甲状腺/糖尿病と免疫不全・細菌、日和見感染②バンコマイシン耐性腸球菌,インフルエンザ桿菌,ヘリコバクターシネジー[長崎甲状腺クリニック 大阪]
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックに特化するため、糖尿病内科を廃止しました。
また、長崎甲状腺クリニック(大阪)では、感染症の診療を行っておりません。
糖尿病:専門の検査治療[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺専門・内分泌代謝・動脈硬化の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など) 糖尿病編 をクリックください
Summary
甲状腺機能低下症と糖尿病は免疫不全で日和見感染や感染症の重症化がおこる。バンコマイシン耐性腸球菌、市中感染型MRSA、モラクセラ・カタラーリス(ブランハメラ・カタラーリス)、コリネバクテリウム・ウレアリティクムを解説。モラクセラ・ノンリクエファシエンス、インフルエンザ桿菌、ガス産生菌の気腫性胆嚢炎で急性化膿性甲状腺炎。ヘリコバクターシネジーで甲状腺膿瘍。化膿性脊椎炎は甲状腺癌脊椎転移と鑑別要。唾液微生物叢のアシネトバクター属は甲状腺がんと甲状腺結節に関与の可能性。ねこひっかき病で自己免疫性甲状腺炎(無痛性甲状腺炎)。急性Q熱で亜急性甲状腺炎。
Keywords
甲状腺,糖尿病,バンコマイシン耐性腸球菌,市中感染型MRSA,モラクセラ,コリネバクテリウム,インフルエンザ桿菌,急性化膿性甲状腺炎,ヘリコバクターシネジー,ねこひっかき病
甲状腺と糖尿病
1型、2型糖尿病問わず甲状腺疾患の合併が多いとされます。詳しくは 甲状腺と糖尿病 を御覧下さい
甲状腺機能低下症と免疫力低下には、いろいろな意見があります。甲状腺ホルモンの低下そのものが、免疫系統に直接影響する証拠はありません。[ただし、最近の基礎医学研究では甲状腺ホルモンそのものが免疫細胞に直接影響する結果が大半を占めます(甲状腺と自然免疫 )。
甲状腺機能が低下した状態では、全身の新陳代謝低下と、低体温による2次的な免疫不全が存在します。
例え、甲状腺機能低下症の方でも、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)で血中甲状腺ホルモン濃度を正常範囲にコントロールすれば、正常な人と同じ免疫力になります。
しかしながら、甲状腺機能低下症が見逃されたり、甲状腺機能低下症と診断されても患者自身が治療を放棄、あるいは甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)補充を開始して間がなく、血中甲状腺ホルモン濃度が正常範囲に到達していない状態では免疫不全の状態です。(第58回 日本甲状腺学会 P2-10-6 急速に進行した甲状腺機能低下症にRamsay Hunt症候群を認めた83歳女性の一例)
糖尿病の高血糖下では免疫細胞の働きが妨げられ、免疫不全状態にあります。感染症を起こしやすくなり、通常なら感染しないような弱毒菌に感染する日和見感染をおこします。また、体内で発生した癌細胞を駆除できず、癌が進行します、
急性化膿性甲状腺炎
一般的にバンコマイシンなど細菌の外側の層を標的とする抗生剤は耐性ができにくいとされます。それでもバンコマイシン耐性菌が出ています。
腸球菌は腸の常在菌で、健康人では感染症を起こしません。しかし、糖尿病などの免疫不全で感染性心内膜炎・敗血症・尿路感染症をおこします。
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE:Vancomycin-Resistant Enterococci)の
- 遺伝子型vanAではオキサゾリジノン系抗生物質リネゾリド・ストレプトグラミン系シナシッド
- vanBではティコプラニン・リネゾリド投与。リネゾリド耐性菌にはリポペプチド系のダプトマイシン。
バンコマイシン感受性腸球菌にはペニシリン(+ゲンタマイシン)です。
伝染性膿痂疹または膿痂疹(とびひ、impetigo)は表皮角層に表在菌が感染・増殖して急性発症する病気。原発巣から飛び火して周辺や離れた部位に広がります。伝染性膿痂疹は小児だけの皮膚感染症ではありません。免疫不全の糖尿病患者におこると重症化して
- 敗血症
- ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群
に至ります。糖尿病性足病変(糖尿病足)に合併して感染創傷化する可能性があります。[Indian J Dermatol. 2010 Apr-Jun;55(2):181-4.]
