亜急性甲状腺炎[性別・年齢層,原因,症状,橋本病(慢性甲状腺炎)の合併/移行][バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
亜急性甲状腺炎の診療停止について
日本での新型コロナウイルス感染が完全に終息するまで亜急性甲状腺炎の診療は停止(ステロイド投与中のコロナ感染は重症化するため)。
亜急性甲状腺炎のステロイド治療は、新型コロナウイルス感染にすぐ対処できるよう、コロナ病床のある病院で行った方が良いと思います。
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用) 橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。
Summary
亜急性甲状腺炎は年齢30-40歳代女性に多く、男性の12倍。甲状腺中毒症の約9%。80%以上で組織適合性抗原HLA-B*35陽性、HLA-B*67:01も関連。約50%で上気道感染[感冒、喉(のど)の炎症]の既往があり、ウイルス感染後の過剰な免疫反応が原因。原因ウイルスは何でもよい。症状は発熱(無熱~38度以上の高熱まで)・甲状腺の腫れ・移動性の痛み(クリーピング)・圧痛部は硬く「癌より癌らしい硬さ」・軽度~高度まで様々な甲状腺中毒症状(動悸・息切れ、発汗、倦怠感など)。橋本病(慢性甲状腺炎)へ移行、一時的/永続的甲状腺機能低下症になる事も。
Keywords
亜急性甲状腺炎,年齢,発熱,原因,症状,ウイルス,痛み,橋本病,甲状腺中毒症,HLA-B*35
亜急性甲状腺炎は30歳代、40歳代の女性に多く、女性は男性の12倍です。
甲状腺中毒症(甲状腺ホルモンが多い状態)のほとんど(約8割)はバセドウ病です。日本医科大学千葉北総病院で甲状腺中毒症と診断された患者は、バセドウ病57人(76%)、無痛性甲状腺炎11人(14.7%)、亜急性甲状腺炎7人(9.3%)でした。亜急性甲状腺炎の割合は10%弱。バセドウ病に亜急性甲状腺炎を合併する稀な状態が1%未満(0.3%)あります(亜急性甲状腺炎とバセドウ病合併/移行)。[J Nippon Med Sch. 2006 Feb;73(1):10-7.](第61回 日本甲状腺学会 O27-2 印旛地域における7年間の甲状腺中毒症の原因疾患頻度)
亜急性甲状腺炎は
- 先行するウィルス感染(2~6週間前)
夏に多く、冬にもみられ、約50%で上気道感染[感冒、喉(のど)の炎症]後に起こるため、ウイルス感染により誘発される過剰な免疫反応と考えられます。原因ウイルスは、
①夏に多いエンテロウイルス(エコーウイルス、コクサッキーウイルス)、アデノウイルス(プール熱など)
②冬に多いインフルエンザウイルス、ライノウイルス(鼻風邪)
③通年性のサイトメガロウイルス、エプスタイン‐バールウイルス(EBウイルス)、ムンプスウイルス[流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)]、風疹ウイルスなど何であっても構わない)
④新型コロナウイルス
⑤インフルエンザワクチン接種でも;不活化されたインフルエンザウイルスなので、不思議はありません(Kaohsiung J Med Sci. 2006 Jun;22(6):297-300.)。免疫反応を誘発する目的でワクチンに添加されるアジュバント(Adjuvant、免疫補助剤)も原因となります(J Autoimmun. 2011 Feb; 36(1):4-8.)。
⑥B型肝炎ウイルスワクチン接種でも(Endocr J. 1998 Feb;45(1):135.)
- 組織適合性抗原HLA-B*35:01、HLA-B*67:01に関連が強いとされ、この遺伝子型を持つ人で特に起こりやすいとされます(亜急性甲状腺炎の83-87%でHLA-B*35陽性)。
ウイルス抗原と甲状腺細胞抗原が似た構造をしていると、免疫細胞である細胞障害性T細胞が、両者を同じと認識し攻撃するためと考えられます(交差反応、交差認識)。
[Przegl Epidemiol. 2023;77(2):136-145.]
一般的(典型的)な亜急性甲状腺炎の症状は、
- 発熱(実際は無熱性~38度以上の高熱まで様々)
(2~6週間前の先行ウィルス感染で発熱している場合、再度の発熱になります)
- 甲状腺の腫れ(はれ);外から見て分かる事も、分からない事もある
- 痛み;左右どちらかから始まり、他方へ移動していく(クリーピング)。痛みのある部分は硬く、「癌より癌らしい硬さ」と言われる
(実際は無痛性、非常に軽い痛みの事も多い Thyroid. 2001 Jul;11(7):691-5.)
