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甲状腺癌の謎、甲状腺乳頭癌は免疫監視から逃避、ラクトフェリン[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺癌の発癌理論(芽細胞発癌)

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。

[図は(Endocr J 2004; 51: 509-515)(日本甲状腺学会雑誌 Vol4(2) 81-85.)]

甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編    動脈硬化編   甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など)   糖尿病編 をクリックください

Summary

今まで甲状腺癌の原因は(甲状腺ホルモンをつくる)濾胞上皮細胞の増殖過程の遺伝子変異と考えられていたが、濾胞上皮細胞は一生で6-8回しか細胞分裂しないため、簡単に癌化しない。甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)が若年者に多い理由も説明不能。芽細胞発癌理論は、濾胞上皮細胞が癌化するのでなく、最初から癌化すべき未熟な細胞が甲状腺内に存在しているとの説。甲状腺乳頭癌細胞表面にPD-L1が発現→癌細胞を攻撃するため活性化したTリンパ球細胞に結合→不活化してTリンパ球細胞の攻撃を免れるす。甲状腺乳頭癌は免疫監視から逃れ、生体内に長らく共存すいると言う仮説がある。

Keywords

甲状腺癌,濾胞上皮細胞,甲状腺,乳頭癌,濾胞癌,芽細胞発癌,PD-L1,Tリンパ球細胞,免疫監視,甲状腺未分化癌

甲状腺癌の発癌理論(芽細胞発癌:fetal cell carcinogenesis)

なぜ癌が発生するか?「正常な細胞が癌細胞に変異するため」、世間一般では、いや、多くの医学者がそう信じています。確かに消化器癌、肺癌、子宮頸がんなどは、その通りでしょう。しかし、甲状腺癌に関して、その考え方は当てはまらない可能性があります。

甲状腺癌の発癌理論(芽細胞発癌)

今まで甲状腺癌の原因は、(甲状腺ホルモンをつくる)濾胞上皮細胞の増殖過程で遺伝子変異がおこるためと考えられていました。しかし、濾胞上皮細胞は一生でたった6-8回しか細胞分裂しないため、そう簡単に癌化しません。また、甲状腺分化癌(乳頭癌濾胞癌)が若年者に多い理由を説明できません。

大阪大学の高野徹先生の芽細胞発癌理論(右)は、この矛盾を解決します(Endocr J 2004; 51: 509-515)(日本甲状腺学会雑誌 Vol4(2) 81-85.)[Endocr J. 2002 Apr;49(2):97-107.]。濾胞上皮細胞が癌化するのでなく、最初から癌化すべき未熟な細胞が甲状腺内に存在しているというのです。

  1. 甲状腺分化癌(乳頭癌濾胞癌)は胎生期の、癌の性質をもつ未熟な甲状腺芽細胞に由来
  2. 良性の甲状腺腺腫は、癌の性質をもたない高分化な前甲状腺細胞に由来
  3. 最も悪性の甲状腺未分化癌は、最も原始的な(未分化な)甲状腺幹細胞に由来

甲状腺分化癌(乳頭癌濾胞癌)が

  1. 女性に多いのは、甲状腺芽細胞が胎児期の高エストロゲン下で発生することから説明できる。
  2. 甲状腺分化癌(乳頭癌濾胞癌)が若年者で悪性度低く、高齢者で悪性度高いのは、高齢者の甲状腺芽細胞は原始的な甲状腺幹細胞に近いためと考えられます。

甲状腺未分化癌が、

  1. 高齢者におこるのは、甲状腺幹細胞は数十年、増殖せず潜伏できるため
     
  2. 甲状腺分化癌(乳頭癌濾胞癌)と共生するのは、甲状腺幹細胞は自分より分化した甲状腺芽細胞を作り出すとすれば説明可。
    [これまでは甲状腺分化癌(乳頭癌濾胞癌)が未分化変異おこすと信じられていましたが、未分化癌の転移巣でも未分化癌分化癌が原発巣と同じ比率で共生する理由を説明できませんでした]
    (写真;バーチャル臨床甲状腺カレッジより)
     
  3. 甲状腺良性腫瘍や甲状腺髄様癌とも併存するのは、甲状腺幹細胞に由来するとすれば矛盾なく説明可。
乳頭がんと未分化がんの混在

甲状腺未分化癌への転化(未分化転化)をどう説明するか?

