甲状腺と糖尿病 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 動脈硬化 甲状腺超音波エコー検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科(内分泌骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など) 糖尿病編 をクリックください
長崎甲状腺クリニック(大阪)では甲状腺専門クリニックに特化するため、糖尿病内科を廃止しました。
Summary
甲状腺ホルモンの血糖への影響。甲状腺機能亢進症/バセドウ病で腸の糖吸収亢進、グリコーゲン・脂肪分解亢進、糖新生亢進などで糖尿病悪化、糖尿病性ケトアシドーシス、甲状腺クリーゼの危険。甲状腺機能低下症ではインスリン分泌低下、インスリン抵抗性増大し糖尿病・糖尿病合併症悪化。潜在性甲状腺機能低下症もインスリン分泌低下し糖尿病・糖尿病合併症悪化。2型脱ヨード酵素(DIO2)は褐色脂肪や骨格筋で糖脂肪分解により熱産生とエネルギー代謝に関与。2型糖尿病では炎症によるインスリン抵抗性増大・異化亢進で低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)。
Keywords
甲状腺機能亢進症,バセドウ病,糖尿病,甲状腺ホルモン,血糖,甲状腺機能低下症,インスリン分泌,インスリン抵抗性,潜在性甲状腺機能低下症,低T3症候群
- 糖尿病と甲状腺疾患の合併
- 甲状腺ホルモンと糖尿病
- 抗GAD抗体・IA-2抗体・ZnT8Aと甲状腺)
- 緩徐進行1 型糖尿病(SPIDDM)[成人の潜在性自己免疫性糖尿病(latent autoimmune diabetes in adults :LADA),1.5型糖尿病]
- APS3型(多腺性自己免疫症候群)3型
- 制御性Tリンパ球の異常:IPEX症候群
- 劇症1 型糖尿病とバセドウ病の合併
- 急性化膿性甲状腺炎と甲状腺膿瘍
- 亜急性甲状腺炎と糖尿病
- 甲状腺腫瘍(甲状腺癌、腺腫様結節)と糖尿病
- 自己血糖測定器で皮膚からヨウ素(ヨード)が混入し血糖値が高く出る
- TSH放出ホルモン(TRH)はインスリン分泌を調節?
- アルストレム症候群と甲状腺
- 膵島移植と甲状腺
1型、2型糖尿病問わず甲状腺疾患の合併が多いとされます。(BMC Med. 2016 Sep 30; 14(1):150.)(Clin Endocrinol (Oxf). 2011 Jul;75(1):1-9.)
1型糖尿病に合併する自己免疫疾患で最も多いのは、自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病または橋本病)です。
急性発症1型糖尿病(ADM)の約10%、緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の約20%、劇症1型糖尿病の0%はバセドウ病を合併すると報告されています。(第58回 日本甲状腺学会 P1-4-4 1型糖尿病における自己免疫性甲状腺疾患の検討)
1型糖尿病全体の自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病または橋本病)合併率は8.8%で2型糖尿病の0.8% と比較し有意に高いです。(糖尿病52(11):887-893,2009)
インドネシアのデータで、日本人にそのまま当てはまりませんが、2型糖尿病患者での甲状腺機能低下症の割合は7.59%、甲状腺機能亢進症は2.31%、合計すると9.9%です(Acta Med Indones. 2017 Oct;49(4):314-323.)。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病は、甲状腺ホルモンの作用で
- 腸からの糖吸収が亢進;
①消化管蠕動運動が亢進
②甲状腺ホルモンに反応し腸でのNa+/グルコース共輸送体(SGLT1)の発現が増加(Biochem J. 1998 Sep 15;334 ( Pt 3):633-40.) - 交感神経、グルカゴン、カテコールアミン、ソマトスタチンの感受性が上昇しグリコーゲン・脂肪分解が亢進
- 糖新生亢進
し血糖が上昇、糖尿病が悪化します。脂肪や筋肉などの蛋白分解も亢進し、血液が酸性に傾く糖尿病性ケトアシドーシスを誘発する可能性があります。
逆に、糖尿病性ケトアシドーシスは甲状腺クリーゼの原因になります。
詳しくは、 甲状腺機能亢進症/バセドウ病と糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群 を御覧ください。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病に糖尿病性ケトアシドーシスが合併すると、全身状態の悪化がFT3の減少・rT3の増加(低T3症候群、ユーサイロイドシック症候群)をおこし、以下のような奇妙な数値になることがあります。
TSH<0.01 (0.4-4.0), FT4 2.16 (0.9-1.9)ng/dl, FT3 1.84 (2.2-4.1)pg/ml (第58回 日本甲状腺学会 P1-2-7 インフルエンザ感染、糖尿病性ケトアシドーシスに伴いlow T3症候群を呈したBasedow病の1例)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病に高血糖高浸透圧症候群(Hyperglycemic hyperosmolar syndrome :HHS) を合併する場合も同様で、相互で悪化し合い、甲状腺クリーゼに至ります。糖尿病性ケトアシドーシスの合併と同じく、全身状態の悪化・糖が有効に利用できない異化亢進により、FT3の減少・rT3の増加で、高齢でもないのにFT4優位、極端な場合に低T3症候群(ユーサイロイドシック症候群)になる事があります。(J Korean Med Sci. 2006 Aug;21(4):765-7.)(Med Clin (Barc). 1990 Jan 27; 94(3):116-7.)
