バセドウ病/甲状腺機能亢進症(性別・年齢層,原因,遺伝性,症状,再発,生活上の注意)[長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用) 橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。
(左)バセドウ病の発表者、ドイツの医師のカール・フォン・バセドウ博士
アイルランドのグレーブス博士も同時期に発表しており、英国やアメリカではグレーブス病と呼ばれます。
バセドウ病で長崎甲状腺クリニック(大阪)を受診される方への注意
バセドウ病患者のメルカゾール、チウラジール、プロパジール投薬開始(再開・増量)後は、
- 頻回の副作用チェックが必要
- 生命にかかわる危険な副作用(無顆粒球症 など)が起きた時に、遠隔地の患者では対応できない
ため、①バセドウ病治療は大阪市と隣接市の方に限定、②メルカゾール、チウラジール、プロパジールを自己中断された方はお受けできません
※「バセドウ病」「バセドー病」どちらが正しいでしょうか?Basedow病なので"-ow"を発音して「バセドウ病」が正しいのです。
Summary
バセドウ病/甲状腺機能亢進症を長崎甲状腺クリニック(大阪)院長が解説。バセドウ病は女性に多く、男女比1:4。発病年齢は20-30歳代が全体の過半数、次いで40、50歳代、若年~中年に多い。原因の79%は遺伝性。ストレス・タバコ・アレルギー・出産・ヨード過剰摂取・ステロイド剤中止後・出産後・溶連菌感染が誘因。TSH受容体抗体(TRAb)が無制限に甲状腺を刺激、甲状腺ホルモン産生が亢進。症状は甲状腺腫(甲状腺の腫れ)、動悸、眼球突出、発熱・発汗、体重減少(若年者は体重増加も)、下痢・肝障害、手のふるえ、精神的に不安定等。抗甲状腺薬の中止基準では3年以内に92%が再発。
Keywords
バセドウ病,甲状腺,原因,甲状腺機能亢進症,症状,遺伝,再発,女性,甲状腺ホルモン,運動制限
バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に作られる「甲状腺機能亢進症」の代表です。
女性に多く、男性1人に対して女性4人です(逆に言えばバセドウ病の5人に1人は男性)。日本の一般健常人のバセドウ病の有病率は、男性0.17%、女性0.33%です(男性は600人に1人、女性は300人に1人)。(日本医事新報 1995, 3740:22-26)
発病年齢は、20-30歳代が全体の過半数で、次いで40歳代、50歳代となり、若年から中年に多い病気です。小児バセドウ病・乳幼児バセドウ病も、 成人発症と同様の男女比です。
バセドウ病の遺伝性
バセドウ病の15%は、親・兄弟もバセドウ病で、遺伝的な素質も関係します。(甲状腺にもHLA遺伝子診断)
バセドウ病発病の79%は遺伝的な素質、残りの21%は環境要因(ストレス・タバコ・アレルギー・溶連菌感染など)が原因(次項)とされます[J Clin Endocrinol Metab. 2001 Feb;86(2):930-4.]。
一卵性双生児におけるバセドウ病の発端者一致率(片方がバセドウ病なら、もう片方もバセドウ病である確率)は、35%とされます。二卵性双生児の場合は4%。(バセドウ病と遺伝)
バセドウ病では、甲状腺を刺激する異常な抗体(TSH受容体抗体:TRAb)が、甲状腺刺激ホルモン(TSH)に代わって甲状腺を刺激し、無制限に甲状腺ホルモンが作られます。
バセドウ病が発症するきっかけは、
- ストレス(転勤・人事異動・進学/進級・引っ越し・手術など)
- たばこ (甲状腺機能亢進症/バセドウ病と喫煙 )
- アレルギー (甲状腺とアレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎 )
- ステロイド剤中止後、クッシング症候群治療後
- 妊娠・出産後[Thyroid Res. 2017 Aug 8:10:4.]