乾燥肌やアトピー性皮膚炎などで皮膚のバリア機能が低下した部位におこるため、甲状腺機能低下症、亜鉛欠乏症で皮膚がカサカサの状態は要注意。
臨床的に
- 水泡性;水疱主体の場合は、常に黄色ブドウ球菌[メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含む]。黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥脱毒素により水疱を形成
- 非水泡性;痂皮主体の場合は、大半が黄色ブドウ球菌だが、溶血性連鎖球菌のこともある
の2つに分けられる。
市中感染型MRSA(Community-acquired methicillin-resistant Staphylococcus aureus)は院内感染型MRSAと異なり、
- ロイコシジン毒素を産生
- 一般外来で風邪などに使われる少量の抗菌薬にだけ耐性
- 人体に強く付着
市中の小児・若年者の“おでき”や蜂窩織炎が70%ですが、糖尿病の免疫不全では敗血症、肺膿瘍、壊死性肺炎、人喰いバクテリア壊死性筋膜炎をおこします。
モラクセラ・カタラーリス[Moraxella catarrhalis]または(ブランハメラ・カタラーリス)はグラム陰性球菌であり、ヒトの上気道に親和性がある。肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)と同じく成人市中肺炎、気管支炎の起炎菌。糖尿病の免疫不全で肺炎。
モラクセラ・ノンリクエファシエンス(Moraxella nonliquefaciens)による急性化膿性甲状腺炎の報告があります[Neth J Med. 1994 Oct;45(4):170-3.]
コリネバクテリウム・ウレアリティクム(Corynebacterium Urealyticum)は糖尿病や高齢者の甲状腺機能低下症などの免疫不全でおこる尿路感染です。ウレアーゼによりアンモニア産生し、高アンモニア血症による意識障害をきたします。
甲状腺クリーゼ(甲状腺緊急症)、粘液水腫性昏睡との鑑別のため甲状腺ホルモン測定するも異常ありません。高齢者の甲状腺機能低下症に起こると、粘液水腫性昏睡と紛らわしいですが、感染症につき低体温なく、頻脈、高血圧等を認めるため鑑別できます。
第59回 日本甲状腺学会で報告された、「P1-7-3 尿路感染症を合併し、高アンモニア血症による意識障害をきたした慢性甲状腺炎の1 例」は、コリネバクテリウム・ウレアリティクムによる可能性が高いと筆者は考えています。
化膿性脊椎炎は、黄色ブドウ球菌・大腸菌などが血行性に腰椎・胸椎に感染し膿瘍を形成する病態。発熱・腰背部に強烈が痛みがおこります。糖尿病の免疫不全で発症し、結核性脊椎炎(脊椎カリエス)・甲状腺癌の脊椎転移との鑑別を要します。
(右;造影MRI T1脂肪抑制画像)
化膿性脊椎炎の再建治療に、表面をヨード(ヨウ素)でコートしたチタン合金を用いた報告があります。甲状腺機能に影響なかったそうです。[Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2015 Feb;34(2):261-6.]
甲状腺癌あるいは甲状腺結節を有する患者の唾液微生物叢は、健康人とは異なり、アロプレボテラ属、アネログロブス属、アシネトバクター属、未分類のバクテロイデール属、および未分類のシアノバクテリア属が多い。唾液微生物叢の変動は、甲状腺がんと甲状腺結節に関連している可能性があります。[Front Cell Infect Microbiol. 2022 Aug 11;12:989188.]
