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穿刺細胞診の気を付ける点(医療従事者用)    [甲状腺 専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 内分泌 長崎甲状腺クリニック(大阪)]

甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 専門医 長崎甲状腺クリニック(大阪)

甲状腺の、長崎甲状腺クリニック(大阪市東住吉区)院長が海外論文に眼を通して得たもの、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。

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穿刺細胞診の気を付ける点

甲状腺編 では収録しきれない専門の検査/治療です。

穿刺細胞診の気を付ける点(医療従事者用)

Summary

甲状腺穿刺吸引細胞診の注意点は、①穿刺部位の性質等により十分な検体採取ができず、不適正検体。穿刺細胞診の有害事象は②穿刺時出血;用手圧迫、再度、超音波(エコー)、造影CT、耳鼻咽喉科で喉頭ファイバー。出血・喉頭腫大が確認されれば入院、ステロイド投与。最悪、気道確保。③穿刺細胞診後、急激な穿刺部の痛みと甲状腺腫脹;超音波で甲状腺腫大、前頚筋腫大と線状の無エコー帯。治療は、局所冷却、ステロイド点滴静注。甲状腺機能亢進症/バセドウ病は、甲状腺内部の血流が異常増加、穿刺で大出血の危険。甲状腺ホルモン正常化し血流低下を待つ。頚動脈に接する小さな甲状腺腫瘍は穿刺難。

Keywords

甲状腺,穿刺細胞診,不適正検体,穿刺時出血,超音波,エコー,甲状腺腫瘍,甲状腺腫脹,ステロイド,甲状腺機能亢進症,バセドウ病

不適正検体

甲状腺穿刺吸引細胞診

甲状腺穿刺吸引細胞診を行っても、

  1. 数mm大の微小な病変(針先より小さい、同じくらい)
  2. 穿刺が困難な場所にある病変
  3. 石灰化や線維化が強い病変
  4. 良性の病変
    ・当然、細胞数は少ない
    腺腫様結節は壊死組織を含んでいる
  5. 例え悪性腫瘍でも内部が壊死(組織が溶けてしまう事)を起こしていると

十分な検体採取ができず、「検体不適正」「細胞成分少数」「判定不能」などになることがあります(甲状腺穿刺吸引細胞診の限界)。また、良性でも悪性腫瘍(病変)でも、血管の豊富な組織や崩れやすいもろい組織は針を刺した時の出血で「血液のみ」「判定不能」になる事あります。

不適正検体の確率は、施設により異なりますが約10%と言われます。2回穿刺行うと、いずれか一方が適正検体である確率は99%になるとされます(2回とも不適正である確率1%)。

(第54回 日本甲状腺学会 P143 甲状腺穿刺細胞診における2回穿刺法の有用性について)

鑑別困難

細胞病理診断

甲状腺穿刺吸引細胞診の結果、「鑑別困難」の事があります。この「鑑別困難」の比率は医療機関によりかなりの差があります。

大抵は細胞診断技師が一次スクリーニングして、判断付かない場合のみ病理診断医が見ます(病理医が全て自分の眼で見ていないのが現実)。細胞診断技師、病理診断医の主観により診断は左右されます(本当、困った問題です)。

驚いたのは、慶應大学病院での「鑑別困難」がわずか7.1%である、言い換えれば92.9%は診断できていると言う事です。(第62回 日本甲状腺学会 P1-5当院の甲状腺穿刺吸引細胞診症例における鑑別困難症例の特徴)

穿刺細胞診の有害事象

どんなに気を付けても、甲状腺機能亢進症/バセドウ病、TSH高値の重度甲状腺機能低下症など血流の多い甲状腺を避けても、穿刺細胞診の有害事象は一定の割合で起こります。

順天堂大学の報告では、穿刺細胞診した663 例の内、

  1. 穿刺細胞診直後の甲状腺全体の腫脹(1 例、0.13%;1000人に1.3人の確率で起こる)[穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応)]
  2. 腫瘍側方に出現し、組織を圧排しながら増大する無エコー域(7 例、0.93%;100人に0.93人の確率)(1.と同じ事象が局所的に起こったと推察されます)
  3. 穿刺細胞診最中もしくは直後に穿刺部位に出現した点状から索状の高エコー域(5 例、0.67%;200人に1.34人の確率)(おそらく軽度の穿刺時出血と推察されます)

