甲状腺部に痛みが生じる病気 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見③ 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。
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首の痛みに対する診療の停止について
甲状腺の痛みで約75%を占めるのは亜急性甲状腺炎です。当院では、日本での新型コロナウイルス感染が完全に終息するまで亜急性甲状腺炎の診療は停止(ステロイド投与中にコロナ感染を起こすと重症化するため)。
亜急性甲状腺炎のステロイド治療は、新型コロナウイルス感染を起こしてもすぐに対処できるような、コロナ病棟のある病院で行うのがベストです。
そのため、首の痛みについては、最初から総合病院の受診をお勧めします。
Summary
甲状腺の痛みで一番多いのは亜急性甲状腺炎(約75%)、のう胞内出血(約20%)、橋本病急性増悪、甲状腺癌・良性腫瘍、甲状腺炎、有痛性バセドウ病。亜急性甲状腺炎と思い込んみ安易にステロイド投与しない。のう胞内出血(嚢胞内出血)は咳の衝撃などでおこり、甲状腺超音波(エコー)検査でのう胞内血腫(嚢胞内血腫)を診断。巨大良性甲状腺嚢胞(甲状腺のう胞)で急性出血による気管圧迫・急性気道閉塞・窒息の危険があるなら甲状腺切除術が必要。内頸静脈血栓症は内頸静脈内に血栓を見つけて診断。甲状腺癌によるトルーソー症候群の場合も。甲状腺動静脈瘻(ろう)出血はエコーで渦巻状血流。
Keywords
甲状腺,亜急性甲状腺炎,のう胞内出血,エコー,甲状腺炎,血腫,甲状腺動静脈瘻,甲状腺癌,有痛性バセドウ病,痛み
患者さんが甲状腺の位置に痛みを訴える病気で一番多いのは、亜急性甲状腺炎です。しかし、亜急性甲状腺炎以外のケースも約25%存在します。
伊藤病院の統計によると、甲状腺の位置に痛みを呈する疾患は、来院時に甲状腺部痛を確認した2979 例の内、
- 亜急性甲状腺炎(SAT) 2208 例(74.1%)
- のう胞内出血(嚢胞内出血) 634 例(21.3%)[のう胞内出血(嚢胞内出血)・急激な液貯留と推察されます]
- 橋本病急性増悪(pHD) 40 例(1.3%)
- 甲状腺良性腫瘍 28 例(0.9%)[生理前や妊娠中にサイズがやや大きくなりますが、それを痛みと感じているのでしょうか?]
- 甲状腺乳頭癌(PTC) 25 例(0.8%)[急速な増大、被膜浸潤、腫瘍内出血・壊死で痛み](甲状腺未分化癌のように急激に大きくなる甲状腺乳頭癌 高MIB-1標識率)
- 急性化膿性甲状腺炎と甲状腺膿膿瘍(AST) 20 例(0.7%)
- 甲状腺未分化癌(ATC) 6 例(0.2%)[教科書通り]
- 甲状腺悪性リンパ腫(ML) 4 例(0.1%)[教科書通り]
- 転移性甲状腺癌(他臓器の癌から甲状腺への転移)4 例(0.1%)[急速な増大、被膜浸潤、腫瘍内壊死などの痛みでしょうか?]
- 有痛性バセドウ病(pGD) 3 例(0.1%)[やはり急激な甲状腺のサイズの増大を痛みと感じているのでしょうか?]
- 甲状腺髄様(MTC)癌 [甲状腺乳頭癌と同じ理由でしょうか?]
