甲状腺と免疫力・インフルエンザ・インフルエンザワクチン[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。インフルエンザの治療、ワクチン接種を行っておりません。
Summary
甲状腺機能低下は低体温による免疫不全だがホルモン製剤(チラーヂンS)で血中甲状腺ホルモン濃度が正常になれば正常免疫力に。甲状腺ホルモンが正常化していない時にインフルエンザ感染すると甲状腺機能亢進症/バセドウ病は甲状腺クリーゼ、甲状腺機能低下症/橋本病は粘液水腫性昏睡の危険がある。、インフルエンザは亜急性甲状腺炎の誘因の一つ。甲状腺機能低下症・糖尿病など免疫力低下状態でインフルエンザ感染するとインフルエンザ肺炎の危険。インフルエンザ予防接種を適切な時期に接種すべき。ゾフルーザは予想通り早々と耐性インフルエンザウイルス出現。
Keywords
甲状腺機能低下症,免疫不全,甲状腺,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,橋本病,インフルエンザ,耐性,予防接種,ゾフルーザ
甲状腺機能低下症と免疫力低下には、いろいろな意見があります。甲状腺ホルモンの低下そのものが、免疫系統に直接影響する証拠はありません[ただし、最近の基礎医学研究では甲状腺ホルモンそのものが免疫細胞に直接影響する結果が大半です(下記)]。
甲状腺機能が低下した状態では、全身の新陳代謝の低下と、低体温による2次的な免疫不全が存在します。
例え、甲状腺機能低下症の方でも、甲状腺ホルモン製剤(チラーヂンS)で血中甲状腺ホルモン濃度を正常範囲にコントロールすれば、正常な人と同じ免疫力になります。
しかしながら、甲状腺機能低下症が見逃されたり、甲状腺機能低下症と診断されても患者自身が治療を放棄、あるいは、甲状腺ホルモン補充を開始して間がなく、血中甲状腺ホルモン濃度が正常範囲に到達していない状態では免疫不全の状態です。
最近の基礎医学研究の結果
基礎医学の分野では、甲状腺ホルモンそのものが免疫系の細胞に作用し、活性化させる研究結果が大半を占め、感染防御に大きな役割を担うとされます。(甲状腺と自然免疫 )
(Front Endocrinol (Lausanne). 2019 Jun 4;10:350.)
よって、甲状腺機能低下症では、感染防御力が弱くなる事になります。
甲状腺とインフルエンザ
飛沫感染で人から人に感染するインフルエンザ、もはや国民病になってしまい、毎年1000万人(日本人の10人に1人)が罹ります。甲状腺機能亢進症/バセドウ病であれ、甲状腺機能低下症/橋本病であれ、インフルエンザと無関係ではいられません。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病で未治療(見つかっていない)、治療途中、服薬自己中断など甲状腺ホルモンが正常でない時にインフルエンザに感染すると、致死率が十数%の甲状腺クリーゼを起こし、生命に危険を及ぼす危険性があります。
また、甲状腺ホルモンが正常化していない甲状腺機能低下症/橋本病では、インフルエンザ感染により致死率が十数%の粘液水腫性昏睡に至る可能性があります。さらに、インフルエンザは亜急性甲状腺炎の誘因の一つです。
インフルエンザワクチンは、年によって当たり外れがありますが、大体60-70%の予防効果があります(N Engl J Med. 2013 Dec 26;369(26):2481-91.)。予防効果だけでなく、インフルエンザの重症化と死亡を減らす軽症化効果もあります(Pediatrics. 2017 May;139(5). pii: e20164244.)。
インフルエンザワクチンを、お近くの医療機関で適切な時期に接種してください[長崎甲状腺クリニック(大阪)では行っておりません]。
以下のデマに惑わされないで下さい。
