バセドウ病眼症(甲状腺眼症)と鑑別(視神経炎・眼神経障害)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など) 糖尿病編 をクリックください。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では甲状腺眼症:バセドウ病眼症・橋本病眼症、眼の病気の診療を行っておりません。これらは眼科で行うものです。
Summary
甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に合併し、甲状腺眼症(バセドウ病眼症・橋本病眼症)に似ている多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎関連病(NMO-SD)、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、内頸動脈-後交通動脈瘤、海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻、フィッシャー症候群、ビッカースタッフ型脳幹脳炎、眼神経の物理的圧排、糖尿病性単神経(動眼神経など)障害、ウェルニッケ・コルサコフ症候群、進行性核上性麻痺、ボツリヌス菌食中毒、斜視。視神経炎はMRIで甲状腺眼症と鑑別可能。
Keywords
甲状腺機能低下症,橋本病,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,甲状腺眼症,バセドウ病眼症,フィッシャー症候群,ボツリヌス菌,フィッシャー症候群,斜視
視神経炎
眼神経障害 (眼筋の神経支配)
- 眼神経の物理的圧排
- 最悪の内頸動脈-後交通動脈瘤
- 海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻
- フィッシャー症候群
- ビッカースタッフ型脳幹脳炎
- 糖尿病性単神経障害(糖尿病性外眼筋麻痺)
- ウェルニッケ・コルサコフ症候群
- 進行性核上性麻痺
- ボツリヌス菌食中毒
重症筋無力症
眼筋障害
斜視
眼窩底骨折
副鼻腔扁平上皮癌の眼窩内浸潤で眼球突出や複視
6つある眼筋の神経支配は
- 動眼神経;上直筋、内直筋、下直筋、下斜筋
- 外転神経;外直筋
- 滑車神経;上斜筋
眼神経の物理的圧排には
- 内頚動脈による圧排(寛解・増悪を繰り返すことがある)
- 癌性髄膜炎:眼の筋肉を動かす神経(眼神経)・顔面神経(顔の筋肉を動かす・味覚をつかさどる神経)が最初に障害されます。
癌性髄膜炎をおこし、未分化転化した甲状腺濾胞癌(好酸性細胞型)[Hurthle cell carcinoma(ハースル細胞癌、ハーテル細胞癌、ヒュルトレ細胞癌)]の報告があります。[J Clin Pathol. 2007 Jul;60(7):831-2.]
また、乳癌による癌性髄膜炎に橋本脳症を合併した報告もあります。[J Clin Oncol. 2012 Nov 20;30(33):e358-9.]
- 脳動脈瘤による動眼神経麻痺:片側のみの眼瞼下垂・瞳孔散大をおこします
- 内頸動脈海綿静脈洞瘻(硬膜動静脈瘻)は、結膜充血、眼球突出、複視の他、耳鳴り、静脈圧亢進による脳梗塞。治療は血管内手術(海綿静脈洞塞栓術)
海綿静脈洞硬膜動静脈瘻・内頸動脈海綿静脈洞瘻では、動脈から海綿静脈洞へ流れ込んだ血液が、上眼静脈へ逆行します。その場合、
- 外転神経を圧迫し、外転神経麻痺
- 眼球突出
- 眼窩外側縁で血管性雑音
- 眼球結膜、眼瞼の充血・浮腫
- 静脈圧亢進による耳鳴り、脳梗塞
を起こします。
海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻の治療は、血管内治療、海綿静脈洞コイル塞栓術です。
甲状腺眼症に海綿状洞硬膜動静脈瘻を合併した報告があります。第一選択の血管内治療が失敗した後、甲状腺眼症に対する内科治療のみで海綿状洞硬膜動静脈瘻も改善。甲状腺眼症による肥厚性眼筋が静脈出口を圧迫していたのが、海綿状洞硬膜動静脈瘻の根本的な原因と考えられました。[Brain Sci. 2021 Dec 29;12(1):45.]
(左)MRI、T2強調画像、冠状面;左上直筋(白い矢印)が著明肥大。(右)造影MRI、T1強調脂肪抑制画像;わずかに肥大した左上眼静脈(破線矢印)は、上直筋に挟まれています。[Brain Sci. 2021 Dec 29;12(1):45.]
フィッシャー症候群(ミラー・フィッシャー症候群):ギラン・バレー症候群の亜型。呼吸器・消化器系(カンピロバクター、インフルエンザ桿菌)の感染(鶏肉を食べて1週間後発熱)に引き続いて1-3週間後に発症。末梢神経障害によるシビレ、ふらつき(運動失調)、眼を動かす脳神経(動眼神経)が障害され両側性複視(物が二重に見える)がおこり、バセドウ病眼症(甲状腺眼症)と鑑別要。
髄液検査で細胞数少なく、総蛋白上昇し蛋白細胞解離。神経線維のガングリオシドGQ1bに対する血中IgG抗体(抗GQ1b抗体)が出現。カンピロバクター、インフルエンザ桿菌はGQ1b様構造を持つため、抗GQ1b抗体が産生される可能性がある。
- 1型糖尿病で上昇する抗グルタミン酸脱炭酸酵素抗体(GAD抗体)が有意に上昇したGQ1b抗体陰性ミラー・フィッシャー症候群。抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)も陽性。[Int J Neurosci. 2022 Oct;132(10):994-998.]。
- バセドウ病とミラー・フィッシャー症候群の合併[Lancet. 2008 May 31;371(9627):1886.]