- 食道がん 2 例(0.06%)[食道憩室炎でなく、食道癌であるのに驚きました。食道癌の急激な増大や、内部壊死、甲状腺を圧排、甲状腺内浸潤、甲状腺内癌性リンパ管炎による痛み]
- 副甲状腺のう胞 2 例(0.06%)[私自身、痛みのある副甲状腺嚢胞を診たことはないのですが]
- リーデル甲状腺炎 1例(0.03%)[教科書通り]
- この報告には無いが内頸静脈血栓症
- この報告には無いが甲状腺動静脈瘻(ろう)による出血(まれ)
- この報告には無いが狭心症、急性心筋梗塞の放散痛
(第56回 日本甲状腺学会 O7-1 甲状腺部に痛みを呈する疾患についての検討)
上記の疾患は、ほとんどが甲状腺超音波(エコー)検査と血液検査で特定できます。血液検査は誰にでもできますが、甲状腺超音波(エコー)検査は練度と高度な技術を要します。技術はあるが、甲状腺の専門知識を持たない検査技師(医者じゃないんだから当たり前だが)でも鑑別に必要な所見を取るのは難しいでしょう。
甲状腺超音波(エコー)検査に精通した甲状腺専門医でこそ可能なのです。
くれぐれも亜急性甲状腺炎と思い込んで安易にステロイドを投与しないでください。
のう胞内出血(嚢胞内出血)とは
のう胞性腫瘍(嚢胞性腫瘍)内の、のう胞(嚢胞)部分で出血すると、急激な痛みが甲状腺内におこります。長崎甲状腺炎クリニック(大阪)で、これまでにあったのう胞内出血(嚢胞内出血)の原因として代表的なのは
- リンパマッサージなど強度の刺激が甲状腺に加わる
- 子供の手や頭が首によく当たる
- 咳の衝撃
- 重い物を持ち上げた拍子
- 全力で2人乗り自転車をこいだ後
- テニスのストローク、ゴルフのショットなどの強い遠心力
- 穿刺排液後(穿刺時出血)
- 分娩時における血圧と気道内圧の急激な上昇[Gland Surg. 2023 Nov 24;12(11):1636-1641. ]
等ですが、はっきりした原因のない場合も多い。
亜急性甲状腺炎と比べ、発熱・炎症反応は軽度です。出血は自然に吸収され、のう胞(嚢胞)が縮小するとともに痛みも軽くなります。のう胞(嚢胞)内に血腫以外の腫瘍成分が存在する場合には、良悪性を診断する目的で、排液も兼ねて穿刺細胞診を行います。血腫の部分を採ると、変形赤血球・泡沫細胞・壊死物質などが見つかります。
のう胞内出血(嚢胞内出血)は甲状腺超音波(エコー)検査で簡単に診断が付きますので、くれぐれも亜急性甲状腺炎と思い込んで安易にステロイドを投与しないでください。
のう胞腺腫内出血の超音波(エコー)画像
急性期
リンパマッサージ後に、のう胞内出血(嚢胞内出血)
リンパマッサージなど強度の刺激が甲状腺に加わると、のう胞内出血(嚢胞内出血)をおこす場合があります。
肩や足にリンパマッサージを行うのは何の問題もありませんが、喉仏(のどぼとけ)の下やその周囲には甲状腺があるため、リンパマッサージの物理的衝撃でのう胞内出血(嚢胞内出血)に至ります。
のう胞内出血(嚢胞内出血)をおこさなくても甲状腺組織にダメージを与える可能性があるため、甲状腺の周囲を避けてリンパマッサージを行うべきです。
写真は甲状腺の直上をリンパマッサージして、のう胞型腺腫様結節内にのう胞内出血(嚢胞内出血)をおこしたケースです。
数カ月後
慢性期
のう胞内出血で急性気道閉塞・窒息
良性甲状腺嚢胞(のう胞腺腫、のう胞型腺腫様結節)の急性出血による気管圧迫で急性気道閉塞・窒息をおこす危険があります。報告例は7cmの巨大のう胞など。急性出血のリスクがある巨大のう胞には甲状腺切除術を行う必要があります。(Case Rep Crit Care. 2014;2014:372369.)
また、日本甲状腺学会の報告では、10cmの巨大のう胞内に急性出血し、急性気道閉塞・窒息に加え反回神経麻痺も起きたそうです。(第64回 日本甲状腺学会 8-1 巨大甲状腺嚢胞の気管狭窄により窒息に至った1例)
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、4cmを超える嚢胞性腫瘍に対して、気道閉塞・窒息を避けるため穿刺排液をお勧めしています。何度、穿刺排液しても液がたまる巨大のう胞腺腫は手術適応になります。(穿刺排液困難、何度、穿刺排液しても液がたまる巨大のう胞腺腫)
のう胞内出血において、(非病変部の)対側葉に、穿刺細胞診後の急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応、急性一過性甲状腺腫大)と同じような低エコー性亀裂(樹枝状低エコー)を生じる場合があります。(第64回 日本甲状腺学会 8-2 嚢胞内出血後に対側葉の一過性疼痛・腫大・hypoechoic cracksを呈した1例)
