癌と確定できない、または癌ではない甲状腺腫瘍の手術適応[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学附属病院(現、大阪公立大学附属病院) 内分泌骨リ内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
甲状腺癌と確定できない、または癌ではない甲状腺腫瘍の手術適応は①4cm以上(相対的適応)②増大傾向(甲状腺癌を否定できない、増大傾向の腺腫様甲状腺腫は約3%、濾胞性腫瘍は約18%が癌)③血中サイログロブリン値1000ng/mL以上(甲状腺癌を否定できない、甲状腺乳頭癌では有用性なく甲状腺乳頭癌を除くと46%が甲状腺濾胞癌)④超音波エコー検査・細胞診で甲状腺癌を完全に否定できない⑤気管食道などを圧迫、息しにくい、飲み込みにくい⑥縦隔内進展⑦美容上の問題(首が腫れている)⑧何度、穿刺排液しても液がたまる巨大のう胞腺腫(巨大嚢胞腺腫)。
Keywords
甲状腺腫瘍,手術適応,甲状腺癌,サイログロブリン,超音波,エコー,検査,濾胞性腫瘍,縦隔,濾胞癌,腺腫様結節
癌と確定できない、または癌ではない甲状腺腫瘍の手術適応は
- 大きさが4cm以上(あくまで相対的適応で、絶対的な手術適応ではありません)
- 増大傾向(要するに甲状腺癌を否定できない)
- 血中サイログロブリン値が1000 ng/mL 以上(要するに甲状腺癌を否定できない)
- 超音波(エコー)検査・細胞診で甲状腺癌を確定できないけれども、疑いが濃い
- 気管食道などを圧迫し、息がしにくい、飲み込みにくい
①閉塞性睡眠時無呼吸症候群 (OSAS)・慢性肺胞低換気
②窒息・CO2ナルコーシス
をおこす危険のため
- (良性)のう胞腺腫(嚢胞腺腫)[単に、のう胞(嚢胞)と呼ばれる事が多い]で、気管食道などを圧迫し、息がしにくい・飲み込みにくいなどに加え、穿刺排液困難や何度、穿刺排液してもすぐに液がたまる巨大のう胞腺腫(巨大嚢胞腺腫)
- 縦隔内に進展している(狭い場所なので気管食道/大血管・心臓などを圧迫します)(縦隔内甲状腺腫)
- 腫瘍自体が甲状腺ホルモンを産生する機能性結節[バセドウ病の抗体が陰性の甲状腺機能亢進症-甲状腺機能性結節(機能性甲状腺腫)]
- 若い女性など美容上の問題(首がモコッと腫れているのが見てわかる場合);ただし、手術の跡は目立たないけれど、よく見れば分かる程度(サッカーのK.H.選手位には)
(甲状腺腫瘍診療ガイドラインより改変)
腺腫様甲状腺腫は、良性の過形成結節(要するに正常な細胞が過度に増殖して腫瘍様になったもの=腺腫様結節)ですが、一部癌化している場合があります。特に大きい腺腫様結節は、穿刺細胞診しても癌化している極一部の組織を採る事は難しい(プールの水をスプーンですくう様なもの)。
また、濾胞性腫瘍は、良性濾胞腺腫と悪性の甲状腺濾胞癌の総称です。この2つは細胞の大きさ・性状がほぼ同じなので、細胞診による鑑別難。明らかな転移や、甲状腺外への浸潤を、超音波(エコー)やCT等で見つければ甲状腺濾胞癌が確定しますが、それ以外は手術標本でしか鑑別できません。
よって、腺腫様甲状腺腫、濾胞性腫瘍において甲状腺癌の確定診断を下せない場合、甲状腺癌の可能性が高いと考えられる条件がそろえば、治療的診断を目的として摘出手術になります。
その条件は、前項の如くです。 (腺腫様甲状腺腫、濾胞性腫瘍)
甲状腺濾胞癌であると、患者も医師も分かった上での未分化形質転換(未分化転化、甲状腺未分化癌になる)ならば仕方ありません[Cureus. 2022 Nov 29;14(11):e31999.]。
しかし、良悪性を鑑別できないままの濾胞性腫瘍が未分化形質転換(未分化転化)した場合(第66回 日本甲状腺学会 O6-1)、いきなり平均余命数カ月という事態になって、「こんなことなら手術しておけばよかった。」と悔やむかもしれません。
長崎甲状腺クリニック(大阪)の方針として、少しでも甲状腺濾胞癌の可能性がある濾胞性腫瘍は手術を検討するよう勧めています(それでもしない人は一定数いますが・・・)。
4cm以上の甲状腺腫瘍(甲状腺結節)が癌である確率は、報告によりますが、13.5-26%です。偽陰性率は10.4%とされます。[World J Surg. 2014 Mar;38(3):614-21.][Surgery. 2007 Dec;142(6):837-44; discussion 844.e1-3.]
