甲状腺の基礎知識 [甲状腺 専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波検査(エコー) 内分泌の長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺の基礎知識を、初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪市東住吉区)院長が解説します。
長崎甲状腺クリニック(大阪) ゆるキャラ 甲Joう君
(動脈硬化した血管に甲状腺が! バセドウ病の甲状腺がモデル)
高度で専門的な知見は
を御覧ください。
男性・女性で異なる甲状腺
甲状腺は、体の新陳代謝を活発にする甲状腺ホルモンを作る臓器です。
甲状腺ホルモンとは
甲状腺ホルモンは、
- 新陳代謝を活発にする作用
- 心臓に作用し、心拍数・心拍出量を調節
- 交感神経の作用を高める
- 腎臓に作用し、体内へナトリウムを取り込む作用(腎尿細管でのNa/K-ATPase活性を高め、ナトリウム再吸収を促進)
- 胎児の脳や体の発育、子どもの成長を促します。(軟骨や骨を作る・成長ホルモンの合成促進)
甲状腺ホルモンには、ヨウ素(ヨード)の元素が4つのサイロキシン(T4)と、3つのトリヨードサイロニン(T3)の2種類があります。
甲状腺では主にT4、一部T3を作り、血中へ分泌され全身へまわります。
T4は肝臓などでヨードが一つ外れT3になります。
甲状腺ホルモン作用はT3の方がはるかに強く、T4はT3の前段階といえます。
甲状腺の中は、甲状腺濾胞上皮が円形に結合した甲状腺濾胞が無数にあります。甲状腺濾胞の内側は濾胞腔になっていて、ここで、サイログロブリンと言う巨大蛋白にアミノ酸のチロシンやヨードが結合し甲状腺ホルモン(T3,T4)が形成されます。
体内では、血液中の甲状腺ホルモンが常に一定の値を維持できるよう、脳の下垂体が調節をおこなっています。
下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、甲状腺を刺激して甲状腺ホルモン(T4, T3)の分泌を促します。
甲状腺ホルモン(T4, T3)のほとんどは血清蛋白と結合しますが、一部は遊離型のFT4, FT3で、色々なホルモン作用をおこします。(よって、採血で測るのはFT4, FT3で、T4, T3を測る意味はありません。)
FT4, FT3は
- 視床下部に作用し、TSH放出ホルモン(TRH)を介して
- 下垂体に直接作用して
下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌を調節します。
正常な下垂体-甲状腺の調節機能
血液中の甲状腺ホルモンが多くなると、下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌量が抑えられ、甲状腺ホルモンの合成・分泌が減ります。
逆に、血液中の甲状腺ホルモンが下がると、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌量が増えて、甲状腺ホルモンの合成・分泌が増えます。
この調節機能をネガティブフィードバック機構といい、血液中の甲状腺ホルモンの量は、常に一定の範囲に維持されます。
※難しい話ですが(医療関係者以外不要)、甲状腺ホルモン(T4, T3)は、
- 視床下部に作用し、TSH放出ホルモン(TRH)遺伝子転写を調節
- 下垂体で、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を構成するβ鎖の遺伝子(TSHβ遺伝子)転写を調節
します。
交感神経興奮
寒冷ストレスなどの交感神経興奮もまた甲状腺ホルモン分泌を促進します。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病, 甲状腺中毒症、甲状腺機能低下症での調節機能の破たん
甲状腺機能亢進症/バセドウ病, 甲状腺中毒症は、TSHが低下しても制限できない甲状腺ホルモンの血中への過剰分泌です。
甲状腺機能低下症は、TSHが上昇しても、甲状腺がTSHに反応して甲状腺ホルモンを合成・分泌できない状態です。
