腎炎と甲状腺、IgA腎症 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科(内分泌骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
橋本病(慢性甲状腺炎)に血尿、蛋白尿、腎障害合併すると頻度順に膜性増殖性糸球体腎炎、巣状分節性糸球体硬化症、慢性糸球体腎炎、微小変化型ネフローゼ症候群、アミロイドーシス。サイログロブリン、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)が関与する免疫反応が原因。IgA腎症に甲状腺機能低下症/橋本病、セリアック病合併の報告あり。遺伝性で重度難聴を伴う先天性甲状腺機能低下症(ペンドレッド症候群)と似たアルポート症候群(Alport症候群)家系ではTg抗体陽性率、潜在性甲状腺機能低下症・潜在性甲状腺機能亢進症の頻度高いとの報告あり。
Keywords
橋本病,甲状腺炎,血尿,蛋白尿,サイログロブリン,抗サイログロブリン抗体,IgA腎症,甲状腺機能低下症,アルポート症候群,腎炎
橋本病(慢性甲状腺炎)に血尿(尿沈渣で赤血球5 個以上/HPF)、蛋白尿、または腎障害を合併した患者の内訳は
- 膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)(20%)
- 巣状糸球体硬化症(巣状分節性糸球体硬化症;FSGS)(20%)
- IgA腎症(15%)
- 慢性糸球体腎炎(15%)
- 微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)(10%)
- アミロイドーシス(5%)
- 診断が付かず(15%)
(Clin Endocrinol (Oxf). 2012 May; 76(5):759-62.)
それ以外の症例報告では、ANCA関連腎炎[Medicine (Baltimore). 2020 Feb;99(7):e19179.]との合併があります。
橋本病(慢性甲状腺炎)は頻度が高い病気なので、当然、偶然の合併もあります。しかし、一般人口で考えると最も多いのはIgA腎症、慢性糸球体腎炎で、ネフローゼ症候群の数がそれを上回るなどあり得ない事です。また、アミロイドーシスは、ほとんどお目に掛かれません。何らかの自己免疫機序が関与していると考えられます。
橋本病(慢性甲状腺炎)に腎炎が合併する機序として、
- サイログロブリン(Tg)―抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)複合体の糸球体への沈着
- 糸球体に沈着したサイログロブリン(Tg)への免疫反応
[N Engl J Med. 1981 May 14;304(20):1212-5.] - Megalin (gp330) ;メガリンはTSH依存性に甲状腺濾胞細胞上に発現する巨大な糖タンパク質受容体で、腎近位尿細管細胞にも発現している[Physiology (Bethesda). 2012 Aug;27(4):223-36.]
- エピトープスプレディング(epitope spreading);多様な自己抗原に対する免疫応答の出現。糸球体抗原とサイログロブリン(Tg)、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)に対する免疫。[Clin Exp Immunol. 2003 Jun;132(3):401-7.]
- 抗原交差反応;糸球体抗原とサイログロブリン(Tg)、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)に対する免疫。
などが考えられています。[Front Endocrinol (Lausanne). 2017 Jun 2;8:119.]
IgA腎症とは
IgA腎症は腎糸球体に免疫グロブリンIgAが沈着する慢性糸球体腎炎で、
- 慢性糸球体腎炎の30%
- 腎生検の30%
を占め、糖尿病性腎症などと鑑別を要します。
若年・中高年の2峰性ピーク。
慢性扁桃炎(インフルエンザ桿菌・黄色ブドウ球菌)による粘膜免疫の関与が考えられます。
IgA腎症は、
- 糖尿病性腎症と異なり、顕微鏡的持続血尿が必発。
- 上気道感染(急性扁桃炎)後数日して肉眼的血尿(コーラ色の尿)を認めます。
鑑別を要する溶連菌感染後急性糸球体腎炎は、感染終息後10~14 日で発症し、経過が異なります。 - 尿タンパク2g/日以上は予後不良。
- 10-80%で半月体形成性腎炎に
IgA腎症と甲状腺
IgA腎症に
- 甲状腺機能低下症/橋本病(慢性甲状腺炎)を合併(J Nephrol. 2005 Nov-Dec;18(6):773-6.)
- セリアック病、橋本病(慢性甲状腺炎)を合併(World J Gastroenterol. 2003 Jun;9(6):1377-80.)[Cent Eur J Immunol. 2019;44(1):106-108.]