甲状腺機能低下症では、インスリン分泌が低下、インスリン抵抗性も増大し糖尿病・糖尿病合併症が悪化します。
インスリン抵抗性・インスリン分泌能の指標
血糖の下がりやすさ(HOMA-R:インスリン抵抗性の指標)
HOMA-Rを計算し、インスリンに反応して血糖が下がる糖尿病か、インスリンに抵抗して血糖下がらない糖尿病か調べます。HOMA-Rが高値なら、①治療抵抗性の糖尿病遺伝子 ②内臓脂肪が多い
インスリンを作る能力(HOMA-β:インスリン分泌能の指標)
HOMA-βを計算し、インスリンを作れる糖尿病か、インスリンが出ない糖尿病か調べます。HOMA-βが低値なら、①1型糖尿病 ②甲状腺機能低下症 が考えられます。
潜在性甲状腺機能低下症は、「血中甲状腺ホルモン値が正常かつTSH値が高値である状態」で、軽度の甲状腺機能低下症と言えます。わかり易く言えば、TSHが上昇して甲状腺を刺激するだけで、なんとか甲状腺ホルモンを正常範囲内に維持できる状態です。潜在性甲状腺機能低下症でも、インスリン分泌が低下しているとの報告は多いです、しかし、インスリン抵抗性の増大は定かではありません。[第54回 日本甲状腺学会 P235 潜在性甲状腺機能低下症状態における、糖尿病患者の膵β細胞機能(インスリン分泌能)に関する検討]
また、潜在性甲状腺機能低下症単独でも動脈硬化を促進するため(潜在性甲状腺機能低下症の動脈硬化)、糖尿病の
- 細小血管合併症(前増殖性網膜症以上、糖尿病性腎症A期以上、糖尿病性神経障害)。(Diabetes Care. 2010 May;33(5):1018-20.)(Diabet Med. 2007 Dec;24(12):1336-44.)(PLoS One. 2015 Aug 13;10(8):e0135233.)
- 大血管合併症(心血管障害)(Diabet Med. 2007 Dec;24(12):1336-44.)
を促進するとされます。
無痛性甲状腺炎は、一過性の甲状腺中毒症と、連続する甲状腺機能低下症なので、糖尿病への影響も限定的な事が多いです。しかし、血糖コントロールが極めて悪く、糖尿病性ケトアシドーシスの一歩手前の糖尿病性ケトーシスの状態で、かつ甲状腺中毒症が軽度でない(報告例で血糖749mg/dl,HbA1c 13.1%,FT3 12.17pg/ml,FT4 5.59ng/dl)なら、
- 入院の上、インスリン使用
- ヨウ化カリウム・βブロッカー使用し、
- それでも甲状腺中毒症が重度になるなら(同報告例、入院10 日目FT3 32.55 pg/ml,FT4 7.77ng/dl)、ステロイド剤:プレドニゾロン20mg使用すべき。ステロイドで糖尿病悪化する危険あるもインスリン増量で対処すれば、甲状腺ホルモン低下し、結果的に血糖コントロール・甲状腺中毒症ともに改善するとの事です。
(第56回 日本甲状腺学会 P1-052 糖尿病性ケトーシスを合併した無痛性甲状腺炎の一症例)
甲状腺ホルモンのFT4(遊離サイロキシン)のヨードを一つ外し、ホルモン作用が強いFT3(遊離トリヨードサイロニン)に変換する2型甲状腺ホルモン脱ヨード酵素(DIO2)は、
- 視床下部と下垂体で細胞内トリヨードサイロニン(T3)濃度の調節(下垂体による甲状腺ホルモンの調節 )
- 褐色脂肪や骨格筋に発現。糖脂肪分解により、熱産生とエネルギー代謝に関与します。(Endocr Rev. 2008 Dec;29(7):898-938.)
