放射線治療無効な分化型甲状腺癌にネクサバール錠®・レンビマカプセル®[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)でネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®カプセル(レンバチニブ)の取扱いはありません。
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Summary
受容体型チロシンキナーゼ阻害薬(分子標的薬)ネクサバール(ソラフェニブ)とレンビマ(レンバチニブ)の適応・作用機序・効果・副作用。肺やリンパ節転移に効き易いが骨転移に効き難い。放射線治療抵抗性分化型甲状腺癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)の疾患関連10年死亡率30%なのに盲目的投与が横行し、長年にわたり副作用に苦しめられる。①転移巣が進行性、大きい、脊椎骨転移の痛みや麻痺症状などがある②サイログロブリン急上昇などに使用すべき。副作用で大出血おこす危険や副作用で使用不可になる事も。効かずに甲状腺癌が進行したらベストサポーティブケア。
Keywords
ネクサバール,ソラフェニブ,レンビマ,レンバチニブ,受容体型チロシンキナーゼ阻害薬,ベストサポーティブケア,分子標的薬,大出血,放射線治療抵抗性,甲状腺がん
根治切除不能の甲状腺癌に、分子標的治療(バイオ製剤、生物学的製剤)が開始されています[長崎甲状腺クリニック(大阪)での取り扱いはありません]。
- ネクサバール錠®200mg(一般名:ソラフェニブトシル酸塩)が、 「根治切除不能な分化型甲状腺癌」に
- レンビマカプセル®(一般名:レンバチニブ)が「根治切除不能の甲状腺癌」治療薬として
保険適応が認められました。ネクサバール®が分化型甲状腺癌(乳頭癌・濾胞癌)にしか適応がないのに対して、レンビマカプセル®は甲状腺髄様癌・甲状腺未分化癌を含むすべての甲状腺癌に適応があります。
しかしながら、延命効果があるのと引き換えに、有害事象(adverse events)・副作用の頻度、重症度もかなり高く、それが元で命を失う可能性もあるので、使用する時期は慎重に決めねばなりません。安易に使用せず、癌専門医などと密接に連携して投与します(受容体型チロシンキナーゼ阻害薬使用のトンデモナイ勘違い(間違った使い方)と正しい使い方)。
分子標的治療薬の受容体型チロシンキナーゼ阻害薬[ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)]は、転移部位によって効果が異なるとされます。
一般的には、甲状腺癌肺・リンパ節転移に効き易い反面、骨転移には効き難いとされます。(第59回 日本甲状腺学会 P4-6-7 分子標的治療が奏功した放射性ヨウ素不応性甲状腺乳頭癌多発転移例における薬剤および併用療法よる転移部位別の効果の比較)
受容体型チロシンキナーゼ阻害薬[ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)]の間違った使われ方
受容体型チロシンキナーゼ阻害薬[ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)]使用のトンデモナイ勘違い(間違った使い方)が、全国で多々おこっているようです。「根治切除不能な分化型甲状腺癌で、放射線内照射に抵抗性の症例に保険適応が認められてる」を額面通りに取り、元々チロシンキナーゼ阻害薬が不必要な患者に投与し、有害事象(adverse events)・副作用のオンパレードを引き起こすのです(ネクサバール®(ソラフェニブ)の副作用、レンビマ®(レンバチニブ)の副作用)。
放射線治療抵抗性の分化型甲状腺癌の疾患関連死亡率(要するに甲状腺癌で死ぬ確率)は、5年死亡率5%、10年死亡率30%です(Endocr J. 2014;61(12):1145-51.)。放射線治療が効かなくても、5年後95%、10年後70%は生きているのです。
よって、放射線治療抵抗性だからと言って、むやみに受容体型チロシンキナーゼ阻害薬を使用すると、長年にわたりトンデモナイ副作用のオンパレードに苦しめられることになります。また、それら副作用には、消化管出血・気道出血・脳出血、劇症肝炎、間質性肺炎、高血圧クリーゼ、心筋梗塞・うっ血性心不全など死につながる危険なものが多数含まれています(甲状腺癌で死ぬより、副作用で死ぬ)。
更には、受容体型チロシンキナーゼ阻害薬は、いくら保険が効くと言っても非常に高価で、高額医療費に長期間悩まされることにもなります。
どのような症例に受容体型チロシンキナーゼ阻害薬[ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)]を使用すべきか
以上より、命を脅かさない放射線治療抵抗性の分化型甲状腺癌(乳頭癌・濾胞癌)に、トンデモナイ副作用のオンパレードをおこす受容体型チロシンキナーゼ阻害薬[ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)]を使用すべきでないのは明らかです。
では、どのような症例に使用すべきなのでしょうか?
