サイログロブリンの役割、高値が意味するもの[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、毎年開催される日本甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
血中サイログロブリン値が上昇する甲状腺異常は①甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)②甲状腺良性腫瘍(良性濾胞腺腫)、腺腫様甲状腺腫③甲状腺機能亢進症/バセドウ病[TSHレセプター抗体(TRAb)による刺激)④甲状腺機能低下症(TSHによる刺激)⑤橋本病・無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎・甲状腺悪性リンパ腫、甲状腺低分化癌、甲状腺未分化癌、転移性甲状腺癌による組織破壊⑤卵巣甲状腺腫。抗サイログロブリン抗体(Tg-Ab)で偽低値に。最近、甲状腺ホルモン合成の重要な過程を担うサイログロブリンが甲状腺ホルモン合成そのものを調節する役割が解ってきた。
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サイログロブリンは分子量約66万(かなりの巨大分子)の糖蛋白で、一般的な教科書には、「甲状腺内で甲状腺ホルモンの合成・分泌を行う重要な物質」と書いてあります。
甲状腺の病気では、甲状腺の外、即ち血液中に放出されたサイログロブリンが、診断上、非常に重要な意味を持ちます。血中サイログロブリンの値は、甲状腺の病気により意味が異なります。
また、最近では教科書に書かれている以上に、サイログロブリンが甲状腺内で重要な働きをしている事も分かっています(新しく解ったサイログロブリンの役割)。
血中サイログロブリンの値は、以下の様々な甲状腺の病態で異常を示します。
- 甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)で過剰産生されるだけではない(腫瘍マーカーのサイログロブリン)
- 甲状腺良性腫瘍の良性濾胞腺腫や腺腫様甲状腺腫[腺腫様結節(過形成結節)の集合体]でも、過剰産生されて上昇する
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病でも、TSHレセプター抗体(TRAb)の刺激に反応して過剰産生されるため、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の活動性を反映する
- 甲状腺機能低下症では、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の刺激に反応して過剰産生される
- 橋本病・無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎・甲状腺悪性リンパ腫・甲状腺低分化癌・甲状腺未分化癌、転移性甲状腺癌(他臓器の癌から甲状腺への転移)でも、甲状腺組織の破壊によって血中へ流出するため、破壊の活動性を反映する
- 卵巣甲状腺腫
すなわち、個々における甲状腺の病態により、血中サイログロブリン値は異なる意味を持ちます。血中サイログロブリンが異常値を示した時、その意味を正確に理解する力量が医師に求められます。(甲状腺専門医以外では難しいと思います。)
そして、治療や病気の経過などで甲状腺の状態が変化すれば、それに応じてサイログロブリン値も変化します。しかし、サイログロブリンは巨大分子なので血液中の寿命が長く、すぐさま甲状腺の影響を受ける訳ではありません。
例えば、腫瘍や癌で甲状腺を全摘出(甲状腺ごと全部切除する)すると、血中サイログロブリンの値は約12週(3カ月)後に検出感度以下になります。よって、甲状腺の変化が血中サイログロブリンに反映されるのは約12週(3カ月)後です。[Int J Endocrinol. 2019 Feb 20;2019:1384651.]
[Clin Chim Acta. 2008 Feb;388(1-2):15-21.][Clin Chim Acta. 2015 Apr 15;444:310-7.]
橋本病の自己抗体[自分の甲状腺を破壊する抗体;抗サイログロブリン抗体(Tg-Ab)]を持っている方にとって、サイログロブリンの値は絶対的なものではありません。一般的にサイログロブリンは本当の値よりも低く測定されます(偽低値)。
抗サイログロブリン抗体(Tg-Ab)]が、サイログロブリンの測定キットに干渉し、阻害するためです。
また、稀ですが、遺伝性甲状腺ホルモン合成障害(先天性・遺伝性甲状腺機能低下症)の一つであるサイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)では、甲状腺機能低下症、腺腫様甲状腺腫、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)を合併しても血中サイログロブリン値は低くなります。
甲状腺内の病変に見合わない異常なサイログロブリン高値、特に1000 ng/mL 以上(正常値33.7 ng/mL 未満)に出くわしたら何を考えねばならないか?
