甲状腺と皮膚・脱毛・乾燥肌・前脛骨粘液水腫・爪の変形・白斑[橋本病 バセドウ病 甲状腺機能低下症 甲状腺機能亢進症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。皮膚疾患・脱毛の治療を行っておりません。
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
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Summary
甲状腺機能低下症では皮膚の新陳代謝が悪く乾燥肌、脱毛、さじ状爪、カロチン沈着し黄色、尋常性白斑。甲状腺機能亢進症/バセドウ病では新陳代謝が活発過ぎて皮脂が増えニキビ、汗疹(あせも)、脱毛、肌黒、尋常性白斑、前脛骨粘液水腫(酸性ムコ多糖類蓄積、バセドウ病眼症を同時発症、TSAbと相関)。円形脱毛症は自己免疫疾患なので橋本病(慢性甲状腺炎)・バセドウ病に合併、フロジン液投与。亜鉛欠乏症、シェーグレン症候群合併で更に皮膚乾燥・脱毛。髪の毛を生やすため、昆布(こんぶ)・ひじき・もずく等のヨード(ヨウ素)過剰摂取すれば甲状腺機能低下症が増悪し更に脱毛。
Keywords
甲状腺機能低下症,乾燥肌,脱毛,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,前脛骨粘液水腫,円形脱毛症,橋本病,ニキビ,白斑
3. 亜鉛欠乏自体で、皮膚の乾燥・脱毛がおこりますが、亜鉛欠乏性甲状腺機能低下症もおこると、さらに皮膚の乾燥・脱毛が悪化します。甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモン過剰により、亜鉛の消費が亢進、尿中への亜鉛排泄が増加します。
脱毛は深刻な心理的苦痛や生活の質(QOL)の低下に繋がります。甲状腺ホルモンは、髪の成長サイクルの調節に重要な役割を果たします。そして甲状腺機能障害(甲状腺ホルモンの異常)は、休止期脱毛症、円形脱毛症、男性型脱毛症など、さまざまなタイプの脱毛症に関連しています。[Biomedicines. 2024 Feb 24;12(3):513.]
[髪の成長サイクル Cureus. 2023 Aug 10;15(8):e43266.を改変]
休止期脱毛症は円形脱毛症とは異なり、甲状腺ホルモン値に直接関連します(自己免疫疾患には関連しません)[J Clin Med. 2023 Jan 31;12(3):1115.]。甲状腺ホルモンは毛包に直接作用し、髪の成長サイクルを回して毛根の発育を促します。
甲状腺機能低下症は、表皮および毛包など皮膚付属器の細胞分裂を妨げます。結果、甲状腺機能低下症では髪の成長サイクルが休止して、新しい毛が生えにくく、長く太い毛が抜けます(休止期脱毛症)。[Cureus. 2023 Aug 10;15(8):e43266.]
甲状腺ホルモン剤(レボチロキシン:チラーヂンS)投与で甲状腺機能が回復すれば、大多数の休止期脱毛症は数ヶ月以内に改善します[Thyroid. 2014 Dec;24(12):1670-751.]。(ただし、円形脱毛症は必ずしも改善しません)
一方、甲状腺機能亢進症は頭皮のびまん性薄毛(短く軟らかい毛が抜ける)を引き起こします。髪の成長サイクルが早くなり過ぎるのに加え、ミトコンドリアのフリーラジカル形成など酸化ストレス・活性酸素産生により脱毛が促進されます(免疫非介在性毛髪障害)[Cureus. 2023 Aug 10;15(8):e43266.]。甲状腺機能が回復すれば、大多数の免疫非介在性毛髪障害は数ヶ月以内に改善します[Front Endocrinol (Lausanne). 2023 May 12:14:1167890.]