のう胞内出血後、同側の甲状腺組織に、穿刺細胞診後の急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応、急性一過性甲状腺腫大)で出現するような低エコー性亀裂(樹枝状低エコー)を生じる場合があります。甲状腺だけでなく、その周囲組織にも炎症が波及し、低エコーになります。報告例は、穿刺排液後約1週間で甲状腺周囲の低エコー、甲状腺内の樹枝状低エコー/Hypoechoic cracks(ひび割れ)が消失。(第65回 日本甲状腺学会 P14-4 嚢胞内出血後に同側甲状腺の疼痛、hypoechoic cracksを伴う一過性甲状腺腫大を呈した一例)
反対側の甲状腺内[(非病変部の)対側葉]に、低エコー性亀裂(樹枝状低エコー)が生じる場合もあります。(第64回 日本甲状腺学会 8-2 嚢胞内出血後に対側葉の一過性疼痛・腫大・hypoechoic cracksを呈した1例)
報告例は、経過観察のみで数時間後に痛みは軽快、樹枝状低エコーも消失
(第62回 日本甲状腺学会 P7-4 嚢胞内出血後に対側片葉に激痛を伴う一過性甲状腺腫大を呈した 1症例)
前頚部に痛みを有し、喉頭軟骨から鎖骨に掛けて圧痛のある硬い腫瘤を触れます。急性発症で、炎症強いと皮膚が赤くなる事もあります。
急性化膿性甲状腺炎/甲状腺膿瘍、橋本病急性増悪 と鑑別を要します。
超音波(エコー)検査で、頚動脈の外側(甲状腺は内側)、内頸静脈内に血栓(縦長の低輝度領域)を見つければ診断できます。MRV(静脈系を見るMRI)を行うのも良いでしょう。
補助診断として、凝固系が活性化すると増加するフィブリンモノマー、トロンビン・アンチトロンビンⅢ複合体(TAT)の血中濃度測定が有用です。
内頸静脈血栓症の原因として
- 印環細胞がん(いわゆるボルマン4型胃がん)など粘いムチンを産生する悪性腫瘍 (Blood. 2007 Sep 15;110(6):1723-9.)、甲状腺癌・肺がん等によるトルーソー症候群(Trousseau症候群)
①甲状腺乳頭癌[Adv Biomed Res. 2014 Jan 9;3:27.]
②甲状腺微小乳頭癌と頸部リンパ節転移のマイクロ波アブレーション後;潜在性甲状腺機能低下症、甲状腺乳頭癌による血液中のヘムオキシダーゼ1(HO-1)上昇、血小板容積の増加が原因[Front Endocrinol (Lausanne). 2022 Apr 27;13:792715.]
③甲状腺未分化癌[J Clin Ultrasound. 2003 Feb;31(2):111-5.]
④転移性甲状腺(腎細胞がん)[Arch Ital Urol Androl. 2011 Dec;83(4):203-6.]
- 感染症によるレミエール症候群
- 外傷
- 尿タンパクがダダ漏れになるネフローゼ症候群では血管内脱水と凝固阻害因子の低下
などがあります。
(下)甲状腺微小乳頭癌と頸部リンパ節転移のマイクロ波アブレーション後 内頸静脈血栓症 [Front Endocrinol (Lausanne). 2022 Apr 27;13:792715.]
甲状腺動静脈瘻(ろう)による出血とは
非常に稀ですが、甲状腺動静脈瘻(ろう)の出血による痛みもあります。動静脈瘻(ろう)は、毛細血管を介さず動脈と静脈が直接つながった状態。甲状腺動静脈瘻(ろう)が出血した場合、
症状は、
- 突然の頸部痛
- 徐々に頸部腫大し嚥下困難・呼吸困難
- 皮下出血あり
診断するには、
- 超音波(エコー)・CTで頚部の皮下血腫を確認
-
超音波(エコー)ドプラーモードと造影CTで血腫と甲状腺周囲の異常血管を確認
-
甲状腺動脈血管造影で上下甲状腺動静脈瘻(ろう)を確認
治療は、上下甲状腺動静脈瘻(ろう)に対して動脈塞栓術(TAE)を施行します。
(第59回 日本甲状腺学会 P1-3-2 バセドウ病治療中に甲状腺動静脈瘻による出血を起こした1例)
甲状腺動静脈瘻(ろう)により生じた下甲状動脈瘤破裂の報告があります[Mayo Clin Proc. 1999 May;74(5):485-8.]。
甲状腺動静脈瘻(ろう)超音波(エコー)画像
甲状腺動静脈瘻(ろう)は、甲状腺超音波(エコー)検査では、渦巻(whirlpool)状の血流パターンになります。(EJVES Extra Volume 19, Issue 6, June 2010, Pages e51-e54)
甲状腺外の頸部動静脈瘻
甲状腺外の頸部動静脈瘻として、
- 穿通性外傷後に生じた上甲状腺動脈と上甲状静脈間の頸部動静脈瘻[Chirurg. 1997 Dec;68(12):1304-6.]
- 左椎骨動脈と下甲状腺静脈間の動静脈瘻[J Int Med Res. 2022 Feb;50(2):3000605221078217.]。鎖骨下動脈盗血症候群を起こします。
-
内頸静脈透析アクセスカテーテル留置のため行ったインターベンションで生じた上甲状腺動脈偽動脈瘤および動静脈瘻[Indian J Radiol Imaging. 2015 Jan-Mar;25(1):15-7.]
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,天王寺区,浪速区も近く。