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甲状腺機能亢進症/バセドウ病と頭痛,可逆性脳血管攣縮症候群,脳静脈洞血栓,くも膜下出血[橋本病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌病態内科学も講座で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。頭痛自体、ANCA関連脳血管炎・可逆性脳血管攣縮症候群、脳静脈洞血栓、くも膜下出血、もやもや病の診療を行っておりません。

Summary

甲状腺機能亢進症/バセドウ病甲状腺中毒症の頭痛①血中マグネシウム・ビタミンB2濃度低下で片頭痛悪化②抗甲状腺薬によるANCA関連脳血管炎・可逆性脳血管攣縮症候群③脳静脈洞血栓④くも膜下出血(収縮期高血圧等による脳動脈瘤の破裂、もやもや病血管が破綻、静脈洞血栓症で静脈圧が上昇、ANCA関連脳血管炎)。くも膜下出血と甲状腺クリーゼ共に極めて死亡率が高く合併すると救命難。患者本人は意識障害のため頭痛症状を医師に伝えられず、くも膜下出血を見逃す可能性あり。くも膜下出血は洞性徐脈・ST異常・T波異常・QT延長おこすが頻脈は稀。

Keywords

甲状腺機能亢進症,バセドウ病,甲状腺中毒症,頭痛,脳動脈瘤,ビタミンB2,片頭痛,可逆性脳血管攣縮症候群,脳静脈洞血栓,くも膜下出血

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の頭痛を甘く見てはいけません。くも膜下出血、ANCA関連脳血管炎・可逆性脳血管攣縮症、脳静脈洞血栓など命に関わる危険な頭痛の事があるからです。最低でも、頭部CTは撮っておくべきです。低マグネシウム血症・ビタミンB2欠乏など大したことない場合が大多数ですが、危険な頭痛が混じっており、見逃したら最後です。

特に、日頃、大したことない頭痛があると、「どうせ大したことないだろう」と言う先入観で思考停止(思考放棄と言っても良いよ思います)になります[アンカリング(Anchoring;投錨)」認知バイアス]。あるいは、患者の精神・心理的な頭痛と決め付けてしまうサイコ-アウトエラー(Psych-out error)、高血圧や項部硬直などくも膜下出血を疑う兆候を切り捨ててしまうコンファメーションバイアス(Confirmation bias)が起きます。(行動経済学的手法に基ずく)

甲状腺機能亢進症/バセドウ病と頭痛

低マグネシウム血症・ビタミンB2欠乏

片頭痛は血清・脳脊髄液(CSF)中のマグネシウム低下が発症に関与します[Biol Trace Elem Res. 2020 Aug;196(2):375-383.]。甲状腺機能亢進症/バセドウ病甲状腺中毒症では代謝亢進により血中マグネシウム・ビタミンB2濃度が低下するため、片頭痛が悪化します。甲状腺機能亢進症/バセドウ病の片頭痛にはマグネシウム・ビタミンB2を予防投与。

頭痛外来を受診する方の約8%は、甲状腺中毒症であり、血中マグネシウム濃度が低かったとする報告があります。(第54回 日本甲状腺学会 P076 片頭痛にて発見された甲状腺中毒症)

片頭痛は心筋梗塞、脳梗塞/出血性脳卒中、静脈血栓塞栓症、心房細動(Af)/心房粗動(AF)の危険因子(片頭痛 )で、甲状腺機能亢進症/バセドウ病

  1. 急性冠症候群(心筋虚血、狭心症、心筋梗塞)
  2. 脳梗塞
  3. 血栓症-深部静脈血栓
  4. 心房細動(Af)
  5. 頻脈性不整脈

の危険があるため、マグネシウム・ビタミンB2を投与した方が良いと思います。

可逆性脳血管攣縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome; RCVS)

可逆性脳血管攣縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome; RCVS)は

  1. 小児から高齢者まで幅広い年齢層で発症しますが、特に40歳前後の女性に多く、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の好発年齢と重なります。
     
  2. 約3分の1は原因不明だが、交感神経過活動、血管内皮細胞の機能異常(血管内皮障害)などの説があり(Neurol 2012;11:906-917. 2)(Am J Neuroradiol 2015; 36:1392-1399.)、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の病態に重なります。
    しかし、不思議な事に可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)と甲状腺機能亢進症/バセドウ病の合併は、筆者がPub Medで調べた限り皆無でした(以下の日本甲状腺学会の報告のみ)

    発症の誘因はストレス、感情の高まり、排便・排尿、運動、入浴、咳・くしゃみ、産褥、血管を収縮させる薬(片頭痛の治療薬トリプタン系薬剤)、褐色細胞腫[Endocrinol Diabetes Metab Case Rep. 2020 Aug 20;2020:20-0078.]、頭頸部手術、外傷
    (Lancet Neurol. 2012 Oct;11(10):906-17.)
     