「WHOがインフルエンザワクチン接種は無意味と認めた」はウソです。原文(WHO「How can I avoid getting the flu?」)では「The best way to avoid getting the flu is to get the flu vaccine every year.(インフルエンザを避ける最も良い方法は、毎年インフルエンザワクチンを接種する事)」となっています。
確かに、一年前のワクチン効果は消えてしまうので、毎年、打たねば無意味ですが・・・。それにWHOは新型コロナウイルスのデマ情報(人-人感染しない等)を流し続け、完全に信用を失いましたが・・・。
甲状腺の病気プラスαでは特にインフルエンザワクチン接種が必要
甲状腺の病気だけでなく、米国疾病予防センターがインフルエンザのハイリスク群と認めた以下の状態では、インフルエンザワクチン接種の必要性が更に高いです。
- 5歳未満(小児クレチン症 小児バセドウ病・乳幼児バセドウ病 小児橋本病 )
- 65歳以上(高齢者バセドウ病 甲状腺機能低下症/橋本病)
- 妊娠中・産後2週間(妊娠 出産/授乳とバセドウ病 妊娠 出産/授乳と橋本病/甲状腺機能低下症 )
- 介護施設の長期居住者
- BMI40以上の超肥満、糖尿病(下記)、腎・肝機能障害、免疫不全・ステロイド服用中
- 先天性の心疾患
- 喘息や慢性閉塞性肺疾患、長期でアスピリンを服用している小児(要するに呼吸器に問題ある場合)
糖尿病とインフルエンザ
糖尿病の高血糖下では白血球の機能が低下します。糖尿病のコントロールが悪い方は免疫不全状態と言えます。インフルエンザに感染すると肺炎を起こす危険があり、感染により血糖コントロールさらに悪くなり糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群など重篤(重症)な状態に陥る危険もあります。
通常インフルエンザの飛沫感染は、発症1日前~5日後ですが糖尿病の免疫不全では長期化し、周囲に長期間インフルエンザウイルスをばらまきます。
- インフルエンザと亜急性甲状腺炎
- インフルエンザウイルスに加湿は無効!
- 新型インフルエン ザ・鳥インフルエンザ
- ゾフルーザ、予想通り早々と耐性インフルエンザウイルス
- インフルエンザ迅速診断キットの落とし穴
- タミフル耐性変異インフルエンザウイルス
- タミフル予防投与
- タミフルDS(ドライシロップ)で先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)?
- 乳製品アレルギーにイナビル®(ラニナミビル)、リレンザ®(ザナミビル)は避ける
- 麻黄湯(マオウトウ)は甲状腺機能亢進症/バセドウ病で要注意
- 二峰性発熱
- インフルエンザ脳炎
- インフルエンザ肺炎 インフルエンザ急性肝炎
- インフルエンザワクチン接種で亜急性甲状腺炎に
- 妊婦用インフルエンザワクチン 小児インフルエンザワクチン
- ワクチン接種の問題点(卵アレルギー他)
- 皮膚のマスクトラブル、過度なアルコール消毒と甲状腺
インフルエンザウイルス感染は、亜急性甲状腺炎の原因の一つです。(亜急性甲状腺炎の原因)
亜急性甲状腺炎は約50%で上気道感染[感冒、喉(のど)の炎症]後に発症するため、、ウイルス感染後におこる過剰な免疫反応と考えられます。
原因となるウイルスは、
- 夏に多いエンテロウイルス(エコーウイルス、コクサッキーウイルス)、アデノウイルス(プール熱など)
- 冬に多いインフルエンザウイルス、ライノウイルス(鼻風邪)
- 通年性のサイトメガロウイルス、エプスタイン‐バールウイルス(EBウイルス)、ムンプスウイルス[流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)]、風疹ウイルスなど何であっても構わない)
- (イタリア、トルコでは)新型コロナウイルス
- インフルエンザワクチン接種でも;不活化されたインフルエンザウイルスなので、不思議ではありません。(Kaohsiung J Med Sci. 2006 Jun;22(6):297-300.)