もちろん、腫瘍全体が癌と言うわけではなく、部分的に癌化している場合の方が多い。よって、たとえ穿刺細胞診が良性でも、癌を否定できません。4cm以上の甲状腺腫瘍から2-3発、穿刺細胞診しても、プールからスプーンで2-3回、水をすくうようなもの。運よく癌化している部分を採取できる可能性は低い。
4cm以上の濾胞性腫瘍に限定すると、21.4-52.6%になります。(表:第16回隈病院甲状腺研究会より提供)
増大傾向の甲状腺腫瘍(甲状腺結節)が癌である確率は、
- 腺腫様甲状腺腫では約1%
- 濾胞性腫瘍では約18%と高率
です。(表:第16回隈病院甲状腺研究会より提供)[Thyroid. 2015 Jul;25(7):804-11.]
甲状腺乳頭癌については、血中サイログロブリン値が診断にあまり有用でないとの報告が多い。[Eur J Surg Oncol. 1998 Dec;24(6):553-7.]
甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)で遠隔転移のある場合には、血中サイログロブリン値が5千~2万 ng/mL 以上(正常値33.7 ng/mL 未満)になる事もあります。[Endocrine. 2018 Oct;62(1):26-33.]
サイログロブリンの詳細については、サイログロブリンを御覧ください。
実際に、巨大な腺腫様甲状腺腫でCO2ナルコーシスを起こした報告があります。意識障害(室内気でSpO2 36%😱)で救急搬送され、O2 10L吸入下でSpO2 80%、血液ガス;pH<6.8、PCO2 139 mmHgのCO2ナルコーシス状態。CTで気管最狭窄部が6.5mm(4年前)→3.5mmと進行していたそうです。気管圧迫症状(息がしにくい)が無くても、重度の気管狭窄があれば手術を考慮した方が良いと思います。(第61回 日本甲状腺学会 O32-1 巨大な腺腫様甲状腺腫によりCO2ナルコーシスをきたした一例)
巨大甲状腺腫瘤による気管圧迫で窒息を起こした報告もあります。SpO2 は高流量酸素吸入下で約90%、危篤状態だが、巨大甲状腺腫瘤のため気管挿管できず、ECMOを用いて全身麻酔下で甲状腺全摘術+気管切開を行う。[Lin Chuang Er Bi Yan Hou Tou Jing Wai Ke Za Zhi. 2021 Sep;35(9):842-844.]
このようになる前に、手術に踏み切るべきだと筆者は考えます。
腺腫様甲状腺腫でも咽喉頭圧排と浮腫により、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)を起こすとされ、甲状腺全摘出で改善します(J Laryngol Otol. 2012 Feb;126(2):190-5.)。
縦隔内甲状腺腫 を御覧下さい。
頻回に穿刺排液しても液がたまる巨大のう胞腺腫(巨大嚢胞腺腫)は、良性腫瘍(のう胞型濾胞腺腫:嚢胞型濾胞腺腫)であっても手術適応になります。単に、のう胞(嚢胞)と呼ばれる事が多いですが、甲状腺組織の破壊・変性によるものでなく、れっきとした腫瘍です。
には、穿刺排液しますが、中の液体は粘稠なため、通常穿刺針での排液は困難(すぐに詰まってしまう)。太い針でも完全に抜けない事が多いです。18G(ゲージ)[輸血用の太い針]を使えば、ほとんどのケースで穿刺排液可能ですが、刺し口から出血して緊急入院になったケースが複数ありました(穿刺時出血)(それ以降、18Gは使用禁止にしました)。18G(ゲージ)でも無理なら、どうしようもありません(海外では16Gの極太針を使用する所もあるようですが・・・)(AJR Am J Roentgenol. 2008 Dec;191(6):1730-3.)。それ以来、無理して太い針を使用せず、抜けない場合は潔く諦めて内分泌外科に甲状腺部分切除(半葉切除が多い)を依頼します。
頻回に穿刺排液しても、
なら、内分泌外科に甲状腺部分切除(半葉切除が多い)を依頼します。
岩手県立中央病院の報告;97 x 71 x 60 mmの巨大な甲状腺のう胞腺腫(甲状腺嚢胞腺腫)で、排液後1週間以内に液が再貯留し始めたため、甲状腺半葉切除したそです。病理標本では、のう胞周囲は炎症が強く、炎症性浸出液の可能性が考えられます。(第57回 日本甲状腺学会 P2-070 巨大な甲状腺嚢胞により経口摂取困難となった一例)
手術すべきか迷う巨大甲状腺のう胞腺腫(巨大甲状腺嚢胞腺腫)。横径 5.49cmで、ほぼ6cmです。80歳以上なら全身麻酔のリスクを冒してまで手術しなくて良いかもしれません。せいぜい次項の経皮的エタノール注入療法(PEIT)ぐらいでしょう。
のう胞(嚢胞)内に高濃度のエタノールを注入し、局所の脱水・固定によりのう胞腺腫(嚢胞腺腫)を破壊する経皮的エタノール注入療法(Percutaneous Ethanol Injection Therapy;PEIT)もありますが、
- 72.5%でエタノールの漏れによる激しい疼痛
- 15%で39°Cまでの発熱
- 一過性とは言え、反回神経麻痺を、ほぼ100%の頻度でおこす
- 斑状出血
- 不全型ホルネル(ホルナー、Horner)症候群で眼瞼下垂;一過性が多いが、回復せず手術で改善した報告あり(第64回 日本甲状腺学会 31-6 PEIT後の回復しないHorner症候群による眼瞼下垂症に対して手術を行った1例)
- 高度の癒着が起こり、手術が必要になってもできなくなる
などのため、以前ほど行われなくなりました(筆者は、あまりお勧めしません)。[Wiad Lek. 1999;52(9-10):432-40.]
