高カルシウム血症は副甲状腺機能亢進症 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
内分泌代謝(副甲状腺・副腎・下垂体)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科(内分泌骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。現在、副甲状腺の診療を行っておりません。
Summary
会社の検診、メタボ検診(市民検診)で副甲状腺の病気は見つからない。原発性副甲状腺機能亢進症では副甲状腺腺腫などが原因で副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰産生され高カルシウム血症に。症状は骨そしょう症・病的骨折、高カルシウム血症による全身倦怠感、高血圧、不整脈、筋力低下、脱水、消化性潰瘍、膵炎/膵石、便秘、糖尿病/耐糖能異常・メタボリックシンドローム、精神症状、腎結石・尿路結石・腎不全、胆石、腫瘍出血による咽頭・頚部腫脹、頚部痛・嚥下痛。予後は心血管障害の罹患率・死亡率高い。ビタミンD欠乏があると原発性副甲状腺機能亢進症がマスクされる。
生理食塩水大量輸液+利尿薬、カルシトニン皮下注射、ビスフォスフェート点滴など高カルシウム血症の治療、副甲状腺摘出術(PTX)、外科手術適応外はシナカルセト。妊娠中は妊娠中期以降の副甲状腺摘出術。
Keywords
原発性副甲状腺機能亢進症,副甲状腺腺腫,副甲状腺ホルモン,PTH,高カルシウム血症,症状,骨そしょう症,カルシウム,原因,糖尿病
会社の検診、メタボ検診(市民検診)で副甲状腺の病気が見つかる事は、ほとんどありません。副甲状腺ホルモンの影響を受けるカルシウム(Ca)、リン(P)の血液検査項目がないからです。
例え、高カルシウム血症による高血圧、不整脈でも、生活習慣の乱れと診断されてしまいます。
唯一、見つかるとしたら尿検査で血尿が出て、腎結石(腎臓結石)・尿路結石が見つかり、その後の精密検査で高カルシウム血症から原発性副甲状腺機能亢進症が見つかります。ただし、尿検査で潜血を調べるのは一部の会社の検診のみで、メタボ検診(市民検診)には含まれません(尿糖・尿蛋白のみ)。
高カルシウム血症・低カルシウム血症は副甲状腺ホルモン(PTH)異常の可能性があります。副甲状腺は、人間の体で最も小さな臓器です。
長崎甲状腺クリニック(大阪) ゆるキャラ 甲Joう君 実は手足の部分は副甲状腺を意味します。
副甲状腺の位置異常
副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰になると、カルシウムが
- 骨から溶け出したり(骨吸収亢進、骨の表面を構成する硬い皮質骨の骨密度低下)
- 腎臓から尿に捨てられず戻ってきたり(Ca再吸収の増加)
- 腸から吸収されたり(腸管からのCa吸収増加)
して、血液中のカルシウム濃度が上昇します(原発性副甲状腺機能亢進症)。
原発性副甲状腺機能亢進症は、約1300人に1人、男女比1:2、40-60代女性に多い病気です。(J Clin Endocrinol Metab. 2013;98(3):1122-9.)
日本甲状腺学会で報告されている最年少の原発性副甲状腺機能亢進症患者は、16歳女性で高カルシウム(Ca) 血症(16.3 mg/dL、低リン(P)血症(2.23 mg/dL)、intact PTH上昇(1280 pg/mL)、約20mm の副甲状腺腫だったそうです。(第55回 日本甲状腺学会 P2-10-12 若年性副甲状腺機能亢進症の一例)
原発性副甲状腺機能亢進症の乳児は1986年までに30例が報告されています。死亡率は87.5%、外科切除された場合は24%です。副甲状腺亜全摘術では、ほとんどの患者が再発性高カルシウム血症をきたし、副甲状腺全摘術により生涯カルシウムおよびビタミンD補給が必要になります。[J Pediatr Surg. 1986 Jun;21(6):493-9.]
