不妊・生理不順・無月経は高プロラクチン血症,プロラクチノーマ(プロラクチン産生下垂体腺腫),薬剤性高プロラクチン血症[長崎甲状腺クリニック 大阪]
内分泌代謝(下垂体・副腎・妊娠/不妊)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺 クリニック(大阪)
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学)の代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
下垂体の乳汁分泌ホルモン、プロラクチン増加(高プロラクチン血症)により不妊(排卵障害)・無月経・生理不順になる。高プロラクチン血症の原因はプロラクチン産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ)、甲状腺機能低下症、視床下部腫瘍、薬剤性(ドーパミンブロック薬)、妊娠中など。プロラクチノーマは女性の無月経・不妊・乳汁分泌の原因で微小腺腫(ミクロアデノーマ)。男性では視神経障害・頭痛などマクロアデノーマとして見つかる。下垂体ダイナミックMRIを行い妊娠希望女性・視神経障害がある場合は手術、それ以外ドパミン受容体刺激薬ブロモクリプチン、テルグリド、カベルゴリン投与。
Keywords
プロラクチン産生下垂体腺腫,乳汁分泌,プロラクチン,高プロラクチン血症,プロラクチノーマ,甲状腺機能低下症,ドパミン,甲状腺,カベルゴリン,ミクロアデノーマ
よって、血中プロラクチンが高く不妊・不育症・生理不順・無月経で悩む女性にとって、本当の原因は甲状腺機能低下症であり、甲状腺を治療すれば血中プロラクチン値も低下し、それらが改善・治癒する可能性があります。
下垂体で作られる乳汁分泌ホルモンのプロラクチン増加により、授乳中と同様な卵巣抑制がおこって、不妊(排卵障害)・無月経になります。高プロラクチン血症は、排卵障害の10~20%を占めます。
- プロラクチン産生性下垂体神経内分泌腫瘍(20代女性に多い)
- 甲状腺機能低下症
- 視床下部障害(頭蓋咽頭腫、髄膜腫、転移性脳腫瘍など)
- 薬剤性高プロラクチン血症(ドーパミンをブロックする睡眠薬、精神安定剤、胃薬)
- すでに妊娠中(非妊娠時 6.1~30.5 ng/mL、妊娠中100~300 ng/mL)。
- 授乳中
(表;公益財団法人山口内分泌疾患研究振興財団 内分泌疾患に関する最新情報 2018年2月)
プロラクチンは脈動的に分泌される変動が激しいホルモンです。プロラクチンは午前10~12 時ごろに最も低値になります。また、
- 睡眠
- ストレス
- 食事(食後に軽度上昇)
- 運動
- 性交
などでも変動します。
このように血中プロラクチン値は変動しやすいため、早朝・絶食で2回以上測定する必要があります。
プロラクチン産生性下垂体腺腫(高プロラクチン血性下垂体腺腫、プロラクチノーマ)とは
プロラクチン産生下垂体腺腫(高プロラクチン血性下垂体腺腫、プロラクチノーマ)は、プロラクチン(PRL)産生する下垂体腺腫。機能性(ホルモンを産生する)下垂体腺腫の中で最も多く、下垂体腺腫の約30%を占め、若い女性(20~40歳代)に多いです(男女比は 1 : 4)。
症状に明らかな男女差を認め、男性では中高年に多く、腫瘍が大きいことが特徴です。
プロラクチン産生性下垂体腺腫(高プロラクチン血性下垂体腺腫、プロラクチノーマ)の症状
特に、卵巣嚢腫が多発[多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)]したり、頻繁に再発する場合、プロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ)を疑わねばなりません。
- 15-20%は軽度の高プロラクチン血症を呈します(Reprod Biomed Online. 2004 Jun;8(6):644-8.)
