バセドウ病と機能性甲状腺腫(甲状腺機能性結節)が合併(マリンレンハート症候群: Marine-Lenhart症候群)[甲状腺機能亢進症 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学附属病院 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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バセドウ病と機能性甲状腺腫(甲状腺機能性結節)が合併(マリンレンハート症候群: Marine-Lenhart症候群)(本ページ)
Summary
バセドウ病と機能性甲状腺腫(甲状腺機能性結節)が合併する甲状腺機能亢進症はマリンレンハート症候群(Marine-Lenhart 症候群)。Tc-99m シンチグラフィー、I-123 シンチグラフィーで本来アイソトープが集積しない腫瘍部に集積し初めて見つかる症例がある。超音波(エコー)検査をすれば機能性結節は血流が多く、簡単にみつかる。治療は機能性甲状腺腫に準じ、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール等)で甲状腺機能を正常化した後の甲状腺全摘手術が第一選択。機能性甲状腺乳頭癌でなければI-131アイソトープ治療(賛否両論あり)か抗甲状腺薬の継続。
Keywords
バセドウ病,機能性甲状腺腫,甲状腺機能性結節,甲状腺機能亢進症,マリンレンハート症候群,Marine-Lenhart症候群,シンチグラフィ,メルカゾール,超音波,エコー
本来、甲状腺腫瘍は良悪性に関わらず、ほとんど甲状腺ホルモンを作りません(全く作らない訳ではなく、ほんの僅かは作ります)。
バセドウ病で制限なく甲状腺ホルモンを作り、同時に甲状腺腫瘍(良性腫瘍、甲状腺がん)も甲状腺ホルモンを作るタイプの甲状腺機能亢進症
=バセドウ病 + 機能性甲状腺腫(甲状腺機能性結節)
=マリンレンハート症候群(Marine-Lenhart症候群)
[JAMA Internal Medicine. 1911;VIII(3):265–316.]
マリンレンハート症候群(Marine-Lenhart症候群)の頻度は、甲状腺結節を伴う甲状腺機能亢進症/バセドウ病の0.8〜2.7%とされます。[Clin Endocrinol (Oxf). 2004 Jun;60(6):719-25.][Thyroid. 1998 Aug;8(8):647-52.]
しかし、実際は最初からマリンレンハート症候群(Marine-Lenhart症候群)として見つかるよりも、普通の甲状腺機能亢進症/バセドウ病として治療中に見つかる場合が多い。バセドウ病抗体(TRAb,TSAb)が陰性化しても甲状腺ホルモン高値が続くため、Tc-99m 甲状腺シンチグラフィーまたはI-123 シンチグラフィーを施行すると、本来アイソトープが集積しない腫瘍部分に集積して(hot nodule)初めて見つかる例があります[でも下記のように超音波(エコー)検査をすれば簡単にみつかるのですが・・]。
マリンレンハート症候群(Marine-Lenhart症候群)の治療は機能性甲状腺腫(甲状腺機能性結節)に準じますが、とりあえず抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)で甲状腺機能を正常化にしてからのことでしょう。[J UOEH. 2019;41(2):165-170.]。
甲状腺機能が正常化した後の治療は、外科切除(甲状腺全摘手術)が第一選択です。機能性甲状腺乳頭癌でなければI-131(放射性ヨウ素、アイソトープ)治療か、そのまま抗甲状腺薬で治療する場合もあります。
そもそも、甲状腺乳頭癌か否か、血流が多い機能性結節に穿刺細胞診して調べるのは危険を伴います(出血の危険、甲状腺クリーゼ の誘発)。
マリンレンハート症候群のI-131(放射性ヨウ素、アイソトープ)治療は
- 通常の機能性結節と同様、治療抵抗性(インドのデータ)[World J Nucl Med. 2021 Sep 22;20(4):369-373.]
- おそらく放射性ヨウ素が機能性結節のみならず、周囲の正常甲状腺組織にも取り込まれるため、ただの機能性結節患者よりも効果が高くなる(日本、隈病院のデータ)[Eur Thyroid J. 2021 Nov;10(6):461-467.]
と、相反する報告があります。日本人の機能性結節は、欧米人に比べて放射性ヨウ素(I-131)感受性が多い[Ann Nucl Med. 2011 Dec;25(10):749-54.]。
写真のヨードシンチグラム(I-123 シンチグラフィー)では、右の強いホットスポットに一致して機能性結節が存在します。それ以外の甲状腺組織では、I-123 取り込み(集積)が弱く、機能亢進の程度は
機能性結節 > 結節以外の甲状腺組織
です[しかし、きっちりバセドウ病抗体TSAb(TSHレセプター抗体[刺激型]、甲状腺刺激抗体)陽性です]。
このように、バセドウ病の活動性より機能性結節の活動性が高いと、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)だけの治療では再発する可能性があります[J UOEH. 2019;41(2):165-170.]。
マリンレンハート症候群 の下甲状腺動脈血流速度(ITA-PSV)測定。このケースではバセドウ病の活動性より機能性結節の活動性が高く、下甲状腺動脈血流速度(ITA-PSV)は低値。
マリンレンハート症候群における機能性甲状腺がんの遠隔転移があると、甲状腺全摘手術後も甲状腺中毒症が遷延します。
マリンレンハート症候群である事に気付かず、単にバセドウ病に甲状腺がんが合併しているだけと考えて、甲状腺全摘手術後に甲状腺ホルモン剤を投与すると大変な事になります。
術前にヨードシンチグラム(I-123 シンチグラフィー)を行っていれば、あるいは甲状腺エコー(超音波)検査で腫瘍内血流が多いことから機能性甲状腺腫に気付けば、マリンレンハート症候群を見破れます。甲状腺エコー(超音波)検査を行う人間の技量が問われます。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。