長年、甲状腺良性腫瘍として経過観察され、細胞診では悪性所見なく、5年間で1cm(1年間で2mm)の増殖速度(ここまでは良性腫瘍の増殖速度)、さらに5年間で2cm(1年間で4mm)の増殖速度(この時点で癌の増殖速度になっています)、10日ほどの経過で2~3倍に増大、肺転移が出現し甲状腺未分化癌への転化(未分化転化)となった報告例。(第60回 日本甲状腺学会 P2-9-2 10年間にわたる経過観察中に腫瘍の急速な増大に伴い嗄声が出現 し、未分化転化が疑われた縦隔内甲状腺腫の1例)

細胞診で正常あるいは良性と出ているので、おそらく甲状腺濾胞癌未分化転化の可能性が疑われます。濾胞癌細胞未分化癌に転化したのでしょうか?

芽細胞発癌説で、この事象を説明できるのでしょうか[Rinsho Byori. 2008 May;56(5):402-8.]?ここからは、筆者の勝手な推論ですが、

  1. 元々、甲状腺濾胞癌細胞の芽と甲状腺未分化癌細胞の芽が、同一腫瘍内に混在していた
  2. 甲状腺未分化癌細胞の芽が一部、先に甲状腺濾胞癌に分化し、その後、残りが甲状腺未分化癌へ分化した

と考えるはどうでしょうか?

甲状腺濾胞癌髄様癌が同時に存在した実例

甲状腺濾胞構造

甲状腺癌の芽細胞発癌理論(fetal cell carcinogenesis)で説明できるでしょうか?甲状腺濾胞癌髄様癌が同じ甲状腺内に同時に存在した報告があります。(第61回 日本甲状腺学会 O13-2 甲状腺に濾胞癌と髄様癌を同時に認めた1例)

甲状腺濾胞癌は、甲状腺乳頭癌甲状腺低分化癌甲状腺未分化癌と同じく濾胞細胞系起源ですが、甲状腺髄様癌は神経内分泌細胞系の傍濾胞C細胞起源です。

何万-何十万分の1の確率で起きる偶然の重複癌かもしれません。芽細胞発癌理論なら幹細胞(stem cell)が濾胞細胞系と神経内分泌細胞系の2方向へ分化したと考えれば説明可能でしょう。

甲状腺乳頭癌甲状腺髄様癌の重複癌も同様です。[J Coll Physicians Surg Pak. 2022 Aug;32(8):S156-S158.][Endocr Pathol. 2014 Sep;25(3):324-31.]

同一腫瘍が甲状腺分化癌と甲状腺髄様癌の両方の性質を持つ混在癌

更に驚くべき事ですが、同一腫瘍が甲状腺分化癌甲状腺髄様癌の両方の性質を持つ混在癌も報告されています。

  1. 甲状腺分化癌の性質;I-123シンチグラフィで腫瘍部に一致したtracer uptakeを認める機能性乳頭がん(甲状腺ホルモン産生癌)。術後病理標本で腫瘍の一部がサイログロブリン陽性
     
  2. 甲状腺髄様癌の性質;CEAカルシトニン高値、穿刺吸引細胞診で大小不同の偏在した核、アミロイド様物質。免疫染色でカルシトニンCEAがびまん性に染色される

(第61回 日本甲状腺学会 O13-3 I-123シンチグラフィでfocal uptakeを認めたバセドウ病合併甲状腺髄様癌の1例)

芽細胞発癌理論なら、幹細胞(stem cell)が濾胞細胞系と神経内分泌細胞系の2方向へ分化する直前の段階で癌化したと考える他ないようですが・・・。

家族性甲状腺髄様癌(FMTC)の原因となるRET遺伝子生殖細胞変異が甲状腺機能性結節(機能性甲状腺腫,プランマー病)と共存した報告があります。[Clin Endocrinol (Oxf). 2002 Jun;56(6):823.]

甲状腺乳頭癌は免疫監視から逃避する?

