甲状腺と遺伝 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 大学院医学研究科代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
バセドウ病,橋本病,亜急性甲状腺炎,無顆粒球症,インスリン自己免疫症候群など甲状腺の病気に関与するHLA遺伝子が存在。HLA-DRのアミノ酸が変化(HLA-DRのアミノ酸多型)しバセドウ病・橋本病いずれになるか決まる。HLA-DR3はTSH受容体に結合しTリンパ球に抗原認識させるため、TSHレセプター抗体(TRAb)が作られ、バセドウ病が発症。多のう胞性甲状腺疾患(PCTD)は、のう胞性腫瘍や破壊によるのう胞変性ではなく、濾胞内にコロイドが貯留し拡大したもの。甲状腺機能低下症の約7%で、遺伝性もあり。多のう胞性甲状腺疾患に甲状腺乳頭癌を合併した報告あり。
Keywords
甲状腺,HLA,遺伝,甲状腺機能低下症,遺伝子,バセドウ病,多のう胞性甲状腺疾患,橋本病,亜急性甲状腺炎,HLA-DR
HLA(Human Leukocyte Antigen=ヒト白血球抗原)は、白血球の血液型として発見され、頭文字をとってHLAと呼ばれます。しかし、HLAは白血球だけではなく、体内のほぼ全部の細胞に分布し、組織適合性抗原(ヒトの免疫に関わる重要な分子、MHC)として働いています。
免疫T細胞がHLAにより提示される抗原ペプチドを認識するのが、自己免疫反応の成立に深く関与します。よって、HLA遺伝子の種類で、自己免疫反応の種類、重症度、治療抵抗性が規定されます。
HLA検査を行うと、遺伝子型ごとに2つの型が存在します。父親と母親の型を1つずつ受け継いでいるためです。(「HLAハプロタイプ」と呼びます)
自分のHLA検査に加え、両親のHLA検査も行うと、どちらから来た遺伝子なのか判ります。
病気 | HLA | オッズ比 |
---|---|---|
バセドウ病 | HLA-A*02[J Hum Genet. 2010 May;55(5):323-6.] HLA-DPB1*05:01[抗TSH受容体抗体(TRAb)産生に重要][PLoS One. 2011 Jan 28;6(1):e16635.] | 2.0 4.2 |
無顆粒球症 | HLA-DRB1*08:03:02[HLA. 2022 Jul;100(1):94-95.] | 6.13 21.48 3.66 |
インスリン自己免疫症候群 | HLA-DRB1*04:06[Intern Med. 2007;46(5):237-9.] | >1,000 |
橋本病 | HLA-A*02[Horm Res Paediatr. 2011;76(5):328-34.] HLA-DRw53[J Clin Endocrinol Metab. 1989 Dec;69(6):1268-73.] HLA-DRB4*01:01(Hum Immunol. 1995 Feb;42(2):131-6. ) | 2.1 4.5 |
亜急性甲状腺炎 | HLA-B*35:01[J Clin Endocrinol Metab. 1995 Dec;80(12):3653-6.] | 18.0 11.2 |
原発性胆汁性肝硬変 (PBC, 自己免疫性肝炎) | HLA-DR8(DRB1*08:03) HLA-DR2(DRB1*16:02) | 2.2 5.9 |
1型糖尿病 | HLA-B54 HLA-DRB1*04:05(劇症1型糖尿病) HLA-DQB1*04:01(劇症1型糖尿病) HLA-DRB1*09:01 | 4.8 4.0 4.3 1.3 |
バセドウ病とHLA-DR
- バセドウ病では、最近HLA-DR3が注目されています。HLA-DR3は甲状腺内のTSHレセプター(受容体)に結合し、Tリンパ球にTSHレセプターを抗原として認識させるため、TSHレセプター抗体(TSH Receptor Antibody:TRAb)が作られてバセドウ病が発症する説があります(Thyroid. 2006 Dec;16(12):1221-7.)。
- HLA-DRのアミノ酸が変化する(HLA-DRのアミノ酸多型)ことで、バセドウ病・橋本病いずれになるか決まるとの報告もあります(J Autoimmun. 2008;30(1-2):58–62.)。
- HLA-DRB1*09:01がバセドウ病発症に関与し、DRB1*12:02は発症を抑えると考えられる。[Tissue Antigens. 2012 Sep;80(3):224-30.]
バセドウ病と一卵性双生児
一卵性双生児姉妹のバセドウ病の報告は複数あります。大抵は、ほぼ同時期に発症し、同じ様な治療経過をたどります。しかし、環境因子が影響するため、年月が経つほど微妙に甲状腺ホルモン値、TRAb、TgAb、TPOAbの値が異なってきます。報告例の責任抗原はDRB1*04:05、DQB1*04:01:01、DPB1*05:01ハプロタイプでした。(Acta Endocrinol (Buchar). 2016 Jan-Mar;12(1):91-95.)
多のう胞性甲状腺疾患(PCTD)
多のう胞性甲状腺疾患(PCTD; polycystic thyroid disease)は、隈病院の網野先生等が提唱した新たな概念の甲状腺機能低下症です。
甲状腺内にのう胞(嚢胞)が多発しますが、のう胞性腫瘍や破壊によるのう胞変性(嚢胞変性)ではなく、濾胞内にコロイド状液体が貯留して濾胞が拡大したのう胞(嚢胞)です。
多のう胞性甲状腺疾患(PCTD)は、
- 甲状腺機能低下症の約7%を占める
- 高齢者に多い
- ヨード(ヨウ素)過剰摂取にて甲状腺機能低下症を起こし易い
- 橋本病(慢性甲状腺炎)の自己免疫抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)が陰性
- 拡大したのう胞(嚢胞)内の濾胞細胞数は減少する
とされます。
また、遺伝性の多のう胞性甲状腺疾患(PCTD)も報告されています。
[Thyroid. 2010;20(11):1205-8.][Endocr J. 2011;58(9):783-8.]
(↓)大小多数の のう胞(嚢胞)がありますが、甲状腺自体は白く均一で、破壊性変化を認めません。
多のう胞性甲状腺疾患(PCTD)に甲状腺乳頭癌を合併
多のう胞性甲状腺疾患(PCTD)に甲状腺乳頭癌を合併した症例が報告されています。[Endocr J. 2011;58(9):783-8.](第53回 日本甲状腺学会 P16 甲状腺機能低下症を呈する多発甲状腺嚢胞症例(Polycystic thyroid disease)の病理所見)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。