甲状腺乳頭癌の特殊型(大濾胞型,のう胞型,好酸性細胞型,ワルチン腫瘍型,結節性筋膜炎様間質,硝子化間質,粘液間質)[長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用) 橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。
甲状腺乳頭癌の特殊型
Summary
甲状腺乳頭癌の亜型、甲状腺乳頭癌大濾胞型、のう胞型甲状腺乳頭癌(のう胞内甲状腺乳頭癌)・多のう胞型甲状腺乳頭癌[感染・出血がないのに、のう胞(嚢胞)が急に増大、ミラーボール状集塊・隔壁性細胞質内空砲]、甲状腺乳頭癌(好酸性細胞型)、甲状腺乳頭癌ワルチン腫瘍型[重度のリンパ球浸潤・IgG4陽性形質細胞を伴う橋本病の合併]、甲状腺乳頭癌扁平上皮化生、甲状腺乳頭癌結節性筋膜炎様間質[細胞採取できる確率低いが硬いので手術適応に]、甲状腺乳頭癌 硝子化間質、粘液間質の超音波エコー画像、細胞診・組織診所見。
Keywords
甲状腺乳頭癌,扁平上皮化生,のう胞型,好酸性細胞型,細胞診,組織診,超音波,エコー,ワルチン腫瘍型,硝子化
甲状腺乳頭癌大濾胞型は、細胞診では腺腫様甲状腺腫のような大型のコロイド塊が見られます。
甲状腺乳頭癌大濾胞型の超音波(エコー)画像;境界一部不明瞭、微細石灰化から濾胞型甲状腺乳頭癌、甲状腺濾胞癌 好酸性細胞型のようです
(Front Endocrinol (Lausanne). 2018 May 8;9:223.)
嚢胞性結節(のう胞性結節)が悪性である確率は1%未満です[Thyroid. 2016 Jan;26(1):1-133.]。
のう胞型甲状腺乳頭癌(のう胞内甲状腺乳頭癌)[cystic papillary thyroid carcinoma:CPTC]は、のう胞(嚢胞)内でカリフラワー状(あるいはキノコ状)に増殖する甲状腺乳頭癌です。のう胞型甲状腺乳頭癌(のう胞内甲状腺乳頭癌)は甲状腺乳頭癌の約5%を占め、良性のう胞腺腫(のう胞型濾胞腺腫)・のう胞型腺腫様結節(嚢胞型腺腫様結節)との鑑別が必要です[Ultrasound Q. 2005 Mar;21(1):39-45.]。
感染・出血もないのに、のう胞(嚢胞)が急に大きくなる場合、のう胞型甲状腺乳頭癌(のう胞内甲状腺乳頭癌)を疑う必要があります。(第56回日本甲状腺学会 P2-100 巨大嚢胞のコントロールに難渋した甲状腺乳頭癌の一例)]
のう胞型甲状腺乳頭癌(のう胞内甲状腺乳頭癌) の細胞診所見は、
- 泡沫状マクロファージ。のう胞型甲状腺乳頭癌(のう胞内甲状腺乳頭癌)に特異的なヘモシデリンを含むマクロファージ(血球貪食細胞)を多数認める。多核巨細胞も
- 中皮様細胞[のう胞型甲状腺乳頭癌(のう胞内甲状腺乳頭癌)に特異的]
- 腫瘍細胞集塊は帆立貝状の滑らかな辺縁(ミラーボール状集塊)で、渦巻き状、車輪状[のう胞型甲状腺乳頭癌(のう胞内甲状腺乳頭癌)に特異的]
- 古典的な乳頭状クラスター
- 密な細胞質、細胞内コロイド、隔壁性細胞質内空胞
- 甲状腺乳頭癌に特徴的なスリガラス状核[Am J Surg Pathol. 1979 Feb;3(1):31-8.]。古典的な核溝、核内細胞質封入体、psammoma小体
- 背景にコロイド物質
(The Bethesda System for Reporting Thyroid Cytopathology)[J Cytol. 2016 Jul-Sep;33(3):120-124.]
