低カルシウム血症は副甲状腺機能低下症[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
内分泌代謝(副甲状腺・副腎・下垂体)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。現在、副甲状腺の診療を行っておりません。
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌病態内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪) ゆるキャラ 甲Joう君 実は手足の部分は副甲状腺を意味します。
Summary
副甲状腺ホルモン不足で低カルシウム血症。原発性副甲状腺機能低下症は多腺性自己免疫症候群（APS）1型など、2次性副甲状腺機能低下症は、甲状腺全摘術後・TSH 抑制療法、低Mg（マグネシウム）血症など。症状は低カルシウム性テタニー[手のシビレ、トルーソー徴候(Trousseau)徴候（助産師手位）、口周のシビレ、クボステック徴候(Chvostek徴候)]、不安、抑うつ、知能発育遅延、認知障害、大脳基底核石灰化、歯の発育障害、白内障、QTc延長、心不全、低血圧、皮膚乾燥、湿疹など。治療は活性型ビタミンＤ製剤。血清Caを正常に、尿Ca/クレアチニン比を0.3以下に維持。
Keywords
副甲状腺ホルモン,低カルシウム血症,副甲状腺機能低下症,PTH,甲状腺全摘術後,低マグネシウム血症,テタニー,トルーソー徴候,クボステック徴候,ビタミンＤ
会社の検診、メタボ検診（市民検診）で副甲状腺の病気が見つかる事は、ほとんどありません。副甲状腺ホルモンの影響を受けるカルシウム(Ca)、リン(P)の血液検査項目がないからです。
例え、低カルシウム血症による低血圧でも、低血圧体質と診断されてしまいます。
唯一、見つかるとしたら心電図におけるQTc延長で、スクリーニング後の精密検査を受けて、低カルシウム血症から副甲状腺機能低下症が見つかります。ただし、心電図を調べるのは一部の会社検診とメタボ検診（市民検診）で、オプション心電図が認められる場合に限られます。
高カルシウム血症・低カルシウム血症は副甲状腺ホルモン(PTH)異常の可能性があります。副甲状腺は、人間の体で最も小さな臓器です。
副甲状腺は、甲状腺左右両葉の裏面に、上下1個ずつ、計4個あります。
※ただし、健康なひとでも10-15%は5個目の過剰副甲状腺があるとされます(Surgery of thyroid and parathyroid glands. 2nd edition.625.2013)。
副甲状腺ホルモンが不足すると、血液中のカルシウム濃度を維持できなくなり、低カルシウム血症に至ります。原因として原発性（副甲状腺自体が問題）と2次性（副甲状腺以外が原因）があります。
副甲状腺機能低下症の原因は
- 最も多い（頸部）術後副甲状腺機能低下症（90%）
- 次に自己免疫性
- まれに遺伝性
- さらにまれな副甲状腺浸潤、外部放射線照射、甲状腺疾患（バセドウ病・甲状腺癌）の放射性ヨウ素療法（放射線内照射）。
[J Clin Endocrinol Metab. 2016 Jun;101(6):2284-99.]
日本における非術後性副甲状腺機能低下症は、人口10万人あたり1.8人とされます。
原発性副甲状腺機能低下症
原発性副甲状腺機能低下症には、
- 自己免疫性；
①バセドウ病/橋本病の自己免疫性甲状腺炎と同じく、自己免疫による副甲状腺の破壊
多腺性自己免疫症候群（autoimmune polyendocrine syndrome： APS）1型は、副腎不全（アジソン病）、副甲状腺機能低下症と慢性粘膜皮膚カンジダ症（CMCC）を特徴とし、自己免疫調節因子のautoimmune regulator遺伝子（AIRE）の変異[N Engl J Med. 1990 Jun 28;322(26):1829-36.]
