C型肝炎治療・直接作用型抗ウイルス剤(DAAs)・インターフェロンで甲状腺異常・甲状腺癌も発生[橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会学術集会で入手した知見です。
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甲状腺編 では収録しきれない専門の検査/治療です。
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Summary
慢性C型肝炎に①橋本病(慢性甲状腺炎)、潜在性甲状腺機能低下症、顕在性甲状腺機能低下症が高頻度に合併[C型慢性肝炎の肝外症状(HCV症候群)]②輸血歴があると甲状腺癌発生。直接作用型抗ウイルス剤(DAAs)[ジメンシー®;ダクラタスビル/アスナプレビル(DCV/ASV)、ハーボニー®配合錠;ソホスブビル/レジパスビル(SOF/LDV)]で①橋本病[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]誘発②甲状腺機能低下症・甲状腺機能亢進症をおこすがウイルス持続陰性化後に改善③元々の甲状腺機能低下症・潜在性甲状腺機能低下症が改善
Keywords
C型肝炎,ハーボニー,直接作用型抗ウイルス剤,DAAs,甲状腺,甲状腺癌,HCV症候群,甲状腺機能低下症,ジメンシー,橋本病
B型慢性肝炎・B型肝炎ワクチン、急性A型肝炎・急性E型肝炎と甲状腺
肝硬変のノンサイロイダルイルネス、肝性脳症が甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症/バセドウ病で増悪
甲状腺機能亢進症/バセドウ病だけでも、様々な肝臓障害が起こります(甲状腺機能亢進症/バセドウ病と肝障害 )。ウイルス性肝炎(C型慢性肝炎・B型慢性肝炎)と甲状腺機能亢進症/バセドウ病が合併すれば、重篤(重症)な肝不全に至る事があります。報告例では、人工肝補助療法と甲状腺全摘手術を行い、すみやかに肝不全は改善したそうです。(日消誌 2015;112:94―100)
世界中で1億8000万人以上がC型肝炎ウイルス(HCV)に感染し、その約20%が肝硬変に進行しています。
C型慢性肝疾患では、橋本病(慢性甲状腺炎)が高頻度に認められ、また、他の甲状腺疾患の合併頻度も高いことが報告されています。C型肝炎ウイルス(HCV)粒子が甲状腺濾胞細胞内に局在するとの報告もあり、ウイルス自体が甲状腺の免疫機構に影響を及ぼす可能性があります。(Clin Endocrinol (Oxf). 1999 Apr;50(4):503-9.)
慢性C型肝炎の約21%は、潜在性甲状腺機能低下症、顕在性甲状腺機能低下症とされます(Hepatol Int. 2018 Mar;12(2):143-148.)。
橋本病(慢性甲状腺炎)は、C型慢性肝炎により引き起される自己免疫の一つで、C型慢性肝炎の肝外症状(HCV症候群)でもあります(Front Endocrinol (Lausanne). 2017 Jul 7;8:159.)。もちろん、全ての橋本病(慢性甲状腺炎)患者がC型慢性肝炎を持っているわけではありません。
C型慢性肝炎を合併した橋本病(慢性甲状腺炎) 結節性橋本病(橋本病結節)
クリオグロブリン血症
慢性甲状腺炎(橋本病)とクリオグロブリン血症は、どちらもC型慢性肝炎により引き起される自己免疫・リンパ球増殖で、C型慢性肝炎の肝外症状(HCV症候群)としてよく知られます(Front Endocrinol (Lausanne). 2017 Jul 7;8:159.)。(クリオグロブリン血症)
C型慢性肝炎の針刺し事故
C型慢性肝炎を合併した慢性甲状腺炎(橋本病)患者を採血する際に、針刺し事故が起きた場合には、
- C型肝炎の発症率は約1.8%。ただし、感染が成立した場合、慢性化率は60~80%
- 針刺し後、すぐに流水中で傷口から血液を絞り出す
- 1 週間後および2 週間後にHCV-RNA検査をする
C型肝炎に有効なワクチンは未だ実用化されていません。
C型肝炎ウイルス抗体)陽性者
C型肝炎ウイルス抗体のHCV 抗体(EIA)陽性者は、
- HCV感染の既往者(現在、治癒)
- 活動性C型肝炎・肝硬変
- HCVキャリア
に分けられます。1.はHCV-RNA定量検査陰性、2.3.は陽性になります。
C型肝炎ウイルス母子感染
C型肝炎ウイルス感染の既往がある(HCV抗体陽性)妊婦では、
HCV-RNA定量検査「検出」の場合、
- 最大5%で母子感染が発生
- 母乳は原則、禁止しない
- 児に対して定期的な肝機能検査・HCV-RNA定量検査・HCV抗体検査を行う
母子感染が確定しても、約30%は3歳までにC型肝炎ウイルスが自然消失する
- 自然消失しない時は、治療しなければ母子感染後20〜30年で重度の慢性肝疾患と肝臓癌に進行
HCV-RNA定量検査「検出せず」の場合、母子感染の危険性はない。
[Isr Med Assoc J. 2015 Nov;17(11):707-11.]
