甲状腺の基本知識(初心者用)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
Summary
甲状腺の基礎知識を長崎甲状腺クリニック(大阪)院長が解説。男性の甲状腺は女性の約1.5倍の大きさで、女性の甲状腺と比べ、かなり下方にあり、超音波(エコー)検査で見えにくい場合がある。甲状腺ホルモンは体の新陳代謝を活発にするホルモン。甲状腺濾胞で、巨大蛋白サイログロブリンにチロシンやヨードが結合し甲状腺ホルモン(T3,T4)が形成。血液中の甲状腺ホルモン(FT4,FT3)が多くなると下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌低下するネガティブフィードバック機構により、血液中の甲状腺ホルモン量は一定の範囲に維持される。
Keywords
甲状腺,ヨード,下垂体,FT4,FT3,甲状腺刺激ホルモン,TSH,バセドウ病,甲状腺ホルモン,甲状腺機能亢進症,甲状腺機能低下症
男性・女性で異なる甲状腺
甲状腺は、甲状腺ホルモンを作る臓器(内分泌腺)です。甲状腺ホルモンは、熱を産生し、体の新陳代謝(しんちんたいしゃ)を活発にするホルモンです。
甲状腺ホルモンとは
甲状腺ホルモンの働き
甲状腺ホルモンの働きは、
新陳代謝(しんちんたいしゃ)を活発にする(その時、糖や脂肪が燃焼され、熱が発生)
心臓に作用し、心拍数・心拍出量を増やす
交感神経の作用を高める
腎臓に作用し、体内へナトリウム(塩分)を取り込む(腎尿細管でのNa/K-ATPase活性を高め、ナトリウム再吸収を促進)
胎児→成長期の子どもの脳や体の発育を促す(軟骨や骨を作る・成長ホルモンの合成促進)
甲状腺の中は、甲状腺濾胞上皮が円形に結合した甲状腺濾胞が無数にあります。甲状腺濾胞の内側は濾胞腔になっていて、ここで、サイログロブリン(Tg)と言う巨大蛋白にアミノ酸のチロシンやヨウ素(ヨード、I)が結合し甲状腺ホルモン(T3,T4)が形成されます。(詳しいメカニズムは、遺伝性甲状腺ホルモン合成障害 をご覧ください。)
体内では、血液中の甲状腺ホルモンが常に一定の値を維持できるよう、脳の視床下部―下垂体が調節をおこなっています。
視床下部より分泌されたTSH放出ホルモン(TRH)は下垂体門脈系を通り、下垂体前葉の甲状腺刺激ホルモン(TSH)産生細胞を刺激し、TSHが合成されます。
下垂体から分泌された甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、甲状腺を刺激して甲状腺ホルモン(T4, T3)の分泌を促します。
血液中に分泌された甲状腺ホルモン(T4, T3)の99.98%は血清蛋白と結合しますが、この状態ではホルモンとしての働きはありません。実際にホルモン作用をおこすのは、わずか0.02%の遊離型のFT4, FT3です。(よって、採血で測るのはFT4, FT3で、T4, T3を測る意味は全くありません。)
FT4, FT3は
- 視床下部に作用し、TSH放出ホルモン(TRH)を介して
- 下垂体に直接作用して
下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌を調節します。(Proc Natl Acad Sci U S A. 1987 Oct;84(20):7329-33.)
正常な下垂体-甲状腺の調節機能(ネガティブフィードバック機構)
交感神経興奮
寒冷ストレスなどの交感神経興奮もまた甲状腺ホルモン分泌を促進します。[上の図;下垂体による甲状腺ホルモンの調節(詳細版)]の一番上のように、寒冷刺激が視床下部に伝わり、TRH(TSH放出ホルモン)の分泌を促します。
脳内の神経から放出され、電気信号を伝える神経伝達も視床下部に作用し、TRH(TSH放出ホルモン)分泌に影響します。ノルアドレナリンはTRH分泌促進、ドーパミン系は抑制、セロトニン系はどちらもあり得えます。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病, 甲状腺中毒症、甲状腺機能低下症の調節機能への影響
甲状腺機能亢進症/バセドウ病, 甲状腺中毒症は、血液中の過剰な甲状腺ホルモン(FT4, FT3)が、下垂体を強く、視床下部を弱く抑制して、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の合成・分泌を低下させます。(典型的な血液検査はFT4↑、FT3↑、TSH↓)