のう胞型甲状腺乳頭癌(のう胞内甲状腺乳頭癌:嚢胞型乳頭癌)でなく良性嚢胞腺腫(良性のう胞腺腫)だった
のう胞型甲状腺乳頭癌(のう胞内甲状腺乳頭癌:嚢胞型乳頭癌)でなく良性嚢胞腺腫(良性のう胞腺腫)だった;境界不明瞭、辺縁不整、微細石灰化著明で、のう胞型甲状腺乳頭癌を疑ったが、細胞診の結果は良性だった。
のう胞型甲状腺乳頭癌(のう胞内甲状腺乳頭癌:嚢胞型乳頭癌)でなく良性嚢胞腺腫(良性のう胞腺腫)だった。ドプラーモード
のう胞型甲状腺乳頭癌(のう胞内甲状腺乳頭癌:嚢胞型乳頭癌)でなく良性嚢胞腺腫(良性のう胞腺腫)だった(拡大)
多のう胞型甲状腺乳頭癌(多嚢胞型甲状腺乳頭癌)は、スポンジ状に増殖。腫瘍内のう胞(嚢胞)を区切る隔壁に正常濾胞が存在します。
多のう胞型甲状腺乳頭癌(多嚢胞型甲状腺乳頭癌)の細胞診では、のう胞型甲状腺乳頭癌(のう胞内甲状腺乳頭癌:嚢胞型乳頭癌)と同じく、腫瘍細胞集塊(ミラーボール状集塊)、隔壁性細胞質内空砲を認めます。前項、のう胞型甲状腺乳頭癌(のう胞内甲状腺乳頭癌:嚢胞型乳頭癌)も、よく見ると多のう胞(多嚢胞)性で、多のう胞型甲状腺乳頭癌(多嚢胞型甲状腺乳頭癌)であるとも言えます。
腺腫様甲状腺腫(スポンジ状形態)も、このような多のう胞(多嚢胞)になる事があって鑑別を要します。
良性濾胞腺腫(好酸性細胞型)・甲状腺濾胞癌(好酸性細胞型)と同様、甲状腺乳頭癌にも甲状腺乳頭癌(好酸性細胞型)が存在します(極めてまれな亜型)。
甲状腺乳頭癌(好酸性細胞型)は、好酸性細胞性腫瘍の2.6%、全甲状腺腫瘍の0.5%と報告されています (Cancer 1986: 57: 1154-1163.) 。
甲状腺乳頭癌ワルチン腫瘍型(Warthin-like variant of papillary thyroid carcinoma;WLPTC)は、唾液腺のワルチン腫瘍に似た甲状腺乳頭癌(PTC)の稀な亜型です。通常の甲状腺乳頭癌と比較して、男女比、多発性、甲状腺外浸潤・リンパ節転移の程度に有意な差はありません。しかし、甲状腺乳頭癌ワルチン腫瘍型(WLPTC)は、通常の甲状腺乳頭癌よりも橋本病の合併率が極めて高く(93% vs 36%、P<0.001)、BRAF突然変異の割合が有意に低い(65% vs 84%、P=0.007)ため治療反応性です。
細胞診・病理組織は、好酸性の高細胞、リンパ球浸潤を認める。甲状腺乳頭癌大濾胞型、甲状腺乳頭癌高細胞型(TCV)も高細胞ですが、リンパ球浸潤を伴わない点が甲状腺乳頭癌ワルチン腫瘍型(WLPTC)と異なります。
(Int J Endocrinol. 201が5;2015:456027.)
重度のリンパ球浸潤を伴う橋本病(慢性甲状腺炎)の合併は、ワルチン型甲状腺乳頭癌(WLPTC)とIgG4甲状腺炎(橋本病型IgG4甲状腺炎)の共通する特徴です。報告ではワルチン型甲状腺乳頭癌(WLPTC)の94.1%にIgG4陽性形質細胞が存在するも、血清IgG4>135 mg/dL になる高IgG4血症は皆無でした(Endocr J. 2018 Feb 26;65(2):175-180.) 。
甲状腺乳頭癌内部で壊死(血流悪い部分などが細胞死をおこし溶けてしまう)がおこると、その箇所に扁平上皮が増殖することがあります(扁平上皮化生)。扁平上皮分化(扁平上皮化生)は、甲状腺乳頭がん転移巣でのみ発生する可能性があります[Postepy Dermatol Alergol. 2016 Feb;33(1):52-6.]。
壊死するのは増殖能が高いからでもあり、報告例の扁平上皮化生リンパ節は、周囲の血管等に浸潤する高Ki67型甲状腺乳頭癌だったそうです。(第55回 日本甲状腺学会 P1-05-02 急速に増大した転移リンパ節に扁平上皮化生を認めた甲状腺乳頭癌の一例)[Iran J Pathol. 2018 Spring;13(2):276-280. Epub 2018 Jul 17.]
超音波(エコー)画像では、扁平上皮化生した部分はエコー輝度が高く(白く)見えます)。
細胞診では、扁平上皮細胞とその渦巻き状集塊が見られます。
扁平上皮化生は扁平上皮癌とは異なります。扁平上皮化生から扁平上皮癌への移行は否定し得ないが、可能性低いと考えられています(Cancer, 27: 433-437, 1971.)。
病理組織では、間質の線維化と扁平上皮巣が見られます。(Endocr Pathol. 2005 Winter;16(4):331-48.)
筋膜炎様の間質を伴う甲状腺乳頭癌(papillary thyroid carcinoma with nodular fasciitis-like stroma:PTC-FS) は、極めてまれな甲状腺乳頭癌の特殊型です。
甲状腺乳頭癌結節性筋膜炎様間質(PTC-FS)は、間質の60-80%を線維芽細胞と線維組織が占め、腱膜炎様に見えます。乳頭癌細胞の間質中に島状に散在します。(Am J Clin Pathol 1991 ; 95 : 309-314)
穿刺細胞診で乳頭癌細胞を採取できる確率は低いですが、非常に硬いため、手術適応に成り得ます。
甲状腺乳頭癌 硝子化間質、粘液間質は、間質の違いにより細胞診で採取される付随物が異なります。乳頭癌細胞自体は変わりません。甲状腺乳頭癌 硝子化間質は、甲状腺硝子化索状腺腫と同様、硝子様物質の周囲に腫瘍細胞が集まります。(Rom J Morphol Embryol. 2016;57(2 Suppl):801-809.)
厚い硝子化層に覆われ、穿刺針が貫通できない甲状腺乳頭癌
外側が厚い硝子化層に覆われ、穿刺針が硝子化層を貫通できない甲状腺乳頭癌が報告されています。(細胞診で確定できない特殊な甲状腺微小乳頭癌)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,浪速区も近く。