ネフローゼ症候群と甲状腺[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科(内分泌骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。ネフローゼ症候群、腎臓の病気の治療を行っておりません。
Summary
ネフローゼ症候群に甲状腺機能低下症の合併があればアミロイドーシスを疑う。尿中に甲状腺ホルモンが失われると偽性甲状腺機能低下症。バセドウ病と膜性腎症の合併では抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)とサイログロブリンの免疫複合体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)沈着物が確認されるが、橋本病(慢性甲状腺炎)または甲状腺がんとの合併報告は無い。根治切除不能な甲状腺がん治療薬、レンビマ®(レンバチニブ)で巣状糸球体硬化症(巣状分節性糸球体硬化症;FSGS)の副作用。膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)とバセドウ病、橋本病の合併は稀、微小変化型ネフローゼ症候群では報告あり。
Keywords
甲状腺,ネフローゼ症候群,膜性腎症,橋本病,膜性増殖性糸球体腎炎,甲状腺機能低下症,巣状分節性糸球体硬化症,甲状腺がん,バセドウ病,微小変化型ネフローゼ症候群
ネフローゼ症候群では、ホルモンやホルモン結合蛋白が尿中に失われる場合があります。ネフローゼ症候群の約半数で総サイロキシン(総T4)が低値になりますが、ホルモン活性を有する遊離サイロキシン(FT4)、TSHは正常範囲の場合が多い(ただし、腎機能に障害が出た場合は、腎不全に伴う甲状腺機能異常が起こります)。(日内会誌 98:984~992,2009)
血中の甲状腺ホルモン、サイロキシン(T4)の75%はTBG(サイロキシン結合タンパク)に結合しており、TBGはアルブミンより分子量が小さいため、アルブミン以上に尿中へ駄々洩れします。尿中のTBG、総サイロキシン(総T4)、総トリヨードサイロニン(総T3)を測定すれば分かります。
大量の甲状腺ホルモンが尿中に排出されてしまうネフローゼ症候群(微小変化型ネフローゼ症候群など)が報告がされています。いずれもネフローゼ症候群を発症する前は、甲状腺全摘出後など高容量の甲状腺ホルモン剤(レボチロキシン)を服用しています。元々、甲状腺の予備力が低下した(ゼロになった)人に起こり易いようです。(CEN Case Rep. 2016 May;5(1):95-98.)(Endocr Pract. 2008 Jan-Feb;14(1):97-103.)
尿中に甲状腺ホルモンが失われることが原因の甲状腺機能低下症は、pseudohypothyroidism→偽性甲状腺機能低下症と呼ばれます。
筆者の個人的な意見ですが、尿中への喪失以外に、低蛋白血症による腸粘膜浮腫で、腸管からの甲状腺ホルモン剤(レボチロキシン、チラーヂンS)吸収が阻害されるのも一因と考えられます。
偽性甲状腺機能低下症では、ネフローゼ症候群の寛解に伴い甲状腺機能も回復します。
ネフローゼ症候群に甲状腺機能低下症の合併があれば、アミロイドーシスも疑う必要があります(甲状腺アミロイドーシス )。
ネフローゼ症候群の症状には、
- 両足の浮腫[ただし、甲状腺機能低下症では非圧痕性浮腫(前脛骨粘液水腫)]
- 体重増加
があり、あたかも甲状腺機能低下症症状のようです。検査所見も
- 高コレステロール血症
- 尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cr)上昇[甲状腺機能低下症で腎機能低下]
など、甲状腺機能低下症でもあり得る数値が出ます。
膜性腎症(MN)は高度な蛋白尿を来すネフローゼ症候群の一つで、高齢者ネフローゼ症候群の35-50%を占め、中高年男性に多く、糖尿病性腎症・アミロイド腎(甲状腺アミロイドーシス合併)と鑑別を要します。
原因のない特発性/一次性(80%)と2次性(20%)[B/C型肝炎・悪性腫瘍・膠原病(シェーグレン症候群)・バセドウ病・薬剤性(抗リウマチ薬ブシラミン・非ステロイド性抗炎症鎮痛薬)]があります。免疫グロブリンのIgGが沈着し糸球体基底膜が肥厚、結節性病変が生じる糖尿病性腎症・アミロイド腎(甲状腺アミロイドーシス合併)とは組織像が異なります。
バセドウ病と膜性腎症(MN)の合併が報告され、
- 抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)とサイログロブリンの免疫複合体の沈着が確認された[N Engl J Med. 1981 May 14;304(20):1212-5.][Endocrinol Jpn. 1987 Aug;34(4):587-93.][Clin Nephrol. 1989 Jan;31(1):49-52.]
