低カリウム血症(甲状腺以外);ギテルマン症候群(Gitelman症候群),サイアザイド利尿薬,ループ利尿薬,偽アルドステロン症[長崎甲状腺クリニック 大阪]
内分泌代謝(下垂体・副腎・妊娠/不妊)専門の検査治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 大学院医学研究科 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長年、甲状腺の診療をしていて思うのですが、低カリウム血症があまりに多い!甲状腺関連の低カリウム血症も多いですが、他院で処方されている薬剤が原因の低カリウム血症も、かなりの数見つかります。漢方薬、利尿薬など・・。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。低カリウム血症自体の診療を行っておりません。
Summary
甲状腺以外の低カリウム血症①ギテルマン症候群(Gitelman症候群)は代謝性アルカローシス、低マグネシウム血症・高カルシウム血症。4.3%に甲状腺機能低下症・甲状腺機能亢進症(甲状腺中毒性周期性四肢麻痺をおこす)を合併。サイアザイド利尿薬はギテルマン症候群と同じで、高尿酸血症・高血糖・高脂血症・光線過敏症も有名な副作用。ループ利尿薬は低ナトリウム血症,低カリウム血症, 低マグネシウム血症, 低カルシウム血症。偽性アルドステロン症(偽アルドステロン症)は漢方薬に含まれる甘草(カンゾウ)[グリチルリチン酸]の長期摂取による低カリウム血症。
Keywords
低カリウム血症,甲状腺,ギテルマン症候群,代謝性アルカローシス,低マグネシウム血症,漢方薬,サイアザイド利尿薬,ループ利尿薬,グリチルリチン,偽性アルドステロン症
ギテルマン症候群(Gitelman症候群)とは
ギテルマン症候群(Gitelman症候群)は常染色体劣性遺伝性の低カリウム血症で、血族婚の低カリウム血症家系から見つかる事があります。ギテルマン症候群(Gitelman症候群)は日本人に多く、1人/1000人の頻度で存在します(Hypertens Res. 2004 May; 27(5):327-31.)。学童期以降、または成人発症で、血液検体により偶然発見される場合も多い。
ギテルマン症候群(Gitelman症候群)は腎臓の遠位尿細管上皮細胞膜上のサイアザイド利尿薬反応性Na/Cl輸送体(NCCT)遺伝子(SLC12A3 遺伝子)の不活性化変異によるナトリウムの再吸収障害です。
ナトリウムと塩素イオンの喪失による循環血液量減少⇒代償性に
- 高レニン高アルドステロン血症によるカリウム排泄の亢進
- 集合管でのナトリウム再吸収亢進によりカリウムイオン・水素イオン排泄亢進
がおきるため、低カリウム血症と代謝性アルカローシスに至ります。
また、遠位尿細管上皮細胞膜上には家族性低マグネシウム血症の原因となるMg再吸収チャンネルも存在し、Mg再吸収チャンネル異常が低マグネシウム血症・高カルシウム血症をおこすようです。
ギテルマン症候群(Gitelman症候群)の症状は、
- 多飲、多尿、夜尿
- 全身倦怠感
- 低マグネシウム血症によるテタニー
- 低カリウム血症の症状、最悪、周期性四肢麻痺[Saudi J Kidney Dis Transpl. 2016 Sep-Oct;27(5):1026-1028.]
ギテルマン症候群(Gitelman症候群)の診断は、
- サイアザイド利尿薬負荷試験;サイアザイド利尿薬に無反応
- 遺伝子診断;SLC12A3 遺伝子(16q13)の異常(Nat Genet. 1996 Jan;12(1):24-30.)
ギテルマン症候群(Gitelman症候群)の治療は、L-アスパラギン酸カリウム・L-アスパラギン酸マグネシウム配合剤(アスパラ配合錠®)。1錠中にL-アスパラギン酸カリウム 75mg(K+:0.44mEq)、L-アスパラギン酸マグネシウム 75mg(Mg2+:0.52mEq)を含む。マグネシウムによる軟便化で低カリウム血症が悪化しないか注意が必要。
甲状腺とギテルマン症候群(Gitelman症候群)
甲状腺機能障害
テルマン症候群(Gitelman症候群)の4.3%に甲状腺機能障害(甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症が半々)を合併します。低身長[約30%が成長ホルモン(GH)欠乏症]、熱性痙攣(けいれん)、てんかんの合併も多い。(熱性けいれんと甲状腺)
(Kidney Int Rep. 2018 Sep 28;4(1):119-125.)
