甲状腺/糖尿病と真菌 免疫不全 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックに特化するため、糖尿病内科を廃止しました。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では感染症治療を行っておりません。
糖尿病:専門の検査治療[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺専門・内分泌代謝・動脈硬化の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学医学部附属病院(現、大阪公立大学医学部附属病院) 代謝内分泌病態内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など) 糖尿病編 をクリックください
Summary
甲状腺機能低下症と糖尿病は免疫不全のため日和見感染、感染症の重症化。真菌ニューモシスチスは稀に甲状腺に感染、ニューモシスチス肺炎の予防にST合剤(バクタ®)、アトバコン(サムチレール®)。ハトの糞で感染するクリプトコッカス・ネオフォルマンスのクリプトコッカス髄膜炎は真菌性髄膜炎の約90%で亜急性発症。慢性粘膜皮膚カンジダ症は、小児期から繰り返すカンジダ食道炎・口内炎で、副腎皮質機能低下症(アジソン病)や甲状腺機能低下症/橋本病を合併し、多腺性自己免疫症候群1型。体部白癬は水虫の菌(白癬菌)による環状紅斑、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の発汗過多で蒸れると起こり易い。
Keywords
甲状腺機能低下症,糖尿病,免疫不全,真菌,ニューモシスチス,クリプトコッカス髄膜炎,カンジダ,白癬,甲状腺,バセドウ病
甲状腺と糖尿病
1型、2型糖尿病問わず甲状腺疾患の合併が多いとされます。詳しくは 甲状腺と糖尿病 を御覧下さい
甲状腺機能低下症と免疫力低下には、いろいろな意見があります。甲状腺ホルモンの低下そのものが、免疫系統に直接影響する証拠はありません。ただし、最近の基礎医学研究では甲状腺ホルモンそのものが免疫細胞に直接影響する結果が大半を占め、感染防御に大きな役割を担う可能性があります(甲状腺と自然免疫 )。
甲状腺機能が低下した状態では、全身の新陳代謝低下と、低体温による2次的な免疫不全が存在します。
例え、甲状腺機能低下症の方でも、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)で血中甲状腺ホルモン濃度を正常範囲にコントロールすれば、正常な人と同じ免疫力になります。
しかしながら、甲状腺機能低下症が見逃されたり、甲状腺機能低下症と診断されても患者自身が治療を放棄、あるいは甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)補充を開始して間がなく、血中甲状腺ホルモン濃度が正常範囲に到達していない状態では免疫不全の状態です。(第58回 日本甲状腺学会 P2-10-6 急速に進行した甲状腺機能低下症にRamsay Hunt症候群を認めた83歳女性の一例)
糖尿病の高血糖下では免疫細胞の働きが妨げられ、免疫不全状態にあります。感染症を起こしやすくなり、通常なら感染しないような弱毒菌に感染する日和見感染をおこします。また、体内で発生した癌細胞を駆除できず、癌が進行します、
真菌ニューモシスチス属の1菌種、Pneumocystis jirovecii(ニューモシスチス・イロベチイ)は、細胞性免疫不全患者にニューモシスチス感染症を引き起こします。甲状腺・副腎に病変を形成しても臨床的に問題になることは稀で、ほとんどがニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneuminia:PCP)です(Clin Microbiol Rev. 1997, 10 (3): 401-418.)。
糖尿病のみでは発症しません。非AIDS性ニューモシスチス肺炎は急速に進行し、致死率40%とされます。
ニューモシスチス肺炎の症状は乾性咳嗽、労作時の息切れ・呼吸困難。
呼吸音に異常を認めない場合、吸気終末にfine crackles を聴取する場合もある。(拘束性換気障害、肺拡散能障害)
ニューモシスチス肺炎の予防
難治性・再発性の亜急性甲状腺炎で
- 30mg以上の大量のプレドニゾロンが必要とされる場合
- プレドニゾロン換算20mg以上で1カ月以上投与する場合
