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難聴と甲状腺   [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 年次学術集会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

ペンドレッド症候群(Pendred症候群)

甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝に御用の方は 甲状腺編    動脈硬化編  内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等  をクリックください

(図;バーチャル臨床甲状腺カレッジより改変)

長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックで、甲状腺のみの診療です。耳鼻・難聴の診療を行っておりません。ペンドレッド症候群(Pendred症候群)の診療の主体は耳鼻咽喉科での難聴治療です。ペンドレッド症候群(Pendred症候群)の診断は遺伝子検査が必須ですが、長崎甲状腺クリニック(大阪)では扱っておりません。耳鼻咽喉科と内分泌内科の両方ある総合病院を受診ください。

Summary

ペンドレッド症候群(Pendred症候群)は甲状腺に取り込んだヨード(ヨウ素)を甲状腺濾胞細胞内で輸送するペンドリンの異常、常染色体劣性遺伝時のみ発症し重度感音声難聴、軽度甲状腺機能低下症・甲状腺腫。遺伝子検査でSLC26A4遺伝子(PDS遺伝子)変異。別のヨードトランスポーターSLC26A7遺伝子変異は、先天性甲状腺機能低下症があるも難聴なし。甲状腺ホルモンを細胞中で輸送するマイクロクリステリン遺伝子異常で難聴、甲状腺ホルモン正常。急激な甲状腺機能低下症で難聴に。先天性風疹症候群は難聴と遅発性の甲状腺炎・甲状腺機能低下症甲状腺機能亢進症

Keywords

ペンドレッド症候群,Pendred症候群,甲状腺,ペンドリン,難聴,甲状腺機能低下症,ヨードトランスポーター,SLC26A,甲状腺ホルモン,マイクロクリステリン

難聴とは

耳の構造

耳の構造

難聴の種類

難聴の種類

音や言葉が聴き取りにくい状態を難聴と言います。難聴には2種類あり、

  1. 外耳・中耳の音の伝わりに異常がある伝音性難聴
  2. 内耳・それ以降の音を感じ、脳に伝える神経に異常がある感音性難聴

に分けられます。

さらに、音は聞こえるが、言葉を聴き取れない脳神経異常の後迷路性難聴があります。

「聞き返し」「聞き間違い」が増えてきたら難聴の可能性があります。難聴になると耳鳴りを伴い、 耳鳴りの方が本人の苦痛になります。

伝音性難聴は手術で治せる場合が多いですが、感音性難聴は手術で治せません。しかし、甲状腺と関連のある突発性難聴は早期にステロイド治療すれば改善する可能性があるため、すみやかに耳鼻咽喉科(内分泌内科ではなく)を受診せねばなりません。

甲状腺と内耳

コルチ器と甲状腺

コルチ器と血管条の細胞内のカリウムイオンの流れ(K+サイクル)により聴力が発生します。甲状腺ホルモン受容体(TRβ)は、血管条に沿って存在し、K+サイクルに関与すると考えられています(Hum Mol Genet. 2001 Nov 1;10(23):2701-8.)。

蝸牛管の赤い部分が血管条(図;看護rooより改変)

先天性難聴の発生頻度は約1,000 人に1 人で、他の先天性疾患よりも高頻度です。先天性難聴の約10%が遺伝性甲状腺機能低下症の一つであるペンドレッド症候群(Pendred症候群)す。

両耳難聴は、できるだけ早く発見し補聴器を装着すれば、聞く力や話す力をつけるコミュニケーション訓練を開始できます。新生児聴覚スクリーニングで両耳難聴が疑われたら、生後3 か月までに

  1. 聴性脳幹反応(ABR)
  2. 耳音響放射(OAE)
  3. 側頭骨CT

などの精密検査を実施します。

両耳難聴が確定すれば、生後6 か月までに補聴器装用を開始し、効果がなければ原則1 歳以上で人工内耳埋込み術。

ペンドレッド症候群(Pendred症候群)

ペンドレッド症候群(Pendred症候群)とは

ペンドレッド症候群(Pendred症候群)は、甲状腺濾胞細胞内に取り込んだヨウ素(ヨード)を濾胞腔に輸送する陰イオン交換タンパク質(ペンドリン)の異常です。

ペンドレッド症候群(Pendred症候群)は、常染色体劣性遺伝(homo型)の時(1万人に1人)のみ発症し、

  1. 進行性、変動性の重度感音性難聴・混合性難聴、反復性めまい
  2. 軽度甲状腺機能低下症・あるいは甲状腺腫

が特徴です。日本では推定4000人患者がいるとされます。

常染色体優性遺伝型(hetero型)のペンドレッド症候群(Pendred症候群)は、かなりの数と予想されますが、症状は皆無で臨床的な問題になりません。

ペンドレッド症候群(Pendred症候群)

