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甲状腺と肝障害(自己免疫性肝炎,原発性胆汁性肝硬変,薬剤性)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科(内分泌骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 年次学術集会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。

長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。肝臓病自体の治療を行っておりません。

Summary

甲状腺機能亢進症/バセドウ病橋本病/甲状腺機能低下症では甲状腺ホルモンにより肝酵素上昇、肝生検しても原因不明。抗甲状腺薬[MMI(メルカゾール)、PTU(プロパジール、チウラジール)]治療に伴う代謝変動、薬剤副作用でも肝酵素上昇。原発性胆汁性肝硬変(PBC)(抗ミトコンドリアM2抗体陽性)、自己免疫性肝炎(抗平滑筋抗体 (ASMA) 陽性)合併も。甲状腺機能亢進症/バセドウ病の肺高血圧症・うっ血肝から心臓性肝硬変。コリンエステラーゼ(ChE)は甲状腺機能亢進症/バセドウ病の代謝亢進で上昇、甲状腺機能低下症で低下。甲状腺機能低下症で二次性肝内胆管減少症。

Keywords

甲状腺,肝障害,自己免疫性肝炎,コリンエステラーゼ,抗ミトコンドリアM2抗体,原発性胆汁性肝硬変,橋本病,甲状腺機能低下症,バセドウ病,甲状腺機能亢進症

甲状腺と肝障害(自己免疫性肝炎,原発性胆汁性肝硬変)・胆石・薬剤性肝障害・肝血管腫

甲状腺ホルモン異常と肝障害

甲状腺機能亢進症/バセドウ病と肝障害

甲状腺ホルモンの肝細胞毒性

甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、甲状腺ホルモンの肝細胞毒性(肝細胞の異常な代謝亢進)により、肝酵素の上昇が見られます(約20%)(World J Gastroenterol. 2008 Jul 14; 14(26):4111-9.)。

他の報告では、未治療甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者の47%に少なくとも1つの肝酵素異常を認め、γ-GTP(74%)、ALT(57%)、ALP(39%)、AST(29%)でした。甲状腺機能正常化後、肝酵素の78%が正常化し、10%が持続的な異常値でした。[Endocrinol Diabetes Metab. 2019 Jul 15;2(4):e00086.]

甲状腺機能亢進症/バセドウ病による肝障害は、特異的な病理組織所見ありません(脂肪沈着・肝細胞壊死・肝実質萎縮・うっ血など何が原因でも起こる変化のみ)(Ann Intern Med 7 ; 687―694 : 1933)。そのため、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に気付かないまま、肝臓内科・消化器内科で肝生検までしても原因が判かりません。

原因不明の肝障害は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病(あるいは、甲状腺機能低下症のことも)の可能性があります。

治療による甲状腺ホルモン低下に伴う代謝変動で肝酵素が上昇

甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療薬の抗甲状腺薬[MMI(メルカゾール)、PTU(プロパジール、チウラジール)]を用いて治療開始すればGPT(ALT)が上昇し、約1カ月してピークになります(ALTピーク)。ALTピーク値と、1か月間の上昇度(ΔALT)は、治療前のFT3値と有意に相関します。つまり、治療による甲状腺ホルモン低下に伴う代謝変動で肝酵素が上昇し、約1カ月後にALTピークに至ると考えられます。(第58回 日本甲状腺学会 O-3-5 バセドウ病のメチマゾール治療後の一過性肝酵素上昇と治療前の甲状腺機能との関係)

隈病院の報告によると、抗甲状腺薬で治療開始1カ月後、53.3%の患者でASTおよびALTが治療前より上昇。アルカリホスファターゼ(ALP)は、治療開始後、徐々に増加し3〜5か月間高値を保ちました。[Thyroid. 2008 Mar;18(3):283-7.]

甲状腺薬[MMI(メルカゾール)、PTU(プロパジール、チウラジール)]の副作用による肝障害

一方で、抗甲状腺薬[MMI(メルカゾール)、PTU(プロパジール、チウラジール)]の副作用による肝障害[メルカゾール6錠で5%・3錠で3.5%(重症0.1%)、プロパジール6錠で15%]の可能性もあります。

メルカゾール誘発性肝障害は胆管性(胆汁うっ滞型)が多いですが、プロピルチオウラシル(プロパジール、チウラジール)誘発性肝障害は肝細胞障害性で、劇症肝炎を含む重症型が多い。(J Clin Endocrinol Metab. 2007 Jun; 92(6):2157-62.)(Ann Pharmacother. 2003 Feb; 37(2):224-8.)

