甲状腺と救急 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
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甲状腺断裂 造影CT画像(Int J Surg Case Rep. 2015;12:44-7.)
長崎甲状腺クリニック(大阪)は内科系甲状腺専門クリニックです。救急外来を行っておりません。
Summary
甲状腺と救急の代表格は、命の危険:甲状腺クリーゼ 粘液水腫昏睡 無顆粒球症 劇症肝炎 バセドウ病の突然死です。それら以外で、緊急性のある甲状腺の病態を集めました。
甲状腺と救急。首への衝撃や遠心力で甲状腺損傷・断裂。破壊性甲状腺炎で甲状腺中毒症、出血量が多いと気管狭窄・窒息。交通事故(頸部打撲、頸椎捻挫、むち打ち)で副甲状腺の破裂出血・深頸部血腫。頚部壊死性筋膜炎は甲状腺も壊死し死亡率高い。熱傷潰瘍にユーパスタ(ポビドンヨード)、カデックス軟膏を使用すると血中ヨウ素値が上昇し甲状腺機能に影響。ニトロプルシドで甲状腺機能低下症に。コリオパン・ブスコパン、ウテメリン・リトドリン・ズファジラン(β2刺激剤)は、甲状腺ホルモンが正常化していない甲状腺機能亢進症/バセドウ病には要注意。
Keywords
甲状腺,救急,甲状腺機能低下症,橋本病,出血,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,交通事故,気道閉塞,打撲
事故
- 甲状腺損傷?いや喉頭損傷 甲状腺刺傷
- 首への衝撃や遠心力で甲状腺にも障害(甲状腺損傷・断裂)
- 甲状腺が原因で心肺蘇生・AED(電気ショック)
- 交通事故(頸部打撲、頸椎捻挫、むち打ち)で深頸部血腫(副甲状腺の破裂出血)
- 頸部皮下気腫/縦隔気腫
- 熱傷と甲状腺
- 異型適合輸血
感染症
アウトドア
飲み合わせ
甲状腺癌
異常な食生活
気道閉塞・窒息、甲状腺内異物
ケースは50歳の女性。前頸部痛を主訴に来院した。30分前に映画館で座っていたところ、後ろの座席にいた客が転倒した際に突然後頭部を強く押され、前の座席の背もたれの角に前頸部を強打した。痛みがとれないため、独歩で受診した。意識は清明。体温36.5℃。脈拍96/分、整。血圧140/80mmHg。呼吸数20/分。強打した部位の疼痛、皮下の血腫および腫脹を認める。診察中に唾液が口から漏れ、発声音域が次第に低下している。
これは喉頭損傷です。当然、甲状腺損傷も合併しているかもしれません。声帯周辺が破壊され、唾を飲むことも、声を出すことも困難な状況です。窒息の危険があるため、まず行うべきなのは気道確保です。
猟奇犯罪で、刃物で頚を刺されたり、ボーガンの矢が刺さったりする事件を新聞・ニュースでよく見かけます。甲状軟骨の辺りに刺創を認める被害者で、
- 血腫が拡大してくれば動脈損傷が疑われ、気管を圧迫し気道閉塞を起こす危険性あり→気道確保を
- 気管損傷(頸部皮下気腫/縦隔気腫)
- 振戦を触知;動静脈瘻が形成された
などが起きると一刻を争います。
甲状腺損傷
転倒による打撲/交通事故/スポーツ障害など、衝撃や遠心力が頚部に働くと、頸筋などの頸部組織に挫傷・出血が起こります。甲状腺周囲の損傷には、気管、食道、頸動脈、頸椎または椎骨動脈が含まれます。アメリカのNational Trauma Data Bank(2007-2015)によると甲状腺損傷の発生率は<0.1%でした[J Surg Res. 2019 Oct;242:200-206.]。
甲状腺組織が障害されると、破壊性甲状腺炎を起こします。損傷した甲状腺組織から甲状腺ホルモンが逸脱し、一時的な甲状腺中毒症になります(実際は、軽度のことがほとんどで、臨床上の問題にはなりません)。
救急搬入時のCTにて甲状腺周囲の浮腫/ 血腫を認め、造影CTにて甲状腺の造影効果も不均一。(第56回 日本甲状腺学会 P1-105 甲状腺の鈍的損傷の1 例)
甲状腺の外傷性出血はまれだが、患者の約7割は出血コントロールのため甲状腺切除になります。そのうちの91%が甲状腺疾患の既往症を持っていたとされます。[J Trauma. 2006 Oct;61(4):1012-5.]