- 甲状腺中毒症:バセドウ病ほどではなく、軽度の事が多い(例外あり)ですが、血中の甲状腺ホルモンが過剰になり、動悸・息切れ、発汗、倦怠感などがおこります。
甲状腺の組織が破壊され、内部の甲状腺ホルモンが急激に血液中に放出されるためです。
重度の甲状腺中毒症になるケースもあります。
(例)高度の炎症;FT4 ≧7.77 ng/dL (甲状腺機能亢進症/バセドウ病、無痛性甲状腺炎のよう)
(例)高度の組織破壊;血中サイログロブリン異常高値 1723.0 ng/mL
(第54回 日本甲状腺学会 P097 核の左方移動を伴う白血球増加がみられた亜急性甲状腺炎の1例)
そもそも亜急性甲状腺炎の炎症は、微弱なものから強烈なものまで千差万別です。そのため、教科書通りの典型的な症状とは限らず、無症状で自然と消えていったり(不顕性型)から、中途半端な症状だったりします。いくら症状に差があっても、甲状腺超音波(エコー)所見はほぼ共通です。
教科書通りでない亜急性甲状腺炎[①早く見つかり過ぎる亜急性甲状腺炎(先行する頚部腫大/甲状腺中毒症)②甲状腺中毒症は無いが、サイログロブリンだけ上昇③何年しても終息しない] は普通に存在します。
亜急性甲状腺炎の初発症状として発熱に筋痛、関節痛を伴う報告があり、膠原病や類縁疾患など他の病気との鑑別が必要です。(Praxis (Bern 1994). 2007 Sep 26;96(39):1483-5.)(Acta Med Port. 2011 Sep-Oct;24(5):821-6.)。中には、頚部痛の無い発熱・筋痛・関節痛だけの亜急性甲状腺炎の報告があります(Kaku Igaku. 1992 Dec;29(12):1475-8.)。
亜急性甲状腺炎と甲状腺機能亢進症/バセドウ病の合併/移行
亜急性甲状腺炎と橋本病(慢性甲状腺炎)の合併/移行がある。亜急性甲状腺炎の経過中、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)が陽性なら①元々存在した②誘発された。亜急性甲状腺炎が終息後、これら抗体は持続もしくは一過性で消失。橋本病の甲状腺に起きた亜急性甲状腺炎はエコー診断難。
亜急性甲状腺炎の
- 発見時(同時なのか、発症前に存在していたのか不明)(Case Rep Endocrinol. 2018 Oct 30;2018:3210317.)
- 経過中
- 数ヶ月後から数年後(Clin Endocrinol (Oxf). 1998 Apr; 48(4):445-53.)
に橋本病(慢性甲状腺炎)の自己免疫抗体[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)もしくは抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]が、血液検査で検出されることがあります。
その理由として、
- 既に橋本病(慢性甲状腺炎)である人が亜急性甲状腺炎を発症
- もともと橋本病(慢性甲状腺炎)の素因がある人で、
①亜急性甲状腺炎によって破壊され、血中へ放出された甲状腺濾胞細胞(もしくは細胞成分)が抗原となって自己免疫反応が誘発された
②亜急性甲状腺炎の炎症性サイトカイン(サイトカインストーム)が原因で、自己免疫反応が誘導された
③ステロイドを減量する際、リバウンド的に自己免疫反応が誘導された(筆者の印象では、急激にステロイド剤を減量した報告に多いような気がします。例えば、プレドニゾロン20mgを5日後に10mgにする)
と考えられます。
亜急性甲状腺炎終息後、
- ほとんども患者でTSH受容体抗体(TRAb)・抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)消失
- TSH受容体抗体(TRAb)・抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)が残存し、橋本病(慢性甲状腺炎)へ移行
(Thyroid. 1996 Aug;6(4):345-8.)(Clin Endocrinol (Oxf). 1998 Apr;48(4):445-53.)(Intern Med. 2003 Aug;42(8):704-9.)
しかし、伊藤病院の報告では抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性亜急性甲状腺炎患者の50%が持続陽性、50%が陰性化(第54回 日本甲状腺学会 P098 亜急性甲状腺炎(SAT)での自己抗体の推移)
橋本病(慢性甲状腺炎)の甲状腺は超音波(エコー)画像は、内部が粗雑・不均一で低エコー領域も多い。その上に亜急性甲状腺炎の変化が重なっても、典型的な亜急性甲状腺炎の超音波(エコー)画像にならないため、エコー診断は難しいです。[J Adolesc Health Care. 1988 Sep;9(5):434-5.]
むしろ、臨床経過や血液検査所見の方が、亜急性甲状腺炎を疑う根拠になります。
それでも橋本病に発生する甲状腺悪性リンパ腫との鑑別が難しい場合があります[J Clin Ultrasound. 1997 Jun;25(5):279-81.]。
最後は、甲状腺穿刺細胞診で免疫細胞である多核巨細胞(中等度出現)/類上皮細胞(多数出現)と、好中球(急性炎症の白血球)の浸潤を証明すれば確定します。
しかし、亜急性甲状腺炎が発症する前から、橋本病で定期的な超音波(エコー)検査を行っていた場合、過去の画像と対比できるため診断は容易になります。
亜急性甲状腺炎の転帰
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,天王寺区,浪速区,生野区も近く。