骨格筋細胞・褐色脂肪組織で2型脱ヨード酵素が活性化されると、エネルギー消費が活発になります。これによりインスリン抵抗性が改善するとされます。(J Clin Endocrinol Metab. 2009 Jun;94(6):1893-5.)(J Physiol. 2016 Sep 15;594(18):5255-69.)(Diabetes. 2002 Mar;51(3):880-3.)(Diabetes. 2014 May;63(5):1594-604.)
近年、2型甲状腺ホルモン脱ヨード酵素(DIO2)の遺伝子多型であるThr92Alaは、T4→T3への変換が悪く、耐糖能障害に関与すると報告されています。(J Clin Endocrinol Metab. 2007 Jan;92(1):363-6.)
甲状腺が悪くない糖尿病患者での、甲状腺ホルモンと糖尿病との関係は、どうでしょうか?2型糖尿病では、
- 活性型の甲状腺ホルモンの遊離トリヨードサイロニン(FT3)が低くなり[末梢の1型甲状腺ホルモン脱ヨード酵素(DIO1)が抑制される]。
- 不活性型の甲状腺ホルモンのリバースT3(rT3)が高くなります[3型甲状腺ホルモン脱ヨード酵素(DIO3)が活性化される]。
(低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス))
- 同時に、遊離サイロキシン(FT4)からFT3への変換が阻害され、FT4も高くなります。
2型糖尿病で低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)が起こる原因は、
- 肥満[BMI(Body mass index)が高い];内臓脂肪から分泌されるサイトカインによる炎症(J Clin Endocrinol Metab, 2008, 93: S64-S73)
- 動脈硬化の原因となる微弱な炎症(高感度C-reactive protein、hs-CRP)
の
- 炎症そのもの
- 炎症から生じたインスリン抵抗性で、糖を有効に燃焼できない異化亢進
と推測されます。(Endocrine Journal 2013, 60 (7), 877-884)
甲状腺が悪くない耐糖能異常での、甲状腺ホルモンと耐糖能異常の関係
耐糖能異常とは、体内のインスリンの分泌量が少ない場合(インスリン分泌不全)や、インスリンの働きが悪くなり(インスリン抵抗性)高血糖になった病態です。 空腹時血糖値が110~125mg/dl、あるいは経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)で2時間後の血糖値が140~199mg/dlで耐糖能異常と診断されます。
糖尿病の予備軍的な状態と考えれば良いでしょう。
甲状腺が悪くない耐糖能異常患者では、甲状腺ホルモンのFT3、FT3/FT4比が低下します(J Diabetes Complications. 2012 Nov-Dec;26(6):522-5.)。理由はおそらく前項と同じと考えられます。
制御性T細胞(Treg)は、活性化T細胞の働きを抑制し、自己免疫・アレルギーを抑えています。制御性T細胞の異常はIPEX症候群(Immune dysregulation, Polyendocrinopathy, Enteropathy, X-linked症候群)があります。X染色体連鎖型劣性遺伝で、変異を受け継いだ男子だけが致死性の自己免疫疾患(甲状腺・1型糖尿病)・炎症性腸疾患・アレルギーおこり、生後2年以内に死亡します。
最近、制御性T細胞(Treg)の減少が甲状腺機能亢進症/バセドウ病の発症に関係する可能性が言われます。
劇症1型糖尿病は約1週間以内でインスリン分泌能が廃絶し糖尿病性ケトーシスか糖尿病性ケトアシドーシスに陥る危険な糖尿病。抗GAD抗体など膵島関連自己抗体陰性、HLA DRB1*04:05-DQB1*04:01と関連、妊娠契機に発症あり、約70%は上気道炎症状、消化器症状の前駆症状、約98%は発症時に膵外分泌酵素(アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼ1など)が上昇。劇症1型糖尿病とバセドウ病、橋本病(慢性甲状腺炎)の合併報告あり。免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ)で劇症1型糖尿病と無痛性甲状腺炎を同時発症した報告もあり。
