甲状腺乳頭癌の治療(外科手術)[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用) 橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は内科系甲状腺専門医なので、甲状腺乳頭癌治療(外科手術)を行っておりません。
甲状腺乳頭癌(外科手術)
甲状腺乳頭癌の治療(外科手術)(本ページ)
Summary
甲状腺乳頭癌(甲状腺微小乳頭癌以外)の治療は限局性以外なら、甲状腺全摘出、周囲のリンパ節廓清(外側区域リンパ節郭清は、術前検査で転移がある、3cm以上、またはEx2の場合)。さらに、遠隔転移、4cm以上の腫瘤、pEX2(著明な甲状腺外浸潤)の場合、I-131 アイソトープ治療、無効なら分子標的薬。限局性のものは甲状腺片葉切除(甲状腺の半分だけ切除)、予防的リンパ節郭清[甲状腺切除と同じ皮膚切開・術野で郭清可能な中央区域(喉頭、気管、甲状腺周囲)リンパ節]。局所浸潤(甲状腺周囲の組織に癌細胞が広がる)した組織(反回神経・上喉頭神経・気管・食道切除・再建)。
Keywords
甲状腺乳頭癌,治療,甲状腺全摘出,リンパ節廓清,外側区域リンパ節,甲状腺葉切除,予防的リンパ節郭清,外科,手術,甲状腺
「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2019」において、高リスク乳頭癌は文句なしに甲状腺甲状腺全摘出の適応。
中リスク乳頭癌(T1-3N1a-bM0)については、甲状腺片葉切除と甲状腺全摘手術+放射性ヨウ素内用療法のいずれがで再発抑制に優れているか結論は出ていません(J Clin Endocrinol Metab. 2015 May;100(5):1748-61.)。
隈病院・大阪市立大学附属病院 内分泌外科も中リスク乳頭癌は甲状腺全摘手術。次項の甲状腺片葉切除に記載した通り、筆者は甲状腺全摘手術を推奨します。
周囲のリンパ節廓清も行います。その範囲は、
- 甲状腺切除と同じ皮膚切開・術野で郭清可能な中央区域(前頚部;喉頭、気管、甲状腺周囲)リンパ節]
- 甲状腺切除と術野が異なる外側区域リンパ節郭清は、術前検査で転移が認められる場合にのみ行うことが、国際的なコンセンサスとなっています。
さらに、
- 遠隔転移のある場合
- 4cm以上の腫瘤
- pEX2(著明な甲状腺外浸潤);pEx 2a(気管外膜及び気管軟骨、反回神経、食道筋層、輪状甲状筋、下咽頭収縮筋まで及ぶ)
pEx 2b(皮下脂肪組織、気管粘膜、食道粘膜、内頚静脈、腕頭静脈、喉頭、咽頭内、胸鎖乳突筋まで及ぶ)
pEx 3(椎骨前筋群の筋膜、縦隔の大血管、頸動脈まで及ぶ)
の場合、I-131 アイソトープ治療(I-131 内照射:甲状腺癌にI-131 を取り込ませ、内側から甲状腺癌を破壊)を追加。
分子標的薬:遠隔転移等、手術で採り切れず、かつI-131 を取り込まない・効かない場合(「放射線治療無効な甲状腺癌」にネクサバール・レンビマ)
甲状腺全摘出の利点
甲状腺全摘出の利点は、甲状腺片葉切除と比べ、
- 癌組織が残っていないか確かめる目的で、rhTSHを用いたI-131 シンチグラフィーが行える。続けて、甲状腺を剥がした後の遺残組織(甲状腺床)を完全に壊し、かつ再発予防を目的としたI-131 アジュバント治療、その後はrhTSHは使えないがI-131 アブレーション治療が行える。
- 血清サイログロブリン値、もしくは代理的腫瘍マーカーとして抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)そのものが、再発を予測する腫瘍マーカーになる。必要なら放射性ヨウ素シンチや内用療法を直ちに行うことができます。
(甲状腺癌全摘出後の再発予測/再発診断)
欠点は、
- 術後、必ず甲状腺ホルモン補充療法が必要になる。ただし、その方が術後の再発予防のガイドラインがあるため、管理し易い。(甲状腺癌全摘出後の再発予測/再発診断)
- 副甲状腺の合併切除による副甲状腺機能低下症や、反回神経損傷・合併切除による反回神経麻痺のリスクが増加(甲状腺手術合併症①、甲状腺手術合併症②)
最近では、遠隔転移がない場合(M0)、甲状腺片葉切除の方が良いとの論文が約半数を占めますが(第62回 日本甲状腺学会 専門医教育セミナーⅠ)、
- 残した甲状腺に、既に細胞レベルの腺内転移が起きていて、その後増大してくる危険性
- 残した甲状腺に新たな発癌が起こる危険性
- 甲状腺が残っているとI-131 アブレーション・アジュバント・治療を行えない
- 血清サイログロブリン値もしくは抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)を再発予測の腫瘍マーカーとして使えない()
などの問題があり筆者は反対です。
筆者の説を証明する論文が出されています。甲状腺分化癌(乳頭癌、濾胞癌)でpT1a(甲状腺に限局し、最大径が1cm以下の腫瘍)、pT1b(甲状腺に限局し、最大径が1cmを越え2cm以下の腫瘍)、pT2(甲状腺に限局し、最大径が2cmを越え4cm以下の腫瘍)であっても再発します。腺内転移と考えるのが普通でしょう。(Br J Surg. 2005 Feb;92(2):184-9.)