ねこひっかき病は、猫や犬にひっかかれた、あるいは噛まれた傷からグラム陰性菌のバルトネラ菌(Bartonella henselae)に感染して発症します。周囲のリンパ節が腫れ、発熱などインフルエンザ様症状が現れます。糖尿病や肝硬変など免疫力低下状態では、しばしば重症になります。
重度の発熱、頸部リンパ節腫脹の場合は、悪性リンパ腫との鑑別を要します。
症状が軽ければ自然治癒を待ちますが、リンパ節腫脹・疼痛が強ければ穿刺排膿し、マクロライド系抗生物質を投与します。
侵襲性インフルエンザ桿菌感染症は急速に重症化し、肺炎・敗血症・髄膜炎をおこします。侵襲性インフルエンザ桿菌感染症の80%以上はb型(ヘモフィルス・インフルエンザb型菌=ヒブ)です。インフルエンザ菌b型は小児期の侵襲性感染症として最も頻度が高いですが、成人発症もあるため甲状腺機能低下症、 糖尿病の免疫不全では要注意。
ヒブ髄膜炎は小児細菌性髄膜炎の5割を占め、2割の肺炎球菌より遥かに多いです。
インフルエンザ桿菌による急性化膿性甲状腺炎の報告があります(Enferm Infecc Microbiol Clin. 2001 Mar;19(3):140-1.)。急性化膿性甲状腺炎の起炎菌としては極めて稀です。
急性Q熱は、発熱、筋肉痛、関節痛、肺炎。甲状腺炎をおこす場合もあり、おそらく亜急性甲状腺炎。[Int J Antimicrob Agents. 1997;8(3):145-61.]
糖尿病の免疫不全では慢性Q熱になり、慢性の多臓器炎症、慢性疲労症候群様症状になります。[Kansenshogaku Zasshi. 2002 Nov;76(11):901-10.]
気腫性胆嚢炎の35%は高齢糖尿病患者にみられます。ガス産生を伴う急性胆嚢炎で、穿孔率が高く、腹膜炎・敗血症をおこして致死率は15%になります。
大腸菌などグラム陰性桿菌と嫌気性菌[Bacteroides fragilis、糖尿病ガス壊疽菌(ウェルシュ菌:Clostridium perfringens)]の混合感染が多いとされます。緊急胆嚢摘出術が必要です。
起炎菌がガス産生菌の場合、ガスを伴う急性化膿性甲状腺炎(急性気腫性甲状腺炎)を起こします(Br J Surg. 1983 May;70(5):256-8.)。
百日咳は、百日咳菌が原因の気管支炎です。百日咳菌の感染力は強く、接触感染および咳・くしゃみを介して飛沫感染します。
4種混合ワクチン ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオを接種する前(生後3か月未満)の新生児・乳児が感染すると生命に関わります。
百日咳の症状は次第に増悪する発作性の激しい咳(10回程度連続、患児は顔面を紅潮させ反復して激しくせき込む)。リンパ球優位の白血球上昇を認め、咽頭・胸部に異常なし。RSウイルスによる急性細気管支炎と鑑別要。重症乳児は隔離入院が必要。
子供の頃、ワクチンを接種していても、5-10年後に抗体が減弱し再感染します。再感染では典型的な症状を欠き、長引く咳(せき)だけで、
- 発熱無し、喉(のど)の痛み無し、痰(たん)無し、鼻汁・鼻閉無し
- 咳込んだ後に嘔吐
- 短く何度も咳込んだり、吸気時に笛音のようなヒューヒュー音
などのため、胸部レントゲン写真を撮るも異常なし。耳鼻咽喉科を受診しても異常なく、中には甲状腺の病気を疑い甲状腺専門医を受診する方もいます。しかし、甲状腺の前に百日咳を疑い、呼吸器内科を受診してください。
百日咳菌の確定診断は、
- 後鼻腔ぬぐい液(鼻咽頭を綿棒で拭う)の遺伝子検査(LAMP法やPCR法)。ただし、①発症から時間がたっているケース、②抗菌薬を使用している場合、③成人患者は陽性にならない
- 抗百日咳毒素抗体;ペア血清で2倍以上の上昇、もしくは単血清で100 EU/mL以上の上昇
百日咳の治療は、エリスロマイシン、クラリスロマイシンなどマクロライド系抗菌薬の一定期間服用。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。