ケース①
ケース②
甲状腺断裂で頸部血腫が気管圧排
頚部の鈍的外傷で甲状腺が断裂し、出血量が多いと頸部血腫が大きくなり、気管圧排→気管狭窄・窒息を起こします
特に、血栓予防のための抗凝固剤を服用中なら出血が止まり難く、急激に血腫も大きくなります。
気管内挿管できない程の気道狭窄なら、輪状甲状間膜切開(輪状甲状靭帯切開)で気道を確保。血腫除去のため頸部正中切開すれば血腫が流出し、気管圧排が解除される事があります。しかし、出血が止まらなければ外科的な甲状腺切除術をせざる得ません。(Int J Surg Case Rep. 2015;12:44-7.)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病、いずれも心臓疾患(サイロイドハート)を引きおこすため、もし心肺停止すれば、家族・友人が心肺蘇生せねばなりません。(甲状腺と心臓病(サイロイドハート)、甲状腺と心房細動(Af) 頻脈性不整脈 徐脈性不整脈、甲状腺で狭心症・心筋梗塞、急性大動脈解離・大動脈瘤)
心肺停止後、3分以上経過すれば蘇生させる事が困難になるため、3分以内に開始せねばなりません。日本の救急車の平均到着時間は8.7分で、救急隊の到着は待ってられません。蘇生が1分遅れるごとに救命率は7-10%下がります。周りの人に声を掛け、119番通報「救急車をお願いします!」とAEDの準備「AEDを探してきてください!」を頼み、自身は心肺蘇生を開始。
JRC(日本版) ガイドライン2010に従い
- 10秒以内に呼吸の確認
- 胸骨圧迫:少なくとも5 cm(ただし6 cm を越えない)胸骨が押し下げられる様に、少なくとも100回/分(100-120回)のペースで
しかし、新型コロナウイルス蔓延後は、指針が変更され、
- 倒れている人のマスクは外さない、マスクをしていなければ、口と鼻に布をかぶせてから蘇生開始(※くれぐれも濡れタオルはダメ!)
- 成人では、人工呼吸は行わず、胸骨圧迫とAEDのみ
- 小児では、胸骨圧迫30回後、気道確保と人工呼吸2回(口対口の人工呼吸がためらわれる場合、胸骨圧迫とAEDのみ)
※筆者はおかしいと思います。小児でも新型コロナウイルスに感染するし、他人に感染させるリスクは成人と同じです。
AED(自動体外式除細動器:Automated External Defibrillator)による電気ショックの適応
なんでもかんでもAED(自動体外式除細動器:Automated External Defibrillator)による電気ショックをすれば良い訳ではありません(と言っても、緊急時、非医療従事者に判断を求めるのは不可能です)。
心室細動(Vf)、無脈性心室頻拍(VT)はAEDによる電気ショックの絶対適応です。
(AEDライフより)
無脈性心室頻拍(VT)
AED(自動体外式除細動器、電気ショック)の適応外
AED(自動体外式除細動器、電気ショック)の適応外になるのは、
- 完全に心臓が停止した心静止(エーシス);洞結節からの信号は無くなり、心電図上は平らな横線になる
- 無脈性電気活動(PEA);心電図上は波形を認めるが、有効な心拍動がなく脈拍を触知できない状態(脈拍を触知できない≒血圧が低下し過ぎて脳血流が減少し意識が無い)。胸骨圧迫を続けて再度AEDを行う。[心室細動(Vf)、無脈性心室頻拍(VT)は除く。]
