甲状腺濾胞型乳頭癌[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
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Summary
濾胞型甲状腺乳頭癌(FVPTC)は甲状腺乳頭癌の約30%で超音波エコー所見は甲状腺濾胞性腫瘍(良性濾胞腺腫・甲状腺濾胞癌)と同じ、腺腫様結節類似のことも。細胞診所見は①腺腫様甲状腺腫のようでコロイドが豊富だが細胞自体は甲状腺乳頭癌②現実は核の異常所見に乏しく核内封入体の頻度は少ない、濾胞性腫瘍的特徴を持つため診断率は下がる。最大の悪性所見は腫瘍サイズ増大。濾胞型甲状腺乳頭癌の非浸潤型はNon-invasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features (NIFTP)。
Keywords
濾胞型甲状腺乳頭癌,FVPTC,甲状腺乳頭癌,超音波,エコー,細胞診,Non-invasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features,NIFTP,濾胞癌,濾胞性腫瘍
濾胞型甲状腺乳頭癌(FVPTC:follicular variant of papillary thyroid cancer)は甲状腺乳頭癌の約30%(日本)、17%(米国)を占めるとされます。
濾胞型甲状腺乳頭癌(FVPTC)の超音波(エコー)検査所見は甲状腺濾胞性腫瘍(良性濾胞腺腫・甲状腺濾胞癌)そのもの。とても甲状腺乳頭癌には見えません(Clin Endocrinol (Oxf) 2007;66:13–20.)。(エコー画像;Ultrasonography. 2017 Apr 36(2) 103–110.)
しかし、濾胞型甲状腺乳頭癌(FVPTC)は
- 良性濾胞腺腫では少ない石灰化を認める(甲状腺濾胞癌も石灰化あり)が、その確率は13.3%に過ぎない
- 低エコー(60.2%);これでは甲状腺濾胞癌と鑑別できない
(J Korean Med Sci. 2016 Mar; 31(3): 397–402.)
- 長崎甲状腺クリニック(大阪)装備のエラストグラフィーでは、癌特有の硬さなら青く染まりますが、染まらない場合もあるので要注意(広範浸潤型甲状腺濾胞癌も青くなる)。
上記も濾胞型乳頭癌(FVPTC)ですが、エコー上、腺腫様結節に類似します。腫瘍の周囲は滲み出たように低エコーで、癌細胞の浸潤が疑われます。(J Korean Med Sci. 2016 Mar; 31(3): 397–402.) P1-05-04 甲状腺乳頭癌の特殊型である濾胞型乳頭癌手術症例の臨床的検討)
濾胞型乳頭癌(FVPTC)の典型的な細胞診所見は、「腺腫様甲状腺腫のようにコロイドが豊富だが細胞自体は甲状腺乳頭癌」です。しかし、現実は、
- 核の異常所見に乏しい
- 通常型甲状腺乳頭癌と比べると核内封入体の出現頻度が少ない
- 濾胞性腫瘍的な特徴を併せ持つ
ため、診断率は下がります。(Am J Clin Pathol. 1999 Feb; 111(2):216-22.)(第55回 日本甲状腺学会 P1-05-04 甲状腺乳頭癌の特殊型である濾胞型乳頭癌手術症例の臨床的検討)
結局のところ、濾胞型乳頭癌(FVPTC)を診断する決め手に欠きますが、悪性を確信する最大の所見は腫瘍サイズの増大です。異常な速度で増大すれば、癌と考えざる得ません。
最近の遺伝子パネル検査を用いて、BRAF変異陽性を確認できれば濾胞型乳頭癌(FVPTC)の診断が付きます(BRAF遺伝子変異で甲状腺乳頭癌を診断する試み)。
濾胞型甲状腺乳頭癌(FVPTC)は転移・浸潤などにより、予後は通常型乳頭癌より不良とする報告、ほぼ同様とする報告いずれもあります。1cmを超える濾胞型甲状腺乳頭癌(FVPTC)は、通常型乳頭癌と甲状腺濾胞癌の中間ともされます(Thyroid. 2013 Oct;23(10):1263-8.)。
濾胞型甲状腺乳頭癌(FVPTC)で超音波(エコー)上、D/W比が大きい、低エコー、辺縁に浸潤を疑う場合は予後が悪いです(Thyroid. 2014 Apr; 24(4):683-8.)
Non-invasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features (NIFTP);どうでもよい(いや、あほらしい)話です
予想通り、Non-invasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features (NIFTP)と診断されながらも骨転移を来した報告が出始めています[BMC Endocr Disord. 2021 Nov 4;21(1):221.]。
2017年WHO腫瘍分類で濾胞型甲状腺乳頭癌の非浸潤型は、Non-invasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features (NIFTP;乳頭癌様核の特徴を有する非浸潤性濾胞性甲状腺新生物)と命名され、前癌的病変・境界病変に位置付けられました。[J Am Soc Cytopathol. 2017 Sep-Oct;6(5):211-216.]
