重症筋無力症と甲状腺機能亢進症/バセドウ病,橋本病,甲状腺眼症,甲状腺癌[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
重症筋無力症の26.8%(全身型より眼筋型で)はバセドウ病、橋本病、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性。眼瞼下垂・外眼筋麻痺は甲状腺眼症(橋本病眼症/バセドウ病眼症)と、筋無力症状[全身の筋力低下、易疲労性(夕方・入浴後に増悪)]は甲状腺機能亢進症・甲状腺機能低下症、嚥下・構音障害(筋無力症性クリーゼで血漿交換・ステロイドパルス)は巨大甲状腺腫・甲状腺癌に類似。抗アセチルコリン受容体抗体陽性、コリンエステラーゼ阻害薬エドロホニウム (テンシロン®) 試験などで診断。70%に胸腺腫/胸腺過形成あり早期に摘除術。
Keywords
甲状腺,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,抗アセチルコリン受容体抗体,重症筋無力症,甲状腺機能低下症,甲状腺癌,橋本病,眼瞼下垂,甲状腺眼症
自己免疫性甲状腺疾患の橋本病/バセドウ病と、神経筋接合部のアセチルコリン受容体や酵素に対する自己抗体[抗アセチルコリン受容体抗体(Ach-R抗体)など]による重症筋無力症を合併することがあります。
ポーランドの報告ですが、重症筋無力症の26.8%に自己免疫性甲状腺疾患(4.4%にバセドウ病、9%に橋本病、13.4%に抗甲状腺抗体[抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)]陽性)を認めます(Brain Behav. 2016 Oct; 6(10):e00537.)。イギリス、ドイツの報告でも似たようなものです(Hum Immunol. 2013 Sep; 74(9):1184-93.)。抗甲状腺抗体陽性患者の0.2%が重症筋無力症を発症(一般人口の発症率0.01%)。
自己免疫性甲状腺疾患を合併した重症筋無力症は、若年発症、軽症、抗アセチルコリン受容体抗体(Ach-R抗体)価低いとされます(Autoimmunity (2015) 48:362–8.)。
全身型重症筋無力症よりも眼筋型重症筋無力症の方が、自己免疫性甲状腺疾患の合併率高いとされます(J Endocrinol Invest (2008) 31:861–5.10.)。
重症筋無力症と甲状腺の病気は症状も似ており
- 全身の筋力低下、易疲労性(夕方・入浴後に症状が憎悪)が現れ(甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺機能低下症に類似)
- ぼおっとして、あたかも認知症のようになります(甲状腺機能低下症に類似)
- 眼瞼下垂と外眼筋麻痺が、甲状腺眼症(橋本病眼症/バセドウ病眼症)との鑑別要[重症筋無力症と甲状腺眼症(橋本病眼症/バセドウ病眼症)]
- 甲状腺機能低下症による喉頭浮腫/心のう液貯留、甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺クリーゼによる心不全と紛らわしい呼吸困難(重症筋無力症では呼吸筋麻痺による)
- 巨大甲状腺腫・甲状腺癌のような球症状(嚥下・構音障害)は、筋無力症性クリーゼという危険な状態で、血漿交換・ステロイドパルスを行います。
[Can J Neurol Sci. 1999 Aug;26(3):201-3.]
重症筋無力症の4-5%が甲状腺機能亢進症/バセドウ病を発症するとされます[Brain Behav. 2016 Aug 4;6(10):e00537.]。甲状腺中毒性ミオパシー・甲状腺中毒性周期性四肢麻痺(低カリウム性周期性四肢麻痺)との鑑別が必要です。
重症筋無力症と甲状腺機能亢進症/バセドウ病が合併し、悪性胸腺腫(胸腺癌)が発生した症例が報告されています。(第55回 日本甲状腺学会 P1-02-10 バセドウ病に重症筋無力症、悪性胸腺腫を合併した一例)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病と高率に合併する胸腺過形成でも、重症筋無力症をおこす可能性があるので要注意。[Neurol India. 2016 Jul-Aug;64(4):783-5.]
重症筋無力症の9%が橋本病を合併します。[Brain Behav. 2016 Aug 4;6(10):e00537.][Rom J Morphol Embryol. 2021 Jan-Mar;62(1):73-83.]
眼筋型重症筋無力症と橋本病の合併は古くから報告されています。(Am J Ophthalmol. 1975 Jun;79(6):1038-43.)
