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バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の治療[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会の年次学術集会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。

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甲状腺眼症の診断基準と治療指針

甲状腺眼症の診断基準と治療指針(バーチャル臨床甲状腺カレッジより改変) 

長崎甲状腺クリニック(大阪)は内科系の甲状腺専門クリニックです。バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の治療を行っておりません。

Summary

バセドウ病眼症/甲状腺眼症治療は禁煙第一、バセドウ病自体の治療、ステロイドパルス、ステロイド服用、球後放射線照射、軽症の上眼瞼眼炎・眼瞼後退に上眼瞼ステロイド、ボツリヌス毒素の局注注射。EUGOGOでは重篤な肝機能障害や死亡例のためメチルプレドニゾロン総投与量8g 未満を勧告(現実は無理)。I-131 アイソトープ治療で増悪、止も得ず行う場合、3ヵ月間ステロイド剤の予防投与。視神経障害(視力低下)、内眼圧上昇で失明の危険、ステロイド・パルス療法後2週間、球後ステロイド注射で改善なければ緊急眼窩減圧術。活動性が終息後に手術(眼筋手術、眼瞼手術)。

Keywords

バセドウ病眼症,甲状腺眼症,治療,禁煙,バセドウ病,アイソトープ,ステロイド,パルス療法,球後放射線照射,手術

バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の治療は、内科医と眼科医、放射線科医の密接な協力が不可欠です。

未治療バセドウ病の約7%に治療を要する中等症以上の活動性バセドウ病眼症(甲状腺眼症)を認めます(第62回 日本甲状腺学会 HSO3-5 バセドウ病眼症の頻度とリスク因子―未治療バセドウ病1702例を 対象とした後方視的検討―)[Intern Med. 2014;53(5):353-60.][Clin Ophthalmol. 2022 Mar 18;16:841-850.]

禁煙

第一に禁煙:タバコはバセドウ病眼症(甲状腺眼症)の活動性に大きくかかわっており、タバコを吸うとバセドウ病眼症(甲状腺眼症)の活動性が上がり治療抵抗性になります。(Eur J Endocrinol 130: 494-497, 1994.)

バセドウ病自体の治療

通常のバセドウ病治療で、甲状腺機能の正常化をはかり、2次的にバセドウ病眼症(甲状腺眼症)の病態に深い関係のあるTS-Ab(TSHレセプター抗体[刺激型])を減らします。


ただし、I-131 アイソトープ治療後は15%でバセドウ病眼症(甲状腺眼症)が増悪するので避けます。(抗甲状腺剤メルカゾール治療では3%)

喫煙者、治療前の血中T3高値、抗TSH受容体抗体(TRAb)高値などのハイリスク患者に、止も得ずI-131 アイソトープ治療おこなう場合、3ヵ月間のステロイド剤の予防投与(プレドニゾロン20~30mg/日、漸減投与)が必要。

甲状腺全摘出術は、最もTS-Ab(TSHレセプター抗体[刺激型])を減らし、理論上はバセドウ病眼症(甲状腺眼症)を改善しますが、逆に悪化させたという報告もあります。よって、バセドウ病眼症(甲状腺眼症)を改善させる目的で甲状腺全摘出術を勧めるガイドラインはなく、

  1. 抗甲状腺薬のMMI(メルカゾール)、PTU(プロパジール、チウラジール)が使用できない時
  2. 甲状腺機能亢進症/バセドウ病をコントロールできない時

に甲状腺全摘出すれば、バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の改善も期待できると言う事です。

眼球突出の強い、複視をきたす中等症~重症バセドウ病眼症(甲状腺眼症)

眼球突出の強い、あるいは複視をきたす中等症~重症バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の活動期には

  1. ステロイド療法
  2. 球後放射線照射

①ステロイド療法

ステロイド・パルス療法

  1. Daily法(メチルプレドニゾロン 1g/日x3日連続/週x3週など);日本では一般的
  2. Weekly法(①メチルプレドニゾロン 0.5g/日x1日/週x6週、②0.5g/日x1日/週x6週→その後0.25g/日x1日/週x6週);EUGOGO(European Group On Graves' Orbitopathy)が推奨する[Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 2012 Jun;26(3):325-37.]も日本人では治療効果に乏しい(第65回 日本甲状腺学会 R-1 バセドウ病悪性眼球突出症の診断基準と治療指針の作成」甲状腺診療の現状と今後の展望)

