甲状腺機能低下症と頭痛(片頭痛,低髄液圧症候群)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。頭痛、くも膜下出血、動脈瘤 自体の診療を行っておりません。
Summary
甲状腺機能低下症の頭痛は①甲状腺機能低下症筋症(甲状腺機能低下性ミオパシー)②疲労物質の分解障害による筋肉疲労・肩こり。鎮痛薬が効かないため薬物乱用頭痛になる事も。甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)により甲状腺機能正常化すれば改善しやすい。生理前のエストロゲン減少期などに、セロトニンが代謝され減少すると、細い血管が収縮・太い血管が拡張し片頭痛がおきる。トリプタン系薬剤はセロトニン−1(5-HT1)受容体作動薬で、過度に拡張した脳血管平滑筋を収縮させ、硬膜血管周囲三叉神経終末を抑制し、片頭痛発作を抑える。狭心症/心筋梗塞、脳梗塞の危険があると禁忌。
Keywords
甲状腺機能低下症,頭痛,ミオパシー,片頭痛,エストロゲン,セロトニン,トリプタン,甲状腺,脳脊髄液減少症,低髄液圧症候群
甲状腺機能低下症で、頭の両側が重くなる頭痛に、消炎鎮痛剤はあまり効果ありません。甲状腺機能低下症の人は、毎日鎮痛薬を飲んで薬物乱用頭痛になることがあります。甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)により甲状腺機能正常化すれば改善しやすいとされます。
甲状腺機能低下症で頭痛がおこる機序として、
- 甲状腺機能低下症筋症(甲状腺機能低下症性ミオパシー)
- 疲労物質が筋肉内に蓄積しても代謝分解できず、筋肉疲労・肩こり
が考えられます。
また、機序は不明ですが、甲状腺機能低下症と片頭痛には関連があり、片頭痛患者では甲状腺機能低下症が多いとされます(甲状腺機能低下症と片頭痛)。
脳脊髄液は、主に脳室内の脈絡叢で1日約500 mL産生されます。
脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)とは
脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の症状
脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)で頭痛・めまい・首の痛み・耳鳴り・難聴・視力低下・全身倦怠感(体がだるい)が起こります。
これらの症状は、立位の重力下で脳脊髄液が下がり、最上部に位置する脳の脳脊髄液が不足し、硬膜(脳を包む膜の一つ)がへしゃげて脳を圧迫するのが原因とされます。そのため、臥位(寝ころんだ姿勢)が楽で、怠け病、引きこもり、不登校と間違われる事があります。
脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)で頭痛と中枢性甲状腺機能低下症
脳脊髄液減症(低髄液圧症候群)は内分泌障害を伴う事があり、性ホルモン低下による無月経、性欲減退、インポテンツ(中枢性性低ゴナドトロピン性腺機能低下症)が多いです。中枢性甲状腺機能低下症、2次性(続発性)副腎皮質機能低下症、尿崩症の場合もあります。
また、脳脊髄液減症(低髄液圧症候群)は重度の全身倦怠感(体がだるい)を伴うのが特徴で、慢性疲労症候群と間違って診断される事が多くあります。全身倦怠感をおこす原因は不明ですが、前頭前野-視床下部-大脳辺縁系の機能低下との説が有力で、視床下部の機能低下は、中枢性性低ゴナドトロピン性腺機能低下症、中枢性甲状腺機能低下症、2次性(続発性)副腎皮質機能低下症、尿崩症に直結し全身倦怠感を悪化させる可能性があります。
自己免疫性甲状腺疾患が髄液圧低下に影響する証拠はありません。因果関係不明ですが甲状腺機能正常橋本病に脳脊髄液減症(低髄液圧症候群)を合併した報告があります(Medicine (Baltimore). 2019 May;98(18):e15476.)。
脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の画像
脳MRIによる画像診断は、
- 造影MRIのびまん性硬膜増強効果、下垂体下部のFLAIR高信号(特徴的)
- 硬膜下腔/くも膜下腔の拡大、硬膜下水腫(髄液減少を代償)
- 硬膜下血腫(慢性硬膜下血腫との鑑別重要;下記)
- 脳底部での脳溝・シルビウス裂・脳室・脳幹周囲脳底槽狭小化
