食中毒菌(サルモネラ,エルシニア,カンピロバクター,リステリア,ビブリオ・バルニフィカス)と甲状腺、糖尿病[橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックに特化するため、糖尿病内科を廃止しました。
また、長崎甲状腺クリニック(大阪)は、感染症の診療を行っておりません。
糖尿病:専門の検査治療[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺専門・内分泌代謝・動脈硬化の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等 糖尿病編 をクリックください
Summary
生卵・生肉の食中毒菌サルモネラによる急性化膿性甲状腺炎は①50歳前後の男女に多い②下咽頭梨状窩瘻の無い右側に多い③血行性感染で治癒後の再発は無い。低温細菌、エルシニア菌体表面の蛋白質とTSH受容体のアミノ酸構造が類似し、エルシニア抗体とTSH受容体抗体(TRAb)が交差反応して甲状腺機能亢進症/バセドウ病発症の説あり。カンピロバクター食中毒(生肉感染、カンピロバクター腸炎)、リステリア(リステリア髄膜炎)、ビブリオ・バルニフィカス(生牡蠣・刺身感染、壊死性筋膜炎)は糖尿病、高齢者、妊婦、乳幼児など免疫低下している人で重症化。
Keywords
食中毒,サルモネラ,甲状腺,エルシニア,バセドウ病,カンピロバクター,リステリア,ビブリオ・バルニフィカス,糖尿病,免疫低下
食品衛生法第58 条により「食中毒患者を診断し、または死体を検案した医師は、直ちに(24 時間以内に)最寄りの保健所長に届け出る」ことが義務付けられています。
食中毒患者数(2022年度)で最も多いのはノロウイルス感染症、次いで糖尿病ガス壊疽の起因菌であるウェルシュ菌(Clostridium perfringens)です。
厚生労働省は、8月を「食品衛生月間」と定め、食中毒予防の三原則「つけない」「増やさない」「やっつける」を呼びかけています。
農林水産省のHPでは、お弁当づくりによる食中毒を予防する方法として、
- 菌の繁殖を防ぐため、ごはんやおかずを冷やしてから詰める
- 菌が移るのを防ぐため、おかずの汁気をよく切る、仕切りや盛り付けカップを使用する
のを推奨しています。
厚生労働省による避難所における感染症発生のリスクアセスメントで、新型コロナウイルス感染症と食品媒介性感染症(感染性胃腸炎、食中毒)リスク評価はもっとも高い「3」です。高温多湿の環境下、十分に衛生管理ができない場所で、食材、弁当などが感染源になる危険性があります。避難所での感染性胃腸炎や食中毒が過去に発生しています。
早い話、免疫不全の人は、生ものは食べずに火を通す事です。これは有史以来の人間の知恵です。どんな病原菌も高熱で死滅します。果物も、野菜も過熱すれば、o-157も、サルモネラ菌もすべて死滅し、感染は起こりません。
「舞姫」で有名な文豪、森鴎外の本職は医師であり、細菌学を専攻していました。そのため、雑菌に警戒心が強く、生水を飲まず、果物も煮て食べました。
サルモネラによる急性化膿性甲状腺炎
なんと、なんと、サルモネラによる急性化膿性甲状腺炎が報告されています[耳鼻咽喉科臨床 2003;96(7)629-635]。50歳の女性で、下咽頭梨状窩瘻無く、胃腸炎の既往も無いのに、Salmonella Anatumの感染だったそうです。
過去のサルモネラによる急性化膿性甲状腺炎の報告では、Salmonella Typhi、Salmonella Enteritidis、Salmonella Braudeuburg、Salmonella Paratyphi A、Salmonella Cholerae、Salmonella Panamaが同定されています。(Clin Infect Dis. 1995 Jan;20(1):196.)
また、それらの報告例は、
- 50歳前後の男女に多い(下咽頭梨状陥凹瘻は子供に多い)
- 下咽頭梨状陥凹瘻の無い右側に多い
- 治癒後の再発は無い(下咽頭梨状陥凹瘻は、塞ぐか、摘出しない限り、高率に再発)
ため、血行性感染が考えられます。
では、一体どこからサルモネラ菌が体内に侵入したのでしょうか?胃腸炎が無いので経口感染とは考えにくい、汚染された卵や食品を食べた線は薄くなります。ならば、直接、傷口から侵入した可能性が高くなります。汚染された食材を料理した、あるいはカメ関連サルモネラ症が考えられます。
カメ関連サルモネラ症
カメ等の爬虫類は糞便中のサルモネラ保菌率が50~90%と異常に高く(Vet Microbiol 84: 79-91, 2002)、亀自体を触ったり、水槽を掃除したりすれば感染する可能性があります。日本の生態系の破壊者、特定外来生物ミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)から感染する確率が最も高いと予測され、2022年、ようやく全面輸入禁止になりました(池の水全部抜く大作戦を見てください!)。遅すぎる、行政は何やっとった!