遺伝性腎炎;アルポート症候群(Alport症候群)と家族性良性血尿
遺伝性腎炎は、
- 家族性良性血尿:腎臓の基底膜がやや薄いのみで、腎機能はほとんど障害されません
- アルポート症候群(Alport症候群):腎臓基底膜を構成する膠原線維の構造異常です。女性は軽症で、腎機能はほとんど障害されません。 男性は重症で、生後血尿、思春期にたんぱく尿、30~40歳で人工透析に。10歳ころから難聴が始まり、完全に聴覚を失うこともあります。
男性のアルポート症候群(Alport症候群)は、腎不全・ネフローゼ・難聴になります。腎不全・透析では甲状腺機能低下症を伴うため、遺伝性で重度難聴を伴う先天性甲状腺機能低下症(ペンドレッド症候群)と似たような病態になります。
遺伝性腎炎と甲状腺
アルポート症候群(Alport症候群)の家系では、
- 抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性率が高い
- 潜在性甲状腺機能低下症・潜在性甲状腺機能亢進症の頻度が高い
(Nephrol Dial Transplant. 1991;6(2):79-85.)
一方で、家族性良性血尿、アルポート症候群(Alport症候群)と甲状腺自己抗体に関連なしとの報告もあります(Nephrol Dial Transplant. 1992;7(11):1082-4.)
急速進行性糸球体腎炎(RPGN)は、数週から数カ月の短い間に急速に腎機能低下、血尿、蛋白尿出現し、糸球体に半月体を形成する半月体形成性壊死性糸球体腎炎を呈するのが特徴。
- pauci-immune型RPGN(MPO-ANCA陽性RPGN):高齢者に多い
- 抗GBM抗体型RPGN(Goodpasture症候群など)
- 免疫複合体型RPGN:補体低下(ループス腎炎・クリオグロブリン腎炎・紫斑病性腎炎)
の3つに大別。
バセドウ病治療薬[抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)]を一年以上服薬後のまれな副作用で、抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体(MPO-ANCA,P-ANCA)が出現するMPO-ANCA関連腎炎があります。
急速進行性糸球体腎炎の死因でもっとも多いのは感染症で、副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬(シクロホスファミド)のツケといえます。ステロイド糖尿病をおこせば免疫低下はさらに深刻です。
ループス腎炎は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病や甲状腺機能低下症/橋本病に合併しうる自己免疫疾患の全身性エリテマトーデス(SLE)腎炎で、SLEの予後決定因子の1つ。
(図;メディカル チャンネル アジアより改変)
ループス腎炎はネフローゼ症候群の形態もあるため、糖尿病性腎症・アミロイド腎(甲状腺アミロイドーシス合併)と鑑別を要しますが、顆粒円柱、白血球円柱などを認める点が糖尿病性腎症と異なります。
ループス腎炎の内でもGFR減少、抗DNA抗体価高値、低補体血症を呈するものは活動性ループス腎炎。さらに免疫複合体型急速進行性糸球体腎炎(RPGN)のこともある。
ループス腎炎の治療はステロイド、シクロホスファミドの他、タクロリムス、ミゾリピンが保険適応になりました。重症な甲状腺機能低下症を合併したループス腎炎では、シクロホスファミド治療抵抗性が生じます。4-ヒドロキシシクロホスファミドへの活性化に関与するCYP酵素活性低下が考えられます。[Ann Pharmacother. 2013 Jul-Aug;47(7-8):e35.]
ループス腎炎を有する全身性エリテマトーデス(SLE)患者における潜在性甲状腺機能低下症の頻度は13.4%で、ループス腎炎を有さないSLE患者の7.3%より有意に高い[Lupus. 2011 Oct;20(10):1035-41.]。
- 急速進行性糸球体腎炎(RPGN)型のループス腎炎と非ホジキンリンパ腫が同時に診断されたメチマゾール服薬中の甲状腺機能亢進症/バセドウ病[Lupus. 2013 Jan;22(1):95-8.]急速進行性糸球体腎炎(RPGN)
- 非活動性のループス腎炎と甲状腺機能低下症の合併[Nefrologia. 2007;27(1):87-8.]
- ループス腎炎にAPS(多腺性自己免疫症候群)3C型と4(3D)型を合併[Front Pediatr. 2023 Mar 29;11:1062505.]
の報告あり。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
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