甲状腺乳頭癌がもっとも再発しやすいのは頸部リンパ節なので、予防的なリンパ節郭清が必要です。
- 甲状腺周辺の前頚部、中央区域リンパ節郭清は、甲状腺腫瘍診療ガイドラインでも推奨されています。前頚部、中央区域リンパ節郭清を行わなくて、その場所に再発した場合、一度目の手術による癒着で再手術は困難。反回神経損傷の危険性が高くなります。
- 外側の外側区域リンパ節郭清には、かなり外側まで皮膚切開が必要で、相当時間がかかります。術創が拡大した分、術後の痛みも強くなります。また、合併症として、内頸静脈・迷走神経損傷(1%<)、Horner(ホルネル)症候群、乳糜漏(にゅうびろう)(1%<)、副神経麻痺(胸鎖乳突筋)が起こる可能性があります。
よって、それらのリスクを冒してまで予防的外側区域リンパ節郭清を行うのは、どの様な症例でしょうか?隈病院外科によると、
①甲状腺乳頭癌の大きさが
3cmを超えると術後10年のリンパ節再発率13%
3cm未満は2%
②Ex2(浸潤が被膜を越えEx1以外の組織、臓器におよぶ)の術後10年リンパ節再発率14%
Ex0(浸潤が被膜を越えない)あるいはEx1(浸潤が被膜を越えるが、胸骨甲状筋か脂肪組織に留まる)は5%
※Ex1a(周囲の脂肪組織に及ぶ)、Ex 1b(前頸筋群、副甲状腺に及ぶ)
なので、3cm以上、またはEx2が予防的外側区域リンパ節郭清の適応になります。(日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 Vol. 29 (2012) No. 2 p. 123-125)
※外側区域リンパ節まで転移していれば、予防的でなく、治療的リンパ節郭清になります。
(表;バーチャル臨床甲状腺カレッジより)
甲状腺乳頭癌が所属リンパ節を超えて転移している場合、根治手術は所属リンパ節に加えて転移リンパ節郭清になります。
- N1a;レベルⅥ、または上縦隔リンパ節への転移
- N1b;その他の同側頸部リンパ節、両側もしくは対側の頸部リンパ節または咽頭後リンパ節への転移
癌細胞が局所浸潤(甲状腺周囲の組織に癌細胞が広がっていく)した組織も合併切除(拡大手術)します。
- 反回神経切除。対側の声帯機能が保たれているのが必要条件で、可能なら反回神経再建術を行う
①残った正常部分の断端をつなぎ合わせる(直接吻合)
②遊離神経移植
③頸神経ワナ・反回神経吻合
[つなげれば一時的に嗄声(かすれ声)になっても、発声練習で声帯の萎縮が回復。発声時の緊張が回復するので、音声はほぼ改善。しかし、声帯の動き自体は回復しないので、加齢により誤嚥性肺炎・びまん性誤嚥性細気管支炎 を起こし易くなります]
合併症は反回神経麻痺
[Front Endocrinol (Lausanne). 2022 Jun 9;13:884866.][J Clin Med. 2023 Feb 3;12(3):1212.]
内科系甲状腺専門医の筆者に外科の細かい事は分かりませんが、顕微鏡手術(いわゆるマイクロサージェリー)でスーパードクターKの様に緻密な吻合をするんでしょうね。
- 上喉頭神経切除;合併症は上喉頭神経麻痺
- 気管切除・再建(下記)
- 食道切除・再建
- 皮膚切除・皮弁で再建
気管切除・再建
甲状腺癌の末期像の1つで、かつ主要な死亡原因は、癌による気道閉塞につき、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)の気管浸潤は、遠隔転移があっても気道閉塞を避けるため癌切除します。
手術術式は3次元CT画像、施設によっては気管支鏡検査による腫瘍浸潤範囲によって決定します。
具体的には、
- 軽度の浸潤、浸潤の深さが気管外膜に留まる場合は気管切除しない。気管の内腔を開かず、浸潤部の気管壁をメスで削り取る気管表面切除(気管シェービング:shaving)。95%で局所的なコントロールが達成された報告があります。(Acta Otolaryngol. 2009 Dec;129(12):1498-502.)