です。心静止(エーシス)や無脈性電気活動(PEA)が疑われる場合、AEDのAIが自動判断し作動しません。一瞬、「AEDのバッテリーが切れているのでは?」と疑ってしまいますが、「ショックは不要です。胸骨圧迫を続けてください」の音声が流れます。救急外来ならアドレナリン(ボスミン®)投与して胸骨圧迫。
また、甲状腺機能低下症や甲状腺未分化癌の心臓転移・心筋浸潤などでおこる洞不全症候群、完全房室ブロックもAED(電気ショック)の適応外。アダム・ストークス発作[脳血流減少によるめまい、失神、痙攣(けいれん)]や心不全をおこしていれば、循環器内科・心臓外科による一時的ペーシング、アトロピン投与(救命病棟24時では松雪泰子がICUでやっていた)。
乳児用パッド
乳児用パッドが入っているAEDも存在します。乳児用パッドが使用できる体重の上限は10kg、1歳相当である。設定はJRC 蘇生ガイドライン2015では4J(ジュール)/kgになっています。
蘇生後脳症
交通事故(頸部打撲、頸椎捻挫、むち打ち)で、副甲状腺が破裂して深頸部血腫の原因になる事があります。副甲状腺は深頸部に位置するものの、小さく、外圧による損傷の危険性は低いですが、原発性・2次性副甲状腺機能亢進症など腫大(腺腫や過形成)した副甲状腺は、外圧による破裂出血あり得ます。甲状腺は強靭な被膜に包まれているため、甲状腺自体の破裂出血の危険は少ないです。(日臨外会誌 64:1327-1330,2003)
副甲状腺の破裂による深頸部血腫は、抗凝固剤の服用や、血管脆弱性を伴う疾患を有する場合、起こり易いです(耳喉頭頸 76:34-37,2004)。
副甲状腺の破裂による深頸部血腫の症状は、頸部痛・頸部腫脹、低カルシウム血症による突発的テタニー症状で、入院後数日以内に血腫除去、甲状腺片葉と合併切除する事が多いです。(日臨外会誌 64:1327-1330,2003)
原発性・2次性副甲状腺機能亢進症(慢性腎不全、ビタミンD欠乏など)いずれもありなので、術前の血清Ca値は一定しませんが、i-PTHはほとんどで高値。手術後、血清Ca値、i-PTH共に術前より低下します。(Surg Today 31 : 222-224, 2001)(Jpn J Thorac Cardiovasc Surg 50 : 391-394, 2002)
頸部皮下気腫/縦隔気腫は、
- 特発性
- 頸部打撲、胸部打撲
- 肺炎などの肺疾患(気胸に合併することが多い)
- 甲状腺手術(手術合併症)
- 食道破裂;嘔吐によって胃や食道に圧力がかかり、食道が破裂
が原因で発症します。機序は、
- 激しい運動、トランペットを吹く、喘息発作など激しいせき(甲状腺と気管支喘息)、激しい発声(号令、合唱)など気道内圧の上昇で肺胞壁が破綻、肺血管に沿 って縦隔内に達し、頸部に拡る。
自然気胸と同じく、痩せ型の若年者に多く、圧上昇に対してクッションとなる脂肪組織が 少ない事が一因と考えられます。 - 妊娠悪阻(つわり)などの嘔吐[妊娠悪阻(つわり)と甲状腺][BMJ Case Rep. 2020 Feb 9;13(2):e234001.]、排便・分娩のイキミ(Valsalva努責)による食道内圧上昇→食道破裂
- 咽頭、喉頭、気管、食道など粘膜損傷部から空気が入る;肺疾患や、甲状腺手術の合併症(ANZ J Surg. 2020 Dec;90(12):2584-2586.)