円形脱毛症と甲状腺疾患は関連することがあり、円形脱毛症の8%に甲状腺機能異常が見られます。円形脱毛症は、最も頻度の高い自己免疫疾患で、同じ自己免疫疾患であるバセドウ病、橋本病の合併は当然と言えます。よって、甲状腺ホルモンが正常であっても、円形脱毛症の合併はあります。
甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能が安定しているバセドウ病の方で、円形脱毛症のある方には、保険治療薬フロジン液が皮膚科などで処方されます。(長崎甲状腺クリニック(大阪)では処方出来ません。)
※甲状腺機能が正常化せず、高値の甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、フロジン液の副作用(顔面~全身の発汗・顔面紅潮・心悸亢進・嘔気/嘔吐)が出やすくなる危険性があります。
副作用は約4%で
- 塗った場所の掻痒感(かゆみ)
- あまりに多量に使った場合、顔面~全身の発汗・顔面紅潮・心悸亢進・嘔気/嘔吐
入浴後、既に血管が拡がった時に使用するとい副作用が出やすく、入浴直後の使用は避けてください。
甲状腺機能低下症/橋本病の場合
甲状腺機能低下症/橋本病の人が、髪の毛を生やすためにと、昆布(こんぶ)・ひじき・もずくの過剰摂取を続ければ、脱毛が増悪します。これは、ヨード(ヨウ素)により
- 甲状腺内の酸化・抗酸化のバランスが狂い、有毒な活性酸素(フリーラジカル)が発生。甲状腺組織の障害が起こります。[甲状腺組織の破壊を促進、橋本病(慢性甲状腺炎)を誘発]
- 甲状腺ホルモンの合成が抑制され続けます(持続性ウォルフチャイコフ効果)。
その結果、甲状腺機能低下症が増悪し、脱毛が増えます。
甲状腺機能正常の橋本病の場合
甲状腺機能正常の橋本病の場合、甲状腺ホルモンは正常なので、甲状腺機能低下症による脱毛はありません。しかし、長崎甲状腺クリニック(大阪)では、ヨード(ヨウ素)過剰摂取を制限した甲状腺機能正常の橋本病の方で、甲状腺の慢性炎症の改善と同時に、脱毛も改善した方がおられます。
理由は不明ですが、私見として、甲状腺の慢性炎症の改善に伴い、甲状腺組織の破壊により血中へ放出される抗原(サイログロブリン、甲状腺ペルオキシダーゼなど)が減り、それらに対する自己抗体[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]も減少すると考えられます。これは、橋本病の自己免疫を担うヘルパーT細胞の活性化が低下することを意味し、サイトカインの作用により連鎖的に毛根などに自己免疫を担うT細胞の活性化も抑制されるのではないか?との仮説(自説)に辿り着きました。
小児の円形脱毛症は、特に甲状腺の病気に関係します。円形脱毛症の小児の20%が甲状腺の病気で、
- 甲状腺機能低下症(49%)最多[原因は橋本病(慢性甲状腺炎)によるものが多い]
- 橋本病(慢性甲状腺炎)[甲状腺機能正常橋本病、潜在性甲状腺機能低下症性橋本病、甲状腺機能低下症性橋本病](41%)
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病(20%)
- 潜在性甲状腺機能障害(亢進症、低下症)(12%)
(JAMA Dermatol .2017 Dec 1;153(12):1307-1310.)
フィナステリド(プロペシア錠®)やミノキシジル(リアップ®)は男性型脱毛症に有効です。ミノキシジル1%外用液は女性にも効果が報告されていますが、女性の男性型脱毛症に限定され、自己免疫性の円形脱毛症には効きません(Eur J Dermatol. Jan-Feb 2007;17(1):37-44.)。
ミノキシジル(リアップ®)5%外用液、フィナステリド(プロペシア錠®)も、もちろん効果ありません(Cochrane Database Syst Rev. 2016 May 26;2016(5):CD007628.)(J Am Acad Dermatol. 2000 Nov;43(5 Pt 1):768-76.)。
関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、新型コロナウイルス肺炎に使用されるJAK阻害薬[ヤヌスキナーゼ阻害剤]のバリシチニブ(オルミエント®)が、円形脱毛症にも保険適応になりました。ただし、頭皮の50%以上が脱毛し、過去6カ月間で毛髪の自然再生がない場合に限定されます。[N Engl J Med. 2022 May 5;386(18):1687-1699.]
