甲状腺乳頭癌・頻度・細胞診・症状・鑑別・再発[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用) 橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は内科系甲状腺専門医なので、甲状腺乳頭癌治療を行っておりません。
Summary
甲状腺乳頭癌は甲状腺癌の90%以上を占め頚動脈超音波(エコー)、肺CTなどで偶然発見される件数が増加。甲状腺乳頭癌の細胞診の診断率は1回目80%、2-5回目90%につき2回以上、あるいは一度に2か所穿刺が必要。乳頭状の不規則な配列、細胞重積、核密度高い、核径増大や核形不整、大小不同、コーヒー豆様の核溝や核内細胞質封入体、すりガラス状核が特異的。症状は無症状が多く、頚部腫瘤、頚部痛、局所浸潤し反回神経麻痺など、肺骨脳に遠隔転移。腺腫様甲状腺腫などと鑑別。甲状腺乳頭癌の術後頚部再発は10年で約10%。再発の最長期間は術後43年。
Keywords
甲状腺乳頭癌,診断率,細胞診,核内細胞質封入体,症状,治療,再発,すりガラス状核,鑑別,甲状腺
甲状腺乳頭癌の90%は細胞診で診断可能とされますが、実際、1回目の細胞診では80%程度、2-5回目で90%になります(自験例、他施設の報告を見てもそんなものです)。つまり、2回以上、あるいは一度に2か所を細胞診しなければ診断率が10%低くなります。[Endocrinol Metab Clin North Am. 2017 Sep;46(3):691-711.][Cancer. 2009 Jun 25;117(3):195-202.][Cancer Cytopathol. 2011 Feb 25;119(1):68-73.](第55回 日本甲状腺学会 O-01-03 甲状腺穿刺吸引細胞診における癌の検出率および検査頻度の有効性の検討)
甲状腺乳頭癌は壊死組織を含んでおり、そこを採ってもクラス3か、検体不適正[細胞成分少数・過少、判定不能(細胞は採れない)、血液細胞のみ]にしかなりません[不適正検体]。
(以下の細胞診所見は、医療関係者以外の方は無視してください。写真のみご覧になり、「こんなものか」と思っていただければ十分です。)
甲状腺乳頭癌は
- 乳頭状の不規則な配列
- 細胞重積
- 核の密度が高く、核径増大や核形不整、核の大小不同
- コーヒー豆様の核溝や核内細胞質封入体(下記);出現頻度が高く、有力な判定基準の1つ
クロマチンは微細顆粒状で明るいすりガラス状の核(これだけで甲状腺乳頭癌と診断できます)
- 背景には多核組織球が見られることが多い(亜急性甲状腺炎でも、お馴染みの多核組織球ですが、典型的な甲状腺乳頭癌細胞が見つからない時、参考になります)
(写真;バーチャル臨床甲状腺カレッジより)
核内細胞質封入体
核内細胞質封入体は、細胞質が核内に陥入したもので、
-
甲状腺乳頭癌の82.7%
-
良性甲状腺結節(良性濾胞腺腫、腺腫様甲状腺腫)の0.2%(500検体に1人)
に認められます(J. Jpn. Soc. Clin. Cytol. 32(6): 833-839, Nov., 1993)。
細胞診で陽性と診断されず偽陰性になる甲状腺乳頭癌は10.5%存在し、
などです[J Egypt Natl Canc Inst. 2015 Sep;27(3):147-53.]。
たとえ、通常型甲状腺乳頭癌と言えども1~2回の細胞診では診断できずに(せいぜいクラス3)、4回目の細胞診(8回目の穿刺)で確定する場合もあります。下の写真はその典型例で、エコー所見が疑わしく、かつ増大傾向であったため、粘り強く穿刺細胞診を続けた結果、ついに確定できました。
