甲状腺眼症:バセドウ病眼症(頻度・病態・症状・発症と増悪の誘因)[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、甲状腺眼症:バセドウ病眼症・橋本病眼症の検査・治療を行っておりません。これらは眼科で行うものです。
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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「バセドウ病悪性眼球突出症」と言う物騒な呼び方をされる事もありますが、命に係わらないので、”悪性”を付けるのはどうかと思います。バセドウ病と橋本病の両方で起こるため、最近は甲状腺眼症と言う表現が使われます。
甲状腺眼症は、主に眼筋(眼を動かす筋肉)、目玉(眼球)の奥にある脂肪組織、瞼(まぶた)などに起きる自己免疫性の炎症が本態です。
Summary
良性眼症は甲状腺機能亢進症によるミュラー筋異常収縮で生じる上眼瞼後退。甲状腺眼症(バセドウ病眼症)はバセドウ病の25-60%(眼窩MRIで8割以上)に発症。約7%が治療を要する活動性バセドウ病眼症。バセドウ病の前後3か月-1年で発症、5-7年でほぼ固まり安定。眼筋炎、球後脂肪織炎、眼瞼炎が主体。症状は、眼瞼腫脹、複視、眼球突出、眼痛、角膜・結膜・涙丘・虹彩・毛様体炎、涙腺炎、眼内圧上昇による視力低下。発症・増悪の誘因はタバコ、I-131アイソトープ治療、甲状腺手術、TSAb高値、TSH高値、高齢など。
Keywords
甲状腺,眼症,バセドウ病眼症,甲状腺眼症,眼球突出,バセドウ病,甲状腺機能亢進症,眼筋炎,球後脂肪織炎,症状
- バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の頻度
- バセドウ病眼症(甲状腺眼症)とは
- バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の病態(一般の方は、飛ばしてください)
- バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の症状
- バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の発症・増悪の誘因
- バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の診断
- バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の活動性の評価
- バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の治療
- 特殊な甲状腺眼症/バセドウ病眼症( 片眼甲状腺眼症 甲状腺機能正常バセドウ病眼症 眼症先行型バセドウ病眼症 遅延型バセドウ病眼症 甲状腺機能低下バセドウ病眼症 内眼筋障害)
バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の頻度は、
- 未治療バセドウ病患者に眼窩(眼球と眼筋・眼の神経など周囲組織が収まる顔面骨のくぼみ)MRIを行うと、8割以上に軽度を含めたバセドウ病眼症(甲状腺眼症)所見を認めます(ただし、全てが治療適応になりません)
- 未治療バセドウ病の約7%に治療を要する中等症以上の活動性バセドウ病眼症(甲状腺眼症)を認めます(第62回 日本甲状腺学会 HSO3-5 バセドウ病眼症の頻度とリスク因子―未治療バセドウ病1702例を 対象とした後方視的検討―)
[Intern Med. 2014;53(5):353-60.][Clin Ophthalmol. 2022 Mar 18;16:841-850.]
- 良性眼症:甲状腺機能亢進症による交感神経緊張で、まぶたを吊り上げるミュラー筋が異常収縮、上眼瞼後退をおこします
- 悪性眼球突出症(いわゆるバセドウ病眼症):自己免疫により、眼筋や球後組織に炎症をおこします
バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の甲状腺機能は亢進しているとは限らず
- 甲状腺機能亢進症(80%)(hyperthyroid Graves’disease)
- 残りは甲状腺機能正常(euthyroid Graves’disease)
- または甲状腺機能低下症(hypothyroid Graves’disease)
バセドウ抗体(TRAb,TSAb)が存在するので眼症は起こりますが、併存する慢性甲状腺炎(橋本病)による破壊が優位なため甲状腺機能低下症になります。TSH高値が増悪因子のため、甲状腺ホルモン補充して甲状腺機能を正常化させると眼症状も軽快します
TSBAb(TSHレセプター抗体[阻害型]、甲状腺刺激阻害抗体)が原因でないとされます(Acta Med Indones. 2012 Apr;44(2):114-21.)。
の3種類です。
[N Engl J Med. 2010 Feb 25;362(8):726-38.][Nat Rev Endocrinol. 2009 Jun;5(6):312-8.]