甲状腺癌患者では
- 髪が乾燥し、もろくなり、切れ毛になりやすい(腫瘍性脱毛症)[Dermatol Res Pract.2016:2016:6279108.]
- メラニン産生の乱れにより毛髪色が変化[Cureus. 2023 Aug 10;15(8):e43266.]
バセドウ病、橋本病に合併するシェーグレン症候群・全身性エリテマトーデス(SLE)でも脱毛がおこります。しかも、これらの膠原病は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺機能低下症/橋本病と症状が似ている所が多く、甲状腺の病気に重複して隠れている可能性があります。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、脱毛があれば、甲状腺の病気と同時に抗核抗体(ANA)、抗SS-A抗体も調べます。
前脛骨粘液水腫
バセドウ病では、脛(すね)の前部(前脛骨部)や足背皮膚が「瘤(こぶ)」の様に発赤し厚くなります(前脛骨粘液水腫)。バセドウ病に特異的な皮膚病変です。
これは粘稠な(ネバネバした)ヒアルロン酸(酸性ムコ多糖類、グルコサミノグリカン)が真皮に溜まるためで、オレンジ皮のようになります(境界明瞭な淡紅色~茶褐色の扁平隆起、毛孔の開大や多毛)。弾力性があるため、指で押しても跳ね返ってきて跡が残らない非圧痕性浮腫(nonpitting edema)です。通常痛みはありません。
前脛骨粘液水腫は、真皮の線維芽細胞がTSH受容体を介する刺激で酸性ムコ多糖類を産生するために起こります(An Bras Dermatol. 2015 May-Jun; 90(3 Suppl 1):143-6.)。
バセドウ病眼症、バセドウ病バチ指/バセドウ病関節症と同じ機序で、全てそろうとEMO症候群と呼ばれます。しかし、バセドウ病眼症とは異なり、甲状腺機能亢進症に同時発症しません。(J Am Acad Dermatol. 2003 Jun; 48(6):970-2.)(Am J Clin Dermatol. 2005;6(5):295-309.)
大抵、バセドウ病眼症を伴っているが、稀に前脛骨粘液水腫単独の場合もある[Arch Argent Pediatr. 2023 Apr 1;121(2):e202202615.]。
伊藤病院の統計では、日本における下肢粘液水腫(前脛骨粘液水腫を含む)の有病率は0.18%とされます(第66回 日本甲状腺学会 O3-4 バセドウ病に合併する下肢粘液水腫の臨床像)。
前脛骨粘液水腫は、
- 喫煙者、男性の比率が多い(バセドウ病自体は女性が多い)
- 症状の重症度は甲状腺ホルモンの値とは関連せず、TRAb(TSHレセプター抗体)< TSAb(TSHレセプター抗体[刺激型]、甲状腺刺激抗体)価に相関
[Am J Clin Dermatol. 2005;6(5):295-309.]
実際の臨床現場では、下肢粘液水腫単独で存在するのではなく、甲状腺機能亢進症による
- 低アルブミン血症
- 高拍出量性心不全
による非粘液水腫性浮腫が混在します。
前脛骨粘液水腫の治療は
- (上の写真のように軽いものであれば)ステロイド軟こう局所塗布が一般的で、改善に一年以上かかります。[Intern Med. 2010;49(7):665-9.]
- (以下の写真の様に、特に女性で整容上の問題が生じる場合)
①ステロイド注射薬のトリアシノロンアセトニド水濁注の局所注射(J Clin Med Res. 2015 Nov; 7(11):862-72.)[Int J Low Extrem Wounds. 2014 Jun;13(2):152-154.]②ステロイド軟膏密封療法[Intern Med. 2010;49(7):665-9.]③ムチン沈着症で有効とされる308nmエキシマライトによるターゲット型紫外線治療(VTRACTM)
④ステロイド内服による全身投与も教科書に書いてあります。しかし、命に影響ない前脛骨粘液水腫のために、全身に副作用の出るステロイド剤を長期間飲むのもどうかと思います。
- バセドウ病眼症(甲状腺眼症)治療薬のテプロツムマブ(Teprotumumab)[JCEM Case Rep. 2023 Jan 23;1(1):luac037.]