多発性内分泌腺腫症(MEN)における病変の一部としての発症(副甲状腺過形成)は、若年が多いです。
原発性副甲状腺機能亢進症は、高カルシウム血症の90%を占めるとされます。近年は、特に症状がないのに血液検査で偶然見つかる無症候性高カルシウム血症がほとんどです。
原発性副甲状腺機能亢進症の原因は
- 副甲状腺腺腫(80~90%)
- 副甲状腺過形成(10~20%);多発性内分泌腺腫症2型(MEN2)、多発性内分泌腺腫症1型(MEN1) など、遺伝性が多い
- 副甲状腺癌(1%未満)
多発性内分泌腺腫症1型(MEN1) 副甲状腺過形成 超音波(エコー)画像;血清Ca 10.2 mg/dL P 2.7 mg/dL。iPTH 77 pg/mL
原発性副甲状腺機能亢進症では、特に症状が無くて、血液検査のカルシウム(Ca)高値や頚部超音波(エコー)検査の甲状腺腫瘍疑いで発見される場合が多い。
副甲状腺機能亢進症の症状がある時は、
- 副甲状腺ホルモン(PTH)が骨を溶かすため骨そしょう症になり、溶骨性病変(骨吸収部)は線維組織に置き換わるため(汎発性線維性骨炎)病的骨折しやすくなります。
少し転んだだけで、簡単に骨折します。お年寄りなら分かりますが、若い人でこれなら、ただの骨そしょう症ではありません。
また、長期に渡って進行した反応性線維性骨炎はBrown腫瘍(Brown tumor)を形成し、癌の骨転移と鑑別が必要です。Brown腫瘍は組織学的に破骨細胞増生と骨吸収像、ヘモジデリン沈着などが見られ、骨巨細胞腫に類似。
- 高カルシウム血症による
全身倦怠感
高血圧、不整脈
筋力低下
口喝・多飲・多尿・脱水
嘔気(吐き気)、食欲不振、消化性潰瘍(胃十二指腸潰瘍)、逆流性食道炎、膵炎/膵石、便秘(下記)
精神神経症状、頭痛、中枢神経障害 - 過剰な血清カルシウムが腎結石(腎臓結石)・尿路結石を形成し腎不全
- 過剰な血清カルシウムが胆石・総胆管結石になる
- 過剰な血清カルシウムが皮膚に沈着(皮膚石灰沈着症)
- 糖尿病/耐糖能異常・メタボリックシンドローム
- 高カルシウム血症クリーゼ;上記の症状が急速に進行し、生命に危険が及ぶ状態
- 腫瘍出血による
①咽頭・頚部腫脹;喉頭内視鏡検査で後壁粘膜下出血
②頚部痛・嚥下痛
③頸部・前胸部の皮下出血斑
甲状腺は強靭な被膜を有するため頸部出血は少ない(Surg Today 31 : 222-224, 2001)(Surgery 89 : 697-700, 1981)
をきたします。
尿へのカルシウム排泄増加、尿濃縮力障害で多尿→脱水になり、常に喉(のど)が渇くためペットボトルを離せない状態に。甲状腺機能亢進症/バセドウ病でも、発汗過多と高カルシウム血症による脱水がおこり、鑑別を要します。また、多飲・多尿で糖尿病、尿崩症 とも鑑別必要です。
原発性副甲状腺機能亢進症の約4%に、高カルシウム血症による腎結石(腎臓結石): 内分泌尿路結石を認めます[Urolithiasis. 2018 Oct;46(5):453-457.][J Clin Endocrinol Metab. 2011 Aug;96(8):2377-85.]。
再発性あるいは多発性(散在性)尿路結石患者の12.6%が原発性副甲状腺機能亢進症とされます(泌尿器科紀要 (1984), 30(7): 975-979)。
原発性副甲状腺機能亢進症の腎結石(腎臓結石): 内分泌尿路結石はリン酸カルシウム結石です。[JAMA Surg. 2020 Sep 1;155(9):861-868.]