4回目の細胞診(8回目の穿刺)で確定した甲状腺乳頭癌;形態的には2連甲状腺乳頭癌
甲状腺乳頭癌は無症状が多くエコー・CT・MRIで偶然発見。症状は①頚部腫瘤;硬く表面凹凸可動性悪い②頚部痛;内部で出血・壊死・被膜浸潤・急激に大きくなる時③局所浸潤;反回神経麻痺[声かすれ(嗄声)・誤嚥]、上喉頭神経麻痺(高い声が出ない)、気管浸潤でせき・血痰・喀血・窒息、食道浸潤・食道狭窄は嘔吐・飲み込めない、皮膚浸潤で皮膚発赤、胸管浸潤[乳び胸水(乳び漏)]④遠隔転移(約5%)症状;肺転移のせき・血痰・喀血・反回神経麻痺・呼吸困難、骨転移:骨痛・骨折、脳転移:脳神経症状・けいれん。
甲状腺乳頭癌,無症状,偶然発見,症状,頚部腫瘤,頚部痛,せき,血痰,窒息,局所浸潤
甲状腺乳頭癌は無症状が多く、超音波エコー検査(甲状腺エコー・頚動脈エコー)、肺CT、頸椎MRI、全身PETなどで偶然発見される件数が増えています。
症状がある場合、
首を触ると硬く、表面凹凸、可動性が悪い腫瘤を触れます(福島原発事故後、甲状腺癌への関心が高まり、患者さんが自分で首を触り見つける場合があります)。あるいは、集団検診、人間ドックなどで検診医が首の腫瘤に気付く場合があります。
甲状腺乳頭癌の内部で急に出血・壊死(組織の崩壊)がおきて痛みを生じることがある。広範囲の壊死においては、急激な腫瘍の増大、血液検査での炎症反応を認め、甲状腺未分化癌と鑑別しにくいことがあります。(第58回 日本甲状腺学会 P2-5-2 急速な増大を呈し、梗塞を伴った甲状腺乳頭癌の1例)
甲状腺乳頭癌 高MIB-1標識率でおきる可能性が高い。
甲状腺乳頭癌が、甲状腺被膜に浸潤して急激に大きくなる時にも痛みが生じる場合があります。
また、甲状腺乳頭癌が頸椎転移した際にも前頸部痛が生じます。[Cureus. 2023 May 20;15(5):e39276.]
甲状腺乳頭癌の局所浸潤(甲状腺周囲の組織に癌細胞が広がっていく)による症状として、
- 反回神経麻痺:声のかすれ(嗄声)・誤嚥(誤嚥性肺炎・びまん性誤嚥性細気管支炎)
- 上喉頭神経麻痺:高い声が出ない
- 気管浸潤:せき・血痰・喀血・窒息(下記)
- 食道浸潤・食道狭窄:嘔吐・飲み込めない(食物通過障害)。反回神経麻痺もあると、食物が喉(のど)に詰まり、吐き出す事も飲み込むことも出来ず、救急搬送されて内視鏡摘出になる
- 皮膚浸潤:皮膚の発赤。転移リンパ節からも皮膚浸潤をおこし、結核性リンパ節炎との鑑別要。
- 胸管浸潤[乳び胸水(乳び漏)]
甲状腺乳頭癌の遠隔転移は約5%に認められます(臨外 2002;57:48-54.) 。
- 肺転移:せき・血痰・喀血・反回神経麻痺・呼吸困難(甲状腺癌の肺転移、胸膜播種、乳び胸水)
- 骨転移:骨痛・骨折(甲状腺癌骨転移)
- 脳転移:甲状腺乳頭癌の約1%と稀。転移性脳腫瘍となり、脳神経症状・けいれん。脳転移は予後に大きく影響します。(甲状腺癌の脳転移 )
甲状腺乳頭癌は、超音波(エコー)検査であらゆる甲状腺腫瘍と同じに見えます[甲状腺乳頭癌の超音波(エコー)検査]。鑑別方法の王道は穿刺細胞診ですが、
- 検体不適正率の関係で、1回目の診断率は、2回目に比べ10%程低くなります[穿刺細胞診の気を付ける点(医療従事者用)]。甲状腺乳頭癌内部には壊死した所があり、採取しても細胞が採れない事が検体不適正率を上げる大きな原因です。
- 2回穿刺しても診断不能な甲状腺乳頭癌が約10%存在します。[Cancer. 2009 Jun 25;117(3):195-202.][Cancer Cytopathol. 2011 Feb 25;119(1):68-73.][Endocrinol Metab Clin North Am. 2017 Sep;46(3):691-711.]
