糖尿病性足病変(糖尿病足)と閉塞性動脈硬化症[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 動脈硬化 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪]
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックに特化するため、糖尿病内科を廃止しました。甲状腺以外の治療を行っておりません。
糖尿病:専門の検査治療[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺専門・内分泌代謝・動脈硬化の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学大学院医学研究科(現、大阪公立大学大学院医学研究科) 代謝内分泌病態内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など) 糖尿病編 をクリックください
Summary
甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病と糖尿病の2つが揃えば、相乗効果で動脈硬化が進行。糖尿病と閉塞性動脈硬化症では、サーモグラフィーと血管超音波(エコー)検査が有用で、血流を改善するプロスタグランジンE点滴(プリンク、リプル、パルクス)。甲状腺機能亢進症/バセドウ病で下肢動脈急性閉塞。糖尿病ガス壊疽は嫌気性のグラム陽性桿菌で芽胞を形成するウェルシュ菌が感染。糖尿病性足壊疽にヨード含有軟膏剤(ユーパスタ)を長期間使用し、急激な甲状腺機能低下症(急性ヨード中毒)。長崎甲状腺クリニック(大阪)では、糖尿病壊疽の治療は行いません。梨状筋症候群も解説。
Keywords
甲状腺機能低下症,甲状腺,橋本病,糖尿病,動脈硬化,閉塞性動脈硬化症,プロスタグランジンE,長崎甲状腺クリニック,大阪,甲状腺機能亢進症,バセドウ病
甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病では動脈硬化が進行し、狭心症/心筋梗塞の発症率が上がります。糖尿病は、言わずと知れた動脈硬化の危険因子です。甲状腺と糖尿病の2つがそろえば、相乗効果で動脈硬化が進行します。
甲状腺と動脈硬化は、 甲状腺と動脈硬化 ・高コレステロール血症 を、甲状腺と糖尿病は、 甲状腺と糖尿病 を御覧ください。
下肢動脈急性閉塞を来たした難治性甲状腺機能亢進症/バセドウ病の症例報告があります。発表者は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病による心房細動から左心房内血栓ができ、左下肢動脈に飛んで急性閉塞をおこしたとしています。しかし、筆者は甲状腺機能亢進症では、循環血液量増大、拍出量増大、甲状腺ホルモン自体の血管への直接作用(non-genomic action)により血管障害が起き、左下肢動脈内で血栓ができた可能性もあると考えます。(第54回 日本甲状腺学会 P063 治療抵抗性バセドウ病の為に下肢動脈急性閉塞を来たし、アイソトープ治療後は過剰量T4&T3補充を長期に要する一例)
サーモグラフィーと血管超音波(エコー)検査
糖尿病と閉塞性動脈硬化症では、足の血流が悪くなります。初期は冷感のみです。進行した場合、しばらく歩き続けると足先やふくらはぎの血流不全から痛みがおき、休憩すると血流が回復し痛みが消える間欠性跛行の症状が出ます。
末期では安静時にも痛みを感じるようになり、足指やくるぶしに潰瘍ができ、感染すると某演歌歌手と同じく壊疽を起こし手足を切断する事になります。糖尿病神経障害、アルコール性神経障害は痛みに鈍くなり、足の壊疽に気付かない事もあります。サーモグラフィーと血管超音波(エコー)検査で検査。
また、下肢動脈血圧は、上肢に比べて低下します。
(左)サーモグラフィー;閉塞寸前・重症の血流障害(温度が低下し青) (右)サーモグラフィー;健常人・血流が良く足先まで温度が低下せず赤
糖尿病性足病変(糖尿病足)では、血行障害のみならず
- 糖尿病性感覚神経障害
- 免疫力の低下(甲状腺/糖尿病と免疫不全)
が加わるため、他の下肢病変より重症化しやすく、足を切断するリスクが高くなります。
糖尿病で足の切断に至った場合、その後の経過(予後)は極めて悪く、1年以内に20%が死亡するとされます。
糖尿病性足病変(糖尿病足)と閉塞性動脈硬化症足の局所感染部、潰瘍、2度以上の熱傷凍傷に副腎皮質ステロイド軟こうは禁忌です。決して塗らないように!
