橋本病(慢性甲状腺炎)[歴史,原因,症状,検査,治療,生活上の注意][日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
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Summary
日本人の橋本病(慢性甲状腺炎)有病率は男性2.7%、女性11.8%で遺伝性70%の自己免疫性甲状腺炎。抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)/抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性。甲状腺超音波(エコー)検査で破壊の程度が評価できる。橋本病女性の32.4%に甲状腺腫瘍、8.6%に甲状腺癌が発生。甲状腺機能正常橋本病と甲状腺機能低下症の橋本病に分かれるため、橋本病=甲状腺機能低下症ではない。橋本病症状は甲状腺の腫れ(甲状腺腫)、甲状腺機能低下症症状。治療はヨード(ヨウ素)過剰摂取制限、甲状腺機能低下症なら甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)。
Keywords
慢性甲状腺炎,橋本病,甲状腺機能低下症,甲状腺ホルモン,抗サイログロブリン抗体,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体,ヨウ素,甲状腺,チラーヂン,超音波
そもそも橋本病とは、橋本策(はしもと はかる)博士が、明治45年ドイツの医学誌に「リンパ球が浸潤した甲状腺の炎症」を論文発表したのが最初です。
「リンパ球の浸潤した甲状腺の慢性炎症」=「橋本病(Hashimoto's thyroiditis)」が国際的な定義であり、甲状腺ホルモンが正常か、低下しているかは関係ないのです。
甲状腺ホルモンが正常=甲状腺機能正常橋本病
甲状腺ホルモンが低下=甲状腺機能低下症の橋本病
であり、甲状腺機能低下症と橋本病は同じではありません。 (驚いたのは、甲状腺が専門でない医師のみならず、内分泌代謝専門医と称する人達にも橋本病=甲状腺機能低下症と思い込んでいる方が多いのです)
橋本病(慢性甲状腺炎)は、自己免疫による甲状腺の慢性炎症です。正常な免疫は、細菌・ウイルス・癌細胞などから自分の体を守るものですが、それが逆に自分の体を攻撃するのが自己免疫です。 橋本病(慢性甲状腺炎)は、自分で自分の甲状腺を攻撃し、その結果、甲状腺に慢性炎症がおこる病気です。
橋本病(慢性甲状腺炎)と遺伝
橋本病(慢性甲状腺炎)を発症させる環境因子
橋本病(慢性甲状腺炎)が発症する原因の残り30%は、遺伝によりません。一卵性双生児でも片や抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性、片や陰性のパターンも存在します。
遺伝以外に橋本病(慢性甲状腺炎)を発症させるものとして、環境因子(生活習慣とも言えます)があります。ヨードの過剰摂取が、橋本病(慢性甲状腺炎)の発症に深くかかわるのは良く知られます。薬剤(B型C型肝炎治療に使うインターフェロン、癌の免疫療法などに使うインターロイキン2)も関与します。
その他、ウイルス感染、化学物質なども報告されています。
橋本病(慢性甲状腺炎)を発症させる内因性因子
女性である事・出産も橋本病(慢性甲状腺炎)の発症に関与します。私、長崎 俊樹は、女性ホルモンが、甲状腺の自己免疫に関与する可能性を考えています。
橋本病(慢性甲状腺炎)は、自己免疫による甲状腺の慢性炎症です。当然、炎症による破壊が軽度で、甲状腺ホルモン産生細胞(濾胞細胞)がそれ程壊れなければ、甲状腺機能低下症にはなりません。
甲状腺ホルモンが正常=甲状腺機能正常橋本病
甲状腺ホルモンが低下=甲状腺機能低下症の橋本病
であり、甲状腺機能低下症と橋本病は同じではありません。 (驚いたのは、甲状腺が専門でない医師のみならず、内分泌代謝専門医と称する人達にも橋本病=甲状腺機能低下症と思い込んでいる方が多いのです)
甲状腺の腫れ(甲状腺腫)