劇症1型糖尿病,糖尿病性ケトアシドーシス,HLA,アミラーゼ,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,橋本病,免疫チェックポイント阻害薬,無痛性甲状腺炎,甲状腺
劇症1型糖尿病とは
劇症1型糖尿病は、約1週間以内でインスリン分泌能が廃絶し、糖尿病性ケトーシスあるいは糖尿病性ケトアシドーシスに陥る危険な糖尿病です。
- 抗GAD抗体など膵島関連自己抗体が陰性。
- HLA DRB1*04:05-DQB1*04:01との関連が明らか。[HLA-DRのアミノ酸多型がバセドウ病・橋本病いずれになるか決まるという報告があります(J Autoimmun. 2008;30(1-2):58–62.)(ついに甲状腺にもHLA遺伝子診断)
- 妊娠に関連して発症することあり。(甲状腺機能亢進症/バセドウ病も妊娠契機に発症することあり)
- 約70%前駆症状として上気道炎症状(発熱、咽頭痛など)、消化器症状(上腹部痛、悪心・嘔吐など)。(亜急性甲状腺炎もウイルス感染の前駆症状あり)
- 約98%で発症時に膵外分泌酵素(アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼ1など)が上昇。
(糖尿病55:815-820, 2012)
筆者が理解できないのが、診断基準の「初診時の(随時)血糖値288mg/dl以上、かつ HbA1C 値<8.5%」という点です。HbA1C 値8.0-8.4%なら元々コントロール悪い糖尿病を持っていた可能性があり、不節制・ストレス・感染症・炎症・妊娠で一気に悪ってもおかしくないと思います。報告例など見ると、抗GAD抗体陽性なのに劇症1型糖尿病と言っていたり、インスリン分泌能が保たれているのに劇症1型糖尿病と言ったり、甲状腺が専門の筆者は理解できません。
劇症1型糖尿病とバセドウ病の合併
劇症1型糖尿病とバセドウ病の合併することは比較的稀ですが、症例報告はあります[糖尿病 Vol. 51 (2008) No. 12 P 1087-1092]。言うまでもなく糖尿病性ケトアシドーシスをおこします。
ただ、1型糖尿病合併甲状腺機能亢進症/バセドウ病[APS(多腺性自己免疫症候群)3A型]は、相乗効果で血糖上昇が急激に起きるため、HbA1Cが大して高くないのに糖尿病性ケトアシドーシスに至り、あたかも劇症1型糖尿病の様になります。しかし、インスリン分泌能が完全に廃絶しておらず、抗GAD抗体など膵島関連自己抗体が陽性になるため、劇症1型糖尿病でない事が分かります。(第60回 日本甲状腺学会 P1-1-8 バセドウ病を伴う自己免疫性1型糖尿病が劇症1型糖尿病様に発 症し、急性壊死性食道炎を合併した1例)
また、一過性のバセドウ病抗体(TR-Ab)上昇を認めた劇症1型糖尿病の報告もあります。[Diabetes Care. 2002 May;25(5):935-6.]
劇症1型糖尿病と無痛性甲状腺炎の合併
免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ)で劇症1型糖尿病と無痛性甲状腺炎を同時発症した報告もあります(Tohoku J Exp Med. 2018 Jan;244(1):33-40.)。このケースの劇症1型糖尿病は、明らかに自己免疫性インスリン依存型糖尿病が、加速されて発症しただけと筆者は考えています。(免疫関連副作用[免疫関連有害事象 (immune-related adverse event, irAE)] )
Drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms (DRESS)による劇症1型糖尿病と無痛性甲状腺炎の同時発症報告もあります。[Avicenna J Med. 2017 Apr-Jun;7(2):67-70.]