- B型肝炎ウイルスワクチン接種でも(Endocr J. 1998 Feb;45(1):135.)
など何であっても構いません。
インフルエンザウイルスに加湿は無効です。効くと言う話は、科学的根拠のない民間療法と同じです。効かない事を科学的に証明した論文があります(The Journal of Infectious Diseases, jiy221, https://doi.org/10.1093/infdis/jiy221)。
それどころか、下手な加湿は甲状腺機能低下症/橋本病、糖尿病の免疫不全患者において、レジオネラ肺炎を起こす危険があります。
インフルエンザウイルスの抗原性はヘマグルチニン(H)、ノイラミニダーゼ(N)の型で決まります。ヒトに病原性を持つインフルエンザウイルスはH1N1、H2N2、H3N2がほとんどです。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陰に隠れて、ほとんど注目されなくなった新型インフルエンザですが、実はいまだに感染症法の2類感染症です。新型インフルエンザを診断した医師は、直ちに保健所長を経由して、都道府県知事に届け出る義務があります。そして、入院勧告の対象となります(問題になっているのは、新型インフルエンザAではなく、高病原性鳥インフルエンザのみですが)。
新型インフルエンザA(H1N1)は、他の季節性インフルエンザと比べ肺炎(急性間質性肺炎)をおこしやすく死亡率も高い。迅速検査の陽性率は70%と低く、肺炎をおこすと気管支洗浄液・下気道喀痰での遺伝子(RT-PCR)検査が必要です。
ヒトにも感染する高病原性鳥インフルエンザは、インフルエンザA(H5N1)・インフルエンザA(H7N9)です。日本では一例も人への感染は確認されていません。海外では鳥→ヒト感染はあるものの、現時点でヒト→ヒト感染は認められていません。
わずか数分で結果の出るインフルエンザ迅速診断キットは、特異度がA型B型いずれも98%以上なので、「陽性」ならインフルエンザの可能性は極めて高いです。
しかし、感度はA型54.4%、B型53.2%と、高くないため、インフルエンザ感染者でも4割以上が「陰性」に判定されます(偽陰性)。そのため、「陰性」であっても「インフルエンザでない」とは言えません。(Ann Intern Med. 2017 Sep 19;167(6):394-409.)
国立感染症研究所は、インフルエンザに感染した子どもで、ゾフルーザ耐性(ゾフルーザが効かない)変異インフルエンザウイルスが検出されたと発表しました[国立感染症研究所 抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス 2019年01月21日付けで2人/21人(9.5%)に薬耐性株検出]。
実はゾフルーザが販売される前から予想されており、既に臨床試験の段階で、12歳未満のゾフルーザを服薬した子どもの23.4%(約4人に1人)が、ゾフルーザ耐性(ゾフルーザが効かない)になる事が分かっていたのです。よく厚生労働省が認可したものだと首をかしげてしまいます。マスコミも、この不都合な真実を、きちんと報道しませんでした。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックなので、インフルエンザの治療は行っておりません。しかし、医師同士が情報交換するネット掲示板には、ゾフルーザを飲んで4日しても熱が下がらない(しかも受験生)と言ったゾフルーザ耐性らしき症例が出てきています(国立感染症研究所の様に遺伝子検査する訳ではないので証明できませんが)。
さらに悲惨な状況になる可能性を筆者は予測します。ゾフルーザで耐性になったインフルエンザウイルスが、次の人に感染すれば、最初からゾフルーザは全く効かず、重症化・肺炎で死亡する可能性があります。ゾフルーザを使えば使うほどゾフルーザ耐性インフルエンザウイルスの割合が増え、死亡者が増える可能性を予想しています。
ゾフルーザ、それ以外の問題点
それ以外の問題点として、ゾフルーザ錠は半減期が長いため、頭痛などの副作用が起こると長時間続きます。ゾフルーザ10mgは糖衣錠でないので苦い。
ノイラミニダーゼ阻害剤:オセルタミビル(商品名:タミフル)予防投与は、健康保険が使えず自己負担となります。インフルエンザは飛沫感染で家人も感染する危険があります。家の誰かがインフルエンザを発症した場合、下記の方のみ健康保険外で予防投与が可能です。
- 高齢者の方(65歳以上)
- 慢性呼吸器疾患(気管支喘息、慢性気管支炎、間質性肺炎、甲状腺癌の肺転移、甲状腺癌肺転移による器質化肺炎など)
- 慢性心疾患(心不全などサイロイドハート、心臓腫瘍、心膜炎、心筋症、心臓弁膜症、先天性心疾患、心房細動(Af) 、頻脈性不整脈、徐脈性不整脈、狭心症・心筋梗塞など甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病に関連する場合があります
- 糖尿病
- 慢性腎不全
感染した家人に接触後48時間以内に1日1回 7~10日間投与します。
リレンザ®(ザナミビル)の予防投与は、1回10mg(5mgブリスターx2回)x1回/1日、10日間吸入します。
タミフルDS(ドライシロップ)の副作用で先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)?