ウロカルン®(ウラジロガシエキス)は結石溶解作用に加え、抗炎症作用・利尿作用があります。腎結石(腎臓結石): 内分泌尿路結石の排出促進に用いられます。
嘔気(吐き気)、食欲不振の他、
高カルシウム血症では神経細胞のナトリウムチャンネルが阻害され、信号を伝える脱分極が起こりにくくなります。胃腸を動かす神経の活動が低下するため、胃腸の収縮が低下し便秘します
高カルシウム血症では、幽門線のG細胞のカルシウム受容体が刺激され、ガストリン(胃酸分泌作用のある消化管ホルモン)の分泌が促進されます。結果、胃酸分泌が高まり、逆流性食道炎、胃十二指腸潰瘍が好発します。
原発性副甲状腺機能亢進症の1.1〜1.5%に膵炎合併します(JAMA 1980;243:246-7)。高カルシウム血症が急性膵炎を引き起こす機序は不明ですが,
- トリプシノーゲンがトリプシンに活性化され膵の自己消化を引き起こす(Am J Med 1960;29:424-33)
- 膵実質や膵管に石灰沈着おこし膵管が閉塞(Ann Surg 1957;145:857-63)
- 原発性副甲状腺機能亢進症でのSPINK1 trypsin inhibitor (N34S)遺伝因子の関与(Am J Gastroenterol 2008;103:368-74)
が考えられています。
膵石は膵管内に形成された石(結石)で、慢性膵炎の約40%にみられます。膵石の主成分は炭酸カルシウムです。膵石は膵液の流れを妨げ、慢性膵炎を増悪させます。
胆石 ・総胆管結石も原発性副甲状腺機能亢進症の合併症の一つです。原発性副甲状腺機能亢進症の約25%に胆石症を認めるとの報告が多くあります。胆汁中のカルシウム濃度の上昇がカルシウム結石形成に関与するとされます[Arch Surg. 1972 Aug;105(2):369-74.]。
高カルシウム血症による精神神経症状、中枢神経症状は、いらいらなど精神症状、思考力・集中力の低下、頭痛、中枢神経にダメージを与え記憶障害や傾眠(日に日に睡眠時間が長くなる、昼間でも眠い)。
脱水がひどくなり(水分を失って血が濃くなり)、血中カルシウム濃度が急上昇すると、急に意識を失い倒れる事があります。
原発性副甲状腺機能亢進症の約30%にメタボリックシンドロームを合併し、糖尿病/耐糖能異常者は健常者の3倍とされます。(Ann Surg. 1998;207:430–433.)(Diabet Med. 2002;19:958–961.)
細胞内カルシウム濃度の上昇がインスリン抵抗性おこすとされます(Metabolism. 2011;60:1334–1339.)。
副甲状腺摘出手術により、術前のインスリン抵抗性の指標(HOMA-IR)が改善されます(Indian J Surg. 2017 Apr; 79(2): 101–105.)。
原発性副甲状腺機能亢進症に甲状腺機能性結節(機能性甲状腺腫)が合併する確率は1.2%とされます(Endocr J. 1998 Feb;45(1):61-7.)。遺伝的に両者が合併するマッキューン・オルブライト(McCune-Albright)症候群 の存在を考えれば、不自然な事ではありません。
また、原発性副甲状腺機能亢進症とバセドウ病が合併するケースもがあります。初診時に高カルシウム血症を認めるも、副甲状腺ホルモン(PTH)は正常値なので、甲状腺機能亢進症/バセドウ病による高カルシウム血症と診断されます。しかし、甲状腺機能が正常化した後も高カルシウム血症が持続するため、改めて副甲状腺ホルモン(PTH)を測定すれば高値を示します。甲状腺機能亢進時の99mTc-MIBI シンチグラフィーには疑わしいhot spot を認めますが、確定的ではありません。筆者の考えですが、初診時は甲状腺機能亢進症/バセドウ病による高カルシウム血症が副甲状腺腫を抑制していたのではないでしょうか?[Quant Imaging Med Surg. 2022 May;12(5):3014-3019.]