そのため、プロピルチオウラシル(プロパジール、チウラジール)は米国食品医薬品局(FDA)の「ブラックボックスアラート」になっています[J Obstet Gynaecol Can. 2012 Nov;34(11):1077-1086.]。

抗甲状腺薬による肝障害と代謝変動によるALT(GPT)ピークとの鑑別は、リンパ幼若化試験・リンパ球刺激試験(DLST)などが参考になりますが、数日かかるため間に合わず、陽性に出ても断定できない不確かなものです。

隈病院の網野先生は、ALT(GPT)≧150、田尻クリニックの田尻先生は、ALT(GPT)≧100で薬剤性肝障害と考え、抗甲状腺薬を変更すべきとされており、長崎甲状腺クリニック(大阪)ではALT(GPT)≧100を採用しています。[※投薬前からALT(GPT)が正常値を超えている場合は、この限りではない]

また、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)肝障害は、時に劇症肝炎になる場合もあります[抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)で劇症肝炎]。

リンパ球刺激試験(DLST):Ⅳ型アレルギーを診断。薬剤アレルギー症状が見られても、発症直後は陰性が多く、陽性になるのは1~2 ヵ月後で役立たずのことが多い。(午後・休日前は検査センターが受け付けてくれない)

甲状腺機能亢進症/バセドウ病で心臓性肝硬変

甲状腺機能亢進症/バセドウ病による心臓障害・肺高血圧症で、うっ血肝から心臓性肝硬変を起こす事があります。甲状腺機能亢進症/バセドウ病から、高拍出量性心不全心房細動(Af)僧房弁逸脱症肺高血圧症に至り、うっ血肝から心臓性肝硬変に進展。アメリカの報告では、31歳の女性で心臓性肝硬変に進展しています。

‎肝機能障害は、軽度の高ビリルビン血症、凝固障害に至り、腹水も認めます。

(Case Rep Cardiol. 2018 Dec 9;2018:3861340.)(Hepatology. 2003 Feb; 37(2):393-400.)(第55 回日本甲状腺学会 P1-08-01 僧帽弁逸脱症を合併し肝硬変にまで至ったバセドウ病の1 例)

アルコールと甲状腺機能亢進症/バセドウ病

アルコール自体は甲状腺機能亢進症/バセドウ病の活動性、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の効き具合に直接影響しません。

しかし、治療開始して間もなくは、以上のような肝障害の可能性があるため、甲状腺ホルモンが正常化するまで、アルコールの摂取は制限した方がよいでしょう(普段通りの常識的な量は問題なし)。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病で胆汁うっ滞

甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、稀ながら胆汁うっ滞がおきて、直接ビリルビンが上昇する可能性があります。胆汁うっ滞症状と高ビリルビン血症は、甲状腺機能の正常化に伴い改善します。[Zhong Nan Da Xue Xue Bao Yi Xue Ban. 2021 Jan 28;46(1):47-52.][Case Rep Endocrinol. 2017;2017:6087135.]

黄疸と高カルシウム血症を伴う甲状腺機能亢進症/バセドウ病の報告があります。どちらも甲状腺機能の正常化に伴い改善しています。[BMJ Case Rep. 2012 May 8;2012:bcr1120115076.]

甲状腺機能低下症と肝障害

甲状腺機能低下症では、代謝の低下による胆汁うっ滞などで肝酵素の上昇が見られます(約20%)。肝臓内科・消化器内科で肝生検までして、原因不明の肝障害は、甲状腺機能低下症の可能性があります。

非常に稀な、甲状腺ホルモン剤、チラーヂンS錠(一般名:レボチロキシン ナトリウム)の副作用として、添加物として含まれる部分アルファー化デンプン,トウモロコシデンプン,D-マンニトール,三二酸化鉄などによる薬剤性肝障害(アレルギー性肝障害)があります。チラーヂンS錠が原因か調べるにはリンパ球刺激試験(DLST)を」行います。リンパ球刺激試験(DLST)が陽性になれば診断できますが、実際、陽性はめったにありません。

詳しくは、 チラーヂンS錠で副作用 を御覧ください。

院長の執筆

  • ワンポイントアドバイス:見逃されやすい甲状腺疾患1 原因不明の肝障害 (文光堂 メディカルプラクティス)