その理由は非常に不可解で、「外科切除のみ行われた非浸潤型の濾胞型甲状腺乳頭癌109人を平均14年経過観察しても再発転移、腫瘍死がない[Endocr Pathol. 2020 Jun;31(2):143-149.]」、「外科切除のみで治癒し、術後のI-131 アイソトープ治療せずとも再発しない」からとの事です。
- 不可解①;「外科切除のみで再発しなければ癌ではない」と言う考え自体がおかしい。外科切除せずに約14年間放置しても浸潤・転移しなけりゃ「癌ではない」と言っても良いだろうが・・。
- 不可解②;14年しか経過観察していないのに「再発しない」と言い切れるのか?通常型乳頭癌では14年後の再発は稀ではない(甲状腺乳頭癌再発)。
- 不可解③;「甲状腺切除で治癒する」は、裏を返せば、「手術しないと治らない、経過観察で済ましてはいけない」と同じ事です。
- 不可解④;そもそも前癌病変なんて存在するのか?ただ単に、局所浸潤、リンパ節転移、肺・骨に遠隔転移する前の濾胞型甲状腺乳頭癌を前癌病変と言ってるだけじゃないの?だって、「外科切除のみ」は周囲のリンパ節郭清も含まれるんでしょ?
- 不可解⑤;百歩譲ってNIFTPが存在するとして、局所浸潤、リンパ節転移、肺・骨に遠隔転移する前の濾胞型甲状腺乳頭癌と鑑別できません。臨床の現場で役に立たない分類に一体何の意味があるのか?
(a)Non-invasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features (NIFTP) 超音波(エコー)画像;見かけは濾胞型甲状腺乳頭癌、甲状腺濾胞癌、腺腫様結節と鑑別できまない
(b)細胞診所見;濾胞型甲状腺乳頭癌と鑑別できない
(c)組織所見;被膜を有し、濾胞構造。浸潤所見は無いが、手術標本でしか分からない
(d)組織所見;濾胞型甲状腺乳頭癌と鑑別できない
[Endocr Pathol. 2019 Jun;30(2):155-162.]
Non-invasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features (NIFTP)の超音波(エコー)所見は、
- 被膜が存在(被膜のない場合もある)
- 充実性、等エコーが多い
- 砂粒状石灰化を認めない
で、濾胞型甲状腺乳頭癌、濾胞性腫瘍(良性濾胞腺腫 、甲状腺濾胞癌)と超音波(エコー)所見にて鑑別できません。砂粒状石灰化のない濾胞型甲状腺乳頭癌なんて普通に存在します。NIFTPの60.1%は悪性を疑う所見が無いとされます[Endocrine. 2021 Jul;73(1):131-140.]。
細胞診は当然、濾胞型甲状腺乳頭癌で
- コロイドに乏しい腫瘍性背景
- 不完全な乳頭癌の核異型(核の増大、不整、クロマチンの異常)
- 構造異型(核間距離の不整、不規則重責性、結合性の低下、小濾胞構造)
細胞診で良悪性が診断される場合は少なく、クラス3、鑑別困難、atypical cell clusterの診断が多い(49.7%)とされます[Endocrine. 2021 Jul;73(1):131-140.]。病理の専門家でない筆者からすると、不完全な乳頭癌の核異型があれば「限りなく黒に近いグレー」で、NIFTPも浸潤型の濾胞型甲状腺乳頭癌も細胞診所見は同じのため手術するしかありません。濾胞型甲状腺乳頭癌と診断してくれないと困ります。
大爆笑するのが、2017年第4版WHO甲状腺腫瘍分類、NIFTPの章で提案された「濾胞形成性腫瘍の診断アルゴリズム」です。「被膜形成する濾胞形成性腫瘍は乳頭構造がなく、充実増生は30%以下」が第一条件ですが、こんなもの手術標本でしか分からない、つまり手術後にしか診断できない事になります。(臨床医は手術すべき甲状腺腫瘍かどうかで迷うんです。)
結局、NIFTPなんて顕微鏡で見えるものしか見えない病理屋さんが作り出した虚構、臨床の現場を混乱させるだけの迷惑な命名に過ぎないと思います。新型コロナウイルス問題で無能をさらけ出したWHOらしいと言えば、そこまでですがね。
更に混乱を招くのが、 NIFTPは「乳頭癌類似の核所見を示すRAS腫瘍である」と言う説です。、RASは甲状腺濾胞癌・濾胞癌の前癌病変に多い遺伝子変異ですが、乳頭癌にも10-20%認められます(甲状腺癌の遺伝子変異)。NIFTPと診断された患者の4%に甲状腺乳頭癌のBRAF変異を認め、やはり濾胞型甲状腺乳頭癌を誤診している事実が証明されています[Endocr Pathol. 2020 Jun;31(2):143-149. ]。
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