IgG4関連甲状腺炎、リーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会の学術集会で入手した知見です。
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Summary
IgG4関連疾患(IgG4-RD)に合併するIgG4関連甲状腺炎はIgG4関連甲状腺炎(橋本病型IgG4甲状腺炎)と異なる。19%に甲状腺機能低下症、ステロイド投与で甲状腺機能、甲状腺腫改善。リーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)は約30%に他臓器IgG4-RD合併、症状は発熱・頚部痛・甲状腺中毒症→甲状腺機能低下症・甲状腺腫大は緩徐、著明な線維化・癒着で気道狭窄。80-90%で甲状腺自己抗体陽性、エコーは低エコー、線維化、組織生検で著明な線維化・多彩な炎症細胞浸潤、免疫染色でIgG4陽性形質細胞少ない。治療はステロイド、気管切開、甲状腺前方切除手術。
Keywords
IgG4,IgG4関連疾患,IgG4関連甲状腺炎,リーデル甲状腺炎,橋本病,甲状腺機能低下症,バセドウ病,甲状腺,Riedel甲状腺炎,ステロイド
IgG4関連疾患(IgG4-RD)とは
免疫グロブリンの一つであるIgGの3%がIgG4です。甲状腺領域、甲状腺外の領域でも、IgG4は最もホットな話題の一つです。IgG4関連疾患(IgG4-RD)は、どの臓器にも発生する可能性があります。血清IgG4高値とIgG4陽性形質細胞の組織浸潤/腫瘤形成が特徴で、IgG4関連自己免疫性膵炎、ミクリッツ病などをおこします。IgG4関連疾患(IgG4-RD)は中高年が好発年齢で、男性にやや多いです。
厚生労働省班研究グループが提唱した包括的診断基準は、
- 血清IgG4が、135 mg/dL 以上
- 組織におけるIgG4陽性細胞は高倍率視野で10個以上
- IgG4陽性細胞/IgG陽性細胞比率が40%以上
IgG4関連疾患(IgG4-RD)の免疫異常の正体
IgG4関連疾患(IgG4-RD)の免疫異常は、Th2および制御性T細胞(Treg)によるサイトカインが病因とされます[Mod Rheumatol. 2020 Jul;30(4):609-616.]。最近では、Th1も慢性炎症と線維化に関与すると考えられています[Front Immunol. 2022 Apr 1;13:825386.][Clin Rheumatol. 2023 Apr;42(4):1113-1124.]。
ヘルパーT細胞には、Th1細胞(細胞性免疫)とTh2細胞[液性免疫:免疫グロブリン(TSH受容体抗体:TRAb)による]があり、どちらが優位になるかで、橋本病・バセドウ病いずれになるか決まります(橋本病とバセドウ病は入れ替わる---元は同じ自己免疫性甲状腺疾患)。
Th1優位になれば橋本病、Th2優位になればバセドウ病になります。また、バセドウ病にはTregも強く関与していると言われ、不思議なことに、IgG4関連疾患(IgG4-RD)の免疫異常は、橋本病よりバセドウ病に近い事になります。
岡山大学の報告では、IgG4関連疾患(IgG4-RD)のTh2およびTregサイトカインは、Th2優位の代表である花粉症(アレルギー性鼻炎)・アトピー性皮膚炎で有名なマスト細胞(肥満細胞)で作られるとのことです(Mod Pathol 2014 Jan 3. doi: 10.1038/modpathol.2013.236)。
IgG4関連疾患(IgG4-RD)以外でも血清IgG4が上昇
IgG4関連疾患(IgG4-RD)以外でも血清IgG4が135 mg/dL 以上に増加する場合があります。
- 反復感染
- 原発性免疫不全
- 悪性腫瘍
- IgG4関連疾患(IgG4-RD)以外の自己免疫疾患
- 血管炎
- 間質性肺炎
などです。
IgG4関連甲状腺炎とは
IgG4関連甲状腺炎は、IgG4関連疾患(IgG4-RD)の19%に認められ、潜在性甲状腺機能低下症、顕在性甲状腺機能低下症が同数とされます(Scand J Rheumatol. 2013;42(4):325-30.)。
IgG4関連甲状腺炎は、
- 甲状腺腫を伴う
- 甲状腺内に地図状低エコー領域を認める
- ステロイド(プレドニゾロン)投与で甲状腺機能、甲状腺腫が改善
- 切除標本ではリンパ球とIgG4産生形質細胞浸潤、甲状腺濾胞の破壊
などの特徴があります。
IgG4関連甲状腺炎は、線維化が著明とは言えず、
- 橋本病の一亜型で、IgG4関連疾患(IgG4-RD)の合併が極めて少ないものの、線維化が著明な(線維性肉芽腫性炎症)のIgG4甲状腺炎(橋本病型IgG4甲状腺炎)とは異なる。
- 組織がガチガチに線維化するリーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)に近いものと考えられる。
しかしながら、橋本病型IgG4甲状腺炎、バセドウ病型IgG4甲状腺炎、リーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)の一部がIgG4関連疾患(IgG4-RD)の組織学的特色を示すため、IgG4関連甲状腺炎も含めて、これらは全くの別物とは言えない様です。
IgG4関連疾患(IgG4-RD)に、結節性IgG4関連甲状腺炎と甲状腺癌を合併した報告が1例ありますが、頻度としてはかなり稀です[Pathol Int. 2011 Oct;61(10):589-92.]。
甲状腺悪性リンパ腫・甲状腺乳頭癌との鑑別を要する結節性IgG4関連甲状腺炎