  3. 症状は、
    ①激しい頭痛(雷鳴様頭痛)
    ②脳虚血発作(けいれん、運動麻痺)
    ③脳梗塞;若年性脳梗塞、新規病変が日にちを置いて出現。下垂体動脈付近で起きると中枢性甲状腺機能低下症が重なる(第64回 日本甲状腺学会 17-1 可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)により可逆的な中枢性甲状腺機能低下症をきたした1例)。
    くも膜下出血に至る場合もあります。
    下垂体卒中と鑑別要。
     
  4. 頭部CT・単純MRIで異常なく、MRAで血管狭窄・血管攣縮像を認めます。脳梗塞をおこした場合、MRIでは脳梗塞像を認めるも、MRAでは原因となる血管に閉塞病変を認めず血管攣縮像のみ。
     
  5. ベラパミル(ワソラン®)が著効。

(MRA画像;Cephalalgia 2017;38(4):033310241771522)

可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)

ANCA関連脳血管炎・可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)

激しい頭痛と、その後の全身性強直性けいれん・けいれん後不穏症状が起こり、単純MRIでは異常ないがMRAにて、びまん性の脳血管狭窄を認めるケースがあります。このような場合、非常にまれですが、バセドウ病/甲状腺機能亢進症治療薬の抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)によるANCA関連脳血管炎・可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)の事があり、片頭痛と鑑別を要します。
(第55回 日本甲状腺学会 P1-02-05 出産後にバセドウ病を発症しプロピルチオウラシル(PTU)で加療を開始後に可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)を合併した一例)

( MPO-ANCAと甲状腺 )

抗甲状腺薬(メルカゾール)中止後に可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)/可逆性後頭葉白質脳症(PRES)

報告例は10年以上、抗甲状腺薬(メルカゾール)3-6錠/日でも甲状腺機能が安定しない26歳女性。アイソトープ治療のため、ヨード制限食開始と同時にメルカゾール中止後9日目に軽度の頭痛。さらに5日後、I-131を10mCi 投与。治療4日後、呂律困難及び右上肢脱力感、今まで経験のない激しい頭痛が出現。頭部CTで異常なく、脳神経学的にも異常なし、MRI/MRAにて両側側脳室後角周囲に限局したFLAIR高信号と両側内頸動脈C2の狭窄を認め可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)/2次的な可逆性後頭葉白質脳症(PRES)の診断に至る。
(第61回 日本甲状腺学会 O28-5 バセドウ病に対するアイソトープ治療期間に発症した可逆性脳血 管攣縮症候群(RCVS)/可逆性後頭葉白質脳症(PRES)の1例)

前項のANCA関連脳血管炎との関連は不明です。甲状腺ホルモン自体の血管内皮障害にしては、10年以上、何度も再発繰り返しているのに、今更、起きるか!?と言う印象です。しかし、I-131を10mCi 投与後に発症しており、甲状腺細胞の破壊による急激な甲状腺ホルモンの上昇が原因ではないかと筆者は考えています。(Cephalalgia 2017;38(4):033310241771522)

可逆性後頭葉白質脳症(PRES)

バセドウ病/甲状腺機能亢進症による脳静脈洞血栓で頭痛

甲状腺機能亢進症/バセドウ病と、くも膜下出血

脳は外側から硬膜、くも膜、軟膜の3枚膜で覆われ、くも膜下出血はくも膜と軟膜の間の出血です。くも膜下出血は事故などによる外傷性と非外傷性があり、非外傷性の約80%は脳動脈瘤の破裂です。しかし、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の、くも膜下出血は、

  1. 脳動脈瘤の破裂による場合(偶然合併し、収縮期高血圧等が関与)
  2. 類もやもや病の血管が破綻する場合
  3. 静脈洞血栓症(静脈洞閉塞が急速進行すると、静脈圧が上昇し、くも膜下出血おこす)
  4. ANCA関連脳血管炎
  5. 可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)

が考えられます。

くも膜下出血 頭部単純CT画像

くも膜下出血の症状は、

  1. 「ハンマーで殴られるような突然の激痛(ハンマー殴打痛)」「今まで経験したことのない頭痛」と教科書に書いてありますが、実際、そんな典型的な頭痛とは限りません。
    適度な強さの頭痛あるいは軽い頭痛だが、突然おきた、起きた時間がはっきりしている頭痛が多いです。
    最初の頭痛は本破裂前の警告出血で、少量なので自然に軽快したり、市販の鎮痛剤で治まります(ここで診断できれば救命可能)。
  2. 悪心(吐き気)、嘔吐
  3. 後頚部痛(出血が髄液中に流れ込む);頚椎症と誤認、少量の出血なら自然に軽快し見逃す
  4. 意識障害

くも膜下出血の診断は、頭部単純CTで、出血はヘモグロビンのCT値が高いため(高輝度)、白く見えます。発症後24時間以内のCT感度は93%ですが、時間が経ち、血液が脳脊髄液で希釈されるとCT値が低下し、高輝度は消失します。5%の、くも膜下出血はCTで診断難とされますが、脳溝が消失した所見を見落とさねば診断可能です。