→その後、ステロイド内服あるいは眼にステロイド注射

プレドニゾロン0.4~0.5mg/kg/日(20-30mg/日)で内服開始、2-4週ごとに経過を見て減量、3~6ヶ月間かけて維持量・または終了(日本での一般的方法)。(有効率60-80%)

EUGOGO(European Group On Graves' Orbitopathy)は、重篤な肝機能障害や死亡例があるので(特に53歳以上では)メチルプレドニゾロンの総投与量を8g 未満とするように勧告しています(体格や人種差を考慮に入れていない手落ちがある)。(Eur Thyroid J. 2016 Mar;5(1):9-26.)

日本でも、ステロイド大量投与したバセドウ病眼症患者

  1. 4%にAST(GOT)またはALT(GPT)>100U/L の肝機能障害
  2. 6%にALT >300U/L、35%に>40-100 U/Lの肝機能障害。男性、高用量メチルプレドニゾロン投与、50歳以上でおこりやすい。[Int J Endocrinol. 2015;2015:835979.]

しかし、現実には8g 未満で沈静化するバセドウ病眼症は軽度のものに限られます。ミニパルス(1 回投与量500mgx3日x3クール;計4.5g)では古典的な使用量より効果が劣るとする報告が多いです。(第56回 日本甲状腺学会 P2-030 治療に難渋した甲状腺眼症の検討―甲状腺眼症に対するミニパルス療法は十分な治療効果が期待できるか?―)

ステロイド投与前の注意

ステロイド投与前には、

  1. 感染症のチェック(ステロイドによる免疫抑制で増悪の危険性);B型肝炎、結核
  2. 胃・十二指腸潰瘍の既往を確認(ステロイド潰瘍の危険性)
  3. 緑内障の確認(ステロイド緑内障
  4. 高齢者の甲状腺眼症は、
    ①ステロイド投与による不整脈を起こし易いため、事前に心臓専門医(循環器専門医)にコンサルトが良い
    ②ステロイド骨粗鬆症のため、事前に骨量測定、ビスホスホネート予防的投与が好ましい

ステロイド・パルス療法で続発性副腎皮質機能低下症はおこるか?

EUGOGOプロトコルに従いWeeklyステロイド・パルス療法(500 mgメチルプレドニゾロンを週に1回6週間、次に250 mgを週に1回さらに6週間)後、経口プレドニゾンを3か月間で30 mg /日から徐々に減量しても中枢性(続発性)副腎皮質機能低下症はおこらないとされます[Endokrynol Pol. 2017;68(4):430-433.]。

バセドウ病眼症で眼にステロイド注射

バセドウ病眼症の内眼圧上昇で失明の危険がある場合、眼窩組織に直接、懸濁糖質副腎皮質ホルモン剤のトリアムシノロン(トリアムシノロンアセトニド)を注射する球後注射があります。ステロイド球後注射で内眼圧が下がらなければ、緊急手術になります。[Acta Ophthalmol. 2009 Feb;87(1):58-64.]

急性B型肝炎の既往、活動性結核のためにステロイド全身投与ができない場合、ステロイド球後注射で代用する場合があります。全身性の副作用は観察されなかったものの、局所副作用として治療反応性の緑内障がおこったそうです。[J Med Assoc Thai. 2005 Mar;88(3):345-9.]

ステロイド球後注射に球後放射線照射を併用した報告もあります。(第66回日本甲状腺学会 P8-5 放射線治療とステロイド局所注射で改善した甲状腺眼症の2例)

ニューモシスチス肺炎の予防投薬

  1. 30mg以上の大量プレドニゾロン投与が必要とされる場合
  2. プレドニゾロン換算20mg以上で1カ月以上投与する場合

には、ニューモシスチス肺炎の予防投薬が必要。

②球後放射線照射

球後放射線照射(眼球の後ろに放射線を照射。15-20Gy(1.5-2.0 Gy x 10回)/2週、糖尿病性網膜症には禁忌);ステロイドを増量する事なく、効果を強める非常に良い治療です。

球後放射線照射単独の有効率は60%ですが、ステロイドパルス療法と球後放射線照射の併用は有効率88%なので、球後放射線照射が可能な施設には併用療法が推奨されます。[Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000 Oct 1;48(3):857-64.][Radiat Oncol. 2011 May 13;6:46.]