副甲状腺腺腫の自然破裂による出血で血腫が生じ、呼吸困難になる事があります。甲状腺超音波(エコー)検査では、甲状腺および副甲状腺腺腫の周囲に出血による低エコー領域を認めます。報告例では、血胸、縦隔血腫があるものの、呼吸状態が悪くなかったので、気管内挿管を行わず経過観察になりました。(Int J Clin Exp Med. 2015 Nov 15;8(11):21826-9.)
しかし、
- 呼吸困難・気管圧排があれば、ためらわず気管内挿管と血腫除去
- 首の腫れと、貧血が徐々に悪化すれば(要するに出血が止まらない)、血腫除去
が必要と筆者は考えます。
同様の出血を来す甲状腺動脈瘤破裂で命の危険との鑑別も必要です。
胸部異所性副甲状腺腫の出血は、縦隔血腫による血胸を生じ、胸痛、咳、呼吸困難になります(Acta Otolaryngol Suppl. 2007 Dec;(559):160-3.)。
一方、鈍的外傷による副甲状腺腺腫破裂からの出血の報告もあります(Surgery. 1994 Mar;115(3):394-7.)。原理は甲状腺損傷と同じです(首への衝撃や遠心力で甲状腺にも障害(甲状腺損傷・断裂))。
原発性副甲状腺機能亢進症は、心血管障害の罹患率・死亡率高く(Indian J Endocrinol Metab. 2012;16(suppl 2):s217–s220.)、副甲状腺摘出手術はそれらを回避できる可能性があります(Circulation. 2012;126:1031–1039.)。
術前血清副甲状腺ホルモン(i-PTH)値は、術後血清カルシウム値と有意な負の相関があります。術前血清副甲状腺ホルモン(i-PTH)値が高い程、術後低カルシウム血症をおこし易くなります(Indian J Otolaryngol Head Neck Surg. 2015 Dec;67(4):407-11.)。
副甲状腺腺腫の取り残し、あるいは副甲状腺癌の再発か、リンパ節か分かりにくい場合があります。
ビタミンD欠乏があると、尿中のCa 排泄は約2/3の原発性副甲状腺機能亢進症で上昇せず(報告例ではCca/Ccr= 0.004)、家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)、後天性低カルシウム尿性高カルシウム血症と同じ所見になり原発性副甲状腺機能亢進症がマスクされます(無症候性原発性副甲状腺機能亢進症)[J Clin Endocrinol Metab. 2009 Feb;94(2):340-50.][J Clin Densitom. 2013 Jan-Mar;16(1):14-21]。
無症候性原発性副甲状腺機能亢進症では、と異なる点として、家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)、後天性低カルシウム尿性高カルシウム血症は基本的に骨量減少をおこしません。ただし、例外もあり、年齢と共にPTHが上昇し、骨量減少や意識障害をおこす症例も報告されています。
いずれにせよ、骨量減少を食い止めるため、腫大した副甲状腺を見つけて摘出するか、手術不能例にはカルシウム受容体作動薬のシナカルセト塩酸塩(レグパラ®)、エボカルセト(オルケディア®)を投与する必要があります。
(保険適応外になりますが)新規の腰椎圧迫骨折に対して、ヒト副甲状腺ホルモン製剤のテリパラチド(フォルテオ®、テリボン®)を投与すると、骨癒合が早まってドミノ骨折を予防できる可能性があります。
甲状腺がん全摘術後の肺・脳転移に対するチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)レンバチニブ投与で生じた嘔吐により、術後副甲状腺機能低下症治療目的の経口カルシウム剤を飲めなくなったケース。テリパラチド皮下注射で血清カルシウム濃度が回復した報告があります。[Front Endocrinol (Lausanne). 2018 May 17;9:244.]
日本では骨端線が閉じていない小児での使用は禁止されていますが、海外では小児甲状腺がん全摘術後の術後副甲状腺機能低下症治療にもテリパラチドは有用。i-PTH >26 pg/mL なら経口カルシウム補充で低カルシウム血症を回避できますが、PTH≤26 pg/mLならテリパラチドが有用。[Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2019 Oct;125:153-158.]
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。