甲状腺の腫れ(甲状腺腫):甲状腺の慢性炎症のため、甲状腺が腫れます。バセドウ病の甲状腺腫と比べ、橋本病の甲状腺腫は硬く、表面に凹凸あります。敏感な人は、喉(のど)の違和感、飲み込む時の違和感など自覚症状が生じます。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症の症状は、
- 全身の新陳代謝が低下(甲状腺ホルモンは糖・脂肪を分解して熱を作るホルモンです)するため、体の熱産生が減り、寒さに弱く低体温気味になります(甲状腺ホルモンと体温異常)。
- 食欲がないのに体重が増える(カロリー消費が減ってお腹がすかない、脂肪が分解されない。粘液水腫によるむくみも関与)胃腸の働きが低下して便秘になります(甲状腺ホルモンと便秘・下痢)。皮膚が乾燥します(甲状腺ホルモン異常と皮膚・脱毛)。
- むくみ:「粘液水腫」と呼ばれます。弾力性があり、押してへこませてもすぐ元に戻ります(前脛骨粘液水腫)。内科で利尿薬を処方されても効きが悪いのが特徴
朝起きると手や顔がこわばり、関節リウマチと勘違いすることがあります。
顔・まぶた・唇がむくんで、舌が大きくなり、ろれつが回りにくいことがあります。また、喉頭(のど)がむくむと声がかすれ(嗄声)ます[声のカスレ(嗄声;させい)]。
- 心拍数が少なく、徐脈になります(甲状腺機能低下症による徐脈)。健康な成人の安静時脈拍(心拍数)は1分間に 60~100ですが、甲状腺機能低下症では60以下になります。
1/3~1/2の方で、心臓を包む袋(心のう)に水がたまります(心のう液貯留)。
- 無気・うつ傾向になります。
脳の代謝が低下し、頭の回転が鈍くなり認知症のようになります(甲状腺機能低下症で認知症)。また、居眠りをするようになります。
- 月経(生理)の量が多くなり、長く続きます(過多月経)(甲状腺と生理不順)。不妊、性欲減退、インポテンツになることもあります。
- 頭痛(甲状腺機能低下症と頭痛)
- 筋肉痛・筋けいれん(甲状腺機能低下症・橋本病と筋肉痛・筋けいれん)
- 関節炎・関節痛
- 動脈硬化が進んで狭心症/心筋梗塞の発症率が高くなります(甲状腺機能低下症の動脈硬化)。
橋本病(慢性甲状腺炎)自体の症状として
- 甲状腺の腫れ(びまん性甲状腺腫と呼びます)
- 甲状腺癌の発生率が上がります(橋本病から甲状腺癌が発生)。
橋本病(慢性甲状腺炎)の検査所見は、
- 自己免疫抗体の検出:自分の甲状腺を破壊し、甲状腺に慢性炎症をおこす自己免疫抗体[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)もしくは抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]が、血液検査で検出されると橋本病(慢性甲状腺炎)の診断が確定します(橋本病の抗体)。
- 血中サイログロブリン:甲状腺組織の破壊により、血中へ流出するため、破壊活動性を反映します。
ただし、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)を持っていると、実際よりも低い測定値になります[抗サイログロブリン抗体(Tg-Ab)、サイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)]。
甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)、甲状腺良性腫瘍(良性濾胞腺腫)、腺腫様結節(過形成結節)の集合体である腺腫様甲状腺腫などでも、過剰産生され上昇します(血中サイログロブリン値が異常を示す甲状腺の病態)。
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甲状腺超音波(エコー)検査:長崎甲状腺クリニック(大阪)では、得意の甲状腺超音波(エコー)検査で甲状腺の破壊の程度を評価します。[橋本病(慢性甲状腺炎)破壊の程度の評価 ]
現実に自己免疫抗体が検出されない橋本病(慢性甲状腺炎)が存在し、