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コリンエステラーゼ(ChE)と甲状腺

コリンエステラーゼ(ChE)はコリンエステル(細胞膜を構成するコリンが有機酸と結合したもの)を分解する酵素です。肝細胞で産生され、血中半減期がアルブミン(Alb)より短いため、鋭敏に肝臓の蛋白合成能を反映します。

コリンエステラーゼ(ChE)は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病では代謝亢進のため上昇し、甲状腺機能低下症では代謝低下のため低くなります。

コリンエステラーゼ(ChE)が上昇するのは、

  1. 甲状腺機能亢進症/バセドウ病
  2. 過栄養の状態(脂肪肝糖尿病
  3. 代償性にタンパク合成が亢進するネフローゼ症候群
  4. 本態性家族性高ChE血症;無症状で治療の必要ないが、手術時の麻酔に使用される筋弛緩薬サクシニルコリンの分解が速くなり、効果が切れやすい。

などです。

コリンエステラーゼ(ChE)が低下するのは、

  1. 甲状腺機能低下症
  2. 肝臓自体の障害(急性・慢性肝炎・肝硬変
  3. 低栄養状態(急性重症感染症、慢性消耗性疾患、悪性腫瘍)
  4. ChEを失活させる有機リン(農薬や殺虫剤)中毒(極めて低値)
  5. 遺伝性ChE欠損症(極めて低値);無症状で治療の必要ないが、手術時の麻酔に使用される筋弛緩薬サクシニルコリンの分解が遅れ、自発呼吸が回復しにくいため、しばらく人工呼吸器を離脱できない。

などです。

甲状腺ホルモン異常と無関係の体質性黄疸

黄疸

長崎甲状腺クリニック(大阪)では甲状腺機能亢進症/バセドウ病甲状腺機能低下症を問わず、上記の薬剤性肝障害を警戒して、副作用チェック目的で肝臓の数値も調べます。その際、総ビリルビン値だけ高い方が、かなりの頻度でおられます。これは体質性黄疸と呼ばれるもので、病気であって病気でなく、もちろん甲状腺治療薬の副作用でもありません。

体質性黄疸 ジルベール症候群(Gilbert症候群)

ジルベール症候群(Gilbert症候群):日本人の5%に認められ、10歳代で発症する体質性黄疸(病気であって病気でありません)。UGT1A1[肝臓のUDP(ウリジン二リン酸)グルクロン酸転移酵素の1つ]活性の低下が原因です。

UGT1A1は、肝臓における甲状腺ホルモンのグルクロン酸抱合に関与し、rT3(リバースT3)が優先基質です[J Clin Endocrinol Metab. 2000 Aug;85(8):2879-83.]。

ジルベール症候群(Gilbert症候群)は、感染、ストレス、絶食で増悪し、関接ビリルビンが増加。低カロリー食試験、ニコチン酸負荷試験で血清ビリルビン値が上昇します。

動脈硬化糖尿病合併症には酸化ストレスが大きく関与します。血清ビリルビンは抗酸化作用を有し、体質性黄疸を示すジルベール症候群合併糖尿病患者では糖尿病性網膜症糖尿病性腎症糖尿病性心血管疾患の罹患率が低いとされます。[Front Pharmacol. 2021 Mar 12;12:646953.][Diabetes Metab. 2016 Dec;42(6):389-397.][Biomed Environ Sci. 2021 Aug 20;34(8):632-636.]

もともと甲状腺内には、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)・DUOX2(Thyroid oxidase 2)など酸化酵素が豊富で、[]酸化・抗酸化のバランスが崩れると細胞障害を起こしやすい環境です。甲状腺機能亢進症/セドウ病橋本病 、甲状腺乳頭癌 の発症に酸化ストレスが関与するため、抗酸化作用を有するビリルビンが甲状腺の病気に影響を及ぼ可能性はあると思います。[甲状腺と活性酸素とSOD(スーパーオキサイド・ディスムターゼ)]

Crigler-Najjar症候群

Crigler-Najjar症候群も間接ビリルビン優位の高ビリルビン血症を呈する体質性黄疸です。発症年齢が1歳以内で、血清ビリルビン値が6 mg/dL 以上に達することが多い。

原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)

