家族性腺腫様甲状腺腫(家族性多結節性甲状腺腫)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、毎年10-11月に開催される日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など) 糖尿病編 をクリックください。
甲状腺編 では収録しきれない専門の検査/治療です。
Summary
家族性腺腫様甲状腺腫は①遺伝性甲状腺ホルモン合成障害;軽症型は甲状腺機能低下する事なく代償性に甲状腺濾胞細胞の過形成がおこる。橋本病(慢性甲状腺炎)合併すると遺伝性甲状腺ホルモン合成障害軽症型がマスクされ甲状腺機能正常橋本病による腺腫様甲状腺腫のように見える。②DICER1遺伝子変異;40歳までの甲状腺癌の発生リスク高く、DICER1体細胞変異が加わると甲状腺機能性結節、中毒性多結節性甲状腺腫(TMNG)になりる事も。卵巣性索腫瘍、セルトリ・ライディッヒ細胞腫瘍(精巣腫瘍)の合併多い。③Keap1遺伝子変異;毒性化学物質を解毒・排出する遺伝子の変異。
Keywords
家族性腺腫様甲状腺腫,遺伝性甲状腺ホルモン合成障害,甲状腺機能低下,橋本病,DICER1遺伝子変異,甲状腺癌,甲状腺機能性結節,中毒性多結節性甲状腺腫,Keap1遺伝子変異,甲状腺
腺腫様結節 超音波(エコー)画像
甲状腺機能正常な腺腫様甲状腺腫の原因は、家族性腺腫様甲状腺腫が47%、遺伝性甲状腺ホルモン合成障害が28%、残りはその他です(第62回 日本甲状腺学会 国際分子甲状腺シンポジウム SS-2)。
※残りの25%は、
など
遺伝性甲状腺ホルモン合成障害の軽症型(常染色体優性遺伝性の型と、常染色体劣性遺伝でも軽症の型)は、甲状腺機能低下する事なく、代償性に甲状腺濾胞細胞の過形成がおこり、家族性腺腫様甲状腺腫(家族性多結節性甲状腺腫)になります。(遺伝性甲状腺ホルモン合成障害)[Diagn Cytopathol. 2013 Aug;41(8):720-4.]
最も多い原因はサイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)、次は甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)遺伝子変異、DUOX2(Dual oxidase 2) or Thyroid oxidase 2(THOX2) 遺伝子変異です。(第62回 日本甲状腺学会 国際分子甲状腺シンポジウム SS-2)。
橋本病(慢性甲状腺炎)を合併すると、遺伝性甲状腺ホルモン合成障害の軽症例がマスクされ、あたかも甲状腺機能正常橋本病による腺腫様甲状腺腫(多結節性甲状腺腫)のように見えます(橋本病も約70%遺伝です)。
例えば、サイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)に、橋本病(慢性甲状腺炎)を合併すると、
- 橋本病(慢性甲状腺炎)による腺腫様甲状腺腫に見える
- 甲状腺の破壊によりサイログロブリンは高値
- 抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性ならサイログロブリンは偽低値になっても不思議はない
で、いずれにせよサイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)の存在に気が付かないでしょう。
DICER1はRNAse(RNA分解酵素、RNase IIIエンドリボヌクレアーゼ)で、遺伝子の転写後調節に必要なミトコンドリアRNA(miRNA)プロセッシングを行います。DICER1は、甲状腺において甲状腺細胞分化・濾胞内コロイドの維持に関与するとされます。(Endocrinology.2015;156(4):1590-1601)(Cell Cycle. 2017;16(23):2282-2289.)
DICER1遺伝子変異は、常染色体優性遺伝形式に、さまざまな悪性・良性腫瘍を発症する家族性癌感受性症候群です。truncating mutation(タンパク合成が途中で中断される変異)が多く、甲状腺,肺[家族性胸膜肺芽腫(pleuropulmonary blastoma:PPB)],腎,卵巣などの腫瘍、家族性腺腫様甲状腺腫(家族性多結節性甲状腺腫)が発生します(JAMA.2011;305(1):68-77)。
しかし、胚細胞のDICER1遺伝子変異(生まれながらの遺伝子変異)だけでは不十分で、体細胞でのDICER1遺伝子変異(生まれてからの遺伝子変異)が加わることで細胞増殖が優位になり、腺腫様甲状腺腫(多結節性甲状腺腫)を発症します(J Clin Endocrinol Metab. 2017; 102:1614-22.)(J Clin Endocrinol Metab. 2016;101:3637-45.)。
DICER1体細胞変異の種類によっては、甲状腺機能性結節、複数なら中毒性多結節性甲状腺腫(TMNG; toxic multinodular goiter)になります。(J Clin Endocrinol Metab. 2016 Oct;101(10):3637-3645.)
DICER1遺伝子変異は、
- 10歳代から
- 40歳までに女性の75%、男性の20%で
腺腫様甲状腺腫(多結節性甲状腺腫)を発症します(J Clin Endocrinol Metab. 2017; 102:1614-22.)。
日本でも、DICER1遺伝子変異による甲状腺機能正常家族性腺腫様甲状腺腫の家系が初めて報告されました。(第58回 日本甲状腺学会 O-2-5 DICER1遺伝子に胚細胞変異を認めた家族性腺腫様甲状腺腫の一家系)[Horm Res Paediatr. 2020;93(7-8):477-482.]