- 新型コロナウイルス感染、EBウイルス感染、溶連菌感染
- ヨード(ヨウ素)の過剰摂取(第54回 日本甲状腺学会 P196 昆布ダイエットを契機にバセドウ病及びバセドウ病眼症を発症した一例)
などが有名です。
古典的なバセドウ病の症状は、
- 甲状腺腫(甲状腺の腫れ):甲状腺全体がそのままの形ではれる「びまん性甲状腺腫」、心臓の拍動に合わせて甲状腺が震動することがあります。
- 眼球突出(眼が飛び出る):明らかに眼が出るのは5人に1人です。 むしろ、上のまぶたがはれる(上眼瞼腫張)、まぶたが上に引っ張られ眼が大きく見える(眼瞼後退)の方が多いです。バセドウ病による眼の異常をバセドウ眼症(甲状腺眼症)といいます。
- 動悸:1835年に初めて報告されたバセドウ病は、心臓の病気と考えられていました。
健康な成人の安静時脈拍(心拍数)は1分間に 60~100ですが、バセドウ病では100以上になります。
ただし、高齢では脈拍が増えない事もあります。
また、バセドウ病では心臓血管障害がおこりやすく、不整脈・狭心症の原因になります[心臓病 心房細動(Af) 頻脈性不整脈 高血圧 狭心症・心筋梗塞]。
です。現実は、これら症状が全てそろわない場合の方が多いです。
それ以外のバセドウ病の症状は、
- 新陳代謝の亢進:甲状腺ホルモンは、体の新陳代謝を活発にするホルモンなので、一見ハイで、皮膚ツヤもよく、元気そうに見えます。
しかし、新陳代謝の異常な亢進により、発熱・発汗(暑がり・皮膚のかゆみ)・顔や体のやつれ/体重減少・筋肉の衰え/筋力低下、貧血などがおこります。
また、安静でも不必要にエネルギーを消費するため、消耗して疲れやすくなります。
スリムで元気そうに見えても、実は体がドンドン衰えていく怖い病気なのです
※新陳代謝の異常な亢進は、食欲中枢を刺激し、体内の糖・脂肪が燃焼される以上に食べれば、逆に体重増加します。特に、胃腸が丈夫な若いバセドウ病のひとは、体重増加する可能性があります(内分泌肥満 )。
- 下痢・排便回数の増加(甲状腺ホルモンと便秘・下痢 )、肝障害(無症状)(甲状腺ホルモン異常と肝障害 )
- 手のふるえ(手指振戦;お茶を入れる時に、こぼすなど)
- 精神的に不安定[そううつ・抑うつ・不眠症(バセドウ病はグットモーニングがない病気)]、イライラ、集中力低下/落ち着きがない
- 生理不順(過少月経、無月経)、不妊症(甲状腺機能亢進症/バセドウ病における不妊症/習慣性流産・不育症)、性欲減退
- 脱毛、自己免疫機序でみられる白斑、前脛骨粘液水腫
- 関節炎・関節痛
- 筋肉痛・筋けいれん
- 低カリウム性周期性四肢麻痺
- 腫瘍・癌の発生母体に(バセドウ病と腫瘍・癌)
長崎甲状腺クリニック(大阪)で採用している抗甲状腺薬の中止基準(抗甲状腺薬の中止基準)・アイソトープ(放射性ヨウ素)治療・手術療法での再発はありません(ただし、中途半端な甲状腺亜全摘術を除く)。
一般的な抗甲状腺薬の中止基準を用いてバセドウ病治療を中止後、再度甲状腺ホルモンが上昇して来たら、78%はバセドウ病の再発ですが、22%は一時的な甲状腺の破壊による無痛性甲状腺炎です(「上條甲状腺クリニックの甲状腺疾患Q&A」より)。
上條甲状腺クリニックの統計によると、バセドウ病/甲状腺機能亢進症の再発は、
- 1年以内再発62%
- 2年以内再発85%
- 3年以内再発92%
で、結局ほとんどが再発し、よくこんな中止基準を作ったものだと思います。
3年以上して再発しない人は、
- 平均11年そのまま寛解を維持
- 平均7年で3.3%再発
- 平均8年で3.7%甲状腺機能低下症に移行
バセドウ病の再発後、抗甲状腺薬再投与による副作用
抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)初回投与時に無くとも、再投与時に副作用を認める例があります。しかし、そのような症例の特徴は全く不明です。
伊藤病院の報告では、バセドウ病再発後の抗甲状腺薬再投与[MMI(メルカゾール)141例、PTU(プロパジール、チウラジール)31例]で
- 発疹1 例(中止期間38ヶ月)は薬剤変更で対応
- MMI(メルカゾール)で発熱と白血球減少(WBC800)1 例(0.6%)(同19ヶ月)(無顆粒球症の直前)。アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療へ変更。