原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)と甲状腺

原発性胆汁性肝硬変(PBC) 超音波(エコー)画像

自己免疫性甲状腺疾患との合併率は高く、

  1. 橋本病/甲状腺機能低下症における肝障害の約20%(特に甲状腺機能低下症で陽性率が高い)
  2. バセドウ病/甲状腺機能亢進症における肝障害の約8%

原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)が存在します。

原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)では血液中の抗ミトコンドリアM2抗体が陽性になります。

橋本病(慢性甲状腺炎)/バセドウ病で甲状腺機能が正常なのに肝臓の数値が高い方は抗ミトコンドリアM2抗体を調べる必要があります。

抗ミトコンドリアM2抗体陽性の橋本病/バセドウ病患者では他の自己抗体も陽性になり、

  1. 抗CCP抗体抗SS-A 抗体がそれぞれ約13%
  2. 抗平滑筋抗体 (ASMA)抗セントロメア抗体がそれぞれ約11%

(第55回 日本甲状腺学会 P2-10-11 甲状腺疾患における抗ミトコンドリアM2 抗体陽性例の検討)

逆に、原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC) の側から見ると

  1. 甲状腺疾患の合併は約16%
  2. 橋本病(慢性甲状腺炎)の合併は約10%
  3. 甲状腺機能亢進症/バセドウ病の合併は約2%
  4. 多結節性甲状腺種の合併は約2%
  5. 甲状腺癌の合併は約1%
  6. その他、甲状腺疾患の合併は約1%

です。

また、甲状腺疾患が原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)の進行に影響する訳ではありません(Am J Gastroenterol. 2017 Jan;112(1):114-119.)。

バセドウ病合併の原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)

初発・再発の甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、

  1. 甲状腺ホルモンの肝細胞毒性による肝機能障害が高頻度に認められる
     
  2. 抗甲状腺薬[MMI(メルカゾール)、PTU(プロパジール、チウラジール)]で治療開始すれば、①甲状腺ホルモンの急激な低下による代謝変動で肝酵素が上昇、②抗甲状腺薬の副作用で肝酵素が上昇する

ため(甲状腺機能亢進症/バセドウ病と肝障)、普通は原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)の合併を考えません。

過去の報告では、

  1. 皮膚掻痒感強く(これは、甲状腺ホルモン過剰亜鉛欠乏症の合併でもあり得ますが)、総ビリルビン値(T-Bil)異常上昇(報告例では31.3 mg/dL)、ALP上昇(報告例では700~800 U/L)を来し、甲状腺クリーゼを疑うような高値になります(第60回 日本甲状腺学会 P2-1-2 原発性胆汁性肝硬変を合併したバセドウ病の1例)
     
  2. 治療開始後、AST/ALTなどが正常化してもALP高値は持続。ALPアイソザイムは骨由来(骨修復によるALP3型、BAP)でなく、主に肝胆由来です
    (Jpn. J. Clin. Immun., 17 (5): 611-616, 1994.)[Clin J Gastroenterol. 2016 Apr;9(2):99-103.]
     
  3. 複数の自己免疫疾患(シェーグレン症候群全身性強皮症(全身性硬化症:SSc)バセドウ病原発性胆汁性肝硬変)を合併[Mod Rheumatol. 2004 Dec;14(6):476-9.]
     
  4. バセドウ病Hurthle細胞腺腫原発性胆汁性肝硬変の合併[Turk J Gastroenterol. 2007 Sep;18(3):198-200.]
     
  5. 原発性胆汁性肝硬変-自己免疫性肝炎(AIH)のオーバーラップ症候群と免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)およびバセドウ病の合併[Intern Med. 2015;54(16):2013-6.

膠原病と原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)の合併

甲状腺以外の自己免疫疾患で見ると、シェ-グレン症候群原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)の最も頻度が高い肝外症状です。合併率は3.5%-73%と報告によりバラツキがあります。

全身性硬化症(SSc)の合併率は1.4%-12.3%とされます。

(Gut Liver. 2017 Nov 15;11(6):771-780.)