オセルタミビルリン酸塩の副作用報告状況を光と、確かに僅か1例だけですが、先天性甲状腺機能低下症があります。ただの偶然で副作用ではないと思います。
タミフルDS(ドライシロップ)の注意事項
小児用タミフルDS(ドライシロップ)の、10代の未成年に対する投与が2018年に解禁になりました。バニラアイスと混ぜると苦みが強きなり、チョコレートアイスなら緩和されます。液体でないゲル状のヨーグルトに混ぜると飲みやすくなります。
牛乳アレルギーは乳製品に含まれる乳蛋白のカゼインに対するアレルギーです。カゼインは医薬品の添加物として普通に使用されます。
抗インフルエンザ薬のイナビル®(ラニナミビル)、リレンザ®(ザナミビル)は、添加物としてカゼインなどの乳蛋白が完全に除去されていない乳糖水和物を含みます。乳製品アレルギーのある患者には避けた方がよいです(禁忌とまでなっていません)。
インフルエンザの初期治療に保険適用がある麻黄湯(マオウトウ)は、「体の免疫力を上げて、インフルエンザウイルスを駆逐する」、いかにも漢方薬らしい効果があるそうです。(有効なのは、あくまでインフルエンザの発症初期に限定されます。)
マオウ(有効成分エフェドリン)は甲状腺ホルモンと同じ交感神経刺激作用があるため、甲状腺ホルモンが不足している甲状腺機能低下症の人にはちょうど良いかもしれません。しかし、甲状腺ホルモンが過剰のままで、まだ正常化していない甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者の場合、ホルモン作用が増強され過ぎて動悸、頻脈、不整脈などの症状、収縮期高血圧(上の血圧が高い高血圧)が悪化します。
また、甲状腺機能亢進症/バセドウ病では低カリウム血症を合併している場合があり(甲状腺と低カリウム血症)、最悪、心室頻拍(VT)など致死性不整脈に移行するQT延長症候群や筋肉が融解し腎不全を起こす横紋筋融解症に至ります。
麻黄湯(マオウトウ)には低カリウム血症[偽性アルドステロン症(偽アルドステロン症)]をおこす甘草(カンゾウ、主成分グリチルリチン)も含まれているため、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の方には要注意。
ちなみに、これらのことは麻黄湯(マオウトウ)の添付文書(薬の説明書)に明記されており、医薬品医療機器総合機構(PMDA)がネットでも公開しています。
二峰性発熱は、治癒したかのように半日から1日の間、平熱に下がった後に、再び半日から1日発熱する熱型です。小児インフルエンザ感染でよくみられる熱型で、成人においては稀。
また、デング熱やパラインフルエンザウイルスでも二峰性発熱を示すことがあります[Hawaii J Med Public Health. 2017 Oct;76(10):275-278.][J Thorac Dis. 2018 Jul;10(Suppl 19):S2305-S2308.]。
学校保健安全法施行規則によると、登校可能になるのは「発症後5日経過し、かつ解熱後2日経過した日」です。
インフルエンザ脳症(influenza encephalitis)はA香港型流行時に多発、15歳未満の子供(ほとんどは乳幼児)におこります。インフルエンザ罹患後24時間以内に出現、急速進行して多臓器不全にいたります。
インフルエンザに対するジクロフェナクNa(ボルタレン®)、メフェナム酸(ポンタール®)投与でライ症候群(Reye's syndrome、ウイルス感染症に続発する肝障害を伴う急性脳症)のリスクが上がるため、小児インフルエンザの解熱鎮痛薬としてはアセトアミノフェンが推奨されます。