甲状腺ホルモンが不安定な時期
- 甲状腺ホルモン過剰が続いている間は、甲状腺ホルモンが常に心臓を刺激しているため、心臓血管障害をおこす危険があります(甲状腺と心臓病(サイロイドハート) 、甲状腺と心房細動(Af) 頻脈性不整脈、甲状腺の血圧管理・高血圧甲状腺で狭心症・心筋梗塞 急性大動脈解離・大動脈瘤 )。
そのため、運動量・運動強度、日常生活(ストレスなど)はある程度制限が必要です。(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の運動制限)
- 甲状腺ホルモンが不安定な状態で妊娠すると、流産・死産・早産・新生児死亡・発育遅延、胎盤早期剥離、妊娠高血圧、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)や心不全・甲状腺クリーゼ (死亡率10数%、コウノドリ2 第6話参照)、胎児・新生児甲状腺機能亢進症/バセドウ病をおこすため、甲状腺ホルモンが安定化するまで避妊しなければなりません。
治療開始後、甲状腺ホルモンが下がりだす(改善していく)時期
治療が開始され、甲状腺ホルモンが正常に向かって下がりだす時期には、過剰な糖・脂肪・蛋白・骨分解にブレーキが掛かり、体重減少速度が低下します。体重は増加に転じ、バセドウ病発症前に戻るはずですが、甲状腺ホルモンが多い時と同じようにガッツリ食べると逆に肥満をきたします。脳の食欲中枢は、甲状腺ホルモンが治療により低下しても、すぐにはリセットされず、甲状腺ホルモンが高い時のままなので必要以上に食べてしまいます。
(※中にはこの現象をメルカゾールの副作用と勘違いし、服薬自己中断する人がいます。)
そもそも人間は、食べれば食べた分体重が増える生き物なのです。いくら食べても体重が増えない、逆に痩せていく事自体、自然の摂理に反します。バセドウ病が発症する前の体重を超えそうなときは、同じく食事量を発症する前に戻します。ただし、無理なダイエットはしないでください。
[Clin Obes. 2019 Oct;9(5):e12328.](甲状腺機能亢進症/バセドウ病の肥満)
バセドウ病安定期
- 運動量・運動強度の制限は、甲状腺ホルモンが正常化すれば少しずつ解除していきます。最終的には、バセドウ病が発症する前の運動量・運動強度に戻します。それでも、過剰な甲状腺ホルモンにより心臓が受けてしまったダメージが100%回復するとは思えないので、心臓に最大負荷を掛ける運動(トライアスロン、全力疾走など)は避けた方が良いと思います。(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の運動制限 )
- 妊娠も可能になります。しかし、甲状腺ホルモンが正常化しても、TSH受容体抗体(TRAb)が高値だと、胎児・新生児甲状腺機能亢進症/バセドウ病をおこす危険があります。
- バセドウ病は、再発する可能性があることを忘れてはいけません。
ストレス(ストレスを掛け過ぎない)
タバコ(禁煙、受動喫煙を避ける)
アレルギー(内科・耳鼻咽喉科・眼科などを受診し、可能な限りアレルギーを抑える)
は3大再発原因ですが、
最も多い再発原因は抗甲状腺薬の不規則な服薬/自己中断です。抗甲状腺薬を自己中断する人の10%は、体重増加が原因とされます。これは、抗甲状腺薬の副作用ではなく、甲状腺ホルモンが正常に近くなれば、過剰な(異常な)糖・脂肪の分解がなくなるためです。そもそも、人間はカロリー消費する以上に食べれば太る生き物で、いくら食べても太らないこと自体が異常なのです。
- ヨードを連日過剰摂取する習慣は改めるべきです。某有名甲状腺病院のいくつかは(全部ではありませんが)「ヨウ素のとり方を心配する人もありますが、普通に食べてかまいません。」との見解です。確かに、「普通に食べる」のは問題ないかもしれませんが、「普通」の基準を明示されていない場合が多く、「普通に食べている」つもりが過剰摂取になっている患者さんは多いです。新しい知見では、ヨード(ヨウ素)の弊害が報告されており、バセドウ病患者もある程度の制限は必要と考えます。(バセドウ病とヨウ素(ヨード))
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,天王寺区,生野区,浪速区も近く。