甲状腺に似た脚気(かっけ)・ビタミンB1欠乏症・ウェルニッケ・コルサコフ症候群[橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
内分泌代謝(副甲状腺・副腎・下垂体)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科学教室で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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ビタミンB1欠乏では、末梢神経障害(脚気:かっけ)と中枢神経障害(ウェルニッケ・コルサコフ症候群)が起こります。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。脚気(かっけ)・ビタミンB1欠乏症の治療を行っておりません。
Summary
脚気(かっけ)・ビタミンB1(チアミン;VB1)欠乏の原因は甲状腺機能亢進症でVB1消費増大/甲状腺機能低下症の食欲低下でVB1摂取不足、糖尿病で血糖に対する相対的な不足、アルコール依存症、ダイエット、インスタント食品・スナック菓子など極端な偏食。エネルギー代謝が低下し、肥満・疲労感、脳活動が低下し、集中力の低下・精神不安定、末梢神経障害で手足のしびれ、高拍出量性心不全(脚気心)、代謝性アシドーシス、ウェルニッケ脳症と後遺症(コルサコフ症候群)など甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺機能低下症に似た症状。アルコール性ケトアシドーシス、アルコール性心筋症合併も。
Keywords
コルサコフ症候群,脚気,ビタミンB1欠乏,ウェルニッケ脳症,代謝性アシドーシス,甲状腺,甲状腺機能低下症,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,アルコール
ビタミンB1は、糖質をエネルギーに変換するのに必要な補酵素です。
ビタミンB1欠乏が原因の脚気(かっけ)は、ビタミンB1を含む胚芽と取り除いた白米が流行した江戸で患者が大量発生したため「江戸わずらい」と呼ばれました。大正時代には、結核と並ぶ二大国民病でしたが、洋食・カレーが予防になるのを見つけた海軍医のおかげで、死者が減少しました(海軍カレーの始まり)。
ビタミンB1(チアミン)欠乏により高拍出量性心不全(脚気心)と末梢神経障害をおこします。心不全で下肢のむくみ、末梢神経障害で手足のしびれ/腱反射低下がおきます。初めは体がだるい、動悸・息切れなど低血糖・甲状腺疾患(甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺機能低下症)に似た症状です。
ビタミンB1欠乏症/潜在的ビタミンB1欠乏症(脚気予備軍)は、現代日本で増加しています。
- 甲状腺機能亢進症でビタミンB1消費が増大(Endokrynol Pol. 2011;62(2):178-80.)
- 甲状腺機能低下症による
①食欲低下でビタミンB1摂取不足(特に肉を食べない人、日本人では少ないが菜食主義者)(Endokrynol Pol. 2011;62(2):178-80.)
②腸からの吸収障害[Proc Soc Exp Biol Med. 2000 Sep;224(4):246-55.] - 妊娠自体によるビタミンB1の必要量増加、妊娠悪阻(つわり)による食欲不振、特に妊娠時一過性甲状腺機能亢進 でビタミンB1消費が増大[Endocr Pract. 2014 Dec;20(12):e237-40.]
- 糖尿病で、
①血糖に対するビタミンB1必要量の相対的な不足
②腸からの吸収障害[Proc Soc Exp Biol Med. 2000 Sep;224(4):246-55.] - 三食ともインスタント食品(カップラーメン)やスナック菓子を食べるという極端な偏食・糖質過剰摂取。過剰な糖質の消費に必要なビタミンB1の摂取量が相対的に不足。
肉体労働が加わると、更に多くのエネルギーを消費するため、糖質の分解が促進し、ビタミンB1が更に不足。 - 過度なダイエットや欠食、外食。女子大生の血中ビタミンB1値が非常に低いことが報告されます
- 食事の代わりに酒を飲むアルコール依存症の人は、絶対的なビタミンB1摂取不足に加え、アルコールの高カロリーに対するビタミンB1必要量の相対的な不足
- 血液透析(透析時水溶性ビタミン除去/小食傾向)
- ビタミン剤を含まない長期の高カロリー輸液
- 胃切除後、幽門狭窄/胃十二指腸潰瘍による十二指腸からのビタミンB1吸収障害(数カ月後から数十年後に発症)
- 感染症などでの消耗
ビタミンB1欠乏症の症状は、
- エネルギー代謝が低下、疲労物質である乳酸の代謝も悪くなり、疲労感・倦怠感がでてきます。(甲状腺機能低下症のよう)
- エネルギー代謝が低下、糖を分解できず、糖が脂肪に変換されるため、肥満になります。(甲状腺機能低下症のよう)
- 脳は元々、糖を分解し大量のエネルギーを消費しているため、脳の活動が低下、集中力の低下・精神不安定になります。 (甲状腺機能低下症のよう)
- 末梢神経障害(多発性神経炎)で②痛覚過敏、振動覚の低下
①手足のしびれ;糖尿病性神経障害、アルコール性神経障害と鑑別要。あるいは合併している事も
③腱反射低下;(甲状腺機能低下症のよう)(図;タケダ健康サイトより) - 高拍出量性心不全(脚気心)による動悸・息切れ・下肢のむくみ(しびれた足がむくんでいる)(甲状腺機能亢進症/バセドウ病のよう)、しかし左心機能正常なので胸部レントゲン検査、心エコー検査でも異常なし(Crit Care Nurs Clin North Am. 2015 Dec;27(4):499-510.)