「正常な甲状腺」と診断するには、どうすればよいか?そもそも、「正常な甲状腺」とはどのような甲状腺を指すのでしょうか?「異常のあるもの」を「異常」と言うのは簡単な事ですが、「異常が無い」と断言するのは意外と難しい事があります。
JABTS(日本乳腺甲状腺超音波医学会)の定義では、
- 甲状腺の病気がなく、
- (採血で)甲状腺ホルモンの値が正常
- 超音波検査で異常が認められない
ものが「正常な甲状腺」です。すなはち、甲状腺エコー(甲状腺超音波検査)しなければ、「正常な甲状腺」と診断できない事になります。1. 2.は簡単ですが、3.は甲状腺エコー(甲状腺超音波検査)に精通した専門医の技術が必要になります。
(採血で)甲状腺ホルモンの値が正常であっても、超音波検査で異常が認められる例を挙げれば、
- 血液検査で異常が出ない甲状腺癌、甲状腺腫瘍(良性含む)
- 血液検査で甲状腺ホルモン値が正常, 甲状腺自己抗体(甲状腺を破壊する抗体、橋本病抗体)陰性だが、甲状腺エコー(甲状腺超音波検査)で破壊性変化を認める場合。現行の診断基準では「橋本病(慢性甲状腺炎)疑い」になりますが、破壊性変化が存在する事実は変わりません。
現在のような高性能甲状腺エコー(甲状腺超音波検査)が存在しない、はるか昔に作られた橋本病診断基準では、「抗甲状腺抗体が陽性にならなければ橋本病と診断できない」事になっています(時代錯誤もはなはだしい)。 - 血液検査で甲状腺ホルモン値が正常の多のう胞性甲状腺病、甲状腺のう胞。
などです。特に甲状腺エコー(甲状腺超音波検査)による破壊性変化の評価は、長崎甲状腺クリニック(大阪)が得意とするところです(橋本病の抗体/ 橋本病 破壊の程度の評価)。
甲状腺ホルモン(T4, T3)のほとんどは血清蛋白と結合しますが、一部は遊離型のFT4, FT3で、色々なホルモン作用をおこします。
総甲状腺ホルモン量のT4, T3は、
- ホルモン作用を反映せず
- 結合蛋白濃度の影響を受ける
よって、採血で測るのはFT4, FT3で、T4, T3を測る意味はありません。
初診時は別として、2-3か月に一度の血液検査で測れる甲状腺のホルモンの数は2つが相場とされます。これは、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、甲状腺ホルモン(FT4, FT3)、サイログロブリンすべてから2つを選んでという事です。副腎・下垂体ホルモンも含めて2つと言う場合もあります。もちろん、医学的な理由ではありません。保険診療のルールなのです。日本の社会保険・国民保険とも赤字財政であり、可能な限り医療費を削減するため、暗黙のルールが存在します。医学的な妥当性がないため、文書としては存在しません(ここが役人のずるいところで、もし文書化されれば医学的な根拠を徹底的に追及されます)。
- TSH:日内変動ありますが、もっとも感度が高く、もっとも鋭敏に病態を反映するので外せません。
(夜間高く、 明け方に下がりますが、こんな時間に誰も採血しません)
ただし、中枢性甲状腺機能低下症で、TSHの合成・分泌障害があると、全く役に立ちません。
- FT4:半減期が長く(分解されるのが遅い)、日内変動がないのが利点で、長期的な甲状腺機能を反映します。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、甲状腺機能低下症/橋本病の方はFT4を測定します。
脱ヨード酵素により体内で活性型のFT3に変化するため、甲状腺機能亢進症/バセドウ病で脱ヨード酵素の働きが強ければ、FT4正常でもFT3が高くなり、バセドウ病の活動性を正確に反映しません[長崎甲状腺クリニック(大阪)では、バセドウ病の方はFT3を測定します]。
高齢・薬剤などの影響で脱ヨード酵素の働きが弱ければ、FT4正常でもFT3が低くなります。
- FT3:半減期が短く(分解されるのが早い)、わずかな日内変動あります。逆に考えると、FT3はFT4の1/50の量(数字だけ見るとFT3の方が高いですが、実は単位が1桁違うのです)で、身体の状態を鋭敏に反映します。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、FT4正常でもFT3が高くなることがあり(難治性T3優位型バセドウ病 )、バセドウ病の活動性をFT4より正確に反映します[長崎甲状腺クリニック(大阪)では、バセドウ病の方はFT3を測定します]。