バセドウ病眼症 治療

「バセドウ病悪性眼球突出症の診断基準と治療指針」作成委員会による日本での一般的方法

ステロイドパルス療法前後、治療終了後の計3回治療効果判定のため眼窩MRIを行います。

日本放射線腫瘍学会のガイドラインでは20Gy(2.0 Gy x 10回)/20週や10Gy(1.0 Gy x 10回)/10週でも有効な場合があるとされます。[Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2012 Mar 1;82(3):1285-91.][J Clin Endocrinol Metab. 2000 Jan;85(1):102-8.]

ステロイド・放射線外部照射併用治療中にウイルス感染症

ステロイド・放射線外部照射併用治療中にウイルス感染症おこす事があります。ステロイドや放射線治療によるによる免疫抑制が主たる原因と考えられます。

ステロイドパルスと放射線外部照射併用治療中に単純ヘルペス脳炎を発症した症例が報告されており、免疫抑制下に体内の単純ヘルペスウイルス(HSV)が再活性化されます。バセドウ病眼症(甲状腺眼症)以外にも、原発性・転移性脳腫瘍・下垂体腺腫にステロイド投与や放射線治療した際の単純ヘルペス脳炎も報告されています。

単純ヘルペス脳炎の約70~80%は、体内の単純ヘルペスウイルス(HSV)が再活性化され、側頭葉、前頭葉眼窩回などに急性壊死性脳炎をおこすことが多いです。治療しないと死亡率は60~70%になり、疑われたらウイルスの検出、ウイルス抗体の結果を待たず、即、抗ウイルス薬のアシクロビル投与します。(ヘルペス脳炎 国立感染症研究所

ステロイド・放射線外部照射併用治療は結核再燃に注意

陳旧性肺結核のある方の、ステロイド・放射線外部照射併用治療は結核再燃に注意が必要。まず、肺結核の活動性を否定した後、再燃予防目的で治療時にイソニアジド300 mg/ 日を併用。

非活動期

バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の活動性が終息して、なおかつ複視などの症状が残存する場合には、慢性期手術療法(眼窩減圧術、眼筋手術、眼瞼手術など眼科的機能回復術)が適応になります。

結局、治療前に複視を認めたバセドウ病眼症患の16.5%は最終的に眼科的機能回復術が必要になります(第65回 日本甲状腺学会 R-1バセドウ病悪性眼球突出症の診断基準と治療指針の作成」甲状腺診療の現状と今後の展望)

最重症バセドウ病眼症(甲状腺眼症)

最重症のバセドウ病眼症(甲状腺眼症)は視神経障害(視力低下)や重度の角膜障害を来たすもので、放置すると失明の危険性が高く、早急に治療が必要。ステロイド・パルス療法後2週間で改善なければ、緊急眼窩減圧術が適応。

ステロイド・パルス療法で視力障害が改善しても、今度は複視が顕在化して、最終的に22%は眼科的機能回復術が必要になります(第65回 日本甲状腺学会 R-1バセドウ病悪性眼球突出症の診断基準と治療指針の作成」甲状腺診療の現状と今後の展望)

難治性バセドウ病眼症

ステロイド治療を中止できず、2年以上の投与が続く難治性バセドウ病眼症は存在します。野口病院の報告によると、難治性バセドウ病眼症は治療前のTSAbが高値で、治療後もあまり低下しないのが特徴。

教科書通りにステロイド減量して[1年以上再発ない予後良好群(26例)] vs  [難治性バセドウ病眼症群(9例)]

  1. 治療前TSAb値 (中央値) 1078% vs 3929%(正常値<120%)
  2. 治療3カ月後TSAb値 174% vs 2027%
  3. MRIで炎症を認める外眼筋数 2眼筋 vs 6眼筋

です。(第58回 日本甲状腺学会 O-6-5 長期間ステロイド治療を必要とした甲状腺眼症の検討

また、たとえ元々TSAb値が高くなくてもアイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療後に上昇し難治性バセドウ病眼症を発症するケースがあります。[Clin Endocrinol (Oxf). 2004 Nov;61(5):612-8.]