甲状腺機能低下症は、血液中の甲状腺ホルモン(FT4, FT3)が低下すると、TSHの合成・分泌が上昇します。しかし、甲状腺がTSHに反応して甲状腺ホルモンを合成・分泌できないため、典型的な血液検査はFT4↓、FT3↓、TSH↑。
いずれの場合も、甲状腺ホルモン(FT4, FT3)が正常化すると、遅れてTSHも正常化します。
「正常な甲状腺」と診断するには、どうすればよいか?そもそも、「正常な甲状腺」とはどのような甲状腺を指すのでしょうか?「異常のあるもの」を「異常」と言うのは簡単な事ですが、「異常が無い」と断言するのは意外と難しい事があります。
JABTS(日本乳腺甲状腺超音波医学会)の定義では、
- 甲状腺の病気がなく、
- (採血で)甲状腺ホルモンの値が正常
- 超音波検査で異常が認められない
ものが「正常な甲状腺」です。すなはち、甲状腺エコー(甲状腺超音波検査)しなければ、「正常な甲状腺」と診断できない事になります。1. 2.は簡単ですが、3.は甲状腺エコー(甲状腺超音波検査)に精通した専門医の技術が必要になります。
(採血で)甲状腺ホルモンの値が正常であっても、超音波検査で異常が認められる例を挙げれば、
- 血液検査で異常が出ない甲状腺癌、甲状腺腫瘍(良性含む)
- 血液検査で甲状腺ホルモン値が正常, 甲状腺自己抗体(甲状腺を破壊する抗体、橋本病抗体)陰性だが、甲状腺エコー(甲状腺超音波検査)で破壊性変化を認める場合。現行の診断基準では「橋本病(慢性甲状腺炎)疑い」になりますが、破壊性変化が存在する事実は変わりません。
現在のような高性能甲状腺エコー(甲状腺超音波検査)が存在しない、はるか昔に作られた橋本病診断基準では、「抗甲状腺抗体が陽性にならなければ橋本病と診断できない」事になっています(時代錯誤もはなはだしい)。 - 血液検査で甲状腺ホルモン値が正常の多のう胞性甲状腺病、甲状腺のう胞。
などです。特に甲状腺エコー(甲状腺超音波検査)による破壊性変化の評価は、長崎甲状腺クリニック(大阪)が得意とするところです(橋本病の抗体/ 橋本病 破壊の程度の評価)。
血液中で甲状腺ホルモン(T4, T3)の99.98%は血清蛋白と結合しますが、この状態ではホルモンとしての働きはありません。実際にホルモン作用をおこすのは、わずか0.02%の遊離型のFT4, FT3です。(よって、採血で測るのはFT4, FT3です。)
総甲状腺ホルモン量のT4, T3は、
- ホルモン作用を持たず
- 結合蛋白濃度の影響を受ける
よって、採血で測るのはFT4, FT3で、T4, T3を測る意味はありません。
FT4(甲状腺ホルモン;サイロキシン)の値は、
- 男性は年齢と伴に低下して行きます(ただし、健常人男性では正常範囲内の低下です)
- 女性は年齢にほとんど影響されず一定
(第60回 日本甲状腺学会 専門医教育セミナーⅠ)
但し、甲状腺機能の評価は、TSH、FT4, FT3どの2つを選ぶのか に書いてある通り、中枢性甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺全摘出後、バセドウ病アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療後など特殊な時以外は、TSHを最優先で測定するため、FT4の年齢による変動に意味は無い様に思います。
伊藤病院の吉村弘先生が、年代別 FT3,FT4,TSH の基準範囲を作成されています[日本甲状腺学会雑誌. 2022 Dec;13(2):130-2.]。特に注目すべきは、
- 6~15歳でFT3,TSHは基準範囲上限、下限とも高い[ただし、甲状腺機能低下症児に甲状腺ホルモン薬(チラーヂンS)補充する場合、目標とするTSH上限値は小児甲状腺ホルモン基準値を見て、より厳格にすべきと考えます]
- 61~80歳でFT3は基準範囲上限が低下し、TSHは上限が上昇。加齢とともにTSHが上昇するのはよく知られ、①加齢とともに不活型TSH(構造に欠陥があり役に立たないTSH)が増加するため,②TSH刺激に対する甲状腺の反応が悪くなるためと考えられます。[Endocr J. 2018 Nov 29;65(11):1075-1082.][Scand J Clin Lab Invest. 2014 Aug;74(5):378-84.]