腸チフス
サルモネラ菌で可逆性の脳梁膨大部病変を伴う軽症脳炎/脳症 (MERS)
サルモネラ菌で可逆性の脳梁膨大部病変を伴う軽症脳炎/脳症 (MERS) を起こす可能性があります。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の発症に関与
エルシニア(Yersinia enterocolitica) 菌体表面の外膜蛋白質とTSH受容体のアミノ酸構造が類似し、エルシニア抗体とTSH受容体抗体(TRAb)が交差反応をおこすのが、甲状腺機能亢進症/バセドウ病発症の1因とする説があります[Science. 1983 Mar 18;219(4590):1331-3.][Endocrinol Jpn. 1989 Jun;36(3):381-6.](J Clin Endocrinol Metab 95:4012-4020, 2010) 。
バセドウ病患者のエルシニア(Yersinia enterocolitica)抗体保有率は47~76%で、過去に感作されている事が多いとされます(Thyroid 12:613-617, 2002)。
エルシニア(Yersinia enterocolitica)の菌血症を伴う甲状腺クリーゼ
エルシニア(Yersinia enterocoliticaが甲状腺機能亢進症/バセドウ病の発症に関与すると言う仮説を裏付ける様に、エルシニア(Yersinia enterocolitica)の菌血症を伴った甲状腺クリーゼの症例報告があります。(小児感染免疫 2012; 24(3):258-261)
ペスト菌(Yersinia pestis)
ペスト菌(Yersinia pestis)もエルシニアの一種で、1300年代半ばの中世ヨーロッパで猛威を振るい(パンデミック)、黒死病と恐れられました。当時のヨーロッパ人口に対する1/3(約2500万人)がペストで死亡しました。
当時の絵画を見ると、死体を片付ける人たちは、皆マスクを着用して、直接死体を触らない様にしています。
「吸血鬼ノスフェラトゥ」という異彩を放つドラキュラ映画の名作があります。これは黒死病の蔓延と、原因となるネズミの異常発生が吸血鬼の仕業(ドラキュラ伯爵の棺桶からネズミが湧いて出た)に見立てています。ペスト菌が日光や熱に弱いのは吸血鬼と共通です。印象的なのは、死から逃れられないと開き直り、ネズミがウヨウヨいる中で会食を楽しむ人々の姿です。
1894年、香港で流行していたペストの調査へ行った北里柴三郎(2024年から1000円札の肖像画)は、患者の血液からペスト菌を発見します。さらに、ペスト菌を媒介するのがネズミであるのを突き止め、ネズミを駆除してペストを終息させました。
急性大腸型の感染性腸炎で発生件数が最も多いカンピロバクター食中毒(カンピロバクター腸炎)は、鶏レバーやささみの刺身(鳥刺し)、鳥わさ/鶏のタタキ、加熱不足の調理品、鶏卵、牛生レバーが原因。生の鶏肉を水で洗うとカンピロバクターを含んだ汚染水が飛散し、シンクや周りの食材が汚染される危険があります。生の鶏肉の水気はキッチンペーパーなどで拭き取るのが良い。
厚生労働省の平成26年度報告では鶏もも肉、鶏むね肉のカンピロバクター汚染率は約40%です。、
同じ食材ではサルモネラ菌、大腸菌、リステリアなどの可能性もあり、これらの汚染を加えるとさらに数値は大きくなります。
カンピロバクター食中毒(カンピロバクター腸炎)の潜伏期間は2~7日。
カンピロバクターは食中毒の病原体として、
- 国内ではノロウイルス(ウイルス性小腸型腸炎)と並んで多い
- 旅行者下痢症の起炎菌としても、毒素原性大腸菌に次いで多く、東南アジアで感染してくる可能性あり
起因菌はCampylobacter jejuniとCampylobacter coliで、前者が多い。
糖尿病患者、高齢者、妊婦、乳幼児など免疫低下している人は重症化。
カンピロバクター食中毒(カンピロバクター腸炎)の潜伏期間は2~7日ですが、2週間弱のことがあります。症状は、
- 発熱(細菌性の大腸型腸炎)
- 腹痛
- 水様下痢
- 悪心はあるが、嘔吐はない(細菌性の大腸型腸炎)
便グラム(Gram)染色・便培養を行いつつ、カンピロバクター食中毒(カンピロバクター腸炎)はマクロライド剤(クラリスロマイシンなど)で治療します。便グラム(Gram)染色では炎症による白血球と、小型のらせん状のグラム(Gram)陰性桿菌を認めれば、培養結果を待たずにカンピロバクター腸炎と診断できます。
カンピロバクター 便グラム(Gram)染色[BMJ Case Rep. 2014 Jan 28;2014:bcr2013202876.]