ニューモシスチス肺炎の予防に
-
ST合剤(バクタ®):最も有効な抗菌薬だが、副作用の頻度が高い(発熱、発疹、消化器症状、血球減少、高カリウム血症)
-
アトバコン(サムチレール®):ニューモシスチスに特化した抗真菌薬で、ST合剤に比べて副作用が出にくい(吐き気・下痢、まれに白血球減少)
サムチレール内用懸濁液15%;1日1回10mL -
ペンタミジン(ベナンバックス®)吸入;元々、注射薬なので倫理委員会の承認がいる
ニューモシスチス肺炎予防薬でメトヘモグロビン血症
ニューモシスチス肺炎予防薬でメトヘモグロビン血症を起こす危険があります。
ニューモシスチス・カリニ甲状腺炎
ニューモシスチス・カリニ甲状腺炎は、後天性免疫不全症候群の患者に発症します。ニューモシスチス・カリニ肺炎予防のためのペンタミジン吸入でニューモシスチス・カリニ甲状腺炎は防げません。むしろ、ペンタミジン吸入が肺外ニューモシスチス症の誘因とも考えられます。ニューモシスチス・カリニ甲状腺炎は、亜急性甲状腺炎に似た臨床症状です。ニューモシスチス・カリニ甲状腺炎の診断は、穿刺細胞診で得られた標本のゴモリ銀メテナミン染色。[Arch Intern Med. 1993 Feb 8;153(3):393-6.][Acta Cytol. 1996 Mar-Apr;40(2):307-10.]
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、ニューモシスチス・カリニ甲状腺炎の診療は行っておりません。
免疫不全状態で、
- 胃クリプトコッカス症およびクリプトコッカス甲状腺炎(真菌性甲状腺炎)を伴う播種性クリプトコッカス症をおこした報告があります[IDCases. 2021 Apr 27;24:e01141.].
- 甲状腺結核とクリプトコッカス甲状腺炎を同時に認めた報告があります[Scand J Infect Dis. 2003;35(1):68-70.]。
甲状腺浸潤を伴う縦隔クリプトコッカス症が報告されています[Med Mycol Case Rep. 2019 Apr 27;24:93-96.]。
内因性真菌性眼内炎
内因性真菌性眼内炎は、甲状腺癌など血管内カテーテル留置中で、さらに甲状腺機能低下症、糖尿病の免疫不全が加われば起こり易くなります。
内因性真菌性眼内炎は、カンジダ菌が90%を占め、カンジダ血流感染の15%に内因性真菌性眼内炎を起こします。
内因性真菌性眼内炎は、全身真菌症が先行し、1週間程で眼症状が出ます。両眼に生じることが多く失明の危険が高いです。
カテーテル感染症が疑われたら、直ちにカテーテルを抜去しなければなりません(抜去後は別の場所からカテーテル再挿入)。
血液培養、カテーテル先端部の培養を行い、カンジダ菌が出たら、コンタミネーション(汚染)との鑑別も含めて、眼科に内因性真菌性眼内炎の有無を調べてもらう必要があります。
(1→3)-β-Dグルカン:肺カンジダ症の90%, アスペルギルス症の80%, ニューモシスチス肺炎など深在性真菌感染症で陽性。 クリプトコッカスとムコールは陰性
カンジダ属の大多数は抗真菌剤フルコナゾール耐性・無効であるため、全身カンジダ症にはキャンディン系のミカファンギン・カスポファンギンなどの全身投与を行います。また、フルコナゾールはアスペルギルスにも無効なのでキャンディン系抗真菌剤の方が良いと思います。
慢性粘膜皮膚カンジダ症
慢性粘膜皮膚カンジダ症(chronic mucocutaneous candidasis:CMCC)は、小児期から繰り返す粘膜・皮膚のカンジダ感染症です。成人女性の再発性のカンジダ食道炎・口内炎で診断される例もあります。
慢性粘膜皮膚カンジダ症(CMCC)は副腎皮質機能低下症(アジソン病)や甲状腺機能低下症/橋本病など自己免疫性内分泌疾患を合併する事があります。(APS(多腺性自己免疫症候群)1型)
カンジダ食道炎(食道カンジダ症)
カンジダ食道炎(食道カンジダ症)は、真菌(カビ)のカンジダ菌が食道で繁殖したものです。
カンジダ症食道炎(食道カンジダ症)は、健常人でも発症しますが、免疫が低下した状態、
- 慢性粘膜皮膚カンジダ症(CMCC)
- 栄養不良
- 高齢、悪性腫瘍の治療中・経過観察中(担癌者)
- ステロイド剤(吸入薬含む)、免疫抑制剤投与
- コントロール不良の糖尿病
- AIDS(エイズ)
- プロトンポンプ阻害薬を服用中;胃酸分泌抑制による殺菌作用の低下。およびNK活性、LAK活性、リンパ・好中球の機能を抑制する作用が報告されています(Scand J Immunol 1996;44:204-14.)
