原発性副甲状腺機能亢進症・高カルシウム血症の治療[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
内分泌代謝(副甲状腺・副腎・下垂体)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科(内分泌骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
急性期の高カルシウム血症の治療は①生理食塩水大量輸液+ループ利尿薬②カルシトニン皮下注射③ビスフォスフォネート点滴(ゾメタ®、アレディア®)④血液透析。慢性期の高カルシウム血症の治療①外科手術適応外ではカルシウム受容体作動薬のシナカルセト塩酸塩(レグパラ®)、エボカルセト(オルケディア®)②ビスフォスフォネート剤と抗RANKL抗体デノスマブ(ランマーク®、プラリア®)、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)併用③H2 ブロッカー。副甲状腺腺腫、副甲状腺癌、副甲状腺過形成自体の治療は副甲状腺摘出手術(PTX)。妊娠中は妊娠中期以降の手術。
Keywords
高カルシウム血症,治療,ビスフォスフォネート,原発性副甲状腺機能亢進症,シナカルセト,レグパラ,エボカルセト,オルケディア,副甲状腺,手術
高カルシウム血症の急性期治療は、
- 生理食塩水大量輸液+ループ利尿薬(尿量 2L/日、最初の2日は3-4L/日が目標)
- カルシトニン皮下注射
即効性があって、数時間で血中カルシウム値が低下
1日2回、静注または筋注
1-2週間でエスケープ現象おこし効かなくなる
- ビスフォスフォネート点滴(ゾメタ®、アレディア®)
24-72時間でカルシウム低下、1週間効果持続
急速静注で急性尿細管壊死をおこすため、緩徐に点滴する
発熱・頭痛・全身倦怠感をおこす事がある
治療により低リン血症が増悪する場合が多く、血中リン濃度が2 mg/dL 以下になると致命的な臓器障害がおこります。静脈用リン製剤を投与すると、肺などに石灰化がおこり致命的となるので要注意
繰り返しの治療で顎骨壊死症候群(骨髄炎の治癒が遷延したような病理組織像。糖尿病/肥満、喫煙/飲酒、口腔内の不衛生さ、悪性腫瘍の治療が危険因子。)
経口ビスフォスフォネート剤で血中カルシウムはほとんど下がりません
- 血液透析
血中カルシウム濃度が16 mg/dL 以上で腎不全がある場合
治療しても血中カルシウム濃度が下がらない場合
血清Ca値 |
副甲状腺ホルモン (PTH)正常化率 |
大腿骨密度改善率 (Femur BMD) |
脊椎骨密度改善率 (Spine BMD) |
|
シナカルセト | 70.6% | 35% | 18.8% | 70.6% |
副甲状腺摘出術(PTX) | 100% | 76% | 58.8% | 82.4% |
[Rev Endocr Metab Disord. 2022 Jun;23(3):485-501.][Endokrynol Pol. 2017;68(3):306-310.]
シナカルセト塩酸塩(レグパラ®)、エボカルセト(オルケディア®)は、副甲状腺細胞上のカルシウム感知受容体(CASR)を活性化し、カルシウム感受性を増強します。結果、副甲状腺ホルモン分泌を抑制し、血清カルシウム値を低下させます(理論上はそうですが、実際はそううまくいきません)。
カルシウム受容体作動薬のシナカルセト塩酸塩(レグパラ®)が、
- 副甲状腺癌
- 副甲状腺摘出術不能(主に高齢者、どうしても副甲状腺の位置が同定できない場合、患者が手術に同意しない場合)
- 術後再発の原発性副甲状腺機能亢進症
の高カルシウム血症に保険適応が認められました。
しかし、治療効果は副甲状腺摘出術(PTX)に比べれば劣ります[Ann Surg. 2012 May;255(5):981-5.]。シナカルセト塩酸塩(レグパラ®)は、
- 血清カルシウム値は下がる。しかし、正常化する患者は70.6%のみ。
- 腰椎骨密度(BMD)は改善する事が多い;副甲状腺摘出(PTX)群で82.4%の患者が改善するが、シナカルセト群では70.6%。
- 大腿骨頸部骨密度(BMD)は変化しない事が多い;副甲状腺摘出(PTX)群で58.8%の患者が改善するが、シナカルセト群では18.8%。
- 副甲状腺ホルモン(PTH)は65%が正常化しない。副甲状腺摘出(PTX)群で76%の患者が正常化するが、シナカルセト群では35%。
たとえ血清カルシウム値が下がるだけでも、高カルシウム(Ca)血症が死因となる副甲状腺癌の再発には非常に有用な治療です。
ただ、シナカルセトは上部消化管に直接作用し、悪心・嘔吐などをおこす副作用があるため、効果不十分の際に増量困難になります。
同じくカルシウム受容体作動薬のエボカルセト(オルケディア®)は、その問題点を改善した薬で、シナカルセトと異なりチトクローム P450 による代謝を受けにくいため少ない服薬量で済みます。
また、シナカルセト塩酸塩(レグパラ®)、エボカルセト(オルケディア®)だけでは不十分な場合、骨粗しょう症治療薬でCaが低下するビスフォスフォネート剤と抗RANKL抗体デノスマブ(ランマーク®、プラリア®)、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)の併用も有効です。
胃酸分泌抑制薬、H2 ブロッカー[シメチジン、、ファモチジン(ガスター®)]
胃酸分泌抑制薬、H2 ブロッカーのシメチジンは、原発性副甲状腺機能亢進症において血清カルシウムと副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを低下させるとされます(否定的な報告もあります)。様々な報告を見ると、全ての原発性副甲状腺機能亢進症患者に有効では無いが、血清カルシウムが有意に低下する人は存在します(割合は不明ですが)。(Br J Clin Pharmacol. 1982 Nov; 14(5): 701–705.)