抗ウイルス製剤により、HCV-RNA 陰性化率が向上し、陰性化の維持は100% 近くになった。それに伴い肝細胞癌(HCC)の新規発生数は減少していますが、HCV-RNA 陰性化してもすでに発がんの引き金は引かれた後の可能性があるため、定期的な腹部超音波検査と腫瘍マーカーの測定が必要。
直接作用型抗ウイルス剤(DAAs)で自己免疫性甲状腺疾患が誘発
ハーボニー®配合錠(レジパスビル/ソホスブビル)やジメンシー配合錠®(ダクラタスビル/アスナプレビル/ベクラブビル)は、C型肝炎ウイルスの核酸合成、タンパク質複製複合体を阻害する直接作用型抗ウイルス剤(Direct acting antivirals:DAAs)です。
作用機序から考えて、甲状腺の副作用は起こらないはずです。しかし、市販後調査では、亜急性甲状腺炎が1例だけ報告されています。また、甲状腺機能低下症をおこした報告も多数出ています[Pol Merkur Lekarski. 2022 Dec 22;50(300):388-390.][J Med Virol. 2019 Mar;91(3):514-517.]。
エジプトの報告では、21.1%でTSH>4.5 μIU/mL に上昇し(甲状腺機能低下症・潜在性甲状腺機能低下症)、3.5%がTSH<0.4 μIU/mL に低下(甲状腺機能亢進症・潜在性甲状腺機能亢進症)。ウイルス学的著効あるいはウイルス学的持続陰性化(SVR)達成後、80%の患者でTSHは改善。[Hepatol Int. 2018 Mar;12(2):143-148.]
筆者の推論ですが、直接作用型抗ウイルス剤(DAAs)によってC型肝炎ウイルスが崩壊する際に放出されるサイトカインが、甲状腺の自己免疫を誘発するのではないでしょうか?
名古屋市立大学病院の報告では、直接作用型抗ウイルス剤(DAAs)治療終了48週(1年)後まで、124名中5名(4%)の女性患者で、自己免疫抗体[抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)・抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)が]新規陽性化。具体的には、
ゲノタイプ1b型 HCV に対し
- ジメンシー®[ダクラタスビル/アスナプレビル(DCV/ASV)];1名/39名(2.6%)
- ハーボニー®配合錠[ソホスブビル/レジパスビル(SOF/LDV)];3名/47名(6.4%)
ゲノタイプ2型 HCV に対し
- ハーボニー®配合錠[ソホスブビル/リバビリン(SOF/RBV)];1名/38名(2.6%)
で甲状腺自己免疫抗体が陽性化。5名の内1名は潜在性甲状腺機能低下症、それ以外は甲状腺機能正常橋本病だったそうです。
(第61回 日本甲状腺学会 O35-1 C型慢性肝疾患を直接作用型抗ウイルス剤で治療した際に起こる 甲状腺機能障害について)
旧世代の直接作用型抗ウイルス剤(DAAs)でも既に自己免疫性甲状腺炎
旧世代直接作用型抗ウイルス剤(DAAs)の第一世代テラビック®(テラプレビル)は副作用が多く、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、関節リウマチの発症が問題になっていました。
直接作用型抗ウイルス剤(DAAs)で甲状腺機能が改善
慢性C型肝炎の潜在性甲状腺機能低下症、顕在性甲状腺機能低下症患者を直接作用型抗ウイルス剤(DAAs)で治療すると80%でTSHが低下し、甲状腺機能が改善するとされます(Hepatol Int. 2018 Mar;12(2):143-148.)。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、インターフェロン(IFN)による甲状腺異常に対処しますが、インターフェロン(IFN)そのものは扱っておりません。
インターフェロンなどサイトカイン製剤で自己免疫性インターフェロン誘発甲状腺炎が誘発。インターフェロンα(IFN-α)製剤投与患者の10~40%で橋本病自己抗体[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]陽性化、または抗体価上昇。大半は治療終了後も抗体陽性のまま。インターフェロン誘発性甲状腺機能低下症は可逆性だが、破壊が強いと永続性甲状腺機能低下症に。甲状腺中毒症はバセドウ病タイプ(少ない)と破壊性甲状腺中毒症タイプ(日本人に多い)に分かれる。インターフェロン製剤投与終了後もバセドウ病のほとんどは寛解せずに残続。
インターフェロン,甲状腺炎,インターフェロンα,橋本病,甲状腺機能低下症,甲状腺中毒症,バセドウ病,破壊性甲状腺中毒症,甲状腺,リバビリン
[Int J Endocrinol. 2009:2009:241786.より改変]
現在は、直接作用型抗ウイルス薬(DAAs)によるC型肝炎ウイルス排除(インターフェロンフリー治療)が主流になり、90%以上で持続的ウイルス陰性化(SVR)[要するにウイルス排除]が可能になりました。また代償性肝硬変、高齢者、透析患者も直接作用型抗ウイルス薬(DAAs)の新たな治療対象に加わりました。
一昔前、慢性C型肝炎治療はペグインターフェロン(PEG-IFN)とリバビリン(RBV)併用療法が主流で、甲状腺機能異常が高頻度におこりました。
インターフェロンなどのサイトカイン製剤投与により甲状腺炎(自己免疫性インターフェロン誘発甲状腺炎)が起こります(Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 2009 Dec;23(6):703-12.)。
- インターフェロンα(IFN-α)製剤を投与された患者の10~40%で橋本病自己抗体[自分の甲状腺を破壊する抗体;抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]が陽性化し、治療前から陽性だった患者ではその値が上昇します。(Am J Med. 1996 Nov; 101(5):482-7.)