- 下垂体腫大
- 頭蓋内静脈、静脈洞拡張
などです。(写真 MedicalNoteより)
慢性硬膜下血腫との鑑別
慢性硬膜下血腫との鑑別は重要です。慢性硬膜下血腫は脳底部には生じず、上記の様なMRI所見を認めません。慢性硬膜下血腫と間違えて血腫除去すると、脳脊髄液減少症が増悪し、血腫が再発します。
脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の治療
最近では、硬膜の破れ目に自分の血液を注入してカサブタを作り塞いでしまう硬膜外自家血注入療法(ブラッドパッチ療法)を行っている施設があります。
片頭痛とは
片頭痛は、頭の片側がズキンズキンと脈打つような頭痛です(両側の事もあり)。長いと3日間も続きます。一般的にストレスとの関係が指摘されますが、片頭痛はむしろ、仕事が休みの日や休日など、落ち着いた状態の時に起こりやすいです。
片頭痛は、分泌されたセロトニンが代謝され減少すると、細い血管が収縮・太い血管が拡張し、その反動で片頭痛がおきます。
甲状腺の病気と同じく女性(特に低血圧の女性)に多く、生理前にエストロゲンが減少すると、血中のセロトニンも減少し片頭痛おこしやすくなります。
また、血清・脳脊髄液(CSF)中のマグネシウム低下が片頭痛の発症に関与します[Biol Trace Elem Res. 2020 Aug;196(2):375-383.](甲状腺機能亢進症/バセドウ病と頭痛、低マグネシウム血症)。
運動、咳、入浴、飲酒などで痛みが助長、体動(下を向く、階段を登るなどの日常動作)による頭痛の増悪は片頭痛の診断基準です。そのため、暗く静かなところでじっとしているのを好みます。
吐き気(悪心)を伴うこともあります。
甲状腺機能低下症と片頭痛には関連があり、
- 片頭痛患者では甲状腺機能低下症が多い(Mymensingh Med J. 2021 Jan;30(1):43-47.)
- 片頭痛が甲状腺機能低下症の発症リスクを高める(Headache. 2019 Sep;59(8):1174-1186.)
- 潜在性甲状腺機能低下症患者において片頭痛の有病率が高い(Cephalalgia. 2019 Jan;39(1):15-20.)
などの報告があります。
片頭痛で心筋梗塞・脳梗塞/出血性脳卒中・静脈血栓塞栓症・心房細動/心房粗動に
片頭痛は
- 心筋梗塞
- 脳梗塞/出血性脳卒中(最初の1年間が最もリスク高い)
- 静脈血栓塞栓症
- 心房細動(Af)/心房粗動(AF)
の危険因子です(J Headache Pain. 2016 Dec;17(1):108.)(BMJ. 2018 Jan 31;360:k96. doi: 10.1136/bmj.k96.)。
片頭痛の前兆が出ている女性の心血管疾患発症率は、肥満女性、中性脂肪(トリグリセリド)高値女性、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール低値女性よりも有意に高くなります(JAMA . 2020 Jun 9;323(22):2281-2289.)。
片頭痛と言えど軽く見てはいけません。
トリプタン系薬剤はセロトニン1(5-HT1)受容体作動薬です。過度に拡張した脳血管平滑筋を収縮させ、硬膜血管周囲三叉神経終末を抑制することにより、片頭痛発作を抑えます。
トリプタン系薬剤は半減期が短い(3時間以下)ため、即効性はあっても予防効果はありません。過度の血管収縮による副作用のため、次の服薬まで2時間以上開ける必要があります。
また、片頭痛のほか群発頭痛にも有効です。
トリプタン系薬剤の禁忌
甲状腺の病気でトリプタン系薬剤を使用してはならない状況があります。
- 甲状腺機能低下症や糖尿病で動脈硬化が進行し、狭心症/心筋梗塞、脳梗塞の危険がある場合(甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症から動脈硬化と狭心症/心筋梗塞)
- 甲状腺機能が正常化してない甲状腺機能亢進症/バセドウ病で、心筋虚血、狭心症・冠攣縮性狭心症、心筋梗塞の危険がある場合(甲状腺機能亢進症/バセドウ病から急性冠症候群、冠攣縮性狭心症)
血管を収縮させるトリプタン系薬剤は禁忌です(甲状腺機能低下症、糖尿病、バセドウ病でも、狭心症/心筋梗塞などの危険が無い場合は除く)。
- 片麻痺型片頭痛
- 狭心症/心筋梗塞
- 脳梗塞一過性脳虚血発作
- コントロール不能高血圧