- 血清プロラクチン濃度のカットオフ値を85.2 ng/mLにすると、感度77%、特異度100%の確率でプロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ)を診断できます(Eur J Clin Invest. 2018 Jul;48(7):e12961.)。
プロラクチン産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ)でなくても、下垂体過形成に至る重度の原発性甲状腺機能低下症では、TSH(甲状腺刺激ホルモン)のゴナドトロピン様作用で卵巣嚢腫を来します[Cureus. 2021 Feb 26;13(2):e13573.]。(下垂体過形成の症状)
男性では、稀に乳汁分泌を認めますが、性機能低下程度の軽い症状ですが、腫瘍が大きくなると(マクロアデノーマ: 10 mm以上)、視神経を圧迫し視力障害、頭蓋内圧亢進による頭痛・眼の奥の痛みが生じて見つかるケースが多いです。
視力障害は、左右両方の外側(耳側)が見えなくなる両耳側半盲や、視野が暗くなり晴天が曇りに見えたりします。
プロラクチン産生性下垂体腺腫(高プロラクチン血性下垂体腺腫プロラクチノーマ)の診断
プロラクチン産生性下垂体腺腫(高プロラクチン血性下垂体腺腫プロラクチノーマ)を診断するには、
- 複数回測定し、プロラクチン(PRL)基礎値がいずれも20 ng/mL (測定法により30 ng/mL)以上:
血清プロラクチン(PRL)は不安定で、睡眠、ストレス、性交、運動などに影響され、夜間睡眠中に高く、午前 11 時ごろ最も低いるため、早朝、絶食で測定するのが良いでしょう
- その他の高プロラクチン血症をおこす病気を除外
- 下垂体ダイナミックMRIでプロラクチノーマを検出
プロラクチン産生性下垂体腺腫(プロラクチノーマ)の治療
プロラクチン産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ)が手術でも取り切れず(あるいは最初から手術不能)、薬物治療も効果不十分なら定位的放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフなど)の適応です。
難治性プロラクチン産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ)患者に対するガンマナイフ治療での血清プロラクチン正常化率は50%、放射線誘発性下垂体炎(下垂体機能低下症)は約30.3%になります。(Pituitary. 2015 Dec;18(6):820-30.)
ガンマナイフの難点は視神経障害です。プロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ)の直上には左右の視神経が交差していて、視神経は放射線に弱く、障害を受けやすいのです。そのため少ない放射線量しか照射できず、効果不十分な事があります。
(Neuroscience Discovery 2014; 2(1):4.)
プロラクチン産生性下垂体腺腫と自己免疫性下垂体炎(リンパ球性下垂体炎)を鑑別できない場合
プロラクチン産生性下垂体腺腫と自己免疫性下垂体炎(リンパ球性下垂体炎)を鑑別できない場合があります。
血中プロラクチン増加とMRIで下垂体腫大を認め、さらにダイナミック(造影)MRIで下垂体辺縁のみ増強されると、両者を鑑別できません。
下垂体生検をおこない、リンパ球・形質細胞認めれば、自己免疫性下垂体炎(リンパ球性下垂体炎)が確定します。(第207回日本内科学会 近畿地方会:P127,非典型的な画像所見を示しステロイド療法により著明な改善を認めた自己免疫性下垂体炎の1例)
薬剤性高プロラクチン血症は、ドーパミンをブロックする睡眠薬、精神安定剤、胃薬でも起こります。向精神病薬は、脳内のドーパミンをブロックすることで精神活動を落ち着かせます。脳内のドーパミンがブロックされ、プロラクチンの抑制が解除されると、高プロラクチン血症になります。古典的な抗精神病薬で40~70%が高プロラクチン血症になります (Aust N Z J Psychiatry. 2011;45(10):830-7.)が、最近はドーパミンに作用しにくい向精神病薬も多く作られています。
甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の抑うつ症状を、精神病と勘違いし向精神病薬を投与すれば、不必要な薬剤性高プロラクチン血症になります。
高プロラクチン血症を起こしやすい薬
高プロラクチン血症を起こしやすい薬は、
- フェノチアジン系;クロルプロマジン(ウインタミン®,コントミン®)、レボメプロマジン(ヒルナミン®)、チオリダジン(メレリル®)、ペルフェナジン(トリラホン®)
- ブチロフェノン系;ハロペリドール(セレネース®)
- 三環系抗うつ剤;イミプラミン(トフラニール®)
- ベンズアミド系;スルピリド(ドグマチール®) 、メトクロプラミド(プリンペラン®)
- セロトニン・ドーパミン受容体遮断薬;
リスペリドン(リスパダール®)、パリペリドン(インヴェガ®);高プロラクチン血症をおこし易い
ペロスピロン(ルーラン®);高プロラクチン血症が少ない - セロトニン自体はプロラクチン分泌促進作用;セロトニンは、直接、下垂体に作用せず、視床下部の成長ホルモン分泌促進因子(GRF)→成長ホルモン(GF)→プロラクチン分泌促進因子のVIP→プロラクチン分泌を促進。