甲状腺全摘出後は、TSH、FT4よりもFT3が身体症状を強く反映するとされます。(第55回 日本甲状腺学会 O-03-02 甲状腺全摘出術後LT4服用患者の甲状腺機能と身体症状の関連についての検討)(第57回 日本甲状腺学会 O7-4 甲状腺全摘術後レボチロキシン服用患者の甲状腺機能と身体症状の関連についての検討)(甲状腺癌全摘出後のホルモン補充療法 )
さらに、筆者の経験では、甲状腺機能亢進症/バセドウ病でアイソトープ治療後数年経ち、ほとんど完全に甲状腺が破壊された場合も、甲状腺全摘出術後とほぼ同じ状態なので、TSH、FT4よりもFT3が身体症状を強く反映します。
結局、個々人の病態により、最適な2つを的確に選択せねばなりません。(甲状腺専門医の腕の見せどころでしょうか)
医学的には3つとも測るのがベストなのですが、世の中理不尽にできています。
甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病では
甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病の経過観察では、安定したTSHとFT4を測ります。どこの医療機関でも行うオーソドックスな組合わせです。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の経過観察は、TSHとFT3を測ります。甲状腺機能亢進症/バセドウ病は脱ヨード酵素の働きが強くFT4→FT3へどんどん変換され、FT4正常でもFT3が高くなります。
バセドウ病の活動性を正確に反映するのは、FT4でなく、FT3です。例えば
「TSH低値、FT4正常値、FT3高値」は、
- TSHとFT4を測れば、潜在性甲状腺機能亢進症(コントロールやや不良)
- TSHとFT3を測れば、顕在性甲状腺機能亢進症(コントロール不良)
と「TSHとFT4」ではバセドウ病の活動性を過小評価することになります。
ただし、例外的に「TSHとFT4」の方がよい場合もあります。めったにありませんが、甲状腺機能亢進症/バセドウ病で栄養状態が悪くなり過ぎると、低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)を合併し、
「TSH低値、FT4高値、FT3低値」、「TSH低値、FT4高値、FT3正常値」となり、
- TSHとFT4を測れば、コントロール不良
- TSHとFT3を測れば、コントロール良好
と「TSHとFT3」ではバセドウ病の活動性を過小評価することになります。筆者の経験上、極めて例外的なので、TSHとFT3を測るのが現実的です。
甲状腺全摘出後では
甲状腺全摘出後、長崎甲状腺クリニック(大阪)では、TSHとFT3を測ります。
甲状腺全摘出後は、TSH、FT4よりもFT3が身体症状を強く反映するとされます。(第55回 日本甲状腺学会 O-03-02 甲状腺全摘出術後LT4服用患者の甲状腺機能と身体症状の関連についての検討)(第57回 日本甲状腺学会 O7-4 甲状腺全摘術後レボチロキシン服用患者の甲状腺機能と身体症状の関連についての検討)
従来は、TSHを最優先で測定するのが、世界共通でした。現在でも大半はTSHを基準にして、補充する甲状腺ホルモン量を決定します。FT4が高くても、低くても関係なしです。
また、甲状腺癌で甲状腺全摘出した後は、再発予防のため、TSHを基準として補充する甲状腺ホルモン量を決定します(アメリカ甲状腺学会のガイドライン)。
以上から、甲状腺全摘出後はFT4が全く役に立たず、TSHとFT3を測ります。
バセドウ病/甲状腺機能亢進症のアイソトープ(放射性ヨウ素; 131-I)治療後では
バセドウ病/甲状腺機能亢進症のアイソトープ(放射性ヨウ素; 131-I)治療後、長崎甲状腺クリニック(大阪)では、TSHとFT3を測ります。バセドウ病/甲状腺機能亢進症のアイソトープ(放射性ヨウ素; 131-I)治療
- 直後から数か月~数年後、甲状腺機能低下症になる前までは、治療効果が出ておらず、バセドウ病の経過観察中と同じなので、TSHとFT3を測ります。
- 甲状腺機能低下症になってしばらく、甲状腺ホルモン薬を最大量(チラーヂン 75-100μg)使用するまでは、普通にTSHとFT4を測ります。