象皮症様前脛骨粘液水腫
象皮症様前脛骨粘液水腫は、重症の前脛骨粘液水腫です。両下肢の前脛骨部から足背にかけ、境界明瞭だが発赤し、表面は隆起して瘤状・硬い腫瘤で圧痕無く(オレンジ皮様、象皮症様)、足全体が腫脹します。
ステロイド軟膏で改善なければ、ステロイド内服が有効な事があります(さすがに、この状態ではステロイド内服・ステロイドパルスも止む無し)。
成田赤十字病院の報告では、プレドニゾロン(PSL)20mg/日x 4 週間投与、以後2週間で5mgずつ漸減、全行程10週間を1 クールとし
- 1 クール終了後、靴を履けるようになるも、1ヶ月で浮腫増悪
- 2 クール終了後、歩行可能となるも、皮膚発赤や浮腫が消失せず
- 3 クール終了後、改善
に至ったそうです(第57回 日本甲状腺学会 P2-017 低容量ステロイド内服療法が奏功した象皮症様前脛骨粘液水腫の1 例)。
かなり長期間ステロイド内服を続けねばならない様です。
EMO症候群・バセドウ病眼症の同時発症
EMO症候群やバセドウ病眼症を同時に発症し、しかもバセドウ病眼症は難治性あるいはバセドウ病自体も再発を繰り返してコントロール不良の場合、甲状腺全摘術を行えばバセドウ病抗体(TRAb,TSAb)も低下し、前脛骨粘液水腫も改善しやすなります。(前脛骨粘液水腫だけで甲状腺全摘術は、なかなか難しいですが・・)(第55回 日本甲状腺学会 P1-04-08 EMO症候群を合併したバセドウの一例)
しかし、甲状腺全摘術後もバセドウ病抗体(TRAb,TSAb)が高値なら前脛骨粘液水腫を発症する可能性があります[N Z Med J. 2008 Oct 3;121(1283):108-9.]。
一方、甲状腺全摘術後、
- バセドウ病眼症悪化に伴いEMO症候群に進展する場合もあります。[Minerva Endocrinol. 2004 Jun;29(2):71-5.]
- 急性前脛骨粘液水腫を発症することも[N Z Med J. 2008 Oct 3;121(1283):108-9.]
また、群馬大学の報告では、バセドウ病眼症にステロイドパルス療法2クールとプレドニゾロン後療法を実施すると、1クール後から前脛骨粘液水腫が軟化、2 クール後より前脛骨粘液水腫の部分的縮小を認めたそうです(第60回 日本甲状腺学会P2-2-3 バセドウ病眼症に対するステロイドパルス療法後に部分的縮小を 認めた脛骨前粘液水腫の1例)。
バセドウ病眼症悪化に対するステロイド投与でEMO症候群がすべて改善した報告もあります。[Minerva Endocrinol. 2004 Jun;29(2):71-5.]
バセドウ病眼症と同様に、I-131 アイソトープ治療後に前脛骨粘液水腫が発症・増悪する事があります。[Intern Med. 2010;49(7):665-9.](第56回 日本甲状腺学会 P2-118 バセドウ病治療後に悪化した脛骨前粘液水腫の一例)
限局性でなく、びまん性粘液水腫
明らかに皮膚の色が変わって美容上問題になる限局性前脛骨粘液水腫ではなく、皮膚の色は変わらないものの、下腿全体がびまん性に腫れる粘液水腫は、かなりの頻度で存在します。神経質なバセドウ病女性の方は、「足がむくむ」と言われますが、大抵は軽症で、「立ち仕事、座り仕事のせいか?」で終わっている事が多い。[Eur J Endocrinol. 2011 Apr;164(4):605-11.]