ほとんどの場合、反回神経麻痺は一時的で済みますが、エタノール量が多すぎると永続性になる可能性があります。特に、巨大な甲状腺のう胞腺腫(甲状腺嚢胞腺腫)では、使用するエタノール量も増えるので要注意。
また、エタノールは血中にも移行するので、酔っ払う事もあります。
経皮的エタノール注入療法(PEIT)は、腫瘍組織の破壊を目的として
- 甲状腺機能性結節(機能性甲状腺腫)の治療
- 手術切除が不能な甲状腺癌(試験的に)
- 甲状腺乳頭癌の
①局所再発、リンパ節再発(Thyroid. 2007 Apr;17(4):347-50.)(Eur Arch Otorhinolaryngol. 2017 Sep;274(9):3497-3501.)
②骨転移(Ann Nucl Med. 1996 Nov;10(4):441-4.)
- 慢性腎不全、透析患者の副甲状腺過形成(2次性副甲状腺機能亢進症)(Nephrol Dial Transplant. 1999 Nov;14(11):2574-7.)
にも、極限られた施設で行われています。充実性腫瘤に対する効果は、のう胞(嚢胞)性病変に比べると低く、普及しない原因の一つです。
癌と確定できない、または癌ではない甲状腺腫瘍で手術をしたいけれども、諸々の事情から不可能な場合があります。
- 高齢
- 全身麻酔ができない
- 甲状腺手術により他臓器の病気が悪化する
などの場合、
1.はほとんど普及していません(昭和大学と、その関連病院くらい?)、2.も甲状腺のう胞(甲状腺嚢胞)や甲状腺のう胞腺腫(甲状腺嚢胞腺腫)以外では、あまり普及していません。※長崎甲状腺クリニック(大阪)は1.2.を行う施設と提携していません。
3.TSH抑制療法は、甲状腺ホルモン剤(T4製剤、チラーヂンS)を投与して、ネガティブフィードバック機構によりTSH(甲状腺刺激ホルモン)を抑制し、腫瘍を縮小させる方法です。甲状腺良性腫瘍はもちろんのこと、甲状腺分化癌(乳頭癌、濾胞癌)もTSH受容体を持っています。ただし、
- すべての甲状腺良性腫瘍に有効であるとはいえない(一部に有効とされる)
- TSHを正常範囲(0.5-5.0 μIU/mL)を超えて抑制すると潜在性甲状腺機能亢進症(正確には潜在性甲状腺中毒症)→さらには(顕在性)甲状腺中毒症になって、骨粗鬆症や心房細動(Af) などを引き起こす
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、TSHを正常範囲(0.5-5.0 μIU/mL)の低い目になるよう甲状腺ホルモン剤(T4製剤、チラーヂンS)をコントロールします。
高齢でなければ手術適応だが、高齢につき手術の必要がない場合も多々あります。例えば、次のケースは88歳女性、巨大腺腫様結節で気管圧排があるも無症状です。80歳を超えての全身麻酔手術はリスクも高く、術後の合併症、QOLの低下などを考慮すれば手術しない方が良い場合もあります。
ケース①
ケース②
ケース③
89歳女性 難治性バセドウ病+ 巨大腺腫様結節 ;高齢者でなければ間違いなく甲状腺全摘手術になりますが、『メルカゾール』と『チラーヂン』の併用(ブロック補充療法)で凌ぐしかありませんでした。
ケース④
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。