ペンドレッド症候群(Pendred症候群)の遺伝子変異

ペンドレッド症候群(Pendred症候群)は遺伝子検査で、約50%にSLC26A4遺伝子(PDS遺伝子)変異が認められます(Eur J Endocrinol. 2015 Feb;172(2):217-26.)。FOXI1遺伝子(患者の1%以下)とKCNJ10遺伝子の変異も報告されていますが、少数です(BMC Med Genet. 2013 Aug 21;14:85. )。

日本人ではSLC26A4遺伝子(PDS遺伝子)のHis 723 Arg (H723R)変異を約3/4に認めます。[Eur Arch Otorhinolaryngol. 2005 Sep;262(9):737-43.][Acta Otolaryngol. 2000 Mar;120(2):137-41.]

ペンドレッド症候群(Pendred症候群)の診断は遺伝子検査しなければ付きません。長崎甲状腺クリニック(大阪)では扱っておりません。

重度感音性難聴

ペンドレッド症候群の重度感音性難聴は、

  1. 難聴の増悪・寛解を繰返し(変動性)、突発性難聴としてステロイド治療を繰り返している事があります。
  2. 純音聴力検査では、両側性、特に高音域が低下。低音域では気導骨導差あり。
  3. 側頭骨CTで側頭骨異常(両側前庭水管拡大、蝸牛低形成)があり、突発性難聴でないのは明白ですが。
ペンドレッド症候群 前庭水管 CT画像

ペンドレッド症候群 蝸牛頂 CT画像;のう胞化した蝸牛頂(EPOS DOI: 10.1594/ecr2015/C-0414)

ペンドレッド症候群 前庭水管 CT画像

ペンドレッド症候群 前庭水管 CT画像;両側前庭水管拡大(EPOS DOI: 10.1594/ecr2015/C-0414)

ペンドレッド症候群 人工内耳

ペンドレッド症候群の重度感音性難聴では、補聴器が不十分な場合、人工内耳の適応となります。人工内耳は、難聴が早期診断された場合には有効で、言語発達良好です。難聴診断が遅れた場合、人工内耳を装用しても言語発達は困難です。

蝸牛の中の人工内耳電極先端部

人工内耳の電極先端部

軽度甲状腺機能低下症・甲状腺腫

ペンドレッド症候群では、軽度甲状腺機能低下症あるいは甲状腺腫(約50%)のみ。サイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)を除く他の先天性甲状腺ホルモン合成障害と同様にサイログロブリンのみ高値。

ペンドレッド症候群の甲状腺機能低下症は軽度なため、腺腫様甲状腺腫の状態でもパークロレート(Perchlorate)放出試験は陰性(正常判定)になる事があります。(第60回 日本甲状腺学会 P1-10-3 Pendrin遺伝子にgermlineの片アレル変異を認めたPendred症候群の1例)

チュニジアの3家系43人のペンドレッド症候群患者では、両側性感音難聴(87.5%)、混合難聴(12.5%)、甲状腺腫(46.5%)、甲状腺ホルモン全例正常、パークロレート(Perchlorate)放出試験も全例陰性(正常判定)[Eur Ann Otorhinolaryngol Head Neck Dis. 2010 Mar;127(1):7-10.]。

※パークロレート(Perchlorate)放出試験;パークロレイト服用後のI-123 摂取率の低下で、ヨード有機化障害の有無を調べる検査)。10%以下は正常、10~20%は判定保留(軽度放出有り)、20%以上は放出試験陽性。

非常に稀で、原因も不明ですが、ペンドレッド症候群に甲状腺機能亢進症を合併した症例が報告されています。(第58回 日本甲状腺学会 P2-12-1 甲状腺機能亢進症を合併したPendred症候群の1例)

また、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性で、橋本病(慢性甲状腺炎)を合併しているため、ペンドレッド症候群と気付かれない場合も多く存在すると予測されます。(第53回 日本甲状腺学会 P32 新規変異が認められたPendred症候群の一例)[J Clin Endocrinol Metab. 1999 Aug;84(8):2736-8.]

そもそも、バセドウ病橋本病いずれも高率にSLC26A4遺伝子(PDS遺伝子)変異を有しています(それぞれ47.0%, 37.5%)。ただ、発症するか否かは別問題です。[Int J Immunogenet. 2013 Aug;40(4):284-91.][J Clin Endocrinol Metab. 2003 May;88(5):2274-80.]