ステロイド長期投与で大腿骨頭無腐性壊死(大腿骨頭壊死)をおこす危険があります(第65回 日本甲状腺学会 P8-2 RAI療法後に発症した甲状腺眼症に対して施行したステロイド治療が大腿骨骨頭壊死となったバセドウ病の1例)。

近年、分子標的薬のテプロツムマブ(Teprotumumab) などが開発され、難治性バセドウ病眼症に対する効果が報告されています。

軽症バセドウ病眼症(甲状腺眼症)

軽症バセドウ病眼症(甲状腺眼症)は日常生活への障害が軽微なものです。多くは経過観察でも良く、せいぜい、ドライアイ・上輪部角結膜炎にヒアルロン酸点眼や眼軟膏を処方して角・結膜を保護する程度です。上眼瞼眼炎(まぶたの炎症)・眼瞼後退に対しては、眼にステロイド注射を行う場合があります。

軽症バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の報告

バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の上眼瞼眼炎(まぶたの炎症)・眼瞼後退に対し、懸濁糖質副腎皮質ホルモン剤のトリアムシノロン(トリアムシノロンアセトニド)を、まぶたへ皮下注射する場合があります。上眼瞼眼炎・眼瞼後退は視力に関係なく、軽度のものを含めるとバセドウ病眼症(甲状腺眼症)初期から高率に出現するため、緑内障等の副作用リスクを犯してまで行う必要ないと考えます。

久留米大学の報告では、

  1. 眼瞼腫脹に対して眼瞼ステロイド注射を施行した症例(17 例23 眼)では9 眼(39.1%)
  2. 眼瞼後退に対して眼瞼ステロイド注射を施行した症例(14 例15 眼)では11 眼(73.3%)

で改善が認められました。眼球運動障害に対して施行した症例(6 例8 眼)では改善がなかったとの事です。

(第55回 日本甲状腺学会 P2-07-03 甲状腺眼症に対するトリアムシノロンアセトニド局所投与の治療効果)[Int Med Case Rep J. 2018 Nov 9;11:325-331.]

難治性の上眼瞼後退に対しては、ステロイド点眼/局所注射の組み合わせ、あるいはボツリヌス毒素の局所注射が良いかもしれません。

更に軽症バセドウ病眼症(甲状腺眼症)だけの報告

オリンピア眼科病院の報告では、更に軽症バセドウ病眼症(甲状腺眼症)だけに絞り、MRIで上眼瞼挙筋の肥大と炎症が認めた102例116眼を対象とし、上眼瞼挙筋以外の外眼筋肥大がある症例を除外しています。

トリアムシノロン注射(トリアムシノロンアセトニド)20mg/生食0.5mlを上眼瞼に経皮注射。初回注射で眼瞼後退と眼瞼腫脹が改善しない症例・再燃例には約3ヶ月ごとに複数回の注射を施行。

116眼中108眼(93.9%)は平均1.6回(1-4)のトリアムシノロン注射のみで眼瞼症状が消失(64 眼)または改善(44眼)。副作用は8例で生理不順、眼圧上昇は無し。7例8眼でトリアムシノロン注射は眼瞼症状には有効だったが、甲状腺機能亢進TSAb上昇に伴い外眼筋炎に至り、ステロイド全身投与となった(眼症先行型バセドウ病眼症 だったんですね)。

トリアムシノロン(トリアムシノロンアセトニド)眼窩内注射

懸濁糖質副腎皮質ホルモン剤のトリアムシノロン(トリアムシノロンアセトニド)を眼窩内に注射する眼窩内注射により、

  1. 眼瞼腫脹はほぼ全例で改善
  2. 痛み・複視は軽減
  3. 眼球突出・眼球運動障害・外眼筋肥厚はあまり変化なし
  4. ステロイド緑内障をおこす可能性がある[Arq Bras Oftalmol. 2023 Oct 13;86(5):e20230063.]

[Clin Exp Ophthalmol. 2010 Oct;38(7):692-7.][Br J Ophthalmol. 2004 Nov;88(11):1380-6.]

