甲状腺と神経内科②(多系統萎縮症,アテトーゼ不随意運動・舞踏病・バリズム,本態性振戦)[橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学附属病院 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。神経内科の病気(多系統萎縮症,アテトーゼ不随意運動・舞踏病・バリズム,本態性振戦)の診療を行っておりません。
Summary
甲状腺と神経内科②。甲状腺機能亢進症/バセドウ病ではアテトーゼ、舞踏病様の不随意運動・バリスムスをおこし、大抵は甲状腺ホルモンが正常化すると軽快。多系統萎縮症ではTRHアナログセレジスト®(タルチレリン)使用。Machado-Joseph 病は外眼筋麻痺(びっくり眼)。パーキンソン病は安静時振戦だが、甲状腺機能亢進症/バセドウ病は姿勢時振戦(ふるえ)で手指と腕を前方に伸ばした姿勢で指を開いたり、コップを取る時に生じる。本態性振戦、慢性アルコール中毒振戦と同様。肝性脳症の羽ばたき振戦(flapping tremor)は振戦でなく力を入れた時の急な脱力。
Keywords
甲状腺,神経内科,アテトーゼ,多系統萎縮症,本態性振戦,舞踏病,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,不随意運動,姿勢時振戦
以下、本ページ
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病のアテトーゼ不随意運動・舞踏病様の不随意運動・バリズム
- 多系統萎縮症(オリーブ橋小脳萎縮症)と甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体;TRHアナログ
- 甲状腺眼症(バセドウ病眼症)と鑑別、Machado-Joseph 病
- 甲状腺機能亢進症と本態性振戦
甲状腺機能亢進症/バセドウ病のアテトーゼ不随意運動
アテトーゼ(athetosis:アテトーシス)は、自分の意志に反して運動を行う不随意運動の一つ。ゆっくりとねじるような運動が特徴。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病でのアテトーゼ不随意運動(アテトーシス)は、数年に1回、どこかの施設が日本甲状腺学会で発表しています。甲状腺機能亢進症/バセドウ病が原因とは判らず(甲状腺専門医でも知らないヒトが結構いるのに、精神科医・神経内科医が知っているはずもないが・・・)、ほとんどが精神科・神経内科で治療されています。しかし、神経内科的な異常所見は無く、脳MRIも正常なので(原因が甲状腺なので当然ですが)、神経内科医も「おかしい。」と思いながら治療するそうです。
通常、甲状腺機能亢進症/バセドウ病を治療し、甲状腺ホルモンが正常化するとアテトーゼ不随意運動も軽快しますが、改善しないケースもあるようです。
(第58回 日本甲状腺学会 P1-2-3 バセドウ病で内服治療中、舞踏様の不随意運動で入院となった一例)[Mov Disord. 1998 Mar;13(2):361-3.][Postgrad Med J. 1987 Dec;63(746):1089-90.][Intern Med. 1992 Sep;31(9):1144-6.]
