)でBMI[体重/(身長)2乗]は有意に低下し、翌日の試合で有意に増加。一方、減量極期(計量日)で有意なFT3低下、FT4上昇、FT3/FT4比低下、 低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス) になり、翌日の試合でも変化無し。 低T3症候群は、試合後9日で元に回復。(第61回 日本甲状腺学会 O23-6 短期間の急激な体重の減少と回復がもたらすアスリートの甲状腺機能の変化)
女子高校生長距離ランナーの甲状腺機能を調べた報告では、
- 81.3%が低体重(BMI<18.5)
- 甲状腺ホルモンFT3値は低いが、TSHは正常で、低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス) の状態
- 甲状腺ホルモンは骨密度(BMD)と栄養摂取に相関;要するに骨が脆く、栄養状態悪い
女性アスリートの低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス) を改善し、骨密度を高めるために、選手は十分な栄養を摂り、体重を適正に維持する必要があります(Acta Med Okayama. 2019 Apr;73(2):127-133.)
自転車競技にはロードレースとマウンテンバイクの2種類がありますが、医学的には全くの別競技です。
ロードレース選手の体脂肪は3%以下で、無駄な筋肉はなく、足は細いです。ロードレース選手に骨折が多いのは、転倒の衝撃だけが原因ではありません。ロードレース歴が長い程、体を支える背骨(脊椎骨)の骨密度が低く、骨粗鬆症になります。
一方で、
- 自転車競技も含まれるが、全身にまんべんなく負荷・衝撃が掛かるトライアスロン選手
- 凸凹の山岳道を走り、全方向から負荷・衝撃が掛かるマウンテンバイクの選手
- 同様にレスリング、重量挙げの選手
の骨密度は低くなりません。
ロードレースは、なめらかな舗装道を走るために骨(特に背骨)への負荷が少ないのです。それなのに野外スポーツなので大量の汗をかき、カルシウム(Ca)が体外に失われるため、益々、骨が脆くなります。1Lの汗で40mgほどのカルシウムが失われます。
さらに水分補給目的で、リン(P)の多い清涼飲料水を飲むと、骨からカルシウム(Ca)が溶け出します。スポーツドリンクなら大丈夫です。栄養補給のため、リン(P)の多いスナック菓子を食べるのも同じ事で、カロリーメイト®などの栄養補助食品を取らねばなりません
ロードレース選手で甲状腺がんが見つかった人、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が見つかった人などスポーツニュースで時々見かけます。甲状腺機能亢進症/バセドウ病だけでも骨粗しょう症になるのに大変です(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の骨粗しょう症と骨折 )。
分岐鎖アミノ酸(BCAA)[バリン、ロイシン、イソロイシン]と甲状腺

分岐鎖アミノ酸(BCAA)のバリン、ロイシン、イソロイシンは骨格筋を構成する要必須アミノ酸で、
- 骨格筋のエネルギー源になり、運動の持久力を高めたり、
- 筋肉痛・筋損傷を軽減します。
アスリートは骨格筋量が多く、血清BCAAチロシン比(BTR) は低くなります。アスリートの甲状腺ホルモン(FT3)と血清BCAAチロシン比(BTR)に有意な負の相関があります。即ち、血中FT3が高い程、BCAAチロシン比(BTR)が低くなり、甲状腺ホルモンが分岐鎖アミノ酸(BCAA)のエネルギー代謝に関連している可能性が高いです。(第62回 日本甲状腺学会 O1-4アスリートにおける骨格筋量と血清分岐鎖アミノ酸チロシン比お よび甲状腺機能に関する検討)
(図;オオツカ・プラスワンHPより)
アンチ・ドーピング ガイドブック (日本薬剤師会編)で、甲状腺疾患治療薬は
「静脈内注入および/または静脈内注射で、12時間あたり100mLを超える場合は禁止。但し、入院設備を有する医療機関での治療およびその受診過程、外科手術、又は臨床検査のそれぞれの過程において正当に受ける場合は除く。 」
となっています。
しかし、通常の治療で甲状腺ホルモン剤[リオチロニンナトリウム(チロナミン錠)、レボチロキシンナトリウム水和物 (チラーヂンS他)、抗甲状腺薬[チアマゾール(メルカゾール錠)、プロピルチオウラシル(チウラジール錠、プロパジール錠)を静脈内注射する事などありません。
唯一、命の危険があり、患者が意識障害(意識もうろう)起こす重篤な、甲状腺クリーゼ 、粘液水腫性昏睡 の時のみ点滴投与しますが、試合に出れるような状態ではありません。
そもそも、レボチロキシンナトリウム水和物 (チラーヂンS他)なんかドーピングに使えば、人工的な甲状腺機能亢進症/バセドウ病状態から致死性不整脈おこし競技中に死亡する危険性があります。
ランナーズハイ
スポーツで甲状腺損傷
レスリングなど接触プレーによる甲状腺への直接打撃以外に、テニスのストローク、ゴルフのショットなど大きな遠心力、バーベルなど筋肉に大きな負荷が掛かると、
- 甲状腺組織がダメージを受ける(首への衝撃や遠心力で甲状腺にも障害(甲状腺損傷))
- のう胞性腫瘍内で出血(のう胞内出血)