腹部動脈でも閉塞性動脈硬化症:Leriche症候群
プロスタグランディンE(PGE)製剤点滴
糖尿病足、閉塞性動脈硬化症の血流を改善するプロスタグランジンE点滴(プリンク、リプル、パルクス)を行います。プロスタグランジンE点滴は糖尿病性末梢神経障害の手足のしびれ、足の裏に紙が貼り着いたような感じ、糖尿病性単神経障害(糖尿病性脳神経障害)の、眼を動かす神経の障害で起こる眼球運動障害(物が突然二重に見え出すなどの症状)・肋間神経痛にも有効です。
プロスタグランジンE製剤は肺高血圧症に保険適応のあるものもあります。膠原病で肺高血圧症を伴う場合、一石二鳥です。但し、右心不全のある場合は悪化させる可能性もあります。
※抗トロンビン剤:アルガトロバンは「閉塞性動脈硬化症やバージャー病における四肢潰瘍、安静時疼痛ならびに冷感の改善」に4週間に限り保険適応があります。トロンビンによる「血栓形成」「血管収縮」を抑制する降下がありますが、4週間使っても、その間出血傾向が日増しに増大し、その後は元の状態に戻るだけ。あまり意味がありません。
ただし、急性脳梗塞や、ヘパリン誘発性血小板減少症には有用です。
シロスタゾール(プレタール®)で狭心症誘発
糖尿病足、閉塞性動脈硬化症がある人は、冠動脈に狭窄もあり、無症候性心筋虚血、狭心症を持っている可能性が高いです。シロスタゾール(プレタール®)投与により、血管拡張→心拍数増加→心筋の酸素消費量が増加→狭心症が誘発されることがあるので要注意。
漢方薬「当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)」が有効
手足の冷えに効く漢方薬「当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)」が閉塞性動脈硬化症に有効な事があります。当帰はセリ科の多年草で、寒さに強く日本でも栽培できます(ただし、採算は取れないようです)。根を乾燥させたものが生薬になります。
但し、当帰四逆加呉茱萸生姜湯は甘草も含むため、長期投与で偽性アルドステロン症をおこす可能性があります。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、糖尿病壊疽の治療は行っておりません。
糖尿病ガス壊疽
糖尿病ガス壊疽の最も多い原因はClostridium perfringens(ウェルシュ菌)感染。ウェルシュ菌は、嫌気性のグラム陽性桿菌で芽胞を形成し、
- 糖尿病ガス壊疽を起こす。抗生剤が効きやすいはずですが血流が悪い足、その他病変部には十分届きません。
- 気腫性急性化膿性甲状腺炎と甲状腺膿瘍
- 腸管毒素(エンテロトキシン)による生体内毒素型食中毒をおこします。小腸内で芽胞型に移行する時にエンテロトキシンを産生。ウェルシュ菌は、セレウス菌とともに加熱で殺菌できず、食中毒に糖尿病は関係ありません。
糖尿病足から破傷風感染
4類感染症の破傷風は嫌気性菌(クロストリジウム・テタニ、破傷風菌)が傷口から入り感染。破傷風毒素による死亡リスクは50%で、65歳以上、糖尿病、予防接種を受けていない人で高くなります。糖尿病足からの感染がよく報告され、日本でも年間100例ほどが破傷風菌に感染します。
2024年から1000円札の肖像画になる北里柴三郎が破傷風菌の純粋培養に成功したのは有名な話です。
破傷風菌は土の中なら、どこにでもいるため、傷口が土に触れると感染します。ガーデニングで感染する事もあります。3~21日の潜伏期を経て発症。
破傷風の症状は、