インフルエンザ脳症は、無治療なら死亡率30%、治療しても8-9%、後遺症25%。
成人でも死亡例は報告されています。解熱鎮痛薬の選択には注意が必要です。
抗インフルエンザ薬ではインフルエンザ脳症を予防はできません。インフルエンザ脳症予防にはインフルエンザワクチンが有効。
インフルエンザ感染による高サイトカイン血症から、ウイルス関連血球貪食症候群を合併し、急性肝炎・劇症肝炎に至った報告があります(Intern Med. 2006;45(20):1183-6.)。インフルエンザ治療時の投薬による薬剤性肝炎と鑑別が必要になります。抗インフルエンザウイルス薬のタミフル®(オセルタミビル)の添付文書にも劇症肝炎の注意事項があります。
このような、急性肝炎・劇症肝炎の状態で、インフルエンザ感染に続発する亜急性甲状腺炎を発症した場合、急性肝炎・劇症肝炎治療優先で、血漿交換療法とステロイド療法行えば、亜急性甲状腺炎も同時に回復すると考えられます。(第62回 日本甲状腺学会 P34-1 インフルエンザ感染に続発して肝障害を伴って発症した亜急性甲状腺炎の1例)
インフルエンザワクチン接種で亜急性甲状腺炎に,小児急性散在性脳脊髄炎(ADEM)で抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)陽性に
インフルエンザワクチン接種も亜急性甲状腺炎の原因に。ウイルス抗原と甲状腺細胞抗原が似た構造をしている場合、細胞障害性T細胞が、両者を同じと認識(交差反応、交差認識)して亜急性甲状腺炎の免疫反応がおこる。小児急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の47.8%で抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)が陽性となり、徐々に低下。TPOAb価が高いほど、小児急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の重症度は下がる。甲状腺悪性リンパ腫治療でリツキシマブ(抗CD20抗体、リツキサン®)を使用すると、インフルエンザワクチン接種しても抗体ができない可能性あり。
インフルエンザワクチン,亜急性甲状腺炎,小児急性散在性脳脊髄炎,ADEM,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体,TPOAb,甲状腺悪性リンパ腫,リツキシマブ,リツキサン,抗体
インフルエンザワクチン接種も亜急性甲状腺炎の原因になります。不活化されたインフルエンザウイルスなので、感染力はないけれども、生きたインフルエンザウイルスに対するのと同じ免疫反応が起きるため、別に不思議ではありません。
ウイルス抗原と甲状腺細胞抗原が似た構造をしている場合、免疫細胞である細胞障害性T細胞が、両者を同じと認識(交差反応、交差認識)して亜急性甲状腺炎の免疫反応がおこります。(Hum Vaccin Immunother. 2016 Apr 2;12(4):1033-4.)(J Endocrinol Invest. 2010 Jul-Aug; 33(7):506.)(Kaohsiung J Med Sci. 2006 Jun; 22(6):297-300.)。
インフルエンザワクチン接種後、亜急性甲状腺炎発症までの期間は2日から8週間とされます。(Kaohsiung J Med Sci. 2006 Jun;22(6):297-300.)(Indian J Endocrinol Metab. 2018 Sep-Oct;22(5):713-714.)(Hum Vaccin Immunother. 2016 Apr 2;12(4):1033-4.)