の2通りです。
縦隔気腫の8割以上で頸部皮下気腫を伴い、症状は
- 頸部の突っ張るような違和感、頸部痛、前胸部痛で甲状腺の損傷を疑い甲状腺専門医を受診、触診で頸部~前胸部に掛けて握雪感を伴う皮下気腫を認めます(必ずしも認めず、CTのみで確認される事も)。
- 呼吸困難、せき
CTで気腫を認めれば確定します。(CT画像日気食会報,47(3),1996 pp.333-339)
鑑別診断は、
- 特発性食道破裂(ブールハーヴェ症候群);絶飲食と広域抗生物質投与を行い、食道造影検査を早期に施行。治療が遅れると膿胸,縦隔膿瘍により予後不良に。
- 気管・気管支断裂;気管支内視鏡検査
成人の頚部皮下気腫/縦隔気腫の大部分は、空気が胸郭外に逃げるため、経過観察のみで良い場合が多い。しかし、縦隔内圧が上昇して循環不全に至る重症の緊張性縦隔気腫、縦隔炎をおこす事もあります。
熱傷時には異化亢進がおきるため、甲状腺機能正常症候群(Euthyroid Sick Syndrome)、または低T3症候群を呈します。
熱傷後の二次損傷により生じた熱傷潰瘍にユーパスタ(ポビドンヨード)、カデックス軟膏を使用した場合、血中ヨウ素(ヨード)濃度が上昇し、甲状腺機能に影響を与える可能性があります(甲状腺ホルモン合成が抑制され、甲状腺機能低下症をおこすのが一般的でしょう)[皮膚からのヨウ素(ヨード)吸収])。
医療ドラマ「医龍」のエピソードに登場したので知っている方も多いと思います。多発外傷に伴う外傷性ショックで、大量輸液を行っても血圧の上昇がみられない場合、血液型の確定を待たずに院内ストック輸血製剤を用いて輸血する荒療治があります。アメリカのERなどでは当たり前だそうですが、「濃厚赤血球液 O 型Rh(+)―新鮮凍結血漿 AB 型Rh(+)」の組み合わせなら、血液型が不明な状況での異型適合輸血が可能です。
「濃厚赤血球液 O 型Rh(+)」は、A 抗原・B 抗原ともに陰性、「新鮮凍結血漿 AB 型Rh(+)」ではA 抗体・B 抗体ともに陰性になります。よって、ABO式、いずれの型にも輸血可能です。
「濃厚赤血球液 O 型Rh(-)」なら更によいのだろうが、日本人のRh(-)型は0.5%(200人に一人)で、しかもO型に限定すれば極端に少ない。緊急輸血には止むを得ずRh(+)型製剤を使用。患者がRh(-)型なら抗D 抗体を持っている可能性もあるが、他に救命方法が無い。
CTにて頚部膿瘍を確認すれば、気道確保後、速やかに切開排膿およびデブリドメント(壊死組織除去)、菌培養(通常培養、嫌気性菌培養)が必要です。抗生剤大量投与は、ペニシリン系と嫌気性菌との混合感染の場合、クリンダマイシンも併用。
A群溶連菌感染症と嫌気性菌との混合感染は、相乗効果で進行が非常に速いとされます。(日本耳鼻咽喉科感染症研究会会誌 20(1)48-54.)
甲状腺と救急(アウトドア編)
ニトロプルシド:手術時の低血圧維持・異常高血圧の救急処置に使用。代謝物のチオシアンにより甲状腺機能が低下することがあるため、重度の甲状腺機能低下症には禁忌
ウテメリン・リトドリン・ズファジラン:β2刺激剤で、交感神経刺激により子宮の運動をゆるめ、流産や早産の予防に使用。甲状腺ホルモンが正常化していない甲状腺機能亢進症/バセドウ病妊婦には要注意。母体の甲状腺機能亢進症/バセドウ病を悪化させるだけでなく、胎児バセドウ病も増悪させ、著しい胎児頻拍のため緊急帝王切開になることがあります。[張り止め(子宮収縮抑制薬)のリトドリン(ウテメリン®)、イソクスプリン(ズファジラン®)]
コリオパン・ブスコパン:胃・十二指腸潰瘍、胃けいれん、下痢、胆石症、尿路結石症の痛みを抑えるのに使用。副交感神経遮断し、交感神経優位になるため、甲状腺ホルモン正常化していない甲状腺機能亢進症/バセドウ病には要注意。
アドレナリン含有局所麻酔薬「キシロカイン注射液エピレナミン含有」:甲状腺ホルモン正常化していない甲状腺機能亢進症/バセドウ病・糖尿病には要注意。
生のチンゲン菜で粘液水腫性昏睡
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。