(図;バーチャル臨床甲状腺カレッジより)
(以下は医師以外では難しい話ですが)バセドウ病眼症(甲状腺眼症)において病態の中心は、後眼窩にある外眼筋、眼窩脂肪織です(その他、涙腺も)。
- 間質にリンパ球浸潤が起こり、腫大した外眼筋では、TNFα遺伝子発現が増加します。外眼筋・後眼窩部結合織線維芽細胞が活性化され、グルコサミノグルカン(ヒアルロン酸など親水性のムコ多糖体)産生が亢進。これらの線維細胞、線維芽細胞はTSH受容体、IGF-1受容体の両方を持っていて、刺激伝達経路が相互作用していると考えられています。そのため、IGF-1受容体をブロックすれば、バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の活動性が低下するとの研究報告があります(J Clin Endocrinol Metab. 2000 Mar;85(3):1194-9.)(Endocr Rev. 2018 Sep 11.)(Endocrinology. 2017 Oct 1;158(10):3676-3683.)。
- 後眼窩組織ではTSH受容体、IGF-1受容体、PPARγ遺伝子、secreted frizzled related protein-1(sFRP-1)[後眼窩脂肪組織由来線維芽細胞を成熟脂肪細胞へ分化させ、TSH受容体の発現を誘導するタンパク]の発現が増加します。IL-6 [インターロイキン(Interleukin)-6]遺伝子も強発現、逆にIL-4やIL-10の発現は減少。
結果、線維芽細胞が①TSH受容体を持つ脂肪細胞へと分化(PPARγ、sFRP-1が関与)、②筋線維細胞(myofibroblasts)へ分化します。そして、脂肪組織の増生、線維素の析出、グルコサミノグリカンの沈着が起こります。
(J Clin Endocrinol Metab. 2000 Mar;85(3):1194-9.)(Thyroid. 1996 Dec;6(6):553-62)(第55回 日本甲状腺学会 O-05-02 バセドウ病眼症におけるIGF-1受容体系の役割:眼症病変部織線維芽細胞における検討)
(図;バーチャル臨床甲状腺カレッジより改変)
上記の機序により、バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の症状は
- 上眼瞼(まぶた)の炎症(眼瞼腫脹);上眼瞼挙筋の炎症
眼瞼後退;過剰な甲状腺ホルモンの作用で、まぶたを持ち上げる平滑筋(ミュラー筋)が異常収縮し、まぶたが完全に閉じなくなる[兎眼(とがん)]
→ドライアイ、角膜や結膜が乾燥して傷が付きやすくなる(乾燥性角膜炎・結膜炎)[Ocul Surf. 2021 Jan;19:83-93.]
睡眠時の涙液減少により、起床後しばらく眼がかすみ、その後、日中で自然回復
加齢による涙液量の減少が元々あると増悪
眼瞼下垂と上眼瞼の開きにくさがあると、眼筋型重症筋無力症の合併を考える - 眼を動かす筋肉の炎症(眼筋炎):複視、斜視、眼球突出(眼筋の伸展障害なので収縮は可能)
- 眼窩内球後(眼球の後の)脂肪組織の炎症と増生(球後脂肪織炎):眼球突出
- 眼筋炎と球後脂肪織炎により視神経が圧迫される→視力障害(圧迫性視神経症)
- 角膜・結膜・涙丘・虹彩・毛様体炎:眼を動かすと痛みなど
眼瞼後退でまぶたが完全には閉じなくなるため、角膜や結膜が乾燥し傷つきやすくなります
バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の1.3%で微生物性角膜炎(細菌性角膜炎)[Ophthalmic Plast Reconstr Surg. 2019 Nov/Dec;35(6):543-548.]