くも膜下出血の死亡率は25%、早期に診断・治療できるかが重要です。

左Sylvius 裂を中心としたくも膜下出血と第4 脳室内への血液の逆流 単純CT画像

左シルビウス(Sylvius)裂を中心とした、左橋前槽も含む、くも膜下出血と、第4 脳室内への血液の逆流

くも膜下出血 頭部CT画像

くも膜下出血の見逃しは救急医療で最もトラブルとなる事の一つです。特に、

  1. 若年者;甲状腺機能亢進症/バセドウ病の患者は若年者も多い
  2. 独歩で来院した患者

で見逃しが多いとされます。

前述の通り教科書的な頭痛とは限らず、頭部CT画像も医学生でも診断できるような典型例とは限りません。

この頭部CT画像では、

  1. シルビウス(Sylvius)裂、脳溝が不明瞭で同定できない
  2. 脳幹周囲の脳槽は不明瞭
  3. 側脳室後角は高輝度で出血を疑う

その後は、脳動脈瘤に対するコイル塞栓術も考慮して脳血管造影検査が必要。

甲状腺クリーゼを合併した、くも膜下出血

初診時に甲状腺クリーゼを合併した、くも膜下出血の1例が報告されています。49歳女性で、頭痛後の不穏状態にて救急搬送、意識障害に加え、頻脈、発熱、異常発汗、眼球突出、甲状腺腫大を認め、甲状腺機能亢進症/バセドウ病による甲状腺クリーゼの診断は容易だったようです。(脳卒中 2017 年 39 巻 6 号 p. 451-455) 

問題は、患者本人は意識障害あるため、頭痛の症状を正確に医師に伝えられないので、甲状腺クリーゼと高をくくってしまえば、くも膜下出血を見逃してしまうかもしれません(家族が、数日前からの後頭部痛を伝えたので無事診断できたが、独居者だったら診断できなかったでしょう)。

逆に、甲状腺が専門でない脳外科医が、先に、くも膜下出血を見つけ、甲状腺クリーゼに気付かないかもしれません。しかし、くも膜下出血では90%以上で心電図異常を認め、洞性徐脈・ST異常・T波異常・QT延長が主ですが頻脈は稀です(Stroke 20: 1162–1167, 1989)。

感心なのは、「意識障害あれば必ず緊急でCTを撮影する」原則を忘れなかった事です。

報告例は、甲状腺クリーゼの治療を優先して行い、改善後にくも膜下出血手術を行い、転帰は良好だったとの事です。もし、くも膜下出血の診断ですぐ早期手術を行えば、手術侵襲のストレスで甲状腺ク リーゼが悪化して致死的な経過が予想されます。

甲状腺クリーゼ

  1. 未治療の場合の致死率 50~90%
  2. 適切な治療が行われた場合でも10%以上(Thyroid 22: 661–679, 2012)

破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血も再出血(再破裂)による致死率が約20%と極めて高く、初回破裂後6時間以内が最も多いため早期手術が標準治療です(J Neurosurg 79: 373–378, 1993)。しかし、甲状腺クリーゼが解除されない限り、手術は超危険です。

くも膜下出血と甲状腺クリーゼ共に、極めて死亡率の高い2つを同時に合併し、救命し得た成功例です。

脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)と甲状腺

脳動静脈奇形2

脳動静脈奇形(AVM)[Temple Healthより改変]

脳動静脈奇形(AVM) 頭部単純MRI T2画像

脳動静脈奇形(AVM) 頭部単純MRI T2画像 [Radiopaediaより改変]

脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)は20~40代の若年者に発症する脳血管障害の一つで、脳動脈と静脈が直接つながる病気。

脳動静脈奇形(AVM)の症状は

  1. 頭痛
  2. てんかん
  3. 脳神経症状、性格変化
  4. 脳内出血・くも膜下出血;正常血管に比べて壁が薄いため、破裂して脳内出血・くも膜下出血を起こす。破裂後は保存的に治療しても約20%が再出血する。

コーデン(カウデン,Cowden)症候群では、甲状腺腫瘍(73-80%)、副甲状腺腫(稀)、副腎過形成以外に脳動静脈奇形(AVM)の合併もあります。(J Stroke Cerebrovasc Dis. 2016 Jun;25(6):e93-4.)

スタージ・ウェーバー(Sturge-Weber)症候群 (SWS)では、脳動静脈奇形(AVM)を形成し、中枢性甲状腺機能低下症下垂体前葉機能低下症を合併するケースもあります。(Int J Clin Pediatr Dent. 2016 Jan-Mar;9(1):82-5.)

脳動静脈奇形(AVM)は年齢的に、もやもや病・甲状腺機能亢進症/バセドウ病に合併する類もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)との鑑別が必要。脳動静脈奇形(AVM)は頭部単純MRI T2画像で蛇行血管と蜂の巣状低信号域(flow void)を認めます。

脳動静脈奇形(AVM)に対する血管内治療(インターベンション手術、カテーテル手術)でも患者の甲状腺に被曝が起きるため、甲状腺鉛シールドが有用。[Cardiovasc Intervent Radiol. 2007 Sep-Oct;30(5):922-7.]

脳動静脈奇形(AVM)に対する放射線外照射は、甲状腺にも平均最大目標線量の約0.4%の被曝をもたらします。[Strahlenther Onkol. 2005 Jul;181(7):463-7.]

甲状腺関連の上記以外の検査・治療   長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,天王寺区も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

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