大半は、インターフェロン治療終了後も自己抗体陽性のままです(J Clin Endocrinol Metab. 2001 May; 86(5):1925-9.)
自己免疫性インターフェロン誘発甲状腺炎は、これら自己抗体の出現なしでも起こることもあります。
- IFN/リバビリン(RBV)併用療法で6.7%に甲状腺機能を認めたとの報告があります(BMC Endocr Disord. 2005 Oct 12;5:8.)
- IFN/リバビリン(RBV) あるいはペグ-IFN/リバビリン(RBV) 併用療法で12.6%に甲状腺機能異常を認め、危険因子として女性、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性が挙げられる(J Gastroenterol Hepatol. 2006 Jan;21(1 Pt 2):319-26.)
約10%で甲状腺のエコー輝度が低下(grey scale ultrasonography)し、甲状腺内部の炎症が示唆されます。
- インターフェロン誘発性甲状腺機能低下症は可逆性ですが、甲状腺濾胞の破壊が進み過ぎると、非可逆的な永続性甲状腺機能低下症になることがあります。[Med Clin (Barc). 1996 Jun 8;107(2):76-7.]
- インターフェロン治療終了後の長期的な甲状腺機能低下症は、
①発症頻度;約13%、ウイルス学的著効例とウイルス学的無効例で有意差なし
②発症時期;3年以内が約26%、8年以内が約17%、8年以上約17%
筆者が思うに、インターフェロン投与で誘発された橋本病の自己抗体が消えずに甲状腺を破壊し続けた結果でしょう(第61回 日本甲状腺学会 O36-2 ウイルス性肝炎に対するインターフェロン治療後にみられる甲状 腺機能障害の長期経過)
- 甲状腺中毒症は約2.6%に認められ、バセドウ病タイプ(少ない)と破壊性甲状腺中毒症タイプ(日本人に多い)に分かれます。教科書的には「通常、インターフェロン治療を中止する必要はない」とされますが、それは現場を知らない方の意見だと思います。特にバセドウ病タイプでは命の危険(甲状腺クリーゼ/無顆粒球症/劇症肝炎/突然死)を背負い込むのですから、インターフェロン製剤を中止する医療機関も少なくありません。(Am J Med. 1996 Nov; 101(5):482-7.)
しかし、一端、発症したらインターフェロン製剤投与終了後もバセドウ病のほとんどは寛解せずに残続します(Clin Endocrinol (Oxf). 2002 Jun; 56(6):793-8.)。
インターフェロンα(IFN-α)における甲状腺以外の副作用として、
- 初期:インフルエンザ様症状・白血球減少・血小板減少
- 中期(2か月以内):心不全/不整脈・腎不全・糖尿病/中性脂肪増加・うつ/脳神経症状、甲状腺機能異常
- 後期(2か月以降):間質性肺炎
インターフェロン(IFN)βは、甲状腺機能障害と抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)の発現を誘発しないとする報告と、稀ではないという報告の両方があります。自己免疫とは関係なしに甲状腺機能障害をおこす可能性もあります。[Endocr J. 1996 Oct;43(5):545-9.]
うつ病患者ではIFN-αよりIFN-βを使うべきと、ガイドラインに明記されています。
インターフェロン(IFN)βはウイルス性肝炎以外に、多発性硬化症(MS)の再発予防と進展抑制に使われます。
- コントロール困難な心疾患:甲状腺心臓(サイロイドハート)・動脈硬化・糖尿病の心血管障害
- 腎不全:糖尿病性腎症
- 重症うつ病(甲状腺機能低下症・橋本脳症)
- 自己免疫性肝炎
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,浪速区,生野区,天王寺区,東大阪市も近く。