腺腫様甲状腺腫も、内部に壊死部分を含んでおり、検体不適正になる事があります。甲状腺未分化癌・甲状腺低分化癌は、壊死組織が、甲状腺乳頭癌よりも多く注意が必要。
甲状腺結核は非常に稀で、超音波(エコー)上は甲状腺乳頭癌によく似ています。有名な乾酪壊死組織をいくら穿刺細胞診しても検体不適正になります。 (詳しくは、甲状腺結核 を御覧ください)
手術も、I-131 アイソトープ治療も、分子標的薬もできない超高齢者甲状腺乳頭癌の肺転移・骨転移はどうするのでしょうか?一般的に、甲状腺乳頭癌は放射線外照射(体の外から放射線を当てること)に抵抗性があるとされますが、甲状腺乳頭癌の肺転移・骨転移に効果があった症例も報告されています。(第58回 日本甲状腺学会 P2-5-1 初診時に気管癌が疑われ、放射線外照射が奏功した超高齢者甲状腺乳頭癌の1例)
甲状腺乳頭癌の術後頚部再発は、術後10年で約10%、その後、経時的に増加するとされます。再手術になった場合、すでに癒着・瘢痕化しているため、周囲の重要組織(神経など)を傷つける危険があります。
報告されている術後頚部再発・肺転移の最長期間は、
- 日本で術後42年(第55回 日本甲状腺学会 P1-05-06 初回術後42年目に再発した甲状腺乳頭癌の1例)
- アメリカで術後43年[Thyroid Res. 2017 Oct 10;10:8.]
です。
詳細は、甲状腺全摘出後の甲状腺癌再発の診断 を御覧ください。
甲状腺半葉切除後の再発もほぼ同じですが、正常の甲状腺組織が残存していると
- 再発マーカーとなる血中サイログロブリン値 あるいは 抗サイログロブリン抗体(Tg-Ab) が役に立たない[J Clin Endocrinol Metab. 2020 Jun 1;105(6):dgaa152.]
- I-131 シンチグラフィー を使用できない
などの難点があります。
メイヨークリニックの報告によると、最初の手術で完全に切除された限局性甲状腺乳頭癌の
- 累積再発率は、術後5年で8%、10年で11%、40年で13%
- 再発の80%以上は最初の10年間に発生
[World J Surg. 2002 Aug;26(8):879-85.]
隈病院のデータによると、初回手術時に遠隔転移を認めなかった甲状腺乳頭癌患者を平均129カ月(10.8年)経過観察した結果、
- リンパ節転移再発(7%)
- 肺転移再発(2%)
- 骨転移再発(0.6%)
- 癌死(1%)
リンパ節転移再発の予測因子は
- 腫瘍の大きさ(T>2cm)
- 甲状腺外への進展(Ex)
- 55歳以上
- 男性
- 臨床的リンパ節転移(N)
肺転移再発の予測因子は
- 腫瘍の大きさ(T>2cm)
- 甲状腺外への進展(Ex)
- 55歳以上
- 臨床的リンパ節転移(N)
骨転移再発の予測因子は
- 腫瘍の大きさ(T>4cm)
- 甲状腺外への進展(Ex)
- 臨床的リンパ節転移(N)
全ての再発において、臨床的リンパ節転移 N ≥ 3 cm が最も強い再発予測因子。
癌死の予測因子は
- 55歳以上;最も強い
- リンパ節外進展(LN-Ex);再発予測因子にはならない
- 臨床的リンパ節転移 N ≥ 3 cm
- 腫瘍の大きさ(T>2cm)
- 甲状腺外への進展(Ex)
とされます。[World J Surg. 2012 Jun;36(6):1274-8.]
甲状腺乳頭癌予後
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。