小児バセドウ病・乳幼児バセドウ病[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科学教室で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)ゆるキャラ 甲Joう君 (動脈硬化した血管に甲状腺が!バセドウ病の甲状腺がモデル)
長崎甲状腺クリニック(大阪)は小児科ではありません。小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病(疑い含む)の診療を行っておりません(20歳以上のみ)。
Summary
小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病は活動性高く、寛解率15-30%と低い。成人と異なる特有の症状、成長・発達の問題(落ち着き・集中力なく学業成績・運動能力低下、不登校、夜尿、過成長)、甲状腺腫・手指振戦・心雑音・眼球突出・検査所見・超音波(エコー)所見は成人と同じ。服薬のアドヒアランス・コンプライアンス悪い。甲状腺機能が正常化するまで体育の授業や運動部の活動は控える。小児バセドウ病は活動性が高く常に再発注意。乳幼児バセドウ病は非常にまれで発見されにくい。小児バセドウ病眼症(小児甲状腺眼症)は眼球突出が主で眼球運動障害・視力障害おこしにくい。
Keywords
小児,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,症状,検査,再発,眼球突出,小児バセドウ病眼症,ガイドライン,超音波
小児甲状腺ホルモン基準値
小児の甲状腺ホルモン正常値は成人と異なります。成人と比べて小児の
- 甲状腺刺激ホルモン(TSH)基準値は低い
- FT3の正常上限値は高い
ため、甲状腺中毒症と間違える場合があります。(小児甲状腺ホルモン基準値 を御覧ください。)
小児の甲状腺中毒症の約80%はバセドウ病で、その他、甲状腺機能性結節、薬剤性甲状腺中毒症(破壊性甲状腺炎)[アミオダロンなど]、小児橋本病が基盤の無痛性甲状腺炎などがあります。
小児期(原則18 歳未満)に発症する甲状腺機能亢進症/バセドウ病は、
- 全バセドウ病の約5%を占める
- 最年少は4歳(台湾では3.36歳の報告あり)、平均年齢は約12歳
- 男女比=1:6で成人と同じ
- バセドウ病の家族歴は4-5割(2/3は母方)
[J Pediatr Endocrinol Metab. 2014 Jul;27(7-8):677-83.](Nelson textbook of pediatrics. 20th ed. Philadelphia:Elsevier, Inc. Elsevier, Inc. 2016 ; 2681-2684.)[Acta Paediatr Taiwan. Mar-Apr 2006;47(2):77-82.]
表;小児甲状腺機能亢進症バセドウ病の発症年齢(バーチャル臨床甲状腺カレッジより)
小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病の問題点は、
- 疾患活動性の高い(病勢が強い)ケースが多い;寛解率は15-30%程度の報告が多く、成人に比べ難治性です[J Clin Endocrinol Metab. 2011 Mar;96(3):580-8.]。
活動性が高いから若くで発症すると言えます。そして、成人よりも長期の内服治療を要します。 - 成人とは異なる特有の症状がある(下記3.-6.)
- 成長・発達の問題が絡む
- 不登校の原因にもなる
- 服薬のアドヒアランス・コンプライアンスが悪い
親がキッチリと子供の服薬を管理できる家庭なら問題ない
親が子供の服薬を管理できない場合に、子供に自己管理しろと言う方が無理
甲状腺亜全摘手術を行うとトンデモナイ事に - 生活指導のアドヒアランス・コンプライアンスが悪い
長崎甲状腺クリニック(大阪)での実例;親のしつけにも問題があるが、突然死の危険があるから甲状腺機能が正常化するまで運動制限(陸上部)してくれと言っても聞かない(親に説明しても止めてくれない)(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の運動制限)
これ以降、長崎甲状腺クリニック(大阪)では小児の診療を止めて、20歳以上の患者に限定しました。
(Endocr Dev. 2014;26:171-82.)