ただし、マクロライド剤自体に腹痛、下痢、嘔吐の副作用があるので、腸炎症状を悪化させる可能性もあります。ニューキノロン剤は消化器系の副作用は少ないが、ニューキノロン耐性カンピロバクターも増えているので効果が無い可能性もあります。
軽症のカンピロバクター腸炎は自然治癒します。
カンピロバクター腸炎が完治後、ギランバレー症候群を発症することがあります[J Autoimmun. 2005;25 Suppl:74-80.]。
カンピロバクター腸炎の予防は、食肉を十分に加熱調理(中心部を75℃以上で1分間以上加熱)することです。
Campylobacter fetusは稀な日和見感染症の原因菌であるが、
- 甲状腺機能亢進症患者で甲状腺膿瘍を形成した[Acta Clin Belg. 2007 Mar-Apr;62(2):130-3.]
- のう胞性腫瘍(嚢胞性腫瘍)内感染による急性化膿性甲状腺炎をおこした[IDCases. 2019 Dec 19;19:e00681.]
報告があります。
ビブリオ・バルニフィカス(vibrio vulnificus)は、暖かい海水中の貝類、甲殻類、魚介類の表面に付着、
- 生牡蠣・刺身の摂取
- 皮膚の創傷に、汚染された海水が掛かる
- 海岸や岩場を裸足で歩き、貝殻を踏む
- 山奥の温泉でも海水と同じ成分なら傷口から入る
などで感染します。肝硬変や免疫力低下時に重症化、敗血症、壊死性筋膜炎をおこすと致死率50~70%。
人食いバクテリ、劇症型溶血性連鎖球菌感染症(Toxic Shock-like Syndrome)による壊死性筋膜炎と鑑別要。
リステリア菌は特徴的なグラム陽性杆菌(長方形の菌)です。生野菜や生肉、メロンなどの果物、低温殺菌されていない乳製品・チーズを介して感染、食品製造工場における二次汚染もあります。
健康成人は軽い胃腸炎で済みますが、高齢者、糖尿病や甲状腺機能低下症・下垂体機能低下症の免疫不全者、妊婦、乳幼児は髄膜炎や敗血症をおこして重篤(重症)化。50-60歳以上の細菌性髄膜炎は、肺炎球菌、髄膜炎菌の他、リステリア菌を考えねばなりません。[Open Life Sci. 2023 Nov 8;18(1):20220738.]
中枢神経系のリステリア菌感染症は致命的で、脳脊髄液培養は陽性率が低い。
自己免疫性脳炎および脱髄疾患が合併もしくは誘発されることがある[Front Public Health. 2022 May 12;10:848868.]。
黄色ブドウ球菌食中毒は、耐熱性毒素のエンテロトキシンによる毒素型食中毒なので、食前加熱は無効。ちなみに、食前加熱が無効な食中毒としては、他にフグ中毒(テトロドトキシン)があります。
病原性大腸菌は、肉類だけでなく生野菜(カイワレ大根、もやしなど)からも感染します。また、汚染されたプールの水からも感染します。潜伏期間は12~24 時間。病原性大腸菌の中でも、腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌)は溶血性尿毒症症候群(HUS)をおこすため、第3類感染症(全数把握、診断後直ちに届け出)・学校保健安全法の第3種学校感染症(学校医その他の医師において感染の恐れがないと認めるまで出席停止)に指定されています。
大腸菌(E.coli)が原因で、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症女性に発症した急性化膿性甲状腺炎の報告があります[Eur J Case Rep Intern Med. 2021 Nov 19;8(11):003009.]。
その他、大腸菌(E.coli)による急性化膿性甲状腺炎、甲状腺膿瘍の報告は複数あります[J Community Hosp Intern Med Perspect. 2019 Apr 12;9(2):159-161.][Pan Afr Med J. 2012;11:42.]
野生鳥獣肉ジビエブームで食中毒が増えています。加熱不十分な熊肉を食すると、旋毛虫(Trichinella)による食中毒(トリヒナ食中毒)が起こります。厚生労働省も「75℃で1分間以上の加熱」を推奨しています。冷凍処理や乾燥処理は無効。
旋毛虫による食中毒(トリヒナ食中毒)では、筋肉痛や眼瞼浮腫(バセドウ病眼症のよう)、重症例は全身浮腫など、一般的な食中毒では見られない症状が特徴。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。