劇症1型糖尿病と橋本病(慢性甲状腺炎)の合併
劇症1型糖尿病と橋本病(慢性甲状腺炎)の合併が報告されていますが偶然の合併かもしれません
- 40代男性、腸チフスワクチン接種数日後、糖尿病性ケトアシ ドーシス、甲状腺機能正常橋本病
- 70代男性、抗GAD抗体 12.4 U/ml(>5.0)、甲状腺機能正常橋本病、HLA DRB1*04:03DQB1*03:02,DRB1*13:02-DQB1*06:09
と、どう言う訳か男性が多いです。(第62回 日本甲状腺学会 O8-1 劇症1型糖尿病4例における自己免疫性甲状腺疾患合併)
急性化膿性甲状腺炎は糖尿病などの免疫不全でおこり、亜急性甲状腺炎と誤診されステロイド投与されると急性化膿性甲状腺炎も糖尿病も悪化。亜急性甲状腺炎では炎症によるインスリン抵抗性増大、甲状腺中毒症、ステロイドで糖尿病が悪化。甲状腺癌で糖尿病患者の割合多いとも、関連無いとも両報告あり。ウェルナー症候群(Werner症候群)で甲状腺癌、潜在性甲状腺機能低下症と糖尿病。TSH放出ホルモン(TRH)は膵ランゲルハンス島β細胞にも存在。アルストレム症候群 (Alström症候群) は2型糖尿病、甲状腺機能低下症。
急性化膿性甲状腺炎,糖尿病,亜急性甲状腺炎,インスリン抵抗性,甲状腺癌,ウェルナー症候群,Werner症候群,甲状腺癌,甲状腺機能低下症,アルストレム症候群
急性化膿性甲状腺炎は細菌感染による甲状腺組織/甲状腺のう胞/甲状腺のう胞性腫瘍とその周囲の急性炎症です。原因は
- 下咽頭梨状窩瘻[かいんとうりじょうかろう]の遺残
- あるいは糖尿病などの免疫不全で血行性に菌が甲状腺に到達する血行性免疫不全
です。症状は発熱・頚部痛・皮膚の発赤。甲状腺膿瘍・甲状腺周囲膿瘍・深頚部膿瘍・降下性縦隔膿瘍も形成。治療は、抗生剤投与、切開排膿。時に亜急性甲状腺炎と誤診されステロイド投与されると、急性化膿性甲状腺炎も糖尿病も悪化します。下咽頭梨状窩瘻をエコー・下咽頭食道造影・下咽頭造影CTで確定し、手術切除、あるいは化学焼灼法おこないます。
寛解中のバセドウ病合併糖尿病患者で、Klebsiella pneumoniaeによる急性化膿性甲状腺炎後にバセドウ病が再発した報告があります[Zhonghua Yi Xue Za Zhi (Taipei). 1997 Jan;59(1):59-64.]。
世界糖尿病デーにちなみ、甲Joう君も青くなりました。
糖尿病編 も御覧ください
亜急性甲状腺炎では、
- 炎症によるインスリン抵抗性増大
- 甲状腺中毒症が合併すると、甲状腺ホルモンによる腸からの糖吸収が亢進、交感神経、グルカゴン、カテコールアミン、ソマトスタチンの感受性が上昇し糖分解が亢進
- 投与するステロイドの影響でステロイド糖尿病が加わる
などの理由で糖尿病が悪化します。
亜急性甲状腺炎(SAT)治癒後も耐糖能悪化が遷延した橋本病の症例が報告されています。橋本病である事自体が原因か判りませんが、副腎皮質ステロイド剤をそれなりの期間投与続ければ、内臓脂肪が増えるからかも知れません。(第55回 日本甲状腺学会 P2-08-10 亜急性甲状腺炎(SAT) 治癒後も耐糖能悪化が遷延した橋本病)(HT) の2 例)
甲状腺癌での糖尿病有病率
金地病院の報告では、甲状腺癌の糖尿病患者の割合は、甲状腺良性腫瘍の糖尿病患者の割合のオッズ比4.04だったそうです(10% vs 2.85%)。糖尿病における免疫力低下が、甲状腺癌細胞の発育に関与しているためと考えられます。(第58回 日本甲状腺学会 P1-6-7 甲状腺腫瘍患者における糖尿病の頻度)
一方で、2型糖尿病、境界型糖尿病と甲状腺癌との関連は無いとする報告もあります(Endocr Connect. 2020 Jun 1;9(7):607-16.)(Exp Diabetes Res. 2012;2012:578285.)(J Diabetes Res. 2017;2017:5850879. doi: 10.1155/2017/5850879.)
早老症、ウェルナー症候群(Werner症候群)で甲状腺癌と糖尿病
日本人に多いウェルナー症候群(Werner症候群)は、WRN遺伝子の突然変異が原因の常染色体劣性遺伝性早老症です。
思春期以降、
- 低身長、鳥のような顔、 足裏のうおのめ[Nihon Ronen Igakkai Zasshi. 2006 Sep;43(5):639-42.]