甲状腺ホルモン剤(レボチロキシン)の乱用による甲状腺中毒症で舞踏病、アテトーゼをおこした報告があります[J Neurol. 2009 Dec;256(12):2106-8.]。自己免疫が原因でなく、あくまで甲状腺ホルモンの過剰状態でアテトーゼ不随意運動がおきるということです。
アラン・ハーンドン・ダドリー症候群(Allan-Herndon-Dudley-Syndrome:AHDS)でもジストニア、舞踏病、アテトーゼが起こります[Exp Clin Endocrinol Diabetes. 2020 Jun;128(6-07):414-422.]。
Nkx2.1(TTF-1)遺伝子異常症(Brain-Lung-Thyroid syndrome)でも筋緊張低下、舞踏病、アテトーゼが起こります[Andes Pediatr. 2021 Dec;92(6):930-936.][J Child Neurol. 2014 May;29(5):666-9.]。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の舞踏病様の不随意運動・バリズム
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の不随意運動は、必ずしもアテトーゼ不随意運動とは限らず、舞踏病様不随意運動・バリズムの事もあります。甲状腺機能亢進症/バセドウ病が原因なので、通常の舞踏病様不随意運動に見られる脳MRIの尾状核萎縮、側脳室拡大も無く、脳波も異常なしで神経内科医も首を傾げます。甲状腺機能が正常化すると舞踏病様不随意運動も改善します。[Neurol Sci. 2012 Apr;33(2):343-5.][Pediatrics. 2013 Feb;131(2):e616-9.](第55回 日本甲状腺学会 P1-01-06 舞踏様の不随意運動の出現を契機に発見されたバセドウ病の一例)
舞踏病:筋肉群が不規則、不随意、かつ無目的な運動をする病態です。四肢遠位部と顔で最も顕著で,四肢の舞踏運動と同時に、口唇の歪み運動が多い。躯幹にも現れます。
バリズム:体幹の近い部分(四肢近位部)で強く起こり、急速かつ粗大で持続的に、上下肢全体を投げだす・振り回すような大きい不随意運動です。視床下核が責任病巣の事が多い。
本物のハンチントン舞踏病
本物のハンチントン舞踏病は、舞踏運動をおこす最も高頻度な病気だが、日本・アジアでは少ない。
常染色体優性遺伝性に4染色体短腕上のIT15遺伝子(Huntingtin遺伝子)変異を認め、家系内に同様の者がいます。世代を経るごとに発症年齢が早くなります(表現促進現象)。
ハンチントン舞踏病では、ある年齢(35~50歳)を境に
- 舞踏様不随意運動
- 抑うつなど精神症状:甲状腺機能亢進症/バセドウ病と同じく、イライラして、落ち着きがなく、怒りやすい、情緒不安定、うつ状態・自殺企図
- 行動変化・性格変化:甲状腺機能亢進症/バセドウ病の精神症状でも起こり得る社会的良識を欠いた行動、
- 認知症:記銘力低下、判断力低下、学習機能低下。小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、よく見られます。
などの症状を起こします。
糖尿病性舞踏病、2次性舞踏病
多系統萎縮症は、下記の3疾患を統合した概念です。
- 小脳症状主体のオリーブ橋小脳萎縮症:
進行性の運動失調(歩行時のふらつき)、構音障害(呂律が回りにくい、酔っ払ったような話し方)、患側向き方向固定性水平性眼振
MRIで脳幹と小脳の萎縮、脳血流シンチグラフィで小脳の血流低下
- 自律神経症状主体のシャイ・ドレーガー症候群;
起立性低血圧、神経因性膀胱による排尿障害(過活動性膀胱および排尿困難で泌尿器科を先に受診することが多い)、睡眠時無呼吸(喉頭喘鳴)[甲状腺腫瘍・甲状腺癌・巨大甲状腺腫による上気道閉塞・甲状腺機能低下症・先端巨大症がないのにおこる]
- パーキンソン症状を主体の線条体黒質変性症;
甲状腺機能低下症の様に動作緩慢、小刻み歩行、姿勢反射障害
橋本脳症で線条体黒質変性症と同じ症候を示し、鑑別が難しいケースが報告されています(Clin Nucl Med. 2017 Aug;42(8):e390-e391.)
の3疾患は、進行すると他の系統にも病変が拡大し、次第に症状が重複していきます。
運動失調に対し、セレジスト®(タルチレリン)(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体;TRHアナログ)が使われます。[J Child Neurol. 2009 Aug;24(8):1010-2.]