甲状腺癌(DICER1関連甲状腺癌)の発生
DICER1症候群(DICER1遺伝子変異)における40歳までの甲状腺癌(DICER1関連甲状腺癌)の発生リスクは健常者の16倍です。男性よりも、女性に多い。(J Clin Endocrinol Metab. 2017 May 1; 102(5): 1614–1622.)
DICER1関連甲状腺癌における診断時の平均年齢(±SD)は14.7±6.2歳(7〜28歳)と若年で、女性が70%を占めます。
DICER1関連甲状腺癌は、
- ほとんど低リスクな甲状腺分化癌(主に濾胞型乳頭癌、一部は通常型甲状腺乳頭癌)
- 甲状腺低分化癌
です(J Clin Endocrinol Metab. 2019;104:277-84.)。
(下、DICER1 関連甲状腺癌 [J Clin Endocrinol Metab. 2017 May 1;102(5):1614-1622.])
小児甲状腺濾胞癌の53.3%はDICER1遺伝子変異を有します(その半数は元々DICER1症候群であることが分かっていました)。DICER1遺伝子変異以外には、PTEN過誤腫症候群[コーデン(Cowden)症候群]、PAX8 / PPARγ再構成、複数のヘテロ接合性喪失などです。RAS遺伝子変異またはTERT遺伝子プロモーター領域の変異は認められず。[Thyroid. 2020 Aug;30(8):1120-1131.]
卵巣性索腫瘍、セルトリ・ライディッヒ細胞腫瘍(精巣腫瘍)など多臓器腫瘍の合併
DICER1症候群(DICER1遺伝子変異)は、常染色体優性遺伝性の多系統腫瘍症候群で
- 卵巣性索間質性腫瘍、セルトリ・ライディッヒ細胞腫瘍(精巣腫瘍)の合併が多いです。(Curr Oncol. 2019 Jun;26(3):183-185.)
- 胸膜肺芽腫(特徴的)、肝芽腫、神経芽細胞腫、子宮頚部胎児横紋筋肉腫(特徴的)など
- 松果体芽腫、下垂体芽腫など脳腫瘍
-
鼻腔軟骨中皮性過誤腫、毛様体髄上皮腫
- 多嚢胞腎
を発症。
センサー分子KEAP1は、毒性化学物質を感知して転写因子Nrf2(Nuclear factor erythroid2-related factor 2)を活性化→活性化したNrf2は生体防御遺伝子群の発現誘導を介して
- 毒性化学物質の解毒・排出
- 抗酸化(酸化ストレス、活性酸素から保護)
作用を発現します。
- 正常な甲状腺でのKEAP1発現量は多く、サイログロブリン合成を調節しています(Thyroid. 2018;28:780-98.)
- 甲状腺乳頭癌では、癌細胞のKEAP1突然変異によりNrf2が活性化され、腫瘍の侵襲性と関連している(Front Endocrinol (Lausanne). 2019 Aug 2;10:510.)(J Clin Endocrinol Metab. 2013 Aug;98(8):E1422-7.)
- 甲状腺濾胞癌(好酸性細胞型)でもNrf2経路の変異が見つかっています(Cancer Cell. 2018 Aug 13;34(2):242-255.e5.)
家族性の(胚細胞での)KEAP1遺伝子変異は、常染色体優性遺伝形式、現時点では
- 良性・非中毒性多結節性甲状腺腫(腺腫様甲状腺腫)をおこす(PLoS One. 2013;8:e65141.)(Frontiers Eendocrinol (Lausanne). 2016;7:131.)
- 他臓器の腫瘍との因果関係は無い
何と何と驚きの発表がありました。遺伝性甲状腺ホルモン合成障害の遺伝子変異とDICER1遺伝子変異が同時に存在する報告です。
- サイログロブリン遺伝子変異とDICER1遺伝子変異
- サイログロブリン遺伝子変異およびSLC26A4遺伝子(ペンドレッド遺伝子)変異の重複変異とDICER1遺伝子変異
の共存(第62回 日本甲状腺学会 国際分子甲状腺シンポジウム SS-2)。筆者が調べた限り、2024.4の時点で正式な論文報告を見つけられませんでした。
先端巨大症(成長ホルモン産生下垂体腺腫)でも甲状腺機能正常の腺腫様甲状腺腫を起こします[先端巨大症(成長ホルモン産生下垂体腺腫)が甲状腺に与える影響]。
先端巨大症(成長ホルモン産生下垂体腺腫)の一部は遺伝子変異によるものです[先端巨大症(成長ホルモン産生下垂体腺腫)の原因]。
コーデン(カウデン,Cowden)症候群
家族性大腸ポリポーシスの一つであるコーデン(カウデン,Cowden)症候群も、常染色体優性遺伝性の腺腫様甲状腺腫をおこします。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,天王寺区,東大阪市,浪速区も近く。