- 口を開けにくい(開口障害)ため、食べ難い・食事が飲み込めない(甲状腺の病気と勘違いされる事も)、しゃべり難い(ろれつが回っていない様なしゃべり方)。首筋が凝った様な感じ、寝汗、歯ぎしりなどの症状も。(病期第一期)
- 顔面筋硬直し作り笑いのような表情(破傷風顔貌)(病期第二期)
- 頚部硬直、背中が反るように痛む(後弓反張・反弓緊張)→全身強直性痙攣に至ります。作用範囲は筋肉のみのため意識鮮明で死ぬまで苦しみ、やがて呼吸が障害され窒息します。(病期第三期)
破傷風の診断に嫌気性菌培養同定は非常に時間が掛かり間に合わないため、臨床経過で行います。
破傷風の治療は
- 抗生物質ペニシリン(破傷風菌を殺菌するが毒素は消せない)
- 抗破傷風(毒素)免疫グロブリン(放出された破傷風毒素を中和)
- 破傷風の予防接種(破傷風トキソイド;毒素を無毒化したもの)再投与
- 創部の開放、デブリードマン
- 病期第三期は、筋弛緩薬を使った人工呼吸管理が必要になります。
破傷風予防接種(破傷風トキソイド;毒素を無毒化したもの)を受けていない方が大勢います(IASR.2009, 30;65-66)。
- 1968年よりも前の生まれ;未接種
- 1975-1981年生まれ;未接種の人もいる
- 1995年以降の生まれ;未接種の人もいる
4種混合ワクチン=ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ
破傷風トキソイドは10年毎の追加接種が必要ですが、保健センターから通知が来るわけでなく、受ける必要性を知っている人はほとんどありません。行っている医療機関も一握りです(忘れ去られた予防接種)。
破傷風予防接種を受けていない、予防接種終了後 10年以上経過している、受けたかどうか不明の方は、
- きれいで小さな傷(裂傷)なら破傷風トキソイドのみ投与
- それ以外(傷口が汚染、挫創)、受傷後6時間以上経過しているなら、破傷風トキソイド、破傷風グロブリン投与
破傷風が発症した場合の死亡率は40%を超えます
フルニエ壊疽(Fournier壊疽)
フルニエ壊疽(Fournier壊疽)は外傷、尿路感染などから、陰部や肛門周囲に急速に炎症が進行し手起きるガス壊疽・壊死性筋膜炎です。糖尿病やクリオグロブリン血症などの、免疫低下・血流障害に
- 劇症型溶血性レンサ球菌感染症(A群β溶連菌)
- 嫌気性菌
- クレブシェラ菌
などが感染します。
糖尿病性足壊疽にヨード(ヨウ素)含有軟膏剤(ユーパスタ®;精製白糖・ポビドンヨード軟膏)を4カ月間使用し、急激な甲状腺機能低下症[急性ヨード(ヨウ素)中毒]による意識障害、片麻痺を起こした高齢男性(82歳)の報告があります。
鑑別として、粘液水腫性昏睡、橋本脳症がありますが、ユーパスタ中止後、数日で回復したため否定的です。
意識障害、片麻痺時のTSH 76.7μU/ml, fT3 1.3 pg/ml, fT4 0.2 ng/dlで、甲状腺機能低下症の程度は大した事なく、自己抗体陽性で橋本病を持っていた様です[急性ヨード(ヨウ素)中毒前の甲状腺機能は不明]。[Intern Med. 2011;50(21):2627-32.](第53回 日本甲状腺学会 P-13 糖尿病性足壊疽の軟膏治療によるヨードの経皮的吸収により意識障害をきたした橋本病合併ヨード中毒の一例)