- 転移巣が進行性である場合(画像診断で転移巣が増えている・大きくなっている、サイログロブリンが急上昇する、サイログロブリン ダブリングタイムが短い)
※下記の様に胸腔鏡下部分切除術で、しのげる場合あり - 転移巣が大きい場合
- 転移巣が危険な場所にある。ただし、チロシンキナーゼ阻害薬は血管新生阻害による出血の副作用があるため、
①気管に浸潤したケースに、うかつに使用すると大出血おこし窒息の危険
②脳転移に使用すると脳出血の危険
があります。
- 転移巣で症状が出る(脊椎骨転移による痛みや麻痺症状)
- 北光記念病院の報告ですが、放射性ヨウ素治療(RAI)抵抗性の肺転移で、FDG-PET/CT陽性(肝臓と同等以上の集積を示す)の場合は3年以上経過してから病勢が進行し始める傾向があるとの事です。逆にFDG-PET/CT陰性なら、それより進行が遅いとの結果です。「FDG-PET/CT陽性かどうかを、チロシンキナーゼ阻害薬使用の判断材料の1つにしてはどうか?」と言う提案です。(この発表は、筆者も素晴らしいと思います)
(第60回 日本甲状腺学会 O7-3 RAI陰性甲状腺分化癌肺転移の予後推定におけるFDG-PET/CT の意義)
放射線治療抵抗性の分化型甲状腺癌(乳頭癌・濾胞癌)多発肺転移でも、進行性の転移巣が単一または一部なら、胸腔鏡下部分切除術で切り抜けられる可能性があります。受容体型チロシンキナーゼ阻害薬[ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)]は結局、延命効果だけなので、副作用の頻度・重症度を考えれば、あくまで最後の手段に温存しておきたいものです。
東北大学 総合外科(乳腺内分泌外科)が、一部の腫瘍のみ増大した多発肺転移に胸腔鏡下部分切除術をおこない、受容体型チロシンキナーゼ阻害薬を開始せずに済んだ2例を報告しています。(第62回 日本甲状腺学会 P28-2 放射性ヨウ素内用療法不応性の甲状腺癌多発肺転移に対し増大腫瘍のみ切除した2例)
今後、検討されるべき受容体型チロシンキナーゼ阻害薬[ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)]の使い方として、
- 甲状腺癌全摘出後のI-131 アブレーション・アジュバント・治療前後あるいは同時に行う補助投与(現時点で保険適応無し)。チロシンキナーゼ阻害薬は血管新生阻害による出血の副作用があるため、常に大出血おこす危険を考慮する。
- 甲状腺全摘手術の前後(現時点で保険適応無し);術中・術後出血、縫合不全による手術関連死の危険。
が挙げられます。転移巣別では、
- 肺転移:最もチロシンキナーゼ阻害薬の適応になります。ただし、胸膜播種があれば、余命10ヶ月程なので、緩和ケア、ベスト・サポーティブ・ケア(BSC)の方が優先される事が多い(Endocr J 2015 Dec 10.)。
- 骨転移:可能であれば手術摘出が第一。無理なら、放射線外照射(放射性ヨウ素I-131を使うのでなく、外から放射線を当てる)・デノスマブ・ビスフォスフォネート剤を使い、チロシンキナーゼ阻害薬を組み合わせる。
照射部の壊死出血をおこす危険があるため、放射線外照射期間中は休薬が必要。
- 脳転移:そもそも、I-131 放射線内照射自体が禁忌。可能であれば手術摘出が第一。無理なら、放射線外照射(ガンマナイフ・サイバーナイフ・全脳照射など)[甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)脳転移]
ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)いずれを使うか?
[ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)]の効果を比較したデータは、今の所存在しません。ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマカプセルいずれを使うかは、高率に起こり得る副作用の種類を考慮して決めねばなりません。レンビマ®(レンバチニブ)はネクサバール錠®(ソラフェニブ)より血管新生阻害作用が強いため、高血圧・ネフローゼ症候群・出血・血栓症おこるとマズイ症例には使い難いです。
ネクサバール錠®(ソラフェニブ)とレンビマカプセル®(レンバチニブ)には甲状腺癌を治癒させる効果は無く、病勢の改善と生存期間の延長のみです。しかも、生命にかかわる重篤(重症)な副作用(副作用死)も含め、100%出現する副作用に苦しめられて生活の質(QOL)が低下したり、高額な医療費負担が重く圧し掛かったりします。
これらの薬が副作用で使用できなくなった時、効かずに甲状腺癌の病勢が進行(Progressive Disease;PD)した時には、ベストサポーティブケア(best supportive care;BSC)、あるいは緩和ケア・終末医療へ移行せざる得なくなります。
ベスト・サポーティブ・ケア(BSC)とは、がん自体に対する積極的な治療を行わず、症状・苦しみなどを和らげる治療に徹するものです。根本的に緩和ケアと同じで、言葉の定義を替えているだけです。[甲状腺癌の終末期医療(ターミナルケア)/緩和ケア/ベストサポーティブケア(BSC)]
一般的にパフォーマンスステータス(Performance Status:PS)が3以上に増悪すれば、ベスト・サポーティブ・ケア(BSC)へ変更になります。甲状腺癌の報告でも、レンビマカプセル®(レンバチニブ)投与後にPS 3 以上となれば、生存期間は治療しても変わらないためベスト・サポーティブ・ケア(BSC)へ移行すべきとされます(内分泌甲状腺外会誌 35(2):29-133,2018)。
※パフォーマンスステータス(PS);日常生活における制限の程度で
PS 3;身のまわりに限られたことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。
PS 4;まったく動けない。身のまわりのこともまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,生野区,浪速区も近く。