やはり、溜まっているのは粘稠なヒアルロン酸(酸性ムコ多糖類、グルコサミノグリカン)なので弾力性があります。押したらすぐ元に戻るが、へこんだままなら、ヒアルロン酸でなく水分です。甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心不全、低蛋白血症などによる浮腫(むくみ)が考えられます[甲状腺機能亢進症/バセドウ病のむくみ(浮腫)]。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病自体が治療により改善すれば、びまん性粘液水腫に関連するTSAb(甲状腺刺激抗体)も低下し、結果、びまん性粘液水腫も改善します。
リポイド類壊死症
バセドウ病では稀に、前脛骨粘液水腫と異なるリポイド類壊死症の学会報告もあります。リポイド類壊死は糖尿病患者の下腿部に生じやすい。微小血栓により真皮の膠原線維が変性し、非感染性肉芽腫を形成するのが原因。
- 類円形・不整形の紅褐色(橙色)局面、萎縮、色素沈着、光沢、毛細血管拡張を伴う
- その中に胡桃大程度の灰褐色斑も散在、軽度陥凹、潰瘍化することもある
- 境界明瞭な赤褐色から黄色のプラークに拡大
- 熱感・圧痛・硬結なし
- 非圧痕性浮腫(non pitting edema) なし
(第57回 日本甲状腺学会 P1-039 両下腿に脂肪類壊死様の皮疹を併発したバセドウ病の1 例)
リポイド類壊死症の治療は、外用ステロイド剤、抗血小板薬。治療に反応せず慢性に経過する事が多い。
また、橋本病(慢性甲状腺炎)に伴うリポイド類壊死症の報告もあります。浮腫性、浸出性で掻痒感、灼熱感があり、局所ステロイド+レチノイン酸投与に反応性良好で、前述のケースとは異なります。[Dermatol Online J. 2011 Oct 15;17(10):18.]
甲状腺機能低下症と爪の変形
甲状腺機能低下症では、爪が正常の場合に比べて弱くなり、変形を認める事があります。匙状爪(さじじょうつめ、スプーンネイル)とよばれ、
- 爪の中央部分がスプーンのようにへこんで先が反りかえる
- 健康な爪よりも厚く、茶色や灰色などに変色
- 縦に亀裂が入る
などの特徴があります。
匙状爪は鉄欠乏性貧血でも見られ、甲状腺機能低下症では鉄欠乏性貧血を起こします(甲状腺に合併する鉄欠乏性貧血)。また、神経性食思不振症などによる極度の栄養失調でも起こります。
甲状腺機能亢進症で爪がはがれる
爪甲剥離症は、爪甲が末梢側(先の方)から剥離して(はがれて)きますが、完全に脱落しません(要するに爪がはがれるが、完全に取れない)。
爪甲剥離症(そうこうはくりしょう)の原因は、
- 外傷、拷問
- マニキュア、洗剤(爪甲部皮膚の炎症)、薬剤(抗がん剤パクリタキセルなど)(Drug Des Devel Ther. 2017; 11():2373-2376.)
- 爪カンジダ症[APS(多腺性自己免疫症候群)1型]、緑膿菌感染(Dermatol Clin. 2015 Apr; 33(2):175-83.)
- 甲状腺機能亢進症(プランマーズ・ネイル:Plummer's nail)(Endocr Pract. 2008 Jan-Feb; 14(1):132.)
- 萎縮性甲状腺炎による甲状腺機能低下症でも報告がある(Intern Med. 2018 Oct 15;57(20):3055-3056.)
- 全身性強皮症(SSc)・乾癬(J Am Acad Dermatol. 2017 Nov; 77(5):863-867.)
- 末梢循環障害(手先の血流障害)・貧血
です。
萎縮性甲状腺炎による甲状腺機能低下症でも爪甲剥離症(Intern Med. 2018 Oct 15;57(20):3055-3056.)。
後天性に生じる境界明瞭な脱色素性の白斑(皮膚のメラニン色素がなくなり、色が抜けた病変)を尋常性白斑と言います。自己免疫疾患、特に自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病、橋本病)の合併率が高い事が知られています。また、1型糖尿病、アジソン病(自己免疫性副腎皮質機能低下症)、悪性貧血・自己免疫性萎縮性胃炎などの合併も報告されています。
尋常性白斑の原因は不明な点が多いですが、抗メラノサイト抗体やメラノサイト傷害性T細胞などの自己免疫説が有力です。
美容上の問題以外に、白斑は重度の日焼けを起こすリスクのため、衣服や日焼け止めで遮光する必要あり。
尋常性白斑の治療は、ステロイド軟こう、タクロリムス軟膏、紫外線療法などです。
APS(多腺性自己免疫症候群)に合併した白斑症[BMJ Case Rep. 2010 Aug 19;2010:bcr1120092426.]