②カルシウム感知受容体（CASR）に対する自己免疫の報告もあります(J Clin Endocrinol Metab. 2017 Jan 1;102(1):167-175.)。 [APS(多腺性自己免疫症候群)1型]
- 遺伝性
①ミトコンドリア病
②22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)
③家族性低カルシウム血症もしくは常染色体優性低カルシウム血症
- 特発性；原因不明
などがあります。
2次性副甲状腺機能低下症
2次性副甲状腺機能低下症をおこす原因は、
- 甲状腺摘術後、TSH 抑制療法；バセドウ病/甲状腺腫瘍で甲状腺切除と同時に副甲状腺も取ってしまった場合、取らずに温存した場合でも副甲状腺への血管を傷つけた場合
- 頭頚部癌、サルコイドーシスで頚部手術後・放射線照射後の副甲状腺損傷・副甲状腺切除
- 甲状腺疾患（バセドウ病・甲状腺癌）の放射性ヨウ素療法（放射線内照射）
- 甲状腺癌、頭頚部癌の副甲状腺浸潤
- 低Mg（マグネシウム）血症で副甲状腺ホルモンの合成・分泌障害
- ヘモクロマトーシス(鉄沈着)・無セルロプラスミン血症(aceruloplasminemia；ウィルソン病、Wilson病)(銅沈着)；金属が副甲状腺に沈着し障害
- 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による内分泌系の免疫関連有害事象 (irAE)；非常に稀。
などです。
バセドウ病 甲状腺全摘後 超音波(エコー)画像
甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺腫瘍・甲状腺がんで
- 甲状腺全摘術時、副甲状腺も1-4腺を同時切除、あるいは切除しなくても栄養血管を損傷
- 甲状腺亜全摘術時、副甲状腺を数腺温存したつもりが、栄養血管を損傷
すると、
- 術後副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症；術直後のみならず、10年～30年以上して著明な低カルシウム血症で発症する事もある（日腎会誌 2012；54（1）：40-47.）（J Clin Diagn Res. 2017 Feb; 11(2): OD07–OD09.）。
- ビタミンD欠乏を合併していると、それを代償するための副甲状腺ホルモンが十分量分泌されず低カルシウム血症
- 甲状腺癌術後のTSH 抑制療法による低Mg（マグネシウム）血症で副甲状腺ホルモン合成分泌が更に低下し、低カルシウム血症
1.2.はビタミンD剤の投与（不十分ならカルシウム剤も追加）、3.はマグネシウム剤投与。
日本では、骨粗しょう症以外での使用は禁止されていますが、海外では甲状腺全摘術後の副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症にヒト副甲状腺ホルモン製剤 テリパラチドテリパラチド（フォルテオ®、テリボン®）が有用だった報告があります。
ケース①
甲状腺癌全摘出後残存副甲状腺
甲状腺癌全摘出後残存副甲状腺 ドプラー
甲状腺癌全摘出後 残存副甲状腺 拡大画像
ケース②
バセドウ病で甲状腺全摘出後 遺残副甲状腺；左下の副甲状腺を残す場合が多いです。
バセドウ病で甲状腺全摘出後 遺残副甲状腺 超音波(エコー)画像；この1腺だけでは十分な副甲状腺ホルモンを産生できません。
ケース②
甲状腺乳頭癌 甲状腺全摘手術後 遺残副甲状腺；左上の副甲状腺。この1腺だけでは十分な副甲状腺ホルモンを産生できません。
甲状腺乳頭癌 甲状腺全摘手術後 遺残副甲状腺 ドプラーモード；この1腺だけでは十分な副甲状腺ホルモンを産生できません。
甲状腺乳頭癌 甲状腺全摘手術後 遺残副甲状腺(拡大)
トルーソー徴候(Trousseau)徴候（助産師手位）
トルーソー徴候(Trousseau)徴候（助産師手位）
クボステック徴候(Chvostek徴候)
副甲状腺機能低下症の症状は
- 低カルシウム性テタニー（下記）
- 精神不穏、不安、抑うつ、知能発育遅延、認知障害、大脳基底核の石灰化(92％)
- 歯の発育障害、白内障(約35％)（CT画像；J Clin Diagn Res. 2017 Feb; 11(2): OD07–OD09.）
- 心電図でのQTc延長、心不全、低血圧
- 皮膚は乾燥、湿疹などを伴う
低カルシウム性テタニー
副甲状腺機能低下症の低カルシウム血症症状として、神経・筋の興奮性亢進により、
- 手足のシビレやツッパリ感、テタニーと呼ばれる手足の筋肉ケイレン
- 手は図のようなトルーソー徴候(Trousseau)徴候（助産師手位）；血圧計の（腕に巻く）マンシェットを収縮期血圧以上に保つと、手指筋の攣縮（けいれん）が誘発される