原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)

原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)

  1. 中高年女性に多い
     
  2. 無症状で見つかるものが2/3
     
  3. 1/3は皮膚掻痒感(黄疸より早く出る)・黄疸・高コレステロール血症を呈し、甲状腺機能低下症に重なる症状・検査所見
     
  4. 胆汁うっ滞で腸に胆汁が流れにくいために、ビタミンD吸収障害・骨粗鬆症が進行
     
  5. 抗ミトコンドリアM2抗体は心筋障害・心房性不整脈[心房頻脈・心房細動(Af)]との関連が報告されている[Eur Heart J Case Rep. 2023 Jun 28;7(8):ytad292.](第113回日本内科学会 P238 抗ミトコンドリアM2抗体と心房性不整脈の関連について)
     
  6. 抗平滑筋抗体(ASMA)原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)の40%で陽性
     
  7. IgMも陽性
     
  8. 抗核抗体gp210は予後予測因子とされます[J Gastroenterol Hepatol. 1998 Mar;13(3):257-65.]
原発性胆汁性肝硬変(PBC)

原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)の治療は胆石慢性C型肝炎と同じウルソ(ウルソデオキシコール酸、熊の胆汁)投与で、疎水性胆汁酸から肝細胞を保護します。

高トリグリセリド(中性脂肪)血症治療薬のフィブレート系薬剤は、リン脂質排泄の肝細胞保護作用を有する(N Engl J Med. 2018 Jun 7;378(23):2171-2181.)。

予後は様々で、最悪、肝移植を行うこともあります。

自己免疫性胆管炎(AIC)

自己免疫性胆管炎(AIC)は、主に中年女性に発生し、原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)に共通する臨床症状、生化学的異常、病理学的変化を有する慢性胆汁うっ滞性疾患です。ただし、血清抗ミトコンドリア抗体は陰性であり、ANAおよび/または平滑筋抗体の陽性率は高い。[Zhonghua Gan Zang Bing Za Zhi. 2019 May 20;27(5):393-396.]

自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis;AIH)と甲状腺

自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis;AIH)とは

ウイルス感染[A型肝炎、エプスタイン‐バールウイルス (EBV)サイトメガロウイルス麻疹ウイルス]や薬剤は自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis;AIH)発症の誘因で、我が国ではC型肝炎ウイルス血症を伴う自己免疫性肝炎(AIH)が報告されています。

組織適合抗原であるHLA-DR4が関与するとされます。

慢性甲状腺炎(橋本病)(10%)、シェーグレン症候群(7%)、関節リウマチ(RA)(3%)を合併。

抗核抗体(ANA)陽性(74%)、抗平滑筋抗体(ASMA)陽性(40%)になる1型がほとんどで、それらが陰性なら抗肝腎ミクロゾーム抗体(抗LKM抗体)が陽性の2型です。

抗平滑筋抗体 (ASMA)と抗肝細胞膜抗体(LMAb) 保険適応外

抗平滑筋抗体 (ASMA) 

抗平滑筋抗体 (ASMA) は自己免疫性肝炎(AIH)、ルポイド肝炎の80~85%、 原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)の40%程度に高力価で検出される疾患特異的抗体です。

保険適応外なので、保険診療で測定する事はできません。

抗肝細胞膜抗体(LMAb)

原発性胆汁性肝硬変・胆管炎(PBC)、自己免疫性活動性慢性肝炎で陽性。

院長の執筆

  • ワンポイントアドバイス:見逃されやすい甲状腺疾患1 原因不明の肝障害 (文光堂 メディカルプラクティス)

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自己免疫性肝炎(AIH)と甲状腺機能亢進症/バセドウ病の合併

自己免疫性肝炎(AIH)は様々な自己免疫性疾患と合併しますが、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の合併はまれです。しかし、1.8%-6%の合併率という報告もあります(J Clin Gastroenterol. 2010 Mar; 44(3):208-13.)(QJM. 2002 Sep; 95(9):559-69.)

抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)内服開始後の薬剤性肝障害と紛らわしく、特にAST、ALT 数百IU/L に増悪した場合、鑑別診断(肝生検)・リンパ球刺激試験(DLST)が終わるまで抗甲状腺薬を中止せざる得ません。

また例え、薬剤性肝障害が否定され、自己免疫性肝炎(AIH)が確定しても、

  1. 今後も薬剤性肝障害が起きる可能性はあるため、もし起これば自己免疫性肝炎(AIH)を誘発・増悪させる(Nagoya J Med Sci. 2011;73:205–209.)
     
  2. 自己免疫性肝炎(AIH)がコントロールできない場合、最悪、肝臓移植になる(Cureus. 2019 May 11;11(5):e4647.)