- FT4の基準範囲は年代によってほとんど差が無い。ただし、おそらく女性が圧倒的に多いデータなので、男性に関しては異なると予想されます(実際、男女差を認める報告があります[Scand J Clin Lab Invest. 2014 Aug;74(5):378-84.])。
甲状腺ホルモンの値に季節変動があります[Thyroid. 2018 Apr;28(4):429-436.]。これは、健康な人でも、甲状腺の病気の人でも同じです。
そもそも、甲状腺ホルモンは糖や脂肪(燃焼するものが無くなるとタンパク質も)を燃焼して熱エネルギーを作るホルモンです。寒ければ多くの熱エネルギーを必要とするため、多くの甲状腺ホルモンが必要です(相対的に不足)。逆に、暑ければ熱エネルギーがあまり必要でないため、甲状腺ホルモンの必要量は減ります(相対的に過剰)。
よって、甲状腺ホルモン(FT4, FT3)と逆の変動をする(上がれば下がり、下がれば上がる)甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、
- 寒ければ上昇
- 暑ければ低下
します。
群馬大学が、人間ドック約一万人のデータから割り出した健常者の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の季節変動を報告しています。ただし、月経の影響を除外するため男性のみを対象としています。
予想通り、寒い1月で最高値、暑い6、7、8、9月で最低値、丁度良い4月、11月は年間中央値。60歳以上の高齢群では季節変動幅は小さく、自己調節能力が低下しているためと考えられます。
(第62回 日本甲状腺学会 HSO1-1健常者における血中TSH値とFT4値の季節変動の検討)
気温の甲状腺機能への影響を調べた報告では、
- 気温が下がると甲状腺刺激ホルモン(TSH)および遊離トリヨードサイロニン(FT3)は上昇し、遊離チロキシン(FT4)は低下します
- 気温が上がると甲状腺刺激ホルモン(TSH)および遊離トリヨードサイロニン(FT3)は低下し、遊離チロキシン(FT4)は増加します
甲状腺ホルモン活性の強いFT3は、その前駆物質でホルモン活性の弱いFT4が脱ヨード化して量が調節されるため、増減は逆になります。(J Endocrinol Invest. 2021 Jul;44(7):1515-1523.)
日本医師会精度管理調査(日医サーベイ)は、1967年以降、毎年行われ、検査センターや病院の検査室が正しい値を出しているか(精度が保たれているか)を調べています。医療機関の血液検査を受託する検査センター(企業)や、自前で検査を行う大病院は、必ず第3者機関である日本医師会精度管理調査(日医サーベイ)に参加し、信頼できる検査値を出している事を保証しています。(参加する法的義務が無く、有料なのが落とし穴です。)
最も、日本医師会精度管理調査(日医サーベイ)自体、検査センター・医療機関から郵送されてくる(正常値の基準となる)管理試料の精度を検定するだけなので、最低限の保証にしかなりません。検査センター・医療機関で実際に使用されている測定機械が精密に働いているか調べている訳ではありません。
徹底的に検査の精度にこだわる長崎甲状腺クリニック(大阪)は、日本有数の大手検査センターであるBML検査センターに、甲状腺を含む全ての検査項目を依頼しています。
院内に甲状腺ホルモン・バセドウ病/橋本病抗体を測定する機械を設置し、2-3時間で検査結果を出すことも不可能ではありません。一見、その日の内に結果が出て、便利に思えます。しかし、一病院/クリニック規模の測定機械の精度管理が、全国規模の検査センターに及ばないのは、当然です。まして、日本医師会精度管理調査(日医サーベイ)に参加していないのでは、最低限の保証もありません。
精度に信頼性が無ければ、迅速さは無意味です。(信頼性の高い血液検査精度を優先し、大手のBML検査センターと契約)
日本医師会精度管理調査(日医サーベイ)でさえも・・・
日本医師会精度管理調査(日医サーベイ)では、医療機関から郵送されてくる(正常値の基準となる)管理試料を使ってTSHとFT4を測定し、精度を検定します。2013~2017 年調査のTSHは、同一の測定方法でのばらつき(CV%)が約3%、FT4 も約3%でした。3%以内が誤差の範囲なのでギリギリと言ったところです。
日本医師会精度管理調査(日医サーベイ)の第3者評価を受けようと言う検査センター・医療機関は、当然、精度管理を真面目に行っているのに、それでも3%の値のズレが出てしまうのは仕方ないです。
日本で、特に相手を限定せず甲状腺の超音波(エコー)検診を行うと、
- 0.9~14%に びまん性病変(橋本病、バセドウ病、腺腫様甲状腺腫など甲状腺が全体的に腫れる病気)
- 0.5~4.7%に結節性病変(良悪性含めて、しこり、甲状腺腫瘍)
を認めます。
甲状腺癌は0.13%(1000人に1人以上)にみられ、男性は女性の1/4~1/6と報告されます。
甲状腺ホルモンが過剰な状態を甲状腺中毒症と呼びます。正確には、
甲状腺中毒症=甲状腺機能亢進症 + 破壊性甲状腺炎 + 甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)の過剰投与
で、甲状腺中毒症と甲状腺機能亢進症が全く同じという訳ではありません。
- 甲状腺機能亢進症=甲状腺ホルモンがバンバン作られる状態。ほとんどが永続性。
- 破壊性甲状腺炎=壊れた甲状腺組織から、ドバっと甲状腺ホルモンが放出された状態。いつかは終息する(一過性)。
- 甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)の過剰投与=医者の処方する甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)の量が多過ぎる。あるいは、患者が指示された以上の量を飲む。
甲状腺機能亢進症の原因は
破壊性甲状腺炎の原因は
- 無痛性甲状腺炎(最も多い)
- 亜急性甲状腺炎
- 急性化膿性甲状腺炎と甲状腺膿瘍
- 薬剤性破壊性甲状腺炎(炭酸リチウム(リーマス®)、GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)、アミオダロン(アンカロン®)、インターフェロンα、免疫チェックポイント阻害薬(ICI))
などです。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,生野区,浪速区も近く。