また、B型肝炎ウイルスワクチン接種でも亜急性甲状腺炎を発症した報告があります(Endocr J. 1998 Feb;45(1):135.)。
これらは、autoimmune/inflammatory syndrome induced by adjuvants(ASIA)と呼ばれ、免疫反応を誘発する目的でワクチンに含まれるアジュバント(Adjuvant、免疫補助剤)が原因です(J Autoimmun. 2011 Feb; 36(1):4-8.)。
特に、HLA遺伝子のDRB1 *01を有する人に起こり易いとされます(Expert Rev Clin Immunol. 2013 Apr; 9(4):361-73.)。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では扱っておりませんが、甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺機能低下症/橋本病・糖尿病の女性は、妊娠3カ月以降に妊婦用インフルエンザワクチン接種した方が良いでしょう。近隣の婦人科を受診ください。
妊婦がインフルエンザに感染すると胎児もダメージを受けます。
- 妊娠前期の妊婦が高熱を出すと、胎児の神経管閉鎖障害の危険性が2倍になり、かつ、その他の出生異常を引き起こす危険も増す
- 出産時における母体の高熱は、新生児痙攣(けいれん)・脳性麻痺などの危険因子
になります。
母体にインフルエンザワクチン接種すると、母親のインフルエンザに対する抗体が胎盤移行し、生後6カ月まで乳児の体内に残るため(受動免疫)、乳児のインフルエンザ感染が63%減少します。
インフルエンザ感染者の約40%は15歳未満の小児です。
6歳未満の小児に対するインフルエンザワクチンの発病予防効果は50-60%で、半数以上の小児のインフルエンザ感染を防げます。
生後6カ月から8歳までの小児では、インフルエンザワクチン1回接種よりも2回接種の方がインフルエンザ予防効果が高い(JAMA Pediatr. 2020 Jul 1;174(7):705-713.)。
甲状腺の病気を持つ小児もインフルエンザに感染すれば、大人と同じくヤバイ事になります。(甲状腺機能低下症と免疫力低下・甲状腺とインフルエンザ)
は、必ずインフルエンザワクチンを接種しましょう。
日本では安全な皮下注射
日本でのインフルエンザワクチン接種は、基本的に皮下注射で、筋肉注射が認められていません。一方、ガーダシル®/シルガード9®(HPVワクチン)、シングリックス®(帯状疱疹ワクチン)は、筋肉内注射で、皮下注射は認められていません。
ただし、日本以外では筋肉注射が普通で、WHOも筋肉注射の方を推奨しています。筋肉注射の方が、局所的な有害事象が少なく、抗体が産生されやすい(免疫抗体獲得能が高い)とされます(Microbiol Immunol. 2010 Feb;54(2):81-8.) が、筋肉内の神経を刺してしまう危険性を考えれば、皮下注射の方が安全です。
日本国内では、かつて抗生剤や鎮痛薬の筋肉注射による大腿四頭筋短縮症が社会問題となったため、ワクチンの筋肉注射にも慎重になったという時代背景があります。
注射部位を揉まない
インフルエンザ予防接種ガイドラインには、「インフルエンザ予防接種後には注射部位を揉まずに血が止まる程度に押さえるだけでよく、揉む場合でも数回程度にとどめる。あまり強く揉むと皮下出血を来すこともある」と記載されています。(予防接種ガイドライン等検討委員会:インフルエンザ予防接種ガイドライン. 予防接種リサーチセンター, 2013, p11.)