- 脊髄小脳変性症治療薬のセレジスト®(タルチレリン)
1.2.については、中止すれば、精神状態が極めて不安定になるため、例えプロラクチンが高くても中止してはいけません。もし、甲状腺の病気を合併していても、甲状腺が安定化するまで、安易に薬の量を減らしてはいけません。
吐き気止めのドンペリドン(ナウゼリン®)も脳内のドパミンをブロックする事になっていますが、脳への移行は少ないので、高プロラクチン血症をおこす危険は少ない。
薬剤性高プロラクチン血症;とんでもない胃薬、スルピリド
薬剤性高プロラクチン血症の中で、異彩を放つのはうつ病、消化性潰瘍治療薬として保険適応があるスルピリド(ドグマチール®)です。うつ病に使用するのは仕方ないですが、優れた消化性潰瘍治療薬(胃酸分泌抑制剤、胃粘膜保護剤)が普及した現代で、胃腸薬としてスルピリド(ドグマチール®)を使用する事は通常あり得ません。胃酸分泌抑制剤、胃粘膜保護剤が副作用で使用できない時ぐらいでしょうか。
消化性潰瘍にスルピリド(ドグマチール®)を使用すれば、薬剤性高プロラクチン血症だけでなく、薬剤性パーキンソン病も起きます。スルピリド(ドグマチール®)の副作用と気付かず、パーキンソン病治療薬のレボドパ(L-ドパ)を服薬すれば、過剰なドーパミン作用が発現し、幻覚・抑うつ、胃腸症状・消化性潰瘍が悪化、さらにスルピリド(ドグマチール®)を増量すると言う悪循環に陥ります。
非定型抗精神病薬は薬剤性高プロラクチン血症を起こし難い
クエチアピン(セロクエル®)やアリピプラゾール(エビリファイ®)、オランザピン(ジプレキサ®)など非定型抗精神病薬は、2型ドーパミン受容体のブロック期間を短くしたり、選択性を高めたりして、薬剤性高プロラクチン血症を起こし難いのが特徴です(Expert Opin Pharmacother 3 : 1381-1391, 2002)。
甲状腺機能の変動にも関わらず、プロラクチン高値が継続する場合には、ドーパミンをブロックする精神科の薬やプロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ)を疑い検査すべきです。どちらも否定的な場合、マクロプロラクチン血症の可能性が高くなります。
大分子のマクロプロラクチンは一般成人の3.68%に存在し、高プロラクチン血症の約15~25%を占めします。[Clin Dev Immunol. 2012:2012:167132.]
マクロプロラクチンは分子量150kDaの大分子プロラクチン。マクロプロラクチンの大部分は自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病、橋本病)やSLE(全身性エリテマトーデス)、RA(関節リウマチ)などで生じる自己抗体結合プロラクチン(特にプロラクチン-抗PRL自己抗体の複合体)です。
マクロプロラクチンのクリアランスは低下するため、通常プロラクチンと同時に測定されてしまい、偽高値を示します。PEG 処理してマクロプロラクチンを除くと正常値に戻る。(第56回 日本甲状腺学会 P2-025 バセドウ病眼症にマクロプロラクチン血症を合併した1 例)
マクロプロラクチンのホルモン活性は無いため、治療の必要はありません。
[Clin Dev Immunol. 2012:2012:167132.]
甲状腺機能正常の自己免疫性甲状腺疾患(橋本病・バセドウ病)女性において、5.5%で高プロラクチン血症、4.94%で有意なマクロプロラクチン血症(PEG沈殿後にプロラクチン濃度が60%以上低下)が見られました。.マクロプロラクチン血症の有病率は、自己免疫性甲状腺疾患女性と対照群の間で有意差なし。[Thyroid Res. 2012 Dec 17;5(1):20.]
プロラクチンは脳の活動性を低下させ、作業速度を遅くするとの研究報告があります。男女とも共通で、プロラクチン自体の作用か、詳しい機序は全く分かっていません。(Aust N Z J Psychiatry. 2017:4867417744254.) (Behav Neurosci. 2012 ;126(1):73-85.)
基礎実験の話ですが、プロラクチンはヘルパーT細胞のシフトに影響を与えて、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の活動性を高める可能性があります。[Zhonghua Nei Ke Za Zhi. 2001 Feb;40(2):82-5.]
プロラクチン産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ)では、自己免疫性甲状腺疾患[バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病(慢性甲状腺炎)]の有病率が高いとされます(健常者の約2-3倍)。[J Endocrinol Invest. 2019 Jun;42(6):693-698.][Ann Endocrinol (Paris). 2016 Feb;77(1):37-42.][Endocrine. 2017 Sep;57(3):486-493.]
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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