が起こったそうです。無事象群と各有事象群間において腫瘍径や血管密度、内部エコーなどに差は無く、予測は難しいとの事です。(第57回 日本甲状腺学会 O1-5 穿刺吸引細胞診後に甲状腺超音波所見が変化した症例の検討)

これらは、無自覚性の事が多く、術者も患者さんも気が付かないので、上記の如く予想以上に高い確率で起こっています。野口病院の報告でも、連続して100例を穿刺細胞診し、1時間後に再度超音波(エコー)検査行った所、

  1. 無自覚性の血腫(甲状腺被膜と前頚筋との間に5mm大)
  2. のう胞内出血
  3. 甲状腺全体の腫脹

を1例(1%)ずつ認めたそうです(第53回 日本甲状腺学会 P-8 甲状腺穿刺吸引細胞診後に起こる無自覚性の血腫形成や甲状腺びまん性腫脹)。

穿刺時出血

甲状腺穿刺細胞診で、最も注意すべき合併症は穿刺時、あるいは穿刺後出血で、最悪、気道閉塞により窒息に至ります。(Am J Otolaryngol 2005;26:398―399)(Laryngoscope 2006;116:154―156)

甲状腺は血管が多く、血流が豊富です。甲状腺穿刺吸引細胞診は、甲状腺に直接、針を刺すため、穿刺時、あるいは穿刺後出血が起こっても不思議ではありません。穿刺時・穿刺後出血は、そう頻繁に、起こりませんが、飛行機事故と同じで、起これば大惨事になります。

特に、のう胞性腫瘍の排液を行う場合、粘調な液が多いため輸血用の太い針(21G)を使用します。当然、刺し口も大きくなり、出血しやすくなります(のう胞内出血 )。また、穿刺当日は何もなくても、塞がった刺し口は完全に固まるまで脆弱なため、無理な力が掛かると、2週間後でも出血おこします。

穿刺後遅発性出血 超音波(エコー)画像

穿刺後遅発性出血 超音波(エコー)画像

穿刺後遅発性出血 超音波(エコー)画像 ドプラー

穿刺後遅発性出血 超音波(エコー)画像 ドプラー

甲状腺穿刺時に「絶対に、唾(つば)は飲まないで下さい。」と必ず患者さんに注意しますが、それでも唾を飲む方が稀におられます。針が甲状腺に刺さった状態で唾を飲むと、針が曲がり、甲状腺内で出血おこります。最悪、気道閉塞(窒息)の危険があります。

このような場合、

  1. 用手圧迫行い、嚥下痛が持続しているか確認
  2. 再度、超音波(エコー)行い、出血の有無を確認しますが、1時間しても超音波(エコー)上、(出血しているのに)変化を認めない事あります。
  3. その時は、造影CT、耳鼻咽喉科に依頼して喉頭ファイバー行います。出血・喉頭腫大が確認されれば入院し、ステロイド投与。最悪、気道確保。
  4. 検査所見で改善認めれば10日程で退院。
    (第54回 日本甲状腺学会 P148 FNA施行時に合併した甲状腺出血により気道狭窄をおこし入院を要した症例)

甲状腺機能亢進症/バセドウ病、重度甲状腺機能低下症に合併する甲状腺腫瘍

バセドウ病合併甲状腺腫瘍 穿刺困難

甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、甲状腺内部の血流が異常増加しているため、針を刺せば大出血する危険があります。甲状腺腫瘍が見つかっても、下手に針を刺せないため、甲状腺ホルモンが正常化して、血流が低下するまで待たねばなりません。

TSH高値の重度甲状腺機能低下症でも、TSH(甲状腺刺激ホルモン)による甲状腺刺激により甲状腺内部血流が増加し、穿刺時出血の危険があります。

穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応)

穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応)