低カリウム血症
甲状腺機能亢進症/バセドウ病にギテルマン症候群(Gitelman症候群)を合併すると、
- 甲状腺中毒性周期性四肢麻痺と間違えられる危険性があります(Chin J Endocrinol Metab. 2010;26:395–398.)
- 本当に甲状腺中毒性周期性四肢麻痺をおこした報告もあります。[Pediatr Rep. 2012 Apr 2;4(2):e18.][Indian J Nephrol. 2015 Mar-Apr;25(2):103-5.][BMC Endocr Disord. 2018 Nov 8;18(1):82.]
妊娠時一過性甲状腺機能亢進 からギテルマン症候群(Gitelman症候群)が見つかったケースもあります。[Pediatr Rep. 2021 Dec 1;13(4):632-638.]
- テルマン症候群(Gitelman症候群)と同じこと(高カルシウム血症は問題)になりますが、骨粗しょう症には有用です。
- 高尿酸血症・高血糖・高脂血症・光線過敏症も有名な副作用です。
- Cr>2mg/dLの腎不全には無効
ループ利尿薬の利尿作用は強力で、腎機能悪化させることなく、Cr>2 mg/dLの腎不全にも有効ですが、
- 電解質バランスを崩し、低ナトリウム血症、低カリウム血症、低マグネシウム血症、低カルシウム血症をおこす可能性あり。低カリウム血症・低マグネシウム血症・低カルシウム血症は、二次性QT延長症候群より生じる致死性不整脈の誘因になります。
- 体内の水分喪失を補うためアルドステロンが分泌され、さらに低カリウム血症になります。同時に、体液量減少でHCO3 -再吸収増加し代謝性アルカローシスをおこします。
- 脱水の危険性(脳卒中増加)があります。
大便中のカリウムと連動して体内のHCO3-が減少。代償的にCl-が増加してアニオンジャップ正常の代謝性アシドーシスになります。
嘔吐・利尿薬・下痢による脱水では、
- 体内の水分喪失を補うため、レニン・アルドステロンが代償的に分泌され低カリウム血症になる
- 同時に、体液量減少でHCO3- 再吸収増加し、代謝性アルカローシスをおこす。また胃酸の喪失も代謝性アルカローシスに傾く
甲状腺診療のために長崎甲状腺クリニック(大阪)を訪れた方の薬手帳を確認すると、「何で、何種類も漢方薬を飲んでるの!?」と驚く事が多々あります。単一の医療機関で出されている場合も、複数の医療機関から1種類ずつ処方されている場合もあります。他院の検査データを見ると案の定、低カリウム血症が見つかります。「体がだるい」、「手足の脱力」、甲状腺じゃなくて、これのせいやで・・・。
基本的に漢方薬は単剤投与が原則で、単剤で効果がなければ種類を変えて治療すべきと考えます(同じような成分が重複したり、逆に打ち消し合ったり、一体、何やってんの?)。
例を挙げれば、
- 小青龍湯(ショウセイリュウトウ):アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎の治療
- 葛根湯[風邪薬(かぜ薬)]
- 麻黄湯(マオウトウ);インフルエンザに保険適用あり
- 抑肝散(ヨクカンサン):アルツハイマー型認知症の治療
- 調胃承気湯(チョウイジョウキトウ):便秘薬
- 大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ):便秘薬
- 十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)
- 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ);閉塞性動脈硬化症に有効な場合がある。
- 甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ);小麦を大量に含むため、小麦アレルギーのある方は要注意!
- 苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ):喘息
など多数。
偽性アルドステロン症(偽アルドステロン症)は、大半の漢方薬に含まれる甘草(カンゾウ)[=グリチルリチン酸]の長期摂取が原因で発症、
- 高血圧
- 低カリウム血症
- 低レニン血症, 低アルドステロン血症
に至ります。
甘草、グリチルリチンは肝保護剤[強力ネオミノファーゲンシー®、グリチロン配合錠®]、健康補助食品、化粧品にも含まれます。
グリチルリチン酸は、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)を不活性のコルチゾンへ代謝する11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ2型を阻害→副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の半減期が延長→ミネラルコルチコイド受容体の活性化でNa・水の貯留・カリウム(K)低下をきたします。
偽性アルドステロン症(偽アルドステロン症)の診断は、尿中テトラヒドロコルチゾール+アロテトラヒドロコルチゾール/テトラヒドロコルチゾン比の高値を認めれば付きます。しかし、一般的には測定できません。別に測定しなくても、漢方薬の飲み過ぎが判明した時点で即刻中止し、低カリウム血症が改善するのを確認すれば済むことです。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区も近く。