小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病症状は、
- 落ち着きがない(47.4%)
- 集中力がなく学業成績が低下する(24.1%)
- 運動能力が低下する(15.0%)
- 夜尿症(おねしょ)が続く(頻度不明);成長過程の夜尿症(おねしょ)は12歳までになくなります[小児夜尿症(おねしょ)]。
- 過成長(甲状腺ホルモンが骨などの新陳代謝を活発にすると同時に、成長ホルモン分泌をうながすため。低年齢ほど顕著。)(頻度不明)
骨年齢は亢進。 - 平均9%程度のやせの傾向(甲状腺ホルモンによる異常代謝亢進。低年齢ほど顕著。)(36.1%)
瘦せていかなくても、体重が増加しないだけで有意な所見 - 思春期の遅れ
など特徴的です。(甲状腺中毒症.小児内分泌学.日本小児内分泌学会編、診断と治療社. pp.407-412,2009)[J Pediatr Endocrinol Metab. 2014 Jul;27(7-8):677-83.]
それ以外は、成人の甲状腺機能亢進症/バセドウ病とほぼ同じで、
- 頻脈(94.8%)
- 収縮期高血圧(47.9%)
は低年齢ほど顕著。[J Pediatr Endocrinol Metab. 2014 Jul;27(7-8):677-83.]
以下は台湾のデータですが、日本とほぼ同じです
- 甲状腺腫(94%)
- 手指振戦(92%)
- 心雑音(66%)
- 眼球突出(60%)
[Acta Paediatr Taiwan. Mar-Apr 2006;47(2):77-82.]
おまけ;甲状腺ホルモンと過成長
--「甲状腺ホルモンのバランスが崩れて、異常な発育を示すことが、我々人間の場合にもあります。 そうです。ここは全てのバランスが崩れた恐るべき世界なのです。これから30分、貴方の目は貴方の体を離れて、この不思議な時間の中に入って行くのです。」
昭和40年代、日本が高度経済成長期だった頃、白黒で放送されたウルトラQ第2話「五郎とゴロー」のオープニング。
戦時中、衰弱した兵士を回復させるため開発された「青葉クルミ」を食べたサルが甲状腺ホルモンに異常をきたし巨大化するストーリーです(現実にはありえません)。
甲状腺ホルモンも、成長ホルモン同様に子どもの成長に大きな影響を及ぼします。これは、甲状腺ホルモンが骨などの臓器の新陳代謝を活発にすると同時に、成長ホルモンの分泌をうながすためです。
小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病の検査所見は、基本的に成人と同じです(バセドウ病の検査)
抗サイログロブリン抗体の陽性率は約7割です[J Pediatr Endocrinol Metab. 2014 Jul;27(7-8):677-83.]。
成長期の骨を反映してアルカリフォスファターゼ(ALP)はバセドウ病でなくても高値、アルカリフォスファターゼ・アイソザイム(ALPアイソザイム)3型(骨型ALP、BAP)です。
また、小児甲状腺ホルモン基準値 は成人とは異なり、小児甲状腺ホルモン(FT3)の正常上限値が、成人の正常上限値より高くなります。特に肥満児ではFT3値が高く、脂肪代謝を促進し、さらなる体重増加を防ぐための代償反応と考えられます(Endokrynol Pol. 2017;68(1):54-60.)。小児甲状腺機能亢進症と誤認される場合が多々あります。
小児バセドウ病(15歳)超音波(エコー)所見は、基本的に成人と同じです。年齢ごとの正常甲状腺サイズの統一基準が無いため、比較は難です。
日本小児内分泌学会による「小児期発症バセドウ病診療のガイドライン 2016」 では、 体育の授業や運動部活動について、エビデンスは無いが、「甲状腺機能が正常化するまでは体育の授業や運動部の活動は控えるよう指導します。」 となっています。[Clin Pediatr Endocrinol. 2017;26(2):29-62.]