また、透析中の2次性副甲状腺機能亢進症(異所性石灰着症)、石灰着性腱板炎にも有効との報告があります。(Proc Eur Dial Transplant Assoc. 1981;18:642-7.)
H2 ブロッカーがカルシウム代謝、石灰化に影響する機序は不明ですが、
- 副甲状腺細胞に存在する H2 受容体(ヒスタミン受容体)に作用し、副甲状腺ホルモン(PTH)分泌を抑制する(J Clin Endocrinol Metab. 1981 Jan;52(1):122-7.)
- 骨格筋内の血管に存在する H2 受容体へ直接作用する
などが考えられます。
特に、多発性内分泌腺腫症2型(MEN2) 多発性内分泌腺腫症1型(MEN1) の原発性副甲状腺機能亢進症は若年発症するため、妊娠可能年齢の女性患者も含まれます。
妊娠中の高カルシウム血症は、細胞外液量の増加、低アルブミン血症、胎児へのカルシウム輸送の増加などによってマスクされます。しかし、妊娠中の
- 高血圧、腎結石(腎臓結石)・尿路結石、生命に関わる高カルシウムクリーゼ、膵炎
- 流産、子宮内成長遅滞および胎児死、早産、新生児低カルシウム血症性けいれん
を引き起こします(J Clin Endocrinol Metab. 2015 May; 100(5):2115-22.)。
妊娠中における原発性副甲状腺機能亢進症の治療は、
- 適切な水分補給を確保
- イオン化カルシウムが正常範囲の上限(0.12mmol/L)を超える場合には(Clin Endocrinol (Oxf). 2009 Jul; 71(1):104-9.)、妊娠中期以降の副甲状腺摘出術(PTx)が推奨されます(J Clin Endocrinol Metab. 2015 May; 100(5):2115-22.)
- シナカルセト塩酸塩(レグパラ®);現時点では、胎児に対する安全性が確立されていません
副甲状腺腺腫、副甲状腺癌、副甲状腺過形成の摘出手術
現行のアメリカのガイドライン(2013年)では、
- 血中カルシウム濃度が、正常上限より 1.0mg/dL 以上高い
- 骨量が一定レベル以上低下[股関節,腰椎,橈骨の最大骨密度が2.5 標準偏差(T score)以上低い]
または椎体骨折
- 腎機能の数値であるeGFRが60 mL/min未満
尿Ca ≧400 mg/日
- 腎結石(腎臓結石)・尿路結石/石灰沈着の画像所見
- 年齢が50歳未満
に一つでも該当すれば無症候性(自覚症状がない)であっても副甲状腺摘出術(PTX)が推奨されます[J Clin Endocrinol Metab. 2014 Oct;99(10):3561-9.]。
副甲状腺を摘出した時点で、本当に採り切れたか、(分葉などの)取り残しは無いかどうか、術中迅速 i-PTH測定を行い、低下を確認すれば終了。[Clin Chem. 2004 Jul;50(7):1126-35.]
血清Ca値 |
副甲状腺ホルモン (PTH)正常化率 |
大腿骨密度改善率 (Femur BMD) |
脊椎骨密度改善率 (Spine BMD) |
|
シナカルセト | 70.6% | 35% | 18.8% | 70.6% |
副甲状腺摘出術(PTX) | 100% | 76% | 58.8% | 82.4% |
[Rev Endocr Metab Disord. 2022 Jun;23(3):485-501.][Endokrynol Pol. 2017;68(3):306-310.]
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