トリアムシノロン(トリアムシノロンアセトニド)眼窩内注射

トリアムシノロン(トリアムシノロンアセトニド)眼窩内注射[Ento keyより改変]

バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の補助治療(放射線球後照射以外)

シクロスポリンA

甲状腺機能亢進症/バセドウ病に合併し、あるいは抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の副作用で起きる再生不良性貧血に使用する免疫抑制剤シクロスポリンAを、副腎皮質ステロイド剤に併用する方法があります。

実際使用された久留米大学の谷 淳一先生曰く、あまり効かないそうです。(第60回日本甲状腺学会 専門医教育セミナーⅡ 甲状腺眼症の内科的治療-現状と今後の展望)

ミコフェノール酸モフェチル

免疫抑制剤ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®)は、中等度/重度の甲状腺眼症において、メチルプレドニゾロン投与後の寛解維持の有用(Clin Ophthalmol. 2021 May 10;15:1921-1932.)(J Endocrinol Invest. 2016 Jun;39(6):687-94.) 

プレドニゾロン・タモキシフェン併用療法が無効なリーデル甲状腺炎Reidel甲状腺炎)に、プレドニゾロン・ミコフェノール酸モフェチル併用療法が有効だった報告があります。‎(Thyroid. 2010 Jan;20(1):105-7.)

ミコフェノール酸モフェチルの頻度不明の副作用として、甲状腺機能低下症、副甲状腺障害(?)、医原性クッシング症候群が添付文書に記載されています。むしろ、ステロイド薬の使用量を減らせるため、医原性クッシング症候群ステロイド糖尿病のリスクが下がるとされます(Clin Exp Nephrol. 2021 Jul;25(7):788-801.)。

リツキシマブ(リツキサン®)

甲状腺原発悪性リンパ腫の治療に用いるリツキシマブ(リツキサン®)が、バセドウ病眼症(甲状腺眼症)に有効(J Clin Endocrinol Metab. 2013 Nov; 98(11):4291-9.)との意見がある一方、無効との意見もあります(J Clin Endocrinol Metab. 2015 Feb; 100(2): 422–431.)。

バセドウ病眼症(甲状腺眼症)に効くかどうかは別にして、バセドウ病抗体(TRAb)の産生を抑え、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の寛解率を上げます(Eur J Endocrinol. 2008;159(5):609–615.)(Clin Endocrinol (Oxf). 2013;79(3):437–442.)。

エタネルセプト(エンブレル®)

関節リウマチでお馴染みのTNF-α阻害薬エタネルセプト(エンブレル®)は、炎症性サイトカインをブロックするため、ある程度効くかもしれません(Eye (Lond). 2005 Dec;19(12):1286-9.)。

ソマトスタチン誘導体

末端肥大症(先端巨大症)治療に使用されるソマトスタチン誘導体もバセドウ病眼症(甲状腺眼症)への効果が報告されています(J Endocrinol Invest. 2004 Mar;27(3):281-7.)。バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の病態で重要な、眼筋や眼窩内脂肪組織での線維増殖や脂肪増殖を促進するインスリン様成長因子1[insulin-like growth factor (IGF)-I ]の産生を抑制するためと考えられます。

テプロツムマブ(Teprotumumab)

海外ではテプロツムマブ(Teprotumumab)がアメリカ食品医薬品局(FDA)よりバセドウ病眼症(甲状腺眼症)治療薬の認可を受けました。日本では活動性甲状腺眼症に対する第3相臨床試験(OPTIC-J)が始まっています。

テプロツムマブ(Teprotumumab)は、インスリン様成長因子1(IGF-1)受容体に対する抗体製剤(分子標的薬、生物学的製剤)です。

テプロツムマブ(Teprotumumab)の単独効果として、眼球突出改善効果(≥2mm減少)はプラセボ群20%、プロツマブ治療群71.4%。

現時点での主な有害事象は、

  1. 糖尿病患者の血糖コントロールが悪化(8%)
  2. 筋痙攣(25%)
  3. 吐き気(17%)
  4. 脱毛症(13%)
  5. 下痢(12%);炎症性腸疾患を悪化
  6. 疲労(12%)
  7. 聴覚障害(10%)

(N Engl J Med. 2017 May 4;376(18):1748-1761.)(Eye (Lond). 2019 Feb;33(2):183-190.)[N Engl J Med. 2020 Jan 23;382(4):341-352.]