甲状腺穿刺細胞診自体は、うまく行ったのに、直後(1-3分後)から数時間後(5-6時間後)、急激な穿刺部の痛みと甲状腺びまん性腫脹を来す症例があります。穿刺時出血との鑑別重要です。穿刺部を中心に超音波(エコー)で、

  1. 甲状腺びまん性腫大、あるいは甲状腺外側を取り囲むような前頚筋腫大と
  2. 線状の無エコー帯/樹枝状低エコー/Hypoechoic cracks(ひび割れ)
    (ドプラーで血流乏しく、エラストグラフィーで軟らかい):おそらく穿刺刺激により、何らかの血管透過性物質が放出されたためと推察されます。
  3. 甲状腺推定重量は、穿刺30 分以上すると2倍以上で、甲状腺内部の血管は拡張、甲状腺機能・サイログロブリン(Tg)に大きな変化はなく、炎症所見もなし。

認めます。治療は、

  1. 局所冷却
  2. ステロイド点滴静注(報告例では、腫大時44g位の大きさならメチルプレドニゾロン125-250mg程度で、甲状腺推定重量は3 時間後に著減、24 時間後に元の大きさに)

行い、念のため入院、一晩、経過を観る必要があります(入院設備が無いとできません)。

穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応)は、

  1. 女性の報告がほとんど
  2. 初診当日いきなり穿刺を行った患者が多く、不安感と緊張状態(交感神経亢進)が関与している可能性が考えられます。

(第54回 日本甲状腺学会 P142 穿刺吸引細胞診後に急速にびまん性甲状腺腫脹をきたした甲状腺腫瘍の2例)
(第54回 日本甲状腺学会 P150 甲状腺穿刺吸引細胞診直後に急速一過性頚部腫大を来たした5例)
(第55回 日本甲状腺学会 P1-043 超音波ガイド下吸引細胞診後に急激な甲状腺腫脹を認めた1 例)
(Clin Endocrinol (Oxf). 2011 Oct;75(4):568-70.)

穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応)がおこる原因

穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応)がおこる原因は不明ですが、甲状腺内の神経末端からサブスタンスP やニューロキニンA などのタキキニンが放出され、血管透過性を亢進させる可能性が考えられます(日臨外会誌70(2),375-379,2009)。

だとしたら、穿刺細胞診でなくても、甲状腺内の神経末端から化学物質が放出されれば、同様の反応が起きるはずで、筆者が知る限り

  1. 褐色細胞腫の高血圧発作時;痛みはない。急激な甲状腺びまん性腫脹と樹枝状低エコー
    (第54回 日本甲状腺学会 P126 一過性甲状腺腫脹を主訴とした副腎褐色細胞腫の一例)(第59回 日本甲状腺学会 P2-5-2 一過性の甲状腺腫大を契機に傍神経節細胞腫の診断に至った一例)
  2. 癌性リンパ管炎;痛みはない。
  3. 甲状腺のう胞内出血で、反対側の甲状腺内に急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応);経過観察のみで数時間後に痛みは軽快、樹枝状低エコーも消失
    (第62回 日本甲状腺学会 P7-4 嚢胞内出血後に対側片葉に激痛を伴う一過性甲状腺腫大を呈した 1症例)

などがあります。

もしも、穿刺部を超音波(エコー)で確認し、ステロイド点滴静注する事を知らなければ?

もしも、穿刺部を超音波(エコー)で確認し、ステロイド点滴静注する事を知らなければ?

報告例では、穿刺後2時間で呼吸困難を訴え、穿刺細胞診したのとは別の総合病院(おそらく甲状腺をあまり知らない救急外来)を受診、おそらく超音波(エコー)検査などするはずもなく、CTで気管圧排を確認するや気管内挿管。

そのまま、穿刺細胞診した病院のICUへ救急再搬送され、その2日後ようやく、穿刺細胞診した科が診察し、遅きに失したがメチルプレドニゾロン250mgを点滴静注、その後軽快し抜管。