他の症例では、閉塞性動脈硬化症にヨード(ヨウ素)含有軟膏剤(ユーパスタ®)数カ月使用で、同じ様に甲状腺機能低下症をおこし、尿中ヨード(ヨウ素)1700 μg/l、Cr補正し7180 μg/g・Crと高値、中止後20日で 25 μg/l、106 μg/g・Crに改善したそうです。89歳女性で、腎機能低下もあり、ヨード(ヨウ素)の排泄障害も一因と考えられます。(第53回 日本甲状腺学会 P-26 ユーパスタ®の長期使用が増悪因子と考えられた粘液水腫の1例)
ヨード(ヨウ素)含有軟膏剤の適切な使用
無治療の褥瘡で浸出液が多い創面は、感染を伴っている可能性があり、①感染制御と②浸出液を吸収する(水溶性でなければならない)ため、ヨード(ヨウ素)含有軟膏剤を使用。浸出液が無くなれば、肉芽形成促進剤(オルセノン軟膏、プロスタンディン軟膏)に変更。
感染制御にゲーベンクリームは油性なので不適、ゲンタシン軟膏は耐性菌の問題から原則禁忌。
フットケアとは、足の指・爪、足のうら(足底部)に施す様々な対応のことです。小さな足のトラブル
- かかとの乾燥
- タコ、魚の目
- 巻き爪
- 足のむくみ
- 足の血行障害
が、大きな足のトラブルに発展するのを防ぎます。
炭酸浴で炭酸ガスを皮膚から吸収、血行促進。糖尿病、閉塞性動脈硬化症の末梢血行障害を改善、糖尿病性神経障害のしびれを改善。
通販などで売っている足浴機械(フットバス)を購入し、炭酸が出る入浴剤バブを入れれば、家庭で簡単に行えます。
糖尿病性潰瘍に対する自己多血小板血漿(PRP:Platelet-Rich Plasma)療法が治験段階にあります。ある意味、再生医療の一つです。自分の血液から分離濃縮した自己多血小板血漿(PRP)を、潰瘍部の皮下に注射すると、血小板由来の高濃度の増殖因子(成長因子)により組織の再生が促進されます。
海外で自己多血小板血漿(PRP)療法は、スポーツ選手がケガを早く治すための治療に用いられています。日本でも育毛療法、アンチエイジング目的の自由診療(保険外診療)で行われていますが、健康な成人に限定され、甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺がん等、甲状腺の病気を持っている人はほとんどが対象外になります。その理由は、橋本病、バセドウ病ではPRP(自己多血小板血漿)育毛療法、アンチエイジングは受けられない をご覧ください。
バージャー病[閉塞性血栓血管炎:thromboangiitis obliterans: TAO]は、原因不明、非動脈硬化性に手足の動脈に血管炎を来す病気です。糖尿病とも甲状腺の病気とも関連は報告されていません。男性が圧倒的に多く、
- 遺伝性素因(特定のHLA)
- 喫煙による血管攣縮(受動喫煙を含めるとほぼ全例で喫煙が関与)
- 歯周病
が関与するとされます。女性の喫煙率の上昇と共に、女性の比率も増加。一方、口腔ケアや禁煙指導が進んだ国でバージャー病[閉塞性血栓血管炎]は少ないです。
バージャー病[閉塞性血栓血管炎]は、
- 手足の先から虚血状態になり、夏でも手足が冷える、しびれる、寒冷時に白くなる(レイノー現象)
→間欠性跛行
→安静時疼痛→皮膚潰瘍→壊疽(特発性脱疽) - 表在静脈炎(遊走性静脈炎)
- まれに大動脈炎
を起こします。
バージャー病[閉塞性血栓血管炎]の治療は、
- 受動喫煙を含めた禁煙指導
- 抗血小板薬や抗凝固薬、プロスタグランジンE1製剤
- 血管バイパス術(虚血状態の四肢では血管を移植しても生着しない)
- 自家骨髄単核球移植
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,天王寺区,東大阪市,浪速区も近く。