浮腫性硬化症は、頸部・上背部・肩の皮膚真皮に膠原線維の膨化断裂とムチン(ヒアルロン酸を主体としたグリコサミノグリカンとプロテオグリカン)沈着がおこり、浮腫状に硬く厚くなる(板状硬結)病態です。まれに
- 糖尿病[J Dermatol. 1998 Feb;25(2):103-7.]
- 甲状腺機能低下症[臨床皮膚科 1996;50(6):420-422.]
- 溶連菌感染後
- カルチノイド症候群[Int J Dermatol. 2009 Jul;48(7):784-6.]
- インスリン産生腫瘍(インスリノーマ)[Br J Dermatol. 1992 May;126(5):527-8.]
- 関節リウマチ、シェーグレン症候群
- 骨髄腫
に合併します。
浮腫性硬化症の治療はビタミンE内服、ステロイド剤外用、光線療法、免疫抑制剤。
最近、保険診療外(自由診療)の育毛治療でPRP(Platelet-Rich Plasma;自己多血小板血漿)療法が用いられています。ある意味、再生医療の一つです。
自分の血液から分離濃縮した自己多血小板血漿(PRP)を、病変の皮下に注射すると、血小板由来の高濃度の増殖因子(成長因子)により皮膚・毛根の組織が活性化される治療です(本当に毛が生えるかどうかは知りませんが)。
しかし、この治療は、健康な成人に限定され、甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺がん等、甲状腺の病気を持っている人はほとんどが対象外になります。
筆者はPRP(自己多血小板血漿)育毛療法、アンチエイジングに詳しくありませんが、成程、行っている医療機関のHPを見ると、以下の病気を持っている方は治療を受けれないようです(理にかなっています)。
- 自己免疫疾患(当然、自己免疫性甲状腺疾患の橋本病、バセドウ病含む)
- 甲状腺機能異常(甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症)
- 膠原病 (橋本病、バセドウ病に合併する関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群、皮膚筋炎など)
- 悪性腫瘍(当然、甲状腺がん含む)
PRP(自己多血小板血漿)治療の性質からして、当然でしょう。血小板由来のサイトカイン、成長因子が放出されれば、
- サイトカインのバランスが崩れ、橋本病、バセドウ病、その他、膠原病を含む自己免疫疾患は悪化する恐れがあります。
- 甲状腺機能異常(甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症)では血液の凝固系に異常が生じ、あるいは狭心症・心筋梗塞が起こり易い状況であるため、凝固因子である血小板が活性化された状態は危険。
- 甲状腺がんに至っては、成長因子が癌細胞を増殖させる危険性があります。
男性型脱毛症(AGA)は、頭頂部(頭のてっぺん)や前頭部(額の生え際)から髪の毛が後退します。毛が薄くなり、弱い毛が残ります。男性型脱毛症(AGA)の原因は、5α-リダクターゼ酵素により男性ホルモン(テストステロン)から生成されるDHT(ジヒドロ・テストステロン)です。DHT(ジヒドロ・テストステロン)が毛乳頭細胞の男性ホルモン受容体に結合、脱毛を誘発します。
男性型脱毛症(AGA)は前立腺がん・前立腺肥大症(BPH)との関連が報告されています(Urol Oncol 2018 Feb;36(2):80.e7-80.e15.)。(男性型脱毛症(AGA)と前立腺)
男性型脱毛症(AGA)と甲状腺の病気との関連は報告されていません。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,東大阪市,天王寺区,浪速区も近く。