- 腎生検と免疫染色により抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)沈着物が証明されたが、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)の沈着はなかった報告もあります(CEN Case Rep. 2014 May;3(1):90-93.)(Pediatr Nephrol. 2009 Mar; 24(3):605-8.)。
考えられる機序は
- 腎糸球体上皮下(基底膜下)にサイログロブリンが沈着し免疫反応が起きる
- 血中を循環するサイログロブリン-抗サイログロブリン抗体の免疫複合体が腎糸球体上皮下(基底膜下)に沈着
(Front Endocrinol (Lausanne). 2017 Jun 2;8:119.)
しかし、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)沈着物は前者では説明が付かず、血中を循環する甲状腺ペルオキシダーゼ-抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体の免疫複合体の沈着と考えざる得ません。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では凝固亢進による血栓症がおきる可能性があります[バセドウ病/甲状腺機能亢進症で血栓できやすい?]。膜性腎症(MN)に限らずネフローゼ症候群でも、凝固亢進と血管内脱水により血栓が生じやすく、抗凝固療法を必要とします。
そもそも甲状腺機能亢進症/バセドウ病の
- 60%で抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性
- 67%で抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性
(バセドウ病の抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体))
なので、バセドウ病でこれらの抗体が膜性腎症(MN)の原因となっても不思議ではありません。
むしろ不思議なのは、橋本病(慢性甲状腺炎)が原因の膜性腎症(MN)の報告は皆無です(偶然の合併はあるでしょうが、基底膜下に免疫複合体を証明したものは無し)。原因は不明ですが、筆者は以下の様に考えています(あくまで筆者の持論でエビデンスはありません。)
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病の循環血液量増加、高拍出量下では、腎血流が増大し、血管内圧により免疫複合体が糸球体基底膜に届く
- 橋本病はTh1優位、バセドウ病はTh2優位なので免疫経路が異なる(橋本病とバセドウ病は入れ替わる---元は同じ自己免疫性甲状腺疾患 )
筆者自身も見た事はなく、PubMed等で全国の論文を検索しても、甲状腺がんと膜性腎症(MN)の合併例は無いようです。悪性腫瘍で膜性腎症を発症するのは、医学生でも知っている有名な話ですが、甲状腺がんは無関係の様です。
膜性腎症(MN)は、原因のない特発性(80%)と2次性(20%)[B/C型肝炎・悪性腫瘍・膠原病(シェーグレン症候群)・甲状腺機能亢進症/バセドウ病(前述)・薬剤性(抗リウマチ薬ブシラミン・非ステロイド性抗炎症鎮痛薬)]があります。
甲状腺と無関係の特発性/一次性膜性腎症(MN)は、高齢者ネフローゼ症候群の35-50%を占め、中高年男性に多い。糖尿病性腎症・アミロイド腎(甲状腺アミロイドーシス合併)と鑑別を要します。
免疫グロブリンのIgGが沈着し糸球体基底膜が肥厚、結節性病変が生じる糖尿病性腎症・アミロイド腎(甲状腺アミロイドーシス合併)とは組織像が異なります。
-
日本人の約50%(海外では約70%)に糸球体上皮細胞(ポドサイト)膜上に発現するM-typeホスホリパーゼA2受容体(phospholipase A2 receptor:PLA2R)に対する免疫抗体が陽性
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3~5%に糸球体上皮細胞(ポドサイト)膜上に発現するトロンボスポンジン1型ドメイン含有7A(thrombospondin type-1 domain-containing 7A: THSD7A)が責任抗原(こちらは抗体ではない)
根治切除不能な甲状腺がんに使用される分子標的薬、レンビマ®(レンバチニブ)は、血管新生阻害作用が強いため、高血圧・ネフローゼ症候群・出血・血栓症の副作用が生じます(レンビマ®(レンバチニブ)の副作用)。
レンビマ®(レンバチニブ)によるネフローゼ症候群が生じた場合、
- 休薬(ただし、フレア現象をおこす危険性)
- 減量
- ネクサバール®(ソラフェニブ) への切り替え
などが必要になります。
(World J Clin Cases. 2020 Oct 26;8(20):4883-4894.)