- 抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性のミラー・フィッシャー症候群[Poster 120, 2018 North American Neuro-Ophthalmology Society Annual Meeting]
の報告があります。
ビッカースタッフ型脳幹脳炎(Bickerstaff型脳幹脳炎)は、先行感染により誘導された自己免疫が原因の自己免疫性脳幹脳炎で、ギラン・バレー症候群と同様の機序。
ビッカースタッフ型脳幹脳炎では、バセドウ病眼症(甲状腺眼症)のように外眼筋麻痺・顔面神経麻痺・運動失調・甲状腺機能亢進症/バセドウ病に伴う低カリウム性周期性四肢麻痺のような四肢麻痺、意識障害などの症状を呈する。
ギラン・バレー症候群と同じく約70%で血中自己抗体(抗ガングリオシド抗体、IgG 型 GQ1b 抗体)が陽性になる。
進行性核上性麻痺は、急速・重症型のパーキンソン症候群で、橋本病眼症(甲状腺眼症)のような垂直性核上性注視障害(眼球が上下方向に動きにくく、下方が見にくくなる)、甲状腺機能低下症/橋本病のような構音障害・嚥下障害、認知障害をおこします。
ボツリヌス菌は嫌気的な環境下で繁殖するため、瓶詰(蜂蜜)、缶詰、真空パック詰食品(容器包装詰低酸性食品)(からしれんこんなど)、発酵食品の飯寿司(いずし)・キリコミなどを常温で放置した場合は危険。
ボツリヌス菌食中毒は、
- 蜂蜜などに混入したボツリヌス菌が原因でおこります。
- 食中毒症状;悪心・嘔吐のみ、腹痛まれ、発熱ほとんどない
- 眼筋麻痺;複視、散瞳、眼瞼下垂(ボツリヌス菌体外毒素による神経麻痺)
- 口腔乾燥;唾液分泌障害(ボツリヌス菌体外毒素による神経麻痺)
- 呼吸筋(横隔膜・肋間筋)麻痺;呼吸困難(ボツリヌス菌体外毒素による神経麻痺)
ボツリヌス菌食中毒の治療は、早期に抗毒素血清を投与し、人工呼吸管理。
免疫機能が未発達な乳幼児が蜂蜜を摂取すると、ボツリヌス菌食中毒(乳児ボツリヌス症)を起こす危険があるため、1歳未満の乳幼児に蜂蜜は禁忌です。ボツリヌス菌の芽胞は熱に強く、通常の加熱や調理で滅菌できません(120℃4分間以上の加熱が必要)。ハチミツの鎮咳(咳を抑える)効果が報告されており、小児の咳に勧められたりしますが、絶対、乳幼児には使わないでください。[Cochrane Database Syst Rev. 2018 Apr 10;4(4):CD007094.]
ボツリヌス毒素A(A型ボツリヌス毒素、BTX-A)の注射が良性甲状腺眼症(バセドウ病眼症)の上眼瞼後退の治療に有効との報告があります。初回ボツリヌス治療後、
- 上眼瞼後退は約80%で改善
- Dalrymple徴候(正面視で上眼瞼が過度に挙上)は約50%で消失
- Graefe徴候(下方視で上眼瞼の下に白い強膜をみる)はほとんど改善しません。
(Acta Ophthalmol Scand. 2001 Dec;79(6):585-8.)(Br J Ophthalmol. 2017 Aug 9:bjophthalmol-2017-310695.)(Rinsho Ganka 2007;61(8):1509-1512.)
さらに、甲状腺眼症(バセドウ病眼症)の斜視に対してA型ボツリヌス毒素(BTX-A)注射が保険適応に成りました。斜視手術ができない活動期の甲状腺眼症(バセドウ病眼症)に有効で、非活動期になるまでの対症療法(時間稼ぎ)になります。もちろん、非活動期にも有効です。
[South Med J. 2014 Jan;107(1):34-43.][J AAPOS. 2016 Apr;20(2):126-130.e1.]
斜視の症状は
- 立体視ができない
- 小児は片側の視力発達が妨げられる
- 片眼で見るため、眼精疲労が強い
- 見え易い様に首を傾ける斜頸→肩こり、頭痛
外見で明らかに斜視と言えない場合も、ペンライトを正面にかざし、目に映るライトの影が黒目を大きく外れていれば斜視と分かります。
眼窩は、眼球が入っている骨のくぼみで、頭蓋骨の眼の部分を想像していただければ良いでしょう。眼窩底骨折は、眼窩の底の骨折です。そもそも眼窩底は薄っぺらい骨なので、交通事故、ラグビー、ボクシングなど