重症筋無力症と甲状腺眼症(橋本病眼症/バセドウ病眼症)は症状が似ており、
- 重症筋無力症の眼瞼下垂は、甲状腺眼症(橋本病眼症/バセドウ病眼症)に多い眼瞼腫大のように見えます。
- 重症筋無力症では外眼筋麻痺が高率にみられ、甲状腺眼症(橋本病眼症/バセドウ病眼症)と同じく複視(ものが2重に見える)がおこります(下記)。(Int Ophthalmol Clin. 2019 Summer;59(3):113-124.)
- 重症筋無力症と甲状腺眼症(橋本病眼症/バセドウ病眼症)との合併もあり(下記)。甲状腺眼症患者は眼筋型重症筋無力症を合併する頻度が高い。[Autoimmunity (2015) 48:362–8.]
(第53回 日本甲状腺学会 P19 複視を初発症状とし、外眼筋腫大を認めた全身型重症筋無力症合併橋本病の一例)(BMC Ophthalmol. 2020 Apr 22;20(1):166.)
重症筋無力症と甲状腺眼症(橋本病眼症/バセドウ病眼症)のどちらが原因の複視か分かりにくいですが、以下の鑑別点があります。
甲状腺眼症(橋本病眼症/バセドウ病眼症)と異なり、重症筋無力症では、
- 夕方、ふろ上がりに増悪する(日内変動・易疲労性が特徴)
- 開閉眼を繰り返すと眼瞼下垂が出現し、氷水で冷やすと直ちに改善する(アイシング試験)
- 休息・睡眠で軽快する
- 眼筋炎でなく、眼筋麻痺なので、眼窩MRIでは異常を認めない
- コリンエステラーゼ阻害薬エドロホニウム (テンシロン®) 試験で陽性(改善)
(写真;Front Endocrinol (Lausanne). 2019 Feb 12;9:801.)
などの点です。
重症筋無力症と甲状腺眼症(橋本病眼症/バセドウ病眼症)が合併していると、複視の程度にTSAb値・眼窩MRI所見が一致しない病態になります。(Zhonghua Yan Ke Za Zhi. 2015 Aug;51(8):581-5.)
胸腺腫を伴う重症筋無力症と、頸部リンパ節転移を伴う甲状腺癌の報告があります。胸腺全摘術後に甲状腺全摘術および頸部リンパ節郭清術の2段階手術になる。[Surg Today. 1992;22(1):66-8.][Arch Neurol. 1983 Feb;40(2):122-4.]
70%に胸腺腫、胸腺過形成がみられ、全身型および眼筋型で胸腺腫のあるものは、早期に摘除術を行います。
重症筋無力症の診断は
- 以下の抗体測定
- アイスパックテスト(アイスパックを約2分間ぶたにあてて、2mm以上ぶたが上がって眼が開きやすくなるかどうかをみる)陽性
- コリンエステラーゼ阻害薬エドロホニウム (テンシロン®) 試験
- 誘発筋電図(反復神経刺激試験、Harvey-Maslandテスト)によるwaning現象[長崎甲状腺クリニック(大阪)では行えませんので神経内科を紹介します]
- 眼輪筋誘発筋電図;診断と病態把握に有用
抗アセチルコリン受容体抗体[抗AChR抗体](全身型の80%び眼筋型の50%に陽性)
抗筋特異的受容体型チロシンキナーゼ抗体[抗MuSK抗体](前者陰性の場合)測定;顔面・頚部・球症状が主で、筋無力症クリーゼを起こし易い
※抗筋特異的チロシンキナーゼ(MuSK)抗体;長崎甲状腺クリニック(大阪)では測定できません。
当然、抗AChR抗体、抗MuSK抗体いずれも陰性のケースが存在する。
小細胞肺癌、悪性リンパ腫、白血病、胸腺腫などで神経シナプス前のカルシウムイオンチャネル(VGCC)抗体ができ、VGCC破壊により、神経筋接合部のアセチルコリン放出障害をきたします(Eaton-Lambert症候群)。
Eaton-Lambert症候群は、重症筋無力症と同じ近位筋力低下・腱反射減弱(甲状腺機能低下症類似症状)、筋酵素CK(CPK)正常ですが
- 正中神経誘発筋電図(Harvey-Msland試験)で waxing;3Hzの低頻度刺激で軽度の、30Hzの高頻度刺激で著明なwaxing現象を認めます。
- 抗VGCC抗体、抗glia核抗体陽性です。
自律神経VGCCも損傷、自律神経障害も高率で、橋本病合併シェーグレン症候群のような口渇・甲状腺機能低下症のような便秘を認めます。
(日呼吸会誌 2008;46(3);226-231.)
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