ネフローゼ症候群の組織型として巣状分節性糸球体硬化症[focal segmental glomerulosclerosis (FSGS)]が複数報告されています(BMC Nephrol. 2018 Oct 19;19(1):273.)(Case Rep Oncol Med. 2018 Oct 3;2018:6927639.)。甲状腺癌の末期であるのに、よく腎生検をしたものだと思います。
ネクサバール®(ソラフェニブ)でもレンビマ®(レンバチニブ)程ではありませんがネフローゼ症候群が起こります。
すでに甲状腺全摘手術後で、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)を投与中の場合、レンビマ®(レンバチニブ)ネフローゼ症候群が生じると、
- 偽性甲状腺機能低下症
- 腸管浮腫による吸収障害
で、一気に甲状腺機能低下症が進行します。
特発性の微小変化型ネフローゼ症候群(minimal change nephrotic syndrome:MCNS)は、ステロイド治療によく反応し、1カ月以内に90%以上が完全寛解します。しかし、寛解後も再発を繰り返す難治性微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)も存在します。
微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)は、小児・若年者に急性発症し、短期間で体重増加、浮腫(顔と足のむくみ、いつも履いている靴がきつくて履けなくなる等)を来します。甲状腺機能低下症よりも急速で、偽性甲状腺機能低下症を合併すれば、さらに症状増悪。
微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)はT細胞免疫と考えられてきましたが、甲状腺悪性リンパ腫はじめB細胞系の悪性リンパ腫に有効なリツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体、リツキサン®)が効くため、B細胞とT細胞が相互に影響している可能性があります。
難治性微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)に対してもリツキシマブ(リツキサン®)は有効で[Lancet. 2014 Oct 4;384(9950):1273-81.]、
- 完全寛解を維持するための高用量副腎皮質ステロイド剤を減量できない(減量すれば再発する)
- 免疫抑制薬を併用しても完全寛解しない
小児期発症の難治性微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)に限って保険適用されます。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病に微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)を合併した報告がありますが、同じ自己免疫であるのを考えれば当然かもしれません。(Endocr Pract. 2002 Jan-Feb;8(1):40-3.)
また、甲状腺機能低下症/橋本病に微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)を合併した報告もあります。微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)が寛解するまで、尿中に甲状腺ホルモンが失われる偽性甲状腺機能低下症も合併します(Clin Nephrol. 2008 Jan;69(1):47-52.)(Pediatr Nephrol. 2001 Dec;16(12):1137-8.)。
膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は小児から若年者に多く、1型糖尿病による糖尿病性腎症と鑑別要。ネフローゼ症候群、血尿を来たし低補体血症が特徴。
膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)と自己免疫性甲状腺疾患の合併は、極めて稀ですが報告はあります。膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)と甲状腺機能低下症/橋本病の合併例です(Pediatr Nephrol. 2009 Jan;24(1):193-7.)(J Pediatr Endocrinol Metab. 2011;24(9-10):789-92.)(Nefrologia (2004) 3:43–8.)。
巣状糸球体硬化症(巣状分節性糸球体硬化症;FSGS)は成人ネフローゼ症候群の20%で、糖尿病性腎症・アミロイド腎(甲状腺アミロイドーシス合併)と鑑別を要します。
根治切除不能な甲状腺がんに使用される分子標的薬、レンビマ®(レンバチニブ)で巣状糸球体硬化症(巣状分節性糸球体硬化症;FSGS)を起こす場合があります。[根治切除不能な甲状腺がん治療薬、レンビマ®(レンバチニブ)でネフローゼ症候群]
原因不明だが、
- 高脂血症や酸化LDLが増悪因子になり
- 15-55%の確率で移植腎に再発、移植後早期から高度のタンパク尿を認め、移植腎機能が廃絶するため免疫反応(免疫グロブリンIgMや補体C3)が疑われます。
糖尿病・動脈硬化と関係しそうな病気ですが異なるものです。最後は全糸球体硬化/腎不全になります。
巣状糸球体硬化症(巣状分節性糸球体硬化症;FSGS)治療は
- ステロイド抵抗性
- IgM/C3除去のため血漿交換療法もなされます
- 高脂血症を伴う難治性ネフローゼの約50%でLDLアフェレーシスが尿タンパク減少効果があるとされます。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
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