小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病寛解率は15-30%程度の報告が多く、成人に比べ難治性です[J Clin Endocrinol Metab. 2011 Mar;96(3):580-8.]。中途再発や副作用なしに10年間、根気よく抗甲状腺薬の内服を続けた場合の寛解率は約50%です[J Clin Endocrinol Metab. 2012 Jan;97(1):110-9.]。
アイソトープ(放射性ヨウ素)治療と手術療法
アイソトープ(放射性ヨウ素)治療と手術療法を行えば、小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病は完治して再発はありません。ただし甲状腺ホルモンが低下し(治療後甲状腺機能低下症)、一生、甲状腺ホルモン薬(チラーヂンS)が必要になります。(錠剤を一日1回飲むだけなので簡単です。ある意味、甲状腺ホルモン薬さえ飲んでいれば、健康な人と全く同じ。某日本代表サッカー選手の様に、バセドウ病で甲状腺全摘出し、甲状腺ホルモン薬を飲んでいてもプロスポーツ選手として活躍できる人もいます。健康な人以上に健康と言えます。)
あくまで成人を対象とした研究データですが、「バセドウ病のアイソトープ(放射性ヨウ素)治療後、約30年で乳がんをはじめ、全身のすべての固形癌の死亡率が、アイソトープ治療をしていない対照群と比べ明らかに増加した!!」との衝撃的な論文が出ています(JAMA Intern Med. 2019;179(8):1034-1042.)。大人でこれなら小児は言うまでも無かろう。恐れていた事が現実に・・・。[恐れていた事が・・・バセドウ病でもアイソトープ(放射性ヨウ素)治療後、全身の発がんリスクが上昇]
抗甲状腺薬
抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)治療は、例え甲状腺機能が正常化しても再発する可能性があります。小児期に発症する甲状腺機能亢進症/バセドウ病、活動性が高い場合が多く、常に再発に注意しなければなりません。特に、
- 低年齢発症
- 甲状腺腫が大きい
- 血清T3/T4比が高い
- 治療前の甲状腺機能亢進が強い
- 抗TSH受容体抗体の治療後の低下が少ない
- 中学生や高校生で受験期間中(過度のストレスが掛かる)
などは再発の危険性が高いです。
乳幼児甲状腺機能亢進症/バセドウ病は、100万人に1人未満の頻度で非常にまれです(Pediatric Endocrinology2nd ed, Springer Science, 2013,pp276-86)。
乳幼児甲状腺機能亢進症/バセドウ病の難点は、
- 発汗・動悸などの自覚症状を訴えることができない
- もともと多動であるため発見されにくい
- 過成長・骨年齢促進で発見されることがある(甲状腺ホルモンが骨などの新陳代謝を活発にすると同時に、成長ホルモン分泌をうながすため)
小児バセドウ病眼症(小児甲状腺眼症)は、成人のバセドウ病眼症(甲状腺眼症)と比べると、
- 眼球運動障害・複視(二重に見える)・重度の斜視、視力障害を起こしにくい
- 眼瞼後退・眼窩周囲浮腫・結膜充血・眼球突出(眼が飛び出る)が主で治療が必要なケースは少ない
高齢者の甲状腺眼症と逆。
青年期バセドウ病眼症は、成人のバセドウ病眼症に近くなります。喫煙率の増加が一因と考えられます。
タバコの煙は吸う人より、吸わされる人の方が健康被害は大きくなります(受動喫煙;副流煙の害)
職場や家庭で喫煙者がいれば、バセドウ病を悪化させたり、再発させたり悪影響をもたらします。特に、小児バセドウ病眼症(甲状腺眼症)を悪化させる危険があります。[Pediatr Endocrinol Rev. 2007 Mar;4(3):218-24.]