- 代謝性アシドーシス:血液が酸性に傾く、恐ろしい状態です。昏睡になり、ほとんど死亡します。
- ウェルニッケ・コルサコフ症候群
一般的な血液検査で異常なく、甲状腺・副腎・下垂体・卵巣・精巣などのホルモン検査、亜鉛も異常なし。
異常がないのが、異常です。
このような場合、食生活のヒアリングと血中ビタミンB1測定を行います。
ただし、最も簡単、最も有用で、確実な検査は、患者を脚が地面に付かない高さの椅子に座らせ、打腱槌(だけんつい)で膝蓋骨(膝のお皿の骨)の下を叩く、膝蓋腱反射を調べる事です。正常な人なら反射的に脚が挙がりますが、脚気(かっけ)・ビタミンB1欠乏なら無反応です(これが脚気の由来)。
血中ビタミンB1測定結果は、1週間以上かかるため、ビタミンB1剤を服薬し、治療効果による診断を行う事があります。
- 左心機能正常の心不全(高拍出量性心不全):胸部レントゲン検査、心エコー検査でも異常なし。甲状腺機能亢進症/バセドウ病単独でも高拍出量性心不全
- 血清乳酸、ピルビン酸が上昇
- ビタミンB1測定
ビタミンB1(チアミン)不足でおこるウェルニッケ脳症と、その続発症のコルサコフ症候群をウェルニッケ・コルサコフ症候群と呼びます。ビタミンB1(チアミン)不足が原因のため、甲状腺中毒症でも起こります[Endokrynol Pol. 2011;62(2):178-80.]。
ウェルニッケ脳症
ウェルニッケ脳症:橋本脳症のような
①軽度(認知症)から昏睡までの変動する意識障害
②小脳失調・左右への注視方向性眼振
③外眼筋麻痺によるバセドウ眼症のような全方向性の眼球運動障害、物が二重に見える、
④四肢の腱反射は正常(腱反射低下なし)、病的反射はない。
MRIで第四脳室底、中脳水道周囲、乳頭体、視床内側に左右対称性の高信号域
ビタミンB1大量点滴、救命できれば1週間で回復(低血糖時はブドウ糖同時点滴。ブドウ糖単独では逆にビタミンB1欠乏が進行しウェルニッケ脳症悪化)
救命できても80%に健忘症が残ります。また眼振/小脳失調も後遺症として残ること多し。
コルサコフ症候群
コルサコフ症候群は記憶障害を主とし、不可逆的な神経障害を伴う認知症です。原因として
- ウェルニッケ脳症(ウェルニッケ・コルサコフ症候群)
- 第三脳室内出血
- 脳腫瘍
による視床背内側核または両側乳頭体の障害。
コルサコフ症候群は記憶が3分と持たないため新しい記憶が更新されず、発症時以降の記憶が無い(前向性健忘)、エピソード記憶や意味記憶も障害されるので逆向性健忘でもある。、記憶がないため、適当に話を作ったり(作話)やウソを語る。社会性は比較的保たれているため、ただのウソつきとみなされ、病気である事に本人も周囲の人も気が付かない。
発症早期にビタミンB1の補充を行えば間に合いますが、発症後長期を経過すると元に戻りません。しかし、ビタミンB1の補充を数年続けると改善する場合もあるため、投与は長期に及びます。
コルサコフ症候群患者の45%は、TRH負荷試験の反応が低下します(Acta Psychiatr Scand. 1993 Sep;88(3):218-20.)。
過度な飲酒を長期間続け、十分に食事をとらないと、
- アルコールが肝臓の糖新生を減少させ低血糖(アルコール性低血糖)
- 代わりに体脂肪が燃焼してケトン体が増え、血液が酸性に傾くアルコール性ケトアシドーシス(β-ヒドロキシ酪酸値が上昇した代謝性アシドーシス)
を発症します。[Med Clin North Am. 1984 Jan;68(1):33-8.][J Emerg Med. 2021 Dec;61(6):658-665.]
アルコール性ケトアシドーシス(Alcoholic ketoacidosis)の症状は、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に似ています。
- 腹痛・吐き気・嘔吐
- 疲労感
- 精神症状(感情が高ぶる、混乱する)→意識障害・昏睡
アルコール性ケトアシドーシスは、
ビタミンB1大量点滴、ブドウ糖(+生理食塩水)同時点滴。ブドウ糖単独では逆にビタミンB1欠乏が悪化します。また、低マグネシウム血症・低リン血症の栄養障害も合併しており、補充が必要ですが、急激な補正はリフィーディング症候群の原因になります。
[J Emerg Med. 2021 Dec;61(6):658-665.][Emerg Med J. 2006 Jun;23(6):417-20.]
アルコール性ケトアシドーシスに甲状腺機能亢進症/バセドウ病が合併
アルコール性ケトアシドーシスに甲状腺機能亢進症/バセドウ病が合併すると、
- アルコール性ケトアシドーシスが増悪
- 甲状腺クリーゼの診断基準を満たす場合がある
アルコール性心筋症はアルコール過剰摂取により、拡張型心筋症を呈するものす。禁酒が第一で、拡張型心筋症治療に加え、ビタミンB1・葉酸投与が重要です。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。