卵アレルギーとインフルエンザワクチン
インフルエンザワクチン製造過程で鶏卵を使用するため、わずかにニワトリ胚細胞成分が残ります。しかし、高度に精製されているため卵成分はほとんど含まれません。
卵アレルギー(鶏卵アレルギー)とインフルエンザワクチンについて、米国予防接種諮問委員会 (Advisory Committee on Immunization Prac tices:ACIP)が基準を公開しており、
- 「卵を食べたところ、蕁麻疹のみを経験した卵アレルギーの既往がある人には接種する」→しかし筆者は、救急施設のある病院での接種が安全と考えます
- 「卵を食べたところ、蕁麻疹以外の症状(血管浮腫、呼吸困難、意識障害、繰り返す嘔吐等)を経験した人、エピネフリン等の救急医療行為を必要とした人にも接種してもよい。ただし、重症アレルギー状態を管理できる医療者(救命救急施設のある病院)によって行われるべきである。」
- インフルエンザワクチンを接種したところ、重篤(重症)なアレルギー反応を経験した事がある人にワクチン接種は禁忌
(United States, 2016–17 Influenza Season. http://www.cdc.gov/mmwr/volumes/65/rr/pdfs/rr6505.pdf)
これは、MRワクチンでも同じ事が言えます。もろに卵成分を含む薬剤も存在します。耳鼻咽喉科などでよく処方される塩化リゾチーム製剤は、卵白由来のリゾチームが主成分なので、鶏卵アレルギーがある人への投与は禁忌。
では、小児期に卵アレルギーの既往があり、気管支喘息で副腎皮質ステロイド吸入薬を使用中の人にインフルエンザワクチンを初回接種する場合は?→「接種後30分間は院内で経過を観れば良い」が一般的な正解らしいが、筆者は「万が一に備え救急施設のある病院での接種が安全」と考えます
急性散在性脳脊髄炎(ADEM:acute disseminated encephalomyelitis)
急性散在性脳脊髄炎(ADEM:acute disseminated encephalomyelitis)は、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチン、日本脳炎ワクチンなどによるアレルギー性脱髄性脳脊髄炎です。1000万回接種で1〜3.5人に起こります。稀ですが、
- ワクチンが原因である
- 後遺症が残る
- 生命に関わる
点が問題です。
急性散在性脳脊髄炎(ADEM)では、ワクチン接種後4週間以内に脳脊髄炎、視神経炎が出現します。
髄液中の脱髄を示すミエリン塩基性タンパク(MBP:myelin basic protein)上昇が特徴です。
救命後、多発性硬化症(MS)に移行するものもあります。
ワクチンを打たなくても感染後ADEMをおこすことがあり、発疹性ウイルス[麻疹(はしか)、風疹、水痘・帯状疱疹]、ムンプスウイルス、インフルエンザウイルス感染後に発症。[Vaccine. 2019 Feb 14;37(8):1126-1129.]
甲状腺の病気に合併した報告として、甲状腺クリーゼをおこした4か月後に急性散在性脳脊髄炎(ADEM)を発症したケースがありますが、因果関係は不明です。(第53回 日本甲状腺学会 P166 血漿交換が著効し、経過中に急性散在性脳脊髄炎を併発した甲状腺クリーゼの1例)
小児急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の47.8%で抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)が陽性となり、徐々に低下していく。TPOAb価が高いほど、小児急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の重症度は下がる。[Mult Scler Relat Disord. 2020 Nov;46:102573.]
普通に考えれば、TPOAb価が高いほど、小児急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の重症度は上がりそうなものですが、真逆です。その理由は全く不明。
甲状腺/甲状腺外悪性リンパ腫のワクチン接種
甲状腺/甲状腺外の悪性リンパ腫治療でリツキシマブ(抗CD20抗体、リツキサン®)を使用すると、正常リンパ球にも抑制が掛かり、治療後にインフルエンザワクチン接種しても抗体ができない可能性があります(それでも接種しますが)。患者にインフルエンザをうつさない様、家族への接種も推奨されます。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,天王寺区,浪速区,東大阪市も近く。