が起こったりします。
温泉と甲状腺
温泉法では、「温泉の成分、効用の適否について、見やすい場所に掲示しなければならない」と明記され、温泉に行くと必ず立て看板があります。
温泉の成分によっては、甲状腺の病気で注意が必要な事があります。
全ての温泉に共通の事
長時間、熱い温泉に浸かり続ければ、心臓に過剰な負担が掛かります。甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、
など心臓・血管に障害、最悪、突然死を起こす危険あり。要注意です。
また、甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病では動脈硬化が進行し、狭心症/心筋梗塞、急性大動脈解離・大動脈瘤破裂おこしやすい状態の事があります。
塩化物泉、炭酸水素塩泉
塩化物泉、炭酸水素塩泉は、ミネラルを豊富に含んでいます。飲用許可のある塩化物泉水の場合、ヨウ素(ヨード)を含んでいるなら、長期に飲んではダメです(別に旅行中、常識量飲むだけなら問題ない)。
含よう素泉
皮膚からのヨード吸収率はわずか0.1%で、常識的な時間、浸かっているだけなら問題ないですが、長時間、含よう素泉に浸かっていると吸収量は計り知れません。
含よう素泉水を飲むと、イソジンを飲んだ様な苦みがあります。
含よう素泉は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の方には禁忌になります。大量のヨードが体に入ると甲状腺ホルモン合成が抑制され、逆に中途半端な量だと甲状腺ホルモン合成が促進され、どの道、良い事はありません。
たとえ甲状腺の病気が無い妊婦も、大量のヨードが体に入ると甲状腺ホルモン合成が抑制され、一時的にも甲状腺機能低下症になり、流早産の危険があります。
温酸性泉、硫黄泉
温酸性泉、硫黄泉は、皮膚に対する刺激が強すぎるため、甲状腺機能が正常化していない甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症/バセドウ病、亜鉛欠乏の方には向きません(甲状腺ホルモン異常と皮膚・脱毛 )。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は、甲状腺専門クリニックです。法医学は行っておりません。
死亡時画像診断[オートプシー・イメージング(Autopsy imaging、Ai)]
死亡時画像診断[オートプシー・イメージング(Autopsy imaging、Ai)]は、今や法医学の検死に欠かせない手法で、特に事件性のある遺体にCT・MRI撮影し、死亡時の病態把握、死因の究明などを行う方法です。
また、日本では法医学者、監察医が圧倒的に不足しており、司法解剖までできるのは全国で150人位です。そのため、まともに監察医制度が機能しているのは、東京都23区、大阪市他、地方の大都市だけです。
事件性のある遺体をCT・MRI撮影すれば、病死か事件死か、おおよその見当つくため、無駄な司法解剖する必要なくなります。
Ai画像は生前画像と異なり、死亡後、甲状腺のCT濃度は、生前と比較して低下します。
頸部絞殺と甲状腺
頸部絞殺など甲状腺に強い外力が加わった窒息、致命的な脳外傷では、心臓血のサイログロブリン(Tg)濃度が高値を示すとされます。死後、甲状腺から漏出したサイログロブリンは血液を介して拡散するため、生前より高値になります。
そのため、逆に心臓血のサイログロブリン(Tg)濃度が高値でなければ、頸部絞殺の可能性は低くなります。ただし、絞めた位置が甲状腺とずれていたら、その限りではありません。(https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/
2115/.../Akira_Hayakawa_review.pdf)
また、心臓血(左右の心室)および腸骨静脈血の、血清トリヨードサイロニン(T3)、チロキシン(T4)が有意に高値になるとされます。(Hum Cell. 2020 Jul;33(3):545-558.)
Summary
甲状腺専門医の長崎甲状腺クリニック(大阪)。甲状腺超音波(エコー)検査、甲状腺機能亢進症/バセドウ病,甲状腺機能低下症/橋本病,無痛性甲状腺炎,亜急性甲状腺炎,甲状腺腫瘍,甲状腺乳頭癌,甲状腺濾胞癌,甲状腺髄様癌などの専門の検査/治療を解説。ヨウ素(ヨード)と葉酸(ようさん)は全くの別物。チラーヂンS錠の副作用・下痢/食事/薬での吸収障害。甲状腺を腫らすゴイトロゲン、甲状腺機能亢進症/バセドウ病と熱中症、穿刺細胞診の合併症、橋本病の巨大甲状腺腫と131-Iアイソトープ治療、手術療法。ヒヤリハット、チウラジールとチラージン、甲状腺と体臭症も説明します。
Keywords
甲状腺腫瘍,甲状腺,甲状腺癌,甲状腺機能低下症,甲状腺ホルモン,バセドウ病,橋本病,甲状腺機能亢進症,無痛性甲状腺炎,亜急性甲状腺炎
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺(橋本病,バセドウ病,甲状腺エコー等)専門医・動脈硬化・内分泌の大阪市東住吉区のクリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。