長崎俊樹 院長ブログ[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
2019.10.31
緊急速報!バセドウ病アイソトープ(放射線)治療で全身の癌発生率が上昇
こんにちは。甲状腺(橋本病,バセドウ病,甲状腺エコー等)・動脈硬化・内分泌代謝 専門の長崎甲状腺クリニック(大阪)院長 長崎俊樹です。日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医として甲状腺機能低下症,橋本病,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,内分泌などのホットな話題をお届けします。
※本記事は無用の混乱をさけるため、一時非公開にしておりましたが、強い要望があり、再掲載させていただきました。
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令和1年10月10日、群馬県前橋市で開催された第62回 日本甲状腺学会 専門医教育セミナーⅠで驚くべき話が。「バセドウ病のアイソトープ(放射性ヨウ素)治療(I-131 内用療法)をしても発がんの心配は無い」の根拠となった論文(JAMA. 1998 Jul 22-29;280(4):347-55.)が、更に24年後のアイソトープ治療後患者を追跡した続編で、ちゃぶ台返しのごとく見事にひっくり返されました(安全神話が壊れた瞬間)。
(※東京にある甲状腺専門病院、伊藤病院の吉村弘先生が講演者でした)。(専門医教育セミナーは、日本甲状腺学会が定める生涯教育・専門医教育で、日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医の認定、継続申請のため過去5年間に4回以上受講している必要がある旨を書き添えておきます。台風19号が関東を直撃する1日前で、無念にも参加できなかった日本甲状腺学会員が大勢いたのも事実です。以下の内容を御存知ない方は①第62回 日本甲状腺学会の専門医教育セミナーⅠに参加していなかった②あるいは参加したが吉村先生の話を聞いていなかったのいずれかです。
具体的な内容は、
「バセドウ病のアイソトープ(放射性ヨウ素)治療後、約30年で乳がんをはじめ、全身の総固形癌(血液癌以外の癌)死亡率が、アイソトープ治療をしていない対照群と比べ明らかに増加した!!」との衝撃的な内容です(JAMA Intern Med. 2019;179(8):1034-1042.)。
そもそもバセドウ病のアイソトープ(放射性ヨウ素)治療が安全だと言う根拠は、1998年に発表の論文が元になっています。3万5千593名のアイソトープ(放射性ヨウ素)治療を受けたバセドウ病患者を平均8.2年間追跡した大規模な調査、
Ron E, Doody MM, Becker DV, Brill AB, Curtis RE, Goldman MB, Harris BS 3rd, Hoffman DA, McConahey WM, Maxon HR, Preston-Martin S, Warshauer ME, Wong FL, Boice JD Jr.
JAMA. 1998 Jul 22-29;280(4):347-55.
今から考えれば、たった8.2年間で癌が発生するかなんて分かるはずがない。
今回発表された更に24年後の追跡調査では、アイソトープ(放射性ヨウ素)治療の安全性が根底からひっくり返されました。長い年月で、さすがに少し減ったが、それでも1万8千805名のアイソトープ(放射性ヨウ素)治療を受けたバセドウ病患者の統計。
Association of Radioactive Iodine Treatment With Cancer Mortality in Patients With Hyperthyroidism
Kitahara CM, Berrington de Gonzalez A, Bouville A, Brill AB, Doody MM, Melo DR, Simon SL, Sosa JA, Tulchinsky M, Villoing D, Preston DL. (JAMA Intern Med. 2019;179(8):1034-1042.)
健常対照者と比べ、全身の総固形癌死亡率が6%増加(患者数 = 1984;胃に100 mGy放射線量を浴びてて相対危険度 = 1.06;95% CI, 1.02-1.10;P = .002)、女性の乳癌死亡率だけで12%増加(患者数 = 291;乳房に100 mGy放射線量を浴びて相対危険度 = 1.12;95% CI, 1.003-1.32;P = .04)。
※固形癌=白血病、悪性リンパ腫などの血液癌を除いた臓器癌。肺癌・胃がん・大腸がん・膵臓癌・腎臓がんなど非血液癌の総称。
かなり信頼性の高いデータなので、日本甲状腺学会編「バセドウ病治療ガイドライン」の次版で採用される可能性が高いと思われます。
30年後に癌が発生しても生命予後に対する影響が少ない年齢、60歳以上なら従来通りで良いと思います。非高齢者、特に若年者のアイソトープ(放射性ヨウ素)治療は再考する必要があります。また、癌の死亡率が上がるというのは、あくまで確率の問題です。100%癌が発生するという意味ではありません。
(後出しジャンケンの様ですが)冷静に考えてみると、そもそも、甲状腺細胞を、ほぼ完全に破壊するだけの放射線量で、人体に何の影響もない事自体が不自然です。ヨウ素(ヨード)を取り込むNa/I シンポーター(NIS)は唾液腺、胃粘膜、乳腺細胞にも存在するため、放射性ヨード(I-131)が集積します。2次発がんが起こって当然です。(Semin Nucl Med. 2004 Jan;34(1):23-31.)(Biochem Biophys Res Commun. 2006 Nov 3;349(4):1258-63.)
乳腺に集積したアイソトープ(放射性ヨウ素)。よく見ると、甲状腺よりも多く集積しています[J Nucl Med. 1996 Jan;37(1):26-31.)]
ご注意していただきたいのは、2019年以前に誰も知りえなかった、世界中の誰もがバセドウ病のアイソトープ(放射性ヨウ素)治療の安全性を信じていたことです。すでに、アイソトープ治療を受けられた方は、定期的な癌検診を受けることをお勧めします。
バセドウ病治療ガイドライン 2016ではI-131 内用療法が小児においても原則禁忌でなく、「慎重投与」の解禁状態になりました。繰り返しますが、特に若年者のアイソトープ(放射性ヨウ素)治療は再考する必要があると思います。
アイソトープ(放射性ヨウ素)治療を既に受けてしまった子供さんは成人したら人間ドック、がん検診を定期的に受ける事をお勧めします。
しかしながら、副作用などのため、あるいはバセドウ病の活動性が高すぎて薬剤治療が不可能な場合、アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療もしくは手術療法(甲状腺全摘出)を選択するしかありません。心臓病や甲状腺以外の他疾患などで手術できない方もいるでしょう。小児の場合、成人に比べて手術の難易度は高く、合併症は多いとされます。実際の臨床現場では、アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療しか残されていない場合も多い。だとしたら、「将来的な癌リスクは増えるが、他に治療法がない」旨をきちんと説明するのが大切と思います(インフォームドコンセント)。
本日は「緊急速報!バセドウ病アイソトープ(放射線)治療で全身の癌発生率が上昇」の話でした。
文責:長崎甲状腺クリニック(大阪)院長 日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 長崎俊樹
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