- 白髪、白内障
- 難治性の皮膚潰瘍
- 甲高い声・嗄声(甲状腺腫瘍による圧迫)[Nihon Ronen Igakkai Zasshi. 2006 Sep;43(5):639-42.]
- 甲状腺癌[家族性非髄様甲状腺がん(FNMTC)][Recent Results Cancer Res. 2016;205:29-44.][Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes. 2010 Oct;17(5):425-31.]
- 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)陰性の潜在性甲状腺機能低下症;甲状腺超音波エコー検査にて正常[Endocr J. 2021 Mar 28;68(3):261-267.]
- 糖尿病;30〜40代に発症することが多い。ベータ細胞自己抗体(GADA、IAA、IA-2A、ICA、およびZnT8A)陰性[Endocr J. 2021 Mar 28;68(3):261-267.]
- 脂質代謝異常
- 動脈硬化(狭心症、心筋梗塞)
- 骨粗鬆症
など老化徴候が出現します。
糖尿病における腺腫様結節合併
糖尿病では頸動脈エコーを行う事が多いため、結節性甲状腺腫、特に腺腫様結節が見つかる事が非常に多い。糖尿病患者で、腺腫様結節を有する群では、腺腫様結節を有さない群に比べ、
- TSH 低値
- 高齢
- HbA1c 高値
- eGFR 低値
との報告があります。(第59回 日本甲状腺学会 P2-6-3 糖尿病における腺腫様結節合併の背景リスクの検討)
ヨウ素(ヨード)系の消毒剤を、皮膚に多量に使用すると、甲状腺機能低下症が起きることが知られています[皮膚からのヨウ素(ヨード)吸収]。
それだけでなく、自己血糖測定器のうち酵素電極法を用いるものは、皮膚からヨウ素(ヨード)系の消毒剤が混入し血糖値が高く出る「偽高値」が報告されています。ニプロ製の自己血糖測定器は大丈夫だそうです。
堀場製作所のグルコース分析装置(アントセンスシリーズ;アントセンスII、III(LP-130,135)、ロゼ、デュオ(LP-150,151))は、ヨウ素(ヨード)の影響で「偽高値」になる事があります。
TSH放出ホルモン(TRH)は、視床下部の室傍核に存在し、下垂体のTSH分泌を調整します。また、TSH放出ホルモン(TRH)は膵ランゲルハンス島のβ細胞にも存在し、インスリン分泌を調節している可能性が報告されています。さらに、TSH放出ホルモン(TRH)は性腺にも存在しますが、その意義は不明です。(Proc Natl Acad Sci U S A. 1997 Sep 30;94(20):10862-7)
アルストレム症候群 (Alström症候群) は、非常に稀な、常染色体劣性遺伝による、ALMS1遺伝子の突然変異です。肥満(98%)、2型糖尿病(68%)、高インスリン血症(92%)、高トリグリセリド血症、網膜色素変性症、感音性難聴、拡張型・肥大型心筋症が特徴(Alström Syndrome Seattle; 1993-2019.2003 Feb 7.)。
内分泌的には
- 甲状腺機能低下症(20%)(Arch Intern Med. 2005;165:675–83.)
- 甲状腺機能亢進症(稀)(Clin Genet. 2007;72:351–6.
- 性腺機能低下症(男性78%)を認めます。(Eur J Hum Genet 2007, 15:1193-202)
- 成長ホルモン分泌不全(98%)(Am J Dis Child. 1993 Jan;147(1):97-9.)(Clin Endocrinol (Oxf). 2007 Feb;66(2):269-75.)。
日本でもアルストレム症候群にバセドウ病を合併した報告もあります(日本内分泌学会雑誌 2017, 93(4): 1135)。
ドナー膵から分離した膵島を点滴の様に、肝臓付近の門脈にカテーテルを通して注入します。
膵島移植の前処置として、アレムツズマブまたは胸腺グロブリンがレシピエントの免疫抑制に使用されます。アレムツズマブ投与されたレシピエントの約40%に自己免疫甲状腺疾患が発症するとされます。自己免疫甲状腺疾患の発症は、最初の移植から18~135ヶ月(約1-11年後)、免疫抑制剤離脱後11~18ヶ月、全てTSH受容体抗体(TR-Ab)陽性の甲状腺機能亢進症/バセドウ病、萎縮性甲状腺炎です。(J Clin Endocrinol Metab. 2019 Apr 1;104(4):1141-1147.)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,天王寺区,浪速区も近く。