非常に稀ですが、ペンドレッド症候群に甲状腺癌が発生した報告があります。

  1. 濾胞型甲状腺乳頭癌(FVPTC)
    p53変異が認められた(Endocr Pathol. 2016 Mar;27(1):70-5.)
    ②1卵性双生児で(Endocr J. 2013;60(6):805-11.)
  2. 甲状腺濾胞癌
    広汎浸潤型濾胞癌(J Laryngol Otol. 1978 May;92(5):435-9.)()
    ②未分化転化し未分化癌に(Thyroid. 2001 Oct;11(10):981-8.)
    乳癌を合併(Surg Today. 1998;28(6):673-4.)
    ④甲状腺ホルモンを産生する機能性甲状腺癌(Cancer. 1991 Apr 15;67(8):2191-3.)

なぜか、この2種類です。

新規のSLC26A7遺伝子変異

SLC26A7遺伝子変異

甲状腺濾胞細胞の管腔側には、ペンドレッド症候群(Pendred症候群)の原因となるSLC26A4(Pendrin:ペンドリン)とは別のヨード トランスポーター[濾胞細胞に取り込んだヨード(ヨウ素)を濾胞腔まで運ぶ]SLC26A7 が存在し、SLC26A4(Pendrin:ペンドリン)を代償する機能があります。(杏林大学医学部HPより改変)

※SLC5A5=NIS(Naヨウ素シンポーター)→NIS遺伝子異常症

杏林大学医学部病理学講座で発見された新たなヨード トランスポーター、SLC26A7 の遺伝子変異は、先天性甲状腺機能低下症の原因となり、その家系も見つかっています(Commun Biol. 2019 Jul 24;2:270.)(JCI Insight. 2018 Oct 18;3(20):e99631.)。

SLC26A7 遺伝子変異による先天性甲状腺機能低下症は、常染色体劣性遺伝ですが、ペンドレッド症候群(Pendred症候群)と異なり、

  1. 新生児マススクリーニングに引っ掛かる重症甲状腺機能低下症
  2. 甲状腺腫大がある事も無い事も
  3. 難聴を伴わない

などの特徴があります。

SLC26A7遺伝子変異の家系

SLC26A7遺伝子変異の家系;常染色体劣性遺伝で、両親から変異遺伝子を1つずつ受け継いだ時のみ発症します。(JCI Insight. 2018 Oct 18;3(20):e99631.)

SLC26A7遺伝子変異 超音波(エコー)画像

SLC26A7遺伝子変異 超音波(エコー)画像;甲状腺腫大ある場合

CRYM(マイクロ クリステリン異常症)

甲状腺ホルモン(T3:トリヨードサイロニン)を細胞の中で輸送するタンパク質のマイクロ クリステリン(μ-crystallin:CRYM)に先天的な遺伝子異常があると、難聴になります。甲状腺ホルモンの血中濃度は正常です。

(右)日本甲状腺学会雑誌 April 2014 Vol.5 No.1 26-31.

CRYM(マイクロクリステリン)異常症

急激な甲状腺機能低下症で聴覚機能低下

甲状腺癌で甲状腺全摘出後、急激な甲状腺機能低下症により、聴力閾値が上昇し、蝸牛のコルチ器の機能が(明らかな難聴にならない程度に)低下します。(Eur Arch Otorhinolaryngol. 2013 Nov; 270(11):2839-48.)

自己免疫性内耳疾患(IMIED)と甲状腺

自己免疫性内耳疾患(IMIED)は、突然の感音難聴で発症。約18%が橋本病(慢性甲状腺炎)を合併し、

  1. 約2/3は両側性難聴
  2. 甲状腺ホルモン剤(レボチロキシン)で甲状腺機能が正常化しても感音難聴は改善しません。副腎皮質ステロイド剤投与でのみ改善
  3. Treg細胞およびCD4+CD45RO細胞の関与する免疫異常が存在

(Acta Otorrinolaringol Esp (Engl Ed). 2019 Jul-Aug;70(4):229-234.)

骨形成不全症

骨形成不全症は、約2-3万人に1人発症する常染色体優性遺伝(軽症)、常染色体劣性遺伝(重症)性疾患。

I型コラーゲンの遺伝子変異(COL1A1,COL1A2)で、

  1. 全身の骨が脆く、すぐに骨折する→妊娠出産、加齢で悪化
  2. 骨が変形し骨痛、成長障害、脊柱・胸郭変形による呼吸機能障害(肺機能低下)
  3. 歯牙(象牙質)形成不全
  4. 青色強膜
  5. 難聴
  6. 関節皮膚の過伸展
  7. 心臓弁膜症(大動脈弁、僧帽弁)

など、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)と似たような症状です。治療はビスフォスフォネート製剤が有効。合成副甲状腺ホルモン製剤テリパラチド(フォルテオ®、テリボン®)投与禁忌。

骨形成不全

甲状腺関連の上記以外の検査・治療     長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

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長崎甲状腺クリニック(大阪)


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