など、抗甲状腺薬の再開は難しく、

  1. 手術療法(甲状腺全摘出)(日消誌 2007;104:52―56)
  2. アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療(Cureus. 2019 May 11;11(5):e4647.)

が無難です。

自己免疫性肝炎(AIH)に甲状腺機能亢進症/バセドウ病を合併する場合、

  1. 若年女性が多い(日本消化器病学会雑誌 104 (1) 52-56, 2007.)
     
  2. 混合性結合組織病(MCTD)、腎炎、重症筋無力症など他の自己免疫疾患も合併する事が多い(Endocr J. 1999 Feb;46(1):173-7.)(日本消化器病学会雑誌 104 (1) 52-56, 2007.)
     
  3. プロピルチオウラシル(PTU;プロパジール、チウラジール)による薬剤性肝障害が自己免疫性肝炎(AIH)を誘発・増悪させる(Nagoya J Med Sci. 2011;73:205–209.)

出産後自己免疫性肝炎

出産後自己免疫性症候群として、出産後(無痛性)甲状腺炎は高頻度におこります。稀に、出産後自己免疫性肝炎も合併するケースがあって、甲状腺中毒症による肝障害と鑑別しなければなりません。また、出産後自己免疫性症候群は、出産回数が増えるたびに重篤(重症)化する傾向があるため、1回目より2回目の出産に注意が必要です。

橋本病が基盤にあり、出産後(無痛性)甲状腺炎出産後自己免疫性肝炎を合併した症例では、出産後3 か月目に倦怠感などの症状とともにAST 997 IU/L、ALT 1233 IU/L の肝機能障害を認めるも副腎皮質ステロイド剤投与でし軽快。再度妊娠後は、初回よりも重篤(重症)化する可能性が予見できたため、出産後早期よりステロイドを開始。出産後(無痛性)甲状腺炎は軽度で済み、出産後自己免疫性肝炎もAST/ALT共に最大100 IU/L 前後で終わったそうです。(第56回日本甲状腺学会 P2-062 出産後に重篤な自己免疫性肝炎を発症した橋本病の1 例―2 度の出産経過について―)

出産後自己免疫性肝炎の診断に、抗チトクロム2D6(CYP2D6)抗体測定が抗平滑筋抗体よりも有用との報告があります[Am J Reprod Immunol. 2003 Oct;50(4):355-62.]。

肝内胆管減少症と甲状腺

乳児期に黄疸、皮膚掻痒感、肝腫大、白色便、体重増加不良が起こる原因として肝内胆管減少症があります。その名の通り、肝臓内胆管が減る病気です。血液検査では、総ビリルビン、直接ビリルビン、AST/ALT、総胆汁酸などが上昇。

原因不明の肝内胆管減少症は、非症候性肝内胆管減少症と呼ばれます。原因のはっきりした二次性肝内胆管減少症は

  1. 甲状腺機能低下症
  2. 下垂体前葉機能低下症中枢性甲状腺機能低下症 含む)
  3. 妊婦感染・先天性感染症(サイトメガロウイルス風疹B型肝炎ウイルス梅毒
  4. 染色体異常[ダウン(Down)症候群(21トリソミー)、ターナー症候群]

などがあります。中枢性甲状腺機能低下症などを除く(甲状腺自体が原因の)原発性甲状腺機能低下症は、新生児マススクリーニングで見つかります。

甲状腺機能低下症下垂体前葉機能低下症中枢性甲状腺機能低下症含む)でホルモン補充療法を行うのは当然として、肝内胆管減少症の治療は、

  1. 胆汁排泄を促すウルソデオキシコール酸、フェノバルビタール
     
  2. 痒みにコレスチラミン
     
  3. 脂肪吸収不全に対しては脂溶性ビタミン(ビタミンA, D, E, K)補充、MCTミルク
  4. 重症例では肝移植

甲状腺関連の上記以外の検査・治療     長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区、住吉区、阿倍野区、住之江区、松原市、生野区、天王寺区も近く、堺市、羽曳野市、八尾市、東大阪市、生野区、浪速区も圏内。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

住所

〒546-0014
大阪府大阪市東住吉区鷹合2-1-16

アクセス

  • 近鉄「針中野駅」 徒歩2分
  • 大阪メトロ(地下鉄)谷町線「駒川中野駅」
    徒歩10分
  • 阪神高速14号松原線 「駒川IC」から720m

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