甲状腺乳頭癌細胞株 K1 と未分化癌細胞株 8305C を用いて甲状腺癌が人体の免疫系に影響する因子を調べた報告があります(第59回 日本甲状腺学会 P3-3-3 甲状腺乳頭癌と未分化癌細胞株における免疫系分子発現の相違)。

細胞表面・細胞内の免疫系分子発現をフローサイトメトリーで調べた結果、甲状腺乳頭癌細胞株は甲状腺未分化癌細胞株に比べて

  1. HLA-A,B,C 分子発現の低下
  2. 抑制性免疫チェックポイントのPD-L1 と、ATP分解に関与するCD73 の発現が増加

また甲状腺乳頭癌甲状腺未分化癌株両方でstemness marker(自己再生と多方向への分化マーカー)であるCD44, CD133, ABCG2 の発現が増加していたそうです。

甲状腺乳頭癌細胞表面にPD-L1が発現→甲状腺乳頭癌細胞を破壊するため活性化したTリンパ球細胞に結合→不活化してTリンパ球細胞の攻撃を免れます。そのため、甲状腺乳頭癌は免疫監視から逃れ、生体内に長らく共存していると言う仮説が成り立ちます。

橋本病(慢性甲状腺炎)の甲状腺濾胞上皮にはPD-L1発現が増加しており、橋本病(慢性甲状腺炎)に発生する甲状腺乳頭癌もPD-L1発現増加を認める。正常な甲状腺および橋本病(慢性甲状腺炎)を伴わない甲状腺に発生する乳頭癌はPD-L1発現を欠く。[Endocr Pathol. 2018 Dec;29(4):317-323.]

甲状腺乳頭癌患者の59.7%はPD-L1 陽性乳頭癌で、PD-L1 陽性乳頭癌患者

  1. 多発性
  2. 超音波エコー所見として不完全なハローサイン、被膜浸潤、微小石灰化が多い
  3. 再発しやすく、無再発生存期間が短い(予後不良)

[In Vivo. 2023 Nov-Dec;37(6):2820-2828.]

PD-L1 陽性甲状腺乳頭癌

PD-L1 陽性甲状腺乳頭癌[In Vivo. 2023 Nov-Dec;37(6):2820-2828.より改変]

ラクトフェリンと甲状腺

ラクトフェリンは、母乳、涙液、唾液に含まれる他、血液中、好中球にも存在する鉄結合性糖タン白質で、感染防御作用があるため健康食品やサプリメントとして販売されています。

(Central European Journal of Sport Sciences and Medicine 2016;15(3): 25–35.)

ラクトフェリン

健康に良い作用がある一方で、ラクトフェリンは腺癌に過剰発現するとされます。免疫組織化学的に甲状腺組織のラクトフェリンを染色した報告では、

  1. 甲状腺乳頭癌甲状腺濾胞癌では陽性
  2. 良性濾胞腺腫、びまん性甲状腺腫、橋本病(慢性甲状腺炎甲状腺髄様癌では陰性

(Acta Oncol. 2000;39(6):753-6.)(Ann Pathol. 1992;12(6):347-52.)

ラクトフェリンが甲状腺癌で過剰発現する意味は不明ですが、ラクトフェリンは甲状腺腫瘍の良悪性を鑑別するのに有用と言えます。穿刺細胞診で得られた検体をラクトフェリンで免疫染色すれば、細胞診断だけでは判定できないケースも甲状腺乳頭癌甲状腺濾胞癌の診断精度が上がります。(Acta Cytol. 1996 May-Jun;40(3):408-13.)

甲状腺眼症で涙液中のラクトフェリンが上昇します(Zhonghua Yi Xue Za Zhi. 2015 Mar 17;95(10):749-52.)。しかし、その病的意味は不明です。

甲状腺癌におけるDNAメチル化

甲状腺癌におけるDNAメチル化(エピジェネティック修飾の1つ)の病的意味は不明です。現在までに、DNAメチル化は

  1. 甲状腺分化癌(乳頭癌濾胞癌)の予後を悪くする可能性[Cancers (Basel). 2021 Sep 27;13(19):4827.]
  2. 甲状腺乳頭癌の免疫チェックポイントを減らす[Immunotherapy. 2020 Aug;12(12):903-920.]
  3. 甲状腺乳頭癌のPTEN(phosphatase and tensin homolog)およびDAPK(death-associated protein kinase )遺伝子でおきる[Clin Endocrinol (Oxf). 2020 Aug;93(2):187-195.]
  4. 甲状腺濾胞癌の発生に関与する[Endocr Relat Cancer. 2019 Apr 1;26(4):451-462.]
  5. 甲状腺未分化癌の発生に関与する[Cancers (Basel). 2020 Mar 13;12(3):680.]

バセドウ病におけるDNAメチル化(エピジェネティクス)も報告されています。

甲状腺関連の上記以外の検査・治療     長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

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長崎甲状腺クリニック(大阪)


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