- 甲状腺腫瘍は、あまり大きくないのに?→実は甲状腺腫瘍の正体は癌で、遠隔転移を起こしている可能性。肺転移、骨転移を疑い転移検索するべし
- 巨大甲状腺腫(甲状腺自体の腫れ)でかつ腺腫様甲状腺腫[無数の腺腫様結節(過形成結節)の集合体]なら、サイログロブリン値は全ての腺腫様結節の総和なので1000 ng/mL 以上の事もある。
- 卵巣甲状腺腫([甲状腺濾胞癌、甲状腺ホルモン・サイログロブリンを産生する機能性結節(機能性甲状腺腫]の事もある)がサイログロブリン産生(卵巣甲状腺腫)
- 甲状腺濾胞性腫瘍で、血中サイログロブリン値が1000 ng/mL以上なら甲状腺濾胞癌の可能性が高い(50%以上)
(濾胞性腫瘍)
甲状腺濾胞は、甲状腺ホルモン合成と分泌を行う最小単位です。濾胞上皮細胞に囲まれた濾胞腔にはコロイドが存在し、甲状腺ホルモンを合成する重要な場所になります(甲状腺ホルモンの合成)。(写真の矢印で囲まれたところが1つの甲状腺濾胞)
写真のごとく、大小多数の甲状腺濾胞が存在し、内部のコロイド量が個々の甲状腺濾胞で異なります。さらに、濾胞内コロイド中の甲状腺ホルモン前駆体濃度は、濾胞ごとに大きく異なります(follicular heterogeneity)。
コロイド内の甲状腺ホルモン濃度が低い濾胞では、甲状腺ホルモン合成の遺伝子発現が活性化・ヨード(ヨウ素)を活発に取り込みます。逆に、甲状腺ホルモン濃度が高い濾胞では、甲状腺ホルモン合成が抑制されます。つまり、濾胞ごとに甲状腺ホルモン合成が調節されているのです。(第59回 日本甲状腺学会 基礎甲状腺学セミナー)
そもそも甲状腺ホルモン合成は、下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)で調節されるのが常識でした(下垂体による甲状腺ホルモンの調節)。血中のTSH濃度はどこでも同じなので、濾胞ごとに甲状腺ホルモン合成が調節されるとすれば、TSHよりも強力な調節因子が濾胞ごとに存在するはずです。では一体何が内在性調節因子なのでしょうか?。
甲状腺濾胞内に存在し、甲状腺ホルモン合成の重要な過程を担うサイログロブリンには、甲状腺ホルモン合成を調節すると言う、さらに進んだ役割があるのが解ってきました。これらは、帝京大学医療技術学部臨床検査学科の鈴木幸一教授らの研究によるものです。[Sellitti DF and Suzuki K. Intrinsic Regulation of Thyroid Function by Thyroglobulin. Thyroid. 2014 Apr;24(4):625-38.]
「甲状腺ホルモンの調節は、下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)により制御される(下垂体による甲状腺ホルモンの調節」と言うのが常識ですが、実はそれ以上に、個々の甲状腺濾胞でサイログロブリンによる甲状腺ホルモン調節が行われているのです。
甲状腺濾胞内に蓄積するサイログロブリン濃度が上昇すると、甲状腺濾胞細胞の甲状腺ホルモン(T3,T4)合成が抑制され、蓄積された甲状腺ホルモンが分泌されます(内因性ネガティブフィードバック機構)。しかも、サイログロブリンは、TSHの作用を完全に打ち消すほど強力に、甲状腺濾胞細胞の甲状腺ホルモン合成を抑制します。
現段階では、このサイログロブリンのネガティブフィードバック機構が、様々な甲状腺の病気でどのような意味を持つのか不明です。また、原因不明とされる甲状腺の病気に関わっている可能性も考えられます。
(サイログロブリンのネガティブフィードバック機構の詳細は次項)
(図;バーチャル臨床甲状腺カレッジより改変)
サイログロブリンは、
- 甲状腺濾胞機能に対する強力なネガティブフィードバック調節因子
- 甲状腺刺激ホルモン(TSH)の作用を打ち消す自己調節因子
です。[J Endocrinol. 2011 May;209(2):169-74.]
生理的濾胞内濃度のサイログロブリンは、
- NIS(Na-Iシンポーター):ヨード(ヨウ素)[この段階ではまだヨウ素イオン(I-)]の濾胞細胞への取り込み[J Endocrinol. 2011 May;209(2):169-74.]
- pendrin(ペンドリン):ヨード(ヨウ素)[この段階ではまだヨウ素イオン(I-)]の濾胞細胞内輸送
- DUOX2:甲状腺ホルモン合成酵素[ヨウ素イオン(I-)をヨード(ヨウ素)(I2)に変えるためのH2O2(過酸化水素)を供給][Thyroid. 2012 Oct;22(10):1054-62.]
- 甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO):甲状腺ホルモン合成酵素[サイログロブリン上のアミノ酸(チロシン)残基をヨウ素化]
- サイログロブリン遺伝子自体[J Endocrinol. 2011 May;209(2):169-74.]
に抑制を掛けます。(第57回日本甲状腺学会 YIA-1 DUOX2によるH2O2産生はサイログロブリン(Tg)によって制御される)
さらに、甲状腺細胞の増殖を誘導します[J Endocrinol. 2011 May;209(2):169-74.]。
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