小児バセドウ病眼症の治療は、「様子見」が主で、甲状腺機能が正常化してもバセドウ病眼症状が悪化または改善がない場合にステロイド薬投与します。球後放射線照射は、腫瘍発生の危険があるため行われません。視力障碍はまれなので、外科的眼窩減圧手術はほとんど必要ありません。甲状腺機能亢進症/バセドウ病自体のコントロールが悪い場合、増悪時に眼球突出も悪化するので、甲状腺全摘出になります。
(Pediatr Endocrinol Rev. 2010 Mar;7 Suppl 2:234-44.)(Rev Med Chil. 2015 Aug;143(8):1034-41.)(第58回 日本甲状腺学会 P2-13-5 10年以上経過を追えた小児甲状腺眼症の2例)
小児バセドウ病眼症(小児甲状腺眼症)の社会的問題
むしろ小児バセドウ病眼症(小児甲状腺眼症)で問題なのは、思春期での顔貌変化(特に女性)でしょう。精神的なショックは、おそらく実際の病状以上で、引きこもりや不登校になる患児がいても不思議ではありません。また、ステロイド治療による体の発育障害やステロイド精神病で精神状態がさらに悪化する危険性もあります。
バセドウ病自体のコントロール悪く、小児バセドウ病眼症も伴う場合、原因となるTSAb(甲状腺刺激抗体、バセドウ病活動性抗体)を下げるため甲状腺全摘出すべきですが、小児の手術合併症は成人より多く迷う所です。
甲状腺機能性結節は、甲状腺腫瘍[良性濾胞腺腫や腺腫様甲状腺腫、甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌]が遺伝とは関係なく(後天的に)遺伝子変異し、甲状腺ホルモンを無制限に作る病態です。機能性甲状腺腫と呼ばれ、小児でも報告はあります。
小児の甲状腺機能性結節は珍しいが、稀ではありません。成人の甲状腺機能性結節と比べると、
- 甲状腺中毒症を起こしやすい
- 甲状腺癌の割合が多い(11.3%)
とされます(Surgery. 1987 Dec;102(6):1101-8.)。
ロードアイランド病院(海外)の報告ですが、
- 21歳未満の甲状腺結節患者における甲状腺機能性結節の割合は7%
- 診断時の平均年齢は15.8歳
- 女性が圧倒的に多い
- 甲状腺機能性結節の大きさは平均3.3cm
- 機能性甲状腺乳頭癌(6%)
[Endocr Pract. 2016 Mar;22(3):328-37]
PTEN遺伝子変異による過誤腫・癌(甲状腺癌を含む)を全身に発生するコーデン(Cowden)症候群の4歳児で、微小甲状腺濾胞癌による機能性甲状腺癌を発症した症例が報告されています。甲状腺癌だけなら分かりますが、機能性甲状腺癌とは驚きです。
先天的な遺伝子変異による発生なら、非自己免疫性家族性甲状腺機能亢進症(FNAH)と同じ原理ですが、TSH受容体またはその刺激伝達経路にあるGsα(刺激性Gタンパク)の活性型変異ではなく、PTEN遺伝子変異とは・・。
(第60回 日本甲状腺学会 O3-2 PTEN胚細胞変異を同定した4歳発症の機能性甲状腺結節の1例)[Pediatr Int. 2017 Nov;59(11):1223-1224.]
4歳男児、3歳半男児の単発性甲状腺機能性結節に放射性ヨウ素(I-131)治療をおこなった海外の報告がありますが、他臓器への被曝を考えればさすがに賛成できません。[World J Nucl Med. 2013 May;12(2):65-6.][J Pediatr Endocrinol Metab. 2012;25(3-4):345-7.]
新型コロナ禍にあっては、
- 外出時にマスクをする
- 静かに給食を食べる
- 遠足や運動会が中止(インドア派の子供にはむしろ恩恵)
- 不必要な外出を控えねばならないので、友達と遊べない(インドア派の子供にはむしろ恩恵)
- 遠出できない(インドア派の子供にはむしろ恩恵)
など、子供にとっては大きなストレスです。子供が強いストレスを感じると、心の防衛反応として小児バセドウ病にそっくりの症状が起こります。特に、
- 頭痛(甲状腺機能亢進症/バセドウ病と頭痛)
- 腹痛・軟便(甲状腺ホルモンと便秘・下痢)
- 不眠(睡眠相後退症候群と甲状腺)
- 落ち着きがない、多弁(よくしゃべる)、わがまま
- 夜尿(おねしょ)
小児内分泌内科などを受診して小児バセドウ病でない事が分かれば、メンタルクリニックなどを受診する事をお勧めします。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,生野区も近く。