甲状腺全体が低エコー(黒く見える)でなく、部分的に低エコー(低エコー腫瘤)の場合(結節性IgG4関連甲状腺炎)、甲状腺悪性リンパ腫・甲状腺乳頭癌・転移性甲状腺癌・橋本病結節との鑑別が必要になります。
細胞診所見だけでは、甲状腺悪性リンパ腫(形質細胞への分化を伴うMALTリンパ腫)との鑑別難です。Ga シンチグラフィでも軽度の集積を認めるため、結局、甲状腺悪性リンパ腫が疑われて組織生検になります。
CT/エコー上、甲状腺濾胞は破壊されて萎縮し、組織生検では広範な線維化、異型性の無い小型リンパ球浸潤、著明な形質細胞浸潤を認めます(次項さ参照)。
多発性骨髄腫の形質細胞と異なり、異型性は無く、血管壁血管周囲にアミロイド沈着も認めません。
免疫染色にて形質細胞はIgG4陽性ですが、昭和大学藤が丘病院の報告例では、不思議な事に血中IgG4は正常だったそうです(第59回 日本甲状腺学会 P1-7-2 悪性リンパ腫との鑑別が困難であった抗甲状腺抗体陰性結節性IgG4 関連甲状腺炎の一例)。
下、IgG4関連甲状腺炎[Endocrinol Metab (Seoul). 2022 Apr;37(2):312-322.]
リーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎、Riedel's thyroiditis)は、非常に稀で原因不明ですが、IgG4関連疾患(IgG4-RD)、IgG4関連甲状腺炎の仲間と考えられ、他のIgG4関連疾患(IgG4-RD)の合併もあります。
リーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)では組織中のIgG4/IgG比が50%以上で、著明な(異常な)線維化が甲状腺内外に広がるのが特徴です(多巣性線維硬化症)。
リーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)は
- 好発年齢は30-50歳
- 男女比は約1:3と女性に多い
リーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)の症状は
- 発熱
- 頚部痛(約20%);痛みの部位に一致して低エコー、硬い)
- 甲状腺中毒症から甲状腺機能低下症に移行(約80%)
- 甲状腺腫大の進行は比較的緩徐
- 炎症と線維化が背側に進行すると、気道狭窄、副甲状腺機能低下症、反回神経麻痺[写真;J Ultrasound Med. 2009 Feb;28(2):267-71.]
[Invasive fibrous thyroiditis(Riedel thyroiditis):the Mayo Clinic experience, 1976-2008. Thyroid. 2011;21:765-72.][Arthritis Care Res (Hoboken). 2010 Sep;62(9):1312-8.]
リーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)の検査所見は、
- 80-90%で甲状腺自己抗体[抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体) と抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)]陽性
- エコー上、橋本病型IgG4甲状腺炎に似て、びまん性腫大、低エコー、線維化しているため内部血流は低下し硬い
- 穿刺細胞診は線維化のため濾胞細胞が採れない(dry tap)。線維芽細胞やコラ-ゲン線維は少し採れる
- 生検で著明な線維化(濾胞構造消失、多巣性線維硬化症)・多彩な炎症細胞浸潤(①異型性に乏しいリンパ球・好中球・形質細胞、好酸球など、②リンパ濾胞を認めない)・周囲筋組織の破壊・閉塞性静脈炎の存在[infiltrative、occlusive、scleroticの3段階](Radiol Case Rep. 2016 Jun 17;11(3):175-7.)[Virchows Arch A Pathol Anat Histol. 1978 Apr 17;377(4):339-49.][Case Rep Endocrinol. 2019 Dec 9;2019:5130106.]
免疫染色でIgG4陽性形質細胞は少ない、むしろ徐々に減少する(Clin Endocrinol(Oxf). 2017;86:425-30.)
→Mayo Clinicの報告では、21例のRiedel甲状腺炎のうちIgG4関連疾患の診断基準を満たす例はなかった[J Clin Endocrinol Metab. 2011 Oct;96(10):3031-41.]。IgG4関連疾患と確定診断されたリーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)の文献は数例しかない(2015年で4例)[日本甲状腺学会雑誌 2019 April;10(1):19-24.]。 生検で判定できなければ術中病理組織検査が必要
下記はステロイド治療前後のリーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)超音波(エコー)画像です。治療前は甲状腺内に腺腫様結節のような結節(A)、もしくは悪性リンパ腫のような低エコー性腫瘤(B)を認め、頸動脈を巻き込んでいます。治療後は著明に縮小します。[Thyroid. 2011 Jul;21(7):799-804.]