-
白血病や悪性リンパ腫の5%に発生(Acta Med Scand,175:455-459, 1964.)
などで発症しやすいです。
カンジダ腟炎・外陰カンジダ症
カンジダ腟炎・外陰カンジダ症とは
カンジダ腟炎・外陰カンジダ症と甲状腺
分娩時に使用するポビドン-ヨウ素産科クリーム(OADクリーム)では、
- 外陰部の細菌に対する全体的な根絶率は74.7%、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の根絶率23.1%
- 膣全体の細菌根絶率は56.1%、カンジダ・アルビカンスおよびラクトバチルス属の根絶率はそれぞれ9.1%と29.4%。
- 新生児の約5.6%で一過性のTSH上昇(>15 μIU/mL)を認めた
[Postgrad Med J. 1993;69 Suppl 3:S49-57.]
カンジダ膣炎、トリコモナス膣炎、非特異的膣炎に罹患した甲状腺機能正常女性に、ポビドン-ヨウ素膣ペッサリーを1日2回 x 14日間投与した結果、
- 膣分泌は82%で消失、残りの18%は部分的な改善を認めた
- 甲状腺機能に影響なく、血中ヨウ素(ヨード)濃度に変化はなかった
[Postgrad Med J. 1993;69 Suppl 3:S39-42.]
糖尿病などの免疫不全でおこる体部白癬は、水虫の菌(白癬菌)によるもので、環状紅斑の最も多い原因です。体部に境界明瞭な紅斑ができたら、第一に体部白癬を疑います。環状に遠心性に拡大し、落屑を伴います。両耳にできる事もあります。
体部白癬は水虫なので非常に痒く、ステロイド軟膏塗布により増悪・拡大します。
体部白癬の診断は、鱗屑を採取してKOH溶液に浸し、顕微鏡で直接鏡検すれば確定します。
体部白癬の治療は、抗真菌薬の外用。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の発汗過多で蒸れると起こり易くなります。
他にも環状紅斑をおこすのは、橋本病(慢性甲状腺炎)合併シェーグレン症候群(ドライアイ,口内乾燥)です。
全身性炎症反応症候群(SIRS:systemic inflammatory response syndrome)は、敗血症も含めて、大量の炎症性サイトカインによる全身性の急性炎症反応です。SIRSは多臓器不全(MOF)へ発展する点が重要で、炎症性サイトカイン(TNF-α、インターロイキン-1β、インターロイキン-6など)の測定が推奨されます。
全身性炎症反応症候群(SIRS)では、
- 体温:38度以上、ないし36度以下
- 脈拍90回/分以上
- 呼吸数増加(20回/分以上)またはPaCO2が32 Torr以下
- 白血球数12,000/μL 以上、ないし4,000/μL 以下。あるいは未熟顆粒球が10%以上
になります。
糖尿病の免疫不全でおこる敗血症、甲状腺クリーゼでは確実に基準を満たします。ステロイドパルス療法、持続的血液透析濾過療法(CHDF)、PMX(エンドトキシン吸着療法)などを要します。
全身性炎症反応症候群(SIRS)患者では、甲状腺刺激ホルモン(TSH)値が低く、血清コルチゾール濃度が高くなり、患者の予後の悪さに相関します[Zhongguo Wei Zhong Bing Ji Jiu Yi Xue. 2007 Mar;19(3):160-4.]。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区も近く。