最後は、再度穿刺細胞診した時の再発を危惧し、甲状腺全摘術になったそうです。

結論として、最初から穿刺細胞診した病院に連絡して、別の総合病院を受診しなければ、ICUで2日以上、気管に管を入れられて苦しむ必要はなかったと言う事です。

(第53回 日本甲状腺学会 P136 甲状腺細胞診後急激な腫張を認め気管内挿管を要した腺腫様甲状腺腫の1例)

穿刺細胞診後、穿刺側片葉のみが無痛性腫大

穿刺細胞診後、穿刺側片葉のみが無痛性腫大おこす事もあります。報告では片葉のみ約2倍に腫れ、非穿刺側は無変化、痛みもないため、本人が気付かない限り、そのまま見逃されてしまいます。

そのため、穿刺細胞診後、穿刺側片葉のみの無痛性腫大は、実は高頻度で起こっ ている可能性もあります。(第61回 日本甲状腺学会 O17-6 甲状腺穿刺吸引細胞診後に穿刺側片葉のみが腫大した3症例 

針先のNi(ニッケル)アレルギーで穿刺部の皮膚の炎症

Ni(ニッケル)アレルギー(ネックレスやピアスなどで起きる金属アレルギー)のある方で、穿刺細胞診後、針先のニッケルにⅣ型アレルギー反応起こり、穿刺部の皮膚の炎症を起こす事あります。甲状腺自体が腫れる訳ではありません。Ⅳ型(遅延型)アレルギーなので、穿刺直後は起こらず、帰宅後あるいは翌日に起きる事あります。

穿刺するには危険すぎる場所

穿刺細胞診するには、あまりにリスクが大きく、断念せざる得ない場合があります。たとえば、頚動脈に接する小さな甲状腺腫瘍。甲状腺微小乳頭癌の可能性があるため、穿刺細胞診したくても、頚動脈を刺してしまう危険を考えれば断念するのが正しいと思います。「退く勇気」も大切なのです。その代わり、甲状腺腫瘍が大きくならないか、腫瘍マーカーは上昇しないか、定期的に経過を見る必要があります。

総頚動脈に接する甲状腺微小乳頭癌疑い腫瘤(拡大)

総頚動脈に接する甲状腺微小乳頭癌疑い腫瘤

総頚動脈に接する甲状腺微小乳頭癌疑い腫瘤(拡大)

総頚動脈に接する甲状腺微小乳頭癌疑い腫瘤

何度穿刺細胞診しても血液成分のみ:甲状腺血管腫

甲状腺に発生する血管腫は非常に稀で、日本の報告例もわずかです(日臨外会誌 72(3),579―583,2011)。

甲状腺血管腫 超音波(エコー)画像

甲状腺血管腫 超音波(エコー)画像;

  1. 境界は比較的明瞭だが、やや不整形腫瘍
  2. 内部エコーは等~やや低エコーで不均一
  3. 内部に線状の低エコーが入り組んでいて、ドプラーで血流を認めるため、血管であるのが分かります。

何度穿刺細胞診しても血液成分のみ、下手をすれば穿刺後出血の危険性あります。

甲状腺血管腫1

血管腫は易出血性なので、手術中に大量出血をきたす可能性があります1,000~2,000mlの輸血を要しも報告もあります。(J R Coll Surg 1978;23:226―229)

(エコー加増;J Ultrasound Med. 2014 Apr;33(4):729-33.)

穿刺細胞診後腫瘍梗塞

穿刺細胞診後腫瘍梗塞とは、針を刺す事により腫瘍の内部構造が破壊される状態です。完全に破壊される全梗塞と、部分的に破壊される部分梗塞があります。甲状腺乳頭癌に穿刺細胞診行うと約2%で穿刺細胞診後腫瘍梗塞がおこります。約30%が部分梗塞、約70%でほぼ全梗塞とされます。(JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2014 Jan;140(1):52-7.)

完全に破壊され、甲状腺内の乳頭癌が消滅すれば、メデタシです。しかし、手術標本で、在るはずの甲状腺乳頭癌が無いとなれば慌ててしまいます。穿刺細胞診後腫瘍全梗塞だった可能性を考慮し、念のため遠隔点が無い事を確認し、その後の再発をフォローすべきです。

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