- 閉塞性動脈硬化症
には禁忌です。
甲状腺機能が正常化してない甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、可逆性脳血管攣縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome; RCVS)を誘発する危険があります。
薬物乱用頭痛(Medication-Overuse Headache)
トリプタン系薬剤の使用が、月10日以上 x 3カ月以上続くと、薬物乱用頭痛(Medication-Overuse Headache)の原因になります。片頭痛が起こりそうにない時に、安易にトリプタン系薬剤を飲んではいけません。
片頭痛予防薬
- 非選択性β遮断薬(プロプラノロールなど):甲状腺機能亢進症/バセドウ病で昔よく使われましたが、血管拡張を妨げるため現在あまり使われません。しかし、血管拡張を妨げる作用が片頭痛予防になります。
- 抗てんかん薬;バルプロ酸、トピラマート(アメル®)
- 抗うつ薬(アミトリプチリン)セロトニン代謝を改善
- ピペラジン系カルシウム拮抗薬;ロメリジン(ミグシス®)脳血管選択的血管収縮抑制
- アンギオテンシン変換酵素( ACE )阻害薬,アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬( ARB )
前述のトリプタン系薬剤は半減期が短い(3時間以下)ため、即効性はあっても予防効果はありません。例外的にナラトリプタン(アマージ®)は半減期が5.1時間と比較的長く、即効性は無いものの、生理前の片頭痛に予防効果を有するとの報告があります(Lancet. 2001 Nov 17;358(9294):1668-75.)。しかし、保険診療上は認められていません。半減期が長い分、次の服薬まで4時間以上開ける必要あり。
群発頭痛の症状は、
- 突発する強い片側の眼の奥の痛み、あるいはまたは側頭部痛が連日明け方に起こり目が覚める
- 眼の結膜充血と流涙、眼瞼浮腫[甲状腺眼症(バセドウ病眼症)のよう]、縮瞳、眼瞼下垂
- 鼻閉または鼻漏
- 顔面の発汗、落ち着きがない、あるいは興奮した様子(甲状腺機能亢進症/バセドウ病のよう)
- 痛みは15~180分間持続し治まる
- 飲酒で増悪
- 1回/2日~8回/1日の発作がある期間集中し、その後止まる。
- 期間を置いて再発
当然、頭部MRI、MRAは正常です。群発頭痛の治療は、
- 酸素投与(毎分7L以上)
- トリプタン皮下注(発作急性期);トリプタンの経口投与は効果発現に1時間かかる
甲状腺機能低下症は、特に男性で未破裂脳動脈瘤の危険因子の可能性があります[J Neurosurg. 2018 Feb;128(2):511-514.]
甲状腺機能低下症では大動脈壁にムコ多糖体が蓄積するのが大動脈瘤形成の一因とされています[Endokrinologie. 1966 Aug;50(3):116-22.][Postgrad Med J. 1982 Nov;58(685):706-7.]
脳動脈瘤塞栓術での放射線被ばくは、放射線誘発性皮膚炎・眼の水晶体損傷・放射線甲状腺炎をおこす可能性があります。甲状腺の被ばく線量は24mGyだったそうです[Br J Radiol. 2003 Aug;76(908):546-52.]。鉛製の甲状腺シールドは放射線防護に有用です[Cardiovasc Intervent Radiol. Sep-Oct 2007;30(5):922-7.]。
下垂体卒中は
- TSH産生下垂体腺腫、原発性甲状腺機能低下症に伴う下垂体過形成にTRH負荷試験を行った場合
- 機能性(ホルモン産生性)下垂体腺腫、非機能性(ホルモン非産生性)下垂体腺腫に各種負荷試験を行った場合
- 中枢性甲状腺機能低下症の原因となるラトケ嚢胞(ラトケのう胞)内での出血
などに起こります。教科書的な雷鳴頭痛(生涯で最大の頭痛)とは限らず、軽微な下垂体卒中がチビチビ起こる事により、数年~十数年間、軽い頭痛を繰り返す場合もあります(minor stroke)。ある時、頭痛が頻繁に起こるようになって(もちろん激痛ではありません)、CT・MRIを撮ると初めて下垂体卒中が見つかります。
詳しくは、内分泌エマージェンシー下垂体卒中 を御覧下さい。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,浪速区天王寺区も近く。