セレジスト®(タルチレリン)(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体;TRHアナログ)服薬中の甲状腺機能異常
タルチレリン(セレジスト®)服用中におきる甲状腺機能異常の多くはTSH上昇です。しかし、最近、東京大学が従来と異なるパターンの甲状腺機能異常を報告しています。いずれも脊髄小脳変性症でタルチレリン服用中に肺炎を合併して入院した患者です。
- (症例1)TSH低値、FT3低値、FT4高値;TSH 0.36 μIU/mL, FT3 1.3 pg/mL, FT4 2.17 ng/dL
TRAb・抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体) は陰性、甲状腺エコーも正常
TRH負荷試験でTSHの反応は低下
- (症例2)TSH高値、FT3低値、FT4低値;TSH 10.34 μIU/mL, FT3 1.5 pg/mL, FT4 0.9 ng/dL
(第60回 日本甲状腺学会 P2-6-9 TRH誘導体タルチレリン服用中に甲状腺機能異常を呈した脊髄小脳変性症の3例)
原因は不明ですが、筆者の考えでは、
- (症例1)肺炎の入院患者であるため、低T3症候群にてFT4→FT3変換が阻害。さらに、FT4が下垂体にネガティブフィードバックを掛けてTSH産生・分泌抑制(視床下部―下垂体による甲状腺ホルモンの調節)。加えて、下垂体のTRH受容体はダウンレギュレーションにより減少しているので、TRH負荷試験で反応が悪い
- (症例2)肺炎の入院患者であるため、低T3、低T4症候群になった。下垂体のTRH受容体はダウンレギュレーションされておらず、あるいは解除されており、タルチレリン(セレジスト®)に反応してTSH高値
セレジスト®(タルチレリン)の内分泌的な副作用としては、甲状腺機能異常の他に、薬剤性高プロラクチン血症があります[J Med Case Rep. 2011 Dec 9;5:567.]。下垂体におけるプロラクチン産生はTRHにより制御(産生・分泌亢進)されているため、当然と言えます。
Machado-Joseph 病は最も多い遺伝性脊髄小脳変性症で常染色体優性遺伝形式。Machado-Joseph 病は
- 小脳失調;歩行障害(バランスが悪く転びやすい、よろめく、階段昇降では手すりが必要)
- 外眼筋麻痺(びっくり眼);甲状腺眼症:バセドウ病眼症と鑑別
- 錐体路症状
- 錐体外路症状
- 末梢神経障害
- 認知機能は正常、不随意運動を認めない
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の姿勢時振戦
本態性振戦
パーキンソン病は安静時振戦
パーキンソン病は安静時振戦ですが、甲状腺機能亢進症振戦をパーキンソン病と間違えてl-ドーパ投与すると、甲状腺機能亢進症振戦は増悪します。
パーキンソン病は安静時の振戦なので、手に力を入れない状態での振戦です。両手を膝に置いて振戦が見られれば、甲状腺機能亢進症振戦でなく、パーキンソン病の安静時振戦です。
肝性脳症の羽ばたき振戦(flapping tremor)は、正確には振戦でなく、力を入れた時の急な脱力です。手指と上肢を伸ばして、手関節を背屈する姿勢を保つと、手が急に掌屈し、続いて元に戻ろうと背屈する運動が繰り返されます。あたかも、羽ばたいている様に見えます。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の姿勢時振戦も、羽ばたき振戦(flapping tremor)と同じく、手指と上肢を伸ばして、手関節を背屈する姿勢で起こります。
書痙(しょけい)[局所性ジストニア]
職業性ジストニア、局所性ジストニアの一つである書痙(しょけい)は、
- 字を書き始めると手が震えて書きにくくなり、文字は揺れて読みにくい
- 示指と中指の近位指節間関節と遠位指節間関節が強く屈曲
- 書字以外の動作には支障がない
- 四肢筋力低下はなく、腱反射は正常
書痙(しょけい)は、書字を過剰に行う職業の人などで、書く動作時のみ前腕・手指の筋緊張が異常に亢進し、手関節・手指関節が異常屈曲するのが原因。振戦や痛みを伴う場合もあり、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の振戦と鑑別を要します。
精神疾患と誤診される場合があります。
書痙(しょけい)の治療は、ボツリヌス毒素(ボトックス®)注射による筋緊張の緩和です。
眼瞼けいれんも局所性ジストニアの一つで、眼輪筋と周囲筋の過緊張でおこります。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市も近く。