- 気管内腔(粘膜)への癌の露出・浸潤があれば、気管壁の全層切除[窓状切除と管状(環状)切除(スリーブ切除)]。
①気管の浸潤部をコイン状に部分切除→気管周囲が喀痰で汚染されるのを防ぐため、気管皮膚瘻を作成→後日閉鎖。最大の利点は気道確保が確実で、術後前屈位固定も必要ない。
気管切除範囲が1/2周を超える広範囲の切除は、管腔支持性が低下し、気管皮膚瘻の閉鎖が困難に。また、気管背側(膜様部)の切除に向かない。
②気管管状(環状)切除(スリーブ切除)および端々吻合は、浸潤部を含む気管の全周切除で根治性、QOL、整容性に優れる。
約26%に術後合併症;両側性再発性喉頭神経麻痺、気管狭窄、食道瘻、縫合不全
最大の問題は、致命的な合併症の縫合不全で、手術関連死になる。吻合部感染と過緊張が原因で、気管切開を契機に発生。
甲状腺癌による反回神経麻痺+気管管状(環状)切除に伴う健側の一過性反回神経麻痺→気道確保は気管切開→縫合不全(Open Access Maced J Med Sci. 2018 Nov 23;6(11):2161-2164.)(Eur J Surg Oncol. 2014 Feb;40(2):176-81.)
吻合部過緊張を避けるため、頸部前屈位固定1週間、気管挿管してレスピレーター管理→肺炎・無気肺
- 鹿児島大学では、シリコン気管ステントと鎖骨骨頭皮質骨(曲がり具合が気管にマッチするとのこと)で再建しています。(第58回 日本甲状腺学会 P2-5-5 鎖骨骨頭皮質骨およびシリコン気管ステントを用いた気管合併切除部の一期的再建術)
- 術後再発した気管浸潤にはNd:YAGレーザーやマイクロ波を用いた焼灼(内視鏡的気管内腫瘍焼灼)も行われている(Acta Otolaryngol. 2008 Jul;128(7):799-807.)。
高度進行甲状腺癌の気管内腔浸潤により、気道狭窄が生じて挿管不可能な場合どうするか?
- 経皮的心肺補助法(PCPS;人工心肺)下に内視鏡的気管内腫瘍焼灼をおこない、気道を開大させた後、日を改めて、甲状腺全摘術を施行。気管閉塞率90%、狭窄長3.5cm。(第66回 日本甲状腺学会 P23-8 気道狭窄を伴う気管浸潤甲状腺癌に対し、経皮的心肺補助装置下に内視鏡的腫瘍焼灼後、甲状腺全摘術を施行した1例)
- 経皮的心肺補助法(PCPS;人工心肺)下で安全に挿管した後、全身麻酔手術。[Kyobu Geka. 2008 May;61(5):388-91.]
- 経皮的心肺補助法(PCPS;人工心肺)下に術野から離れた場所を気管切開し、気道確保した後、全身麻酔手術。(頭頸部外科 2010;20(1):75-79)
- ECMO(体外式膜型人工肺)補助下に術野から離れた場所を気管切開し、気道確保した後、全身麻酔手術。(耳鼻咽喉科臨床 2016;109(3):195-201)(麻酔 2013;62(1):78-82.)
甲状腺癌の浸潤範囲が広いため気管切除や再建不能な甲状腺癌の気管内腔浸潤に対して内視鏡的腫瘍焼灼術が行われる場合があります。有意な外因性(気管外からの)喉頭気管圧迫を伴わない気管内腔病変の局所制御が目的。
この方法なら前項のごとく、経皮的心肺補助法(PCPS;人工心肺)やECMO(体外式膜型人工肺)補助下に人工呼吸器なしで行えます。その際の内視鏡は硬性鏡で、Nd:YAGレーザー、電気凝固術、マイクロ波凝固術を使用します。
重篤(重症)な合併症は治療後声門上狭窄症なので、予防的ミニ気管切開術が併用される場合があります。
無事に気道閉塞・狭窄が解除されれば、甲状腺全摘術・ 甲状腺癌 I-131 放射線治療・分子標的薬[ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)]いずれも可能になります。
[Acta Otolaryngol. 2008 Jul;128(7):799-807.]
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。