しかし、筆者は懐疑的です。効果はいつまで持続するのか?いつまで投与を続けねばならないのか?中止すればバセドウ病眼症(甲状腺眼症)は再燃するのか?まだ未知の部分が多いです。

(Eye (Lond). 2019 Feb;33(2):183-190.)

テプロツムマブ

セレコキシブ(セレコックス®)

痛み止め、抗炎症剤セレコキシブ(セレコックス®);効くわけないと思いますが・・・

アトルバスタチン

LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)値が114.8 -188.7mg/dLの中等症~重症のバセドウ病眼症(甲状腺眼症)患者に、メチルプレドニゾロン静脈注射とアトルバスタチン(コレステロール合成阻害薬)内服を併用すると奏効率が高まったとされます(Lancet Diabetes Endocrinol. 2021 Nov;9(11):733-742.)。

バセドウ病眼症と甲状腺機能亢進症自体の治療との関係

  1. バセドウ病眼症(甲状腺眼症)による眼球突出を伴う甲状腺機能亢進症は、眼球突出が17mm以上では抗甲状腺薬で寛解した後の再発率が高いと言われます。
      
  2. バセドウ病が免疫学的に寛解しない限り、バセドウ病眼症(甲状腺眼症)は再燃する可能性があります。例えば、甲状腺機能を正常に維持しても、TS-Ab(TSHレセプター抗体[刺激型])が正常化しなければ、バセドウ病眼症(甲状腺眼症)は進行します。
      
  3. 甲状腺を全摘出して、TS-Ab(TSHレセプター抗体[刺激型])が下がれば、その後のバセドウ病眼症(甲状腺眼症)は起こりにくいです。
      
  4. I-131 アイソトープ治療後は15%でバセドウ病眼症が増悪します。(抗甲状腺剤メルカゾール治療では3%)
    止もえなずI-131 アイソトープ治療おこなう場合、3ヵ月間のステロイド剤の予防投与(プレドニゾロン 20~30mg/日、漸減投与)が必要。

バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の手術治療

緊急手術

バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の最重症例で、視神経障害(視力低下)のため失明の危険がある場合、ステロイド・パルス療法後2週間で改善なければ緊急眼窩減圧術になります。

眼窩減圧術は

  1. 眼窩脂肪組織を一部切除
  2. 眼窩の骨を一部切除

します。

慢性期手術(眼科的機能回復術)

甲状腺眼症

バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の活動性が停止し、眼筋が肥厚した状態で固まった時。眼筋が眼球を引っ張る力のバランスが悪くなり、両眼が別の方向を向いて焦点が合わなくなります。

正面を見た時、両目の位置にずれが生じる斜視の状態です。斜視では、

  1. 焦点が合わないため、脳内での立体視が出来ず、遠近感がつかめない(事故の原因)
  2. 片目で見ようとするため、眼精疲労が激しい
  3. 見え易いように頚を傾ける(斜頸)ため、肩こり、頭痛が起こる

など、日常生活が、かなり障害されます。

眼筋を一部切除した後、眼球に付け直したり(前転法)、眼筋が眼球に付着する位置を付け変える(後転法)斜視手術が行われます。(眼科的機能回復術)

(図;目の事典、日本眼科学会HPより)

バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の手術治療

美容面(整容面)での手術

思春期や特に若い女性のバセドウ病眼症(甲状腺眼症)で問題なのは(もちろん男性もですが)、顔貌の変化による精神的なダメージでしょう。人前に出るのを遠慮し、社会生活が制限されたり、引きこもりや不登校になる人がいても不思議ではありません。

「人間は外見でなく中身」と割り切れる人は、極少数です。また当事者以外が口にしても、全く説得力はありません。最近では、脂肪切除、ヒアルロン酸注入、眼瞼(まぶた)の微妙な形成など美容外科の技術を応用したバセドウ病眼症(甲状腺眼症)治療に特化した医療機関ができたようです。甲状腺学会でも積極的に演題を出しておられます。バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の手術治療も、新たなステージに入ったようです。

甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

住所

〒546-0014
大阪府大阪市東住吉区鷹合2-1-16

アクセス

  • 近鉄「針中野駅」 徒歩2分
  • 大阪メトロ(地下鉄)谷町線「駒川中野駅」
    徒歩10分
  • 阪神高速14号松原線 「駒川IC」から720m

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