- 涙腺炎:涙液分泌低下 橋本病(慢性甲状腺炎)合併シェーグレン症候群(ドライアイ,口内乾燥)と同じ症状)
- 眼内圧上昇で視力低下
- 視機能低下以外に、顔貌の変化に伴う精神的苦痛とQOLの低下
がおこります。
バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の発症・増悪には遺伝因子と環境因子が関与しています。
バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の発症・増悪の誘因(環境因子)として良く知られているのは、
- 喫煙(タバコ)
- アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療後の甲状腺刺激抗体(TSAb)増加;[バセドウ病眼症(甲状腺眼症)が悪化]
- 甲状腺手術後:炎症性サイトカインや術後甲状腺機能低下症におけるTSH刺激
①特に甲状腺ホルモンが不安定な状態でおこなう甲状腺全摘手術(第55回 日本甲状腺学会 P1-04-04 甲状腺全摘後に増悪したバセドウ病眼症の1例)
②甲状腺ホルモンが安定した状態であっても、腫瘍などの甲状腺半切除(第55回 日本甲状腺学会 P1-04-03 甲状腺左葉切除術を契機に顕在化した甲状腺関連眼症の一例)
③rhTSH投与後3〜6週間でバセドウ病眼症(甲状腺眼症)の再活性化;バセドウ病に発生した甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌に対し、甲状腺全摘出後のI-131 シンチグラフィーで使用[Eur Thyroid J. 2012 Jul;1(2):105-9.]
- TSAb高値>TRAb高値[Int J Endocrinol. 2015;2015:678194.]
- TSH高値;後眼窩組織ではTSH受容体やIGF-1受容体が多く発現しています。
①甲状腺機能低下症;バセドウ病における甲状腺全摘出後甲状腺機能低下症、甲状腺機能低下症/橋本病眼症など
②バセドウ病に甲状腺癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)合併し、甲状腺全摘出後のI-131 シンチグラフィーでrhTSHを投与した時(Eur Thyroid J. 2012 Jul;1(2):105-9.)
- 初診時の年齢が高い、特に高齢男性(Arch Ophthalmol. 1993 Feb;111(2):197-201.)。高齢者バセドウ病では眼球突出は少ないが、眼筋肥大・眼球運動障害は高度(高齢者の甲状腺眼症)[Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2022 Aug;260(8):2727-2736.]。
- 抗サイログロブリン抗体(TgAb)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)両方が陰性[理由は不明ですが、Th2優位のバセドウ病とは異なるTh1優位の橋本病免疫が干渉するとバセドウ病眼症(甲状腺眼症)の活動性が下がるのかもしれません(橋本病とバセドウ病の免疫系と相互移行)](第62回 日本甲状腺学会 HSO3-5 バセドウ病眼症の頻度とリスク因子―未治療バセドウ病1702例を 対象とした後方視的検討―)
- 先端巨大症[成長ホルモン(GH)産生下垂体腺腫]の合併(Med Clin (Barc). 1994 Jul 2; 103(5):179-80.);IGF-lの作用。先端巨大症(成長ホルモン産生下垂体神経内分泌腫瘍)は非甲状腺性眼球突出の3%を占める(Ophthalmology. 1989 Jul; 96(7):1038-47.)。涙腺腫大が原因の場合もある。(Ophthalmic Plast Reconstr Surg. 2004 Jul; 20(4):334-6.)(Indian J Endocrinol Metab. 2013 Oct;17(Suppl 1):S149-51.)
甲状腺眼症患者の喫煙率(オリンピア眼科病院の統計)
全体 | 男性 | 女性 | |
---|---|---|---|
甲状腺眼症患者の喫煙率 | 24.3% | 41.7% | 20.0% |
日本人の平均喫煙率 | 17.7% | 31.4% | 8.2% |
上眼瞼後退(良性眼症)は喫煙の影響なし、眼瞼腫脹・複視・眼球突出度は喫煙者で有意に高率(p<0.01)
(第62回 日本甲状腺学会 O6-3 甲状腺眼症患者の喫煙率)
小児バセドウ病眼症(小児甲状腺眼症)
小児バセドウ病眼症(小児甲状腺眼症) はこちらをご覧ください
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,浪速区,生野区も近く。