また自己免疫抗体の基準値が甘すぎるため、甲状腺超音波(エコー)検査で明らかな慢性甲状腺炎でも、自己免疫抗体が基準値の上限近くの正常範囲内という例が多数存在します。
慢性甲状腺炎(橋本病)の診断ガイドラインでは、「甲状腺超音波検査で内部エコー低下や不均一を認めるものは慢性甲状腺炎(橋本病)の可能性が強い。」要するに慢性甲状腺炎(橋本病)の疑いと言う事になりますが、あまりに時代遅れの診断基準です。
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どうしても慢性甲状腺炎(橋本病)の診断が付かない、慢性甲状腺炎(橋本病)かどうか確定しなければならない場合、穿刺細胞診をおこない、慢性甲状腺炎(橋本病)の原因となるリンパ球が甲状腺内に浸潤しているのを証明します。[どうしても慢性甲状腺炎(橋本病)かどうか確定しなければならない状況は、現実的にはあまり存在しないのですが]
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甲状腺機能低下症:橋本病(慢性甲状腺炎)の約30%に、遊離T4(FT4)低値およびTSH高値の甲状腺機能低下症を認めます。
甲状腺機能低下症でよく認められる検査所見として、「悪玉コレステロール(LDLコレステロール)上昇」、「中性脂肪(TG)上昇」、「CPK(CK)上昇」、「AST(GOT)・ALT(GPT)高値」、「貧血」、「γ-グロブリン上昇(企業検診・人間ドックの場合はZTT)」などがあります。ただし、これらは甲状腺以外の病気でも普通に見られるため、甲状腺機能低下症とは限りません。これらの異常値が複数ある時は、甲状腺機能低下症の可能性が高くなります。
何度も言いますが、橋本病=甲状腺機能低下症ではありません。
2. 橋本病(慢性甲状腺炎)の超音波(エコー)検査
橋本病(慢性甲状腺炎)の破壊の程度の評価 を御覧ください。
日本の古い診断基準では、
- 橋本病(慢性甲状腺炎)の自己免疫抗体[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)もしくは抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]の検出
- 下記の穿刺細胞診所見
でしか橋本病(慢性甲状腺炎)を診断できません。それは、高解像度のデジタルハイビジョン超音波装置が開発される前に作られた古い古い診断基準。デジタルハイビジョン超音波装置を用いれば、自己免疫抗体が陽性化する前[橋本病(慢性甲状腺炎)の自己免疫抗体は年齢とともに上昇]の甲状腺の慢性炎症/破壊の程度を評価できます。
3. 慢性甲状腺炎(橋本病)の穿刺細胞診所見
慢性甲状腺炎(橋本病)の穿刺細胞診所見は、
- 細胞質は豊富でエメラルドグリーンの好酸性(ハーテル細胞、Hurthle cell);好酸性変性した濾胞上皮細胞
- 核の大小と核溝を認める
- コロイドに乏しい
- 単一でない成熟リンパ球が多数見られる。マクロファージも(甲状腺原発悪性リンパ腫と異なる点)
正常な甲状腺細胞と異なり、良性濾胞腺腫(好酸性細胞型)・甲状腺濾胞癌(好酸性細胞型)や甲状腺乳頭癌ワルチン腫瘍型のようです。
これらの所見は、慢性甲状腺炎(橋本病)の確定診断になります。
好酸性細胞とリンパ球の比率は、穿刺する場所によって異なります。当然、細胞成分が多い所、リンパ球浸潤が強い所があります。また、線維化の強い所は、細胞成分が少なく、「細胞成分少数」「判定不能」などになります。
橋本病(慢性甲状腺炎)自体の治療
ヨード(ヨウ素)過剰摂取制限:ヨード(ヨウ素)は口から入ると100%吸収され、
- 甲状腺組織の破壊を促進
- 甲状腺ホルモンの合成を抑制(ウォルフチャイコフ効果)
- 無痛性甲状腺炎(痛みを伴わない甲状腺の亜急性破壊)を誘発
- 甲状腺癌の発生率を増加
など、橋本病(慢性甲状腺炎)の甲状腺に悪影響を及ぼします。
詳しくは、ヨード(ヨウ素)と甲状腺 を御覧下さい。
甲状腺機能低下症の治療
甲状腺機能低下症の治療の必要性
甲状腺機能低下症まで進行している場合、血中の甲状腺ホルモンを正常範囲にする治療が必要です。たとえ、体がだるい、寒がりであるなどの自覚症状がなくても、甲状腺ホルモン不足が長期間続くと