- 8年以上経ち、甲状腺ホルモン産生細胞(甲状腺濾胞細胞)が、ほぼ完全に破壊され、甲状腺ホルモン薬を最大量(チラーヂン 75-100μg)使用する段階になれば、甲状腺全摘出後と同じなので、長崎甲状腺クリニック(大阪)では、TSHとFT3を測ります。
低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)
低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)では、慢性の消耗性疾患などにより、甲状腺に異常無いのに、甲状腺の数値だけが異常になります(低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス))。最も慢性消耗性疾患の影響を受けにくいのはTSH、最も影響を受けるのはFT3、中間はFT4です。
- 慢性消耗性疾患の影響を避け、甲状腺そのものの状態を知りたいならTSHとFT4を測ります。
- 低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)自体の程度を知りたいならTSHとFT3、あるいはFT3とFT4を測ります。
FT4の年齢による変化
FT4(甲状腺ホルモン;サイロキシン)の値は、
- 男性は年齢と伴に低下して行きます(ただし、健常人男性では正常範囲内の低下です)
- 女性は年齢にほとんど影響されず一定
(第60回 日本甲状腺学会 専門医教育セミナーⅠ)
日本医師会精度管理調査(日医サーベイ)は、1967年以降、毎年行われ、検査センターや病院の検査室が正しい値を出しているか(精度が保たれているか)を調べています。医療機関の血液検査を受託する検査センター(企業)や、自前で検査を行う大病院は、必ず第3者機関である日本医師会精度管理調査(日医サーベイ)に参加し、信頼できる検査値を出している事を保証しています。(参加する法的義務が無く、有料なのが落とし穴です。)
最も、日本医師会精度管理調査(日医サーベイ)自体、検査センター・医療機関から郵送されてくる(正常値の基準となる)管理試料の精度を検定するだけなので、最低限の保証にしかなりません。検査センター・医療機関で実際に使用されている測定機械が精密に働いているか調べている訳ではありません。
徹底的に検査の精度にこだわる長崎甲状腺クリニック(大阪)は、日本有数の大手検査センターであるBML検査センターに、甲状腺を含む全ての検査項目を依頼しています。
院内に甲状腺ホルモン・バセドウ病/橋本病抗体を測定する機械を設置し、2-3時間で検査結果を出すことも不可能ではありません。一見、その日の内に結果が出て、便利に思えます。しかし、一病院/クリニック規模の測定機械の精度管理が、全国規模の検査センターに及ばないのは、当然です。まして、日本医師会精度管理調査(日医サーベイ)に参加していないのでは、最低限の保証もありません。
精度に信頼性が無ければ、迅速さは無意味です。
日本医師会精度管理調査(日医サーベイ)でさえも・・・
日本医師会精度管理調査(日医サーベイ)では、医療機関から郵送されてくる(正常値の基準となる)管理試料を使ってTSHとFT4を測定し、精度を検定します。2013~2017 年調査のTSHは、同一の測定方法でのばらつき(CV%)が約3%、FT4 も約3%でした。3%以内が誤差の範囲なのでギリギリと言ったところです。
日本医師会精度管理調査(日医サーベイ)の第3者評価を受けようと言う検査センター・医療機関は、当然、精度管理を真面目に行っているのに、それでも3%の値のズレが出てしまうのは仕方ないです。
日本で、特に相手を限定せず甲状腺の超音波検診を行うと、何と!0.9~14%に、びまん性病変(橋本病、バセドウ病、腺腫様甲状腺腫など甲状腺が全体的に腫れる病気)を、0.5~4.7%に結節性病変(良悪性含めて、しこり、甲状腺腫瘍)を認めます。
甲状腺癌は0.13%(1000人に1人以上)にみられ、男性は女性の1/4~1/6と報告されます。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺(橋本病,バセドウ病,甲状腺エコー等)専門医・動脈硬化・内分泌の大阪市東住吉区のクリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,生野区も近く。