下記はびまん性腫大、低エコー、線維化しているため内部血流は低下し硬いリーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)の超音波(エコー)画像です。結節性IgG4関連甲状腺炎の形態では無く、甲状腺内に結節や悪性リンパ腫様の低エコー性腫瘤を認めません。[Mol Imaging Radionucl Ther. 2015 Feb 5;24(1):29-31.]
リーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎) CT画像[Radiol Case Rep. 2016 Jun 17;11(3):175-7.]
リーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)組織像[Radiol Case Rep. 2016 Jun 17;11(3):175-7.]
リーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)は、
との鑑別が必要になります。
甲状腺原発悪性リンパ腫、特にMALTリンパ腫(MALT ball)との鑑別
甲状腺原発悪性リンパ腫、特にMALTリンパ腫との鑑別が問題になる場合があります。(右)MALTリンパ腫の組織像。紫の点が悪性リンパ腫細胞の核です。甲状腺濾胞に浸潤しているのが解ります。MALT ballと呼ばれるものですが、MALT ballがあるからと言って悪性リンパ腫とは限りません。
群馬パース大学 保健科学部 蒲 貞行先生によるとMALT ball内部は「小型~中型の細胞ながら、核小体の長径が核長径の1/4以上、すなわち [核小体/核]-比 が1/4以上で、不整形の核を持つ腫瘍細胞」とされます(リンパ球系病変の純細胞形態学的観察法)
すなわち、甲状腺濾胞に浸潤しているリンパ球系細胞があるからと言って悪性リンパ腫細胞とは限りません。炎症性にリンパ球が甲状腺濾胞に浸潤している病態は、intraepithelial lymphocytosisと呼ばれ、バセドウ病や橋本病(慢性甲状腺炎)でも認められます
[Activated interstitial and intraepithelial thyroid lymphocytes in autoimmune thyroid disease. Acta Endocrinol (Copenh). 1988 Oct;119(2):161-6.]
[Predominant intraepithelial localization of primed T cells and immunoglobulin-producing lymphocytes in Graves' disease. Acta Endocrinol (Copenh). 1991 Jun;124(6):630-6.]
[Immunohistochemical characterization of intrathyroid lymphocytes in Graves' disease. Interstitial and intraepithelial populations. Am J Med. 1984 May;76(5):815-21.]。
(左)はリーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)の組織像です。intraepithelial lymphocytosisを認めます。これをMALT ballと間違えてはいけません。
リーデル甲状腺炎によるintraepithelial lymphocytosis[riedels-thyroiditis-residual-atrophic-follicle-fibrosis(Medbullets Team)]
MALTリンパ腫のMALT ballと勘違いして、IgG4産生MALTリンパ腫と間違える危険があります。
病気の希少性のため、リーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)に標準化された治療法はありません。治療は
- ステロイドパルス、その後のステロイド経口投与:一時的に臨床症状の著明な改善を認めるも、リーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)の活動性が収まらず、ステロイド減量できないため年単位の投与になります。
発症初期ほど反応性が良く、線維化が進んだ晩期には効きが悪い。
[J Endocrinol Invest. 1995 Apr;18(4):305-7.] - ステロイド+分子標的薬(リツキシマブ)(J Clin Endocrinol Metab. 2013 Sep;98(9):3543-9.)
+タモキシフェン(10-20mg/日);TGFβによる線維芽細胞の増殖を抑制(J Clin Endocrinol Metab. 2013 Sep;98(9):3543-9.)
+免疫抑制薬(ミコフェノール酸モフェチル:セルセプト®)(Thyroid. 2010 Jan;20(1):105-7.)
- 気管切開
- 甲状腺の前方を外科切除手術(あくまで減圧目的、時期を逸すると周囲に癒着し中々はがれません)。線維化のため甲状腺と周囲組織の境界面が分からなくなり切除困難です。部分小切除でも39%に合併症がおきます[Thyroid. 2011 Jul;21(7):765-72.]。甲状腺全摘出は癒着が強く、反回神経損傷の危険性がある。
IgG4関連疾患(IgG4-RD)に甲状腺乳頭癌(1例は乳頭癌由来低分化癌)を合併した症例が報告されています。偶然なのか、それとも何らかの免疫機序が関連するのか謎です。1例はIgG4関連下垂体炎・後腹膜線維症、もう1例はIgG4関連自己免疫性膵炎に合併したとの事です。(第58回 日本甲状腺学会 P167 IgG4関連疾患に甲状腺乳頭癌を合併した2例)
IgG4関連疾患(IgG4-RD)に甲状腺乳頭癌を合併した別の報告では、
- ミクリッツ病(IgG4関連硬化性唾液腺炎)およびIgG4関連自己免疫性膵炎に合併
- 甲状腺乳頭癌の原発巣・転移性リンパ節の両方が、高密度のIgG4陽性形質細胞と線維組織に囲まれていた
甲状腺以外のIgG4関連疾患(IgG4-RD)
を御覧下さい。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,生野区,浪速区も近く。