- 口の周りのシビレ感、過敏にケイレンするクボステック徴候(Chvostek徴候)。ひどいと発語困難に
- 高度の低カルシウム血症性テタニーは、内分泌緊急症（内分泌エマージェンシー）であり、重症例・小児では全身の突っ張り、四肢の強直けいれん、激しい筋痛により七転八倒する。さらには意識消失発作/全身性強直性けいれんに至る。大脳基底核の石灰化が、けいれん発作を誘発し、低カルシウム血症がそれを助長すると考えられる
（てんかん、橋本脳症・甲状腺クリーゼ・甲状腺機能亢進症/バセドウ病合併類モヤモヤ病と鑑別要）
- 喉頭けいれんを起こすと、喘息様症状、呼吸困難
- 腹筋痙攣（けいれん）で激しい腹痛（急性腹症様）
PTHの補充は現在注射薬として期間限定でしか使えません。よって血清Caを維持するには活性型ビタミンＤ製剤の服用が治療の原則です。血清Caを正常に保ち、かつ腎障害・尿路結石を予防するため尿Ca/クレアチニン比を0.3以下に維持する必要があります。
血清Ca濃度・尿Ca/クレアチニン比 測定
低カルシウム血症性テタニーの治療
低カルシウム血症性テタニーの治療は、グルコン酸カルシウム(0.36 mEq/mL, 2-3 mL/分が限界, 4.7-23.5 mL/日)の緩徐な静注または点滴静注[クエン酸塩・リン酸塩・炭酸塩・酒石酸塩・セフトリアキソンナトリウム(ロセフィン®)で沈殿(カルシウム塩)するため別ルートで行う]
最近では、合成副甲状腺ホルモン剤のEneboparatideの臨床治験が海外で行われています[J Clin Endocrinol Metab. 2024 Aug 13;109(9):2199-2209.]。
22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)
22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)は、遺伝性の副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症です。自己免疫性甲状腺疾患（バセドウ病・橋本病）を合併しますが、APS(多腺性自己免疫症候群)1型ではありません。
詳しくは、 22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群) を御覧ください。
新生児遅発型低カルシウム血症による新生児けいれんは、生後3日以降におきる稀な病態。原因として、
- 牛乳あるいは高リン(P)人工乳による高リン(P)血症
- 先天性副甲状腺機能低下症（22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群など）；早発型・遅発型いずれの低カルシウム血症もありえます。[Horm Res. 2005;63(6):294-9.]
- 母親のビタミンD欠乏症[Pediatr Gastroenterol Hepatol Nutr. 2014 Mar; 17(1): 47–51.]
- 母親が未治療/未発見の原発性副甲状腺機能亢進症だった場合；母体の高カルシウム血症が胎児の副甲状腺を抑制[Ger Med Sci. 2021 Jul 28;19:Doc09.][Turk J Pediatr. 2013 Jul-Aug;55(4):438-40.][J Clin Res Pediatr Endocrinol. 2013 Sep 10;5(3):206-8.]
- 母親が家族性/後天性低カルシウム尿性高カルシウム血症で、新生児が正常遺伝子だった場合[Clin Pediatr (Phila). 1990 Apr;29(4):241-3.]
1.2.以外は、妊娠中の母体血清カルシウム値を測定していれば予測・予防可能です。長崎甲状腺クリニック(大阪)では、甲状腺疾患を持った妊婦の血液検査を行う際、血清カルシウム(Ca)・リン(P)も同時に測定することにしています。
生後特に異常なく、生後数日経った頃に
- 吃逆（しゃっくり）
- 両手を挙げて首を振るような動作
- 目や口を見開き、びっくりするような表情
- 四肢振戦
などのけいれん発作がおこります。
血清カルシウム値が正期産児で 8 mg/dL 未満、早期産児で 7 mg/dL 未満。鑑別診断として新生児低血糖症（血糖値40 mg/dL 未満）がある。
低カルシウム血症を確認後、
- グルコン酸カルシウム静注
- その後、①人工乳にカルシトリオールかカルシウムを添加、②低リン(P)人工乳
ビタミンD欠乏と副甲状腺機能低下症による新生児遅発型低カルシウム血症[Bali Med J 2016; 5 (3): 550-555.]
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市も近く。