- 動脈硬化の進行と、それに伴う心血管障害(狭心症/心筋梗塞、急性大動脈解離・大動脈瘤 )
- 心臓がだめになる代謝性心筋症
- 徐脈性不整脈
が問題になります。
甲状腺ホルモン剤[レボチロキシン(チラーヂンS)]
甲状腺機能低下症の治療は、甲状腺が破壊されて合成できなくなった甲状腺ホルモンの補充です。合成甲状腺ホルモン剤[レボチロキシン(チラーヂンS®、レボサイロキシン®)]を服薬して不足した甲状腺ホルモン[サイロキシン(T4)]を補います。
レボチロキシン(チラーヂンS®、レボサイロキシン®)は、甲状腺を破壊する抗体を減らす薬で無く、甲状腺の炎症自体を抑える薬でもないため、橋本病(慢性甲状腺炎)そのものの治療にはなりません。あくまで、足りない甲状腺ホルモンを補うだけです。最も、甲状腺ホルモンの不足が解消され、甲状腺が無理して甲状腺ホルモンを作る必要が無くなれば、破壊の進行速度は遅くなります。
チラーヂンSの具体的な投与方法は、
高齢者や心臓に病気を持つ人は、少量のチラーヂンS(12.5 ~ 25 μg)から服薬を始め、甲状腺ホルモン値を確認しながら徐々に増量します(最低でも2週間開けて、12.5~25μg ずつ増量)。急劇な甲状腺ホルモンの増加は心臓に負担をかけるからです。長崎甲状腺クリニック(大阪)では、必要があれば定期的に血圧・脈拍あるいは心電図を見ながら慎重にチラーヂンSを増量します。
最終的には、TSHが基準範囲に収まるように投与量を調節します。
チラーヂンSの飲み方は、チラーヂンSの正しい飲み方、チラーヂンSが下痢/食事/薬/サプリ・健康食品で吸収されない?・チラーヂンSの飲み間違いを、副作用はチラーヂンS錠で副作用を御覧ください。
甲状腺ホルモン剤[レボチロキシン(チラーヂンS)]治療の効果
甲状腺ホルモン、TSH(甲状腺刺激ホルモン)値が正常になると、
- 甲状腺機能低下症状が改善します。
- 甲状腺の腫れ(甲状腺腫)がある場合、心持ち小さくなりますが、正常サイズにもどるのは難しい。喉(のど)の圧迫感・違和感は改善します。しかし、甲状腺機能が正常になっても、甲状腺の慢性炎症、破壊された組織、2次的に増殖した線維組織が完全に元に戻らないため、喉(のど)の圧迫感・違和感が消えない場合もあります。
もし、甲状腺機能が正常になっても甲状腺機能低下症状が改善しない場合、内分泌的には甲状腺と似ている・合併している病気、
などを疑わねばなりません。
甲状腺ホルモン剤[レボチロキシン(チラーヂンS)]をいつまで飲むの?
それぞれの患者様に適したチラーヂンS薬の量(維持量)が決まれば、その後は服薬を続けます。
すでに破壊された甲状腺組織が元に戻るわけではないため、チラーヂンSの服用は終生になります。ただし、破壊の程度が軽い場合、ヨード(ヨウ素)過剰摂取を制限すると、生き残った甲状腺濾胞細胞のホルモン産生能力が回復し、チラーヂンSが不要になることがあります。
血圧やコレステロールを治療する薬は、自然界には存在しない、ある意味、異物です。しかし、甲状腺ホルモンは誰の体の中にも自然に存在するものなので、甲状腺ホルモン剤であるチラーヂンSは異物ではありません。足りない分の甲状腺ホルモンを外から補充するだけなのです。
橋本病(慢性甲状腺炎)での生活上の注意は、
- 甲状腺機能に関わらずヨード(ヨウ素)過剰摂取制限を続けてください。
- 甲状腺機能低下症の方は、甲状腺ホルモン剤[レボチロキシン(チラーヂンS)]を飲み忘れない。(食事の一部と割り切って)1日1回必ず飲んでください。特に、重度の甲状腺機能低下症で、2週間以上服薬を中断すると、生命に危険が及ぶな粘液水腫性昏睡にいたることがあります。
- 血液中の甲状腺ホルモン濃度を正常に維持できている限り、その他の制限はなにもありません。ある意味、チラーヂンSさへ飲んでいれば、健康な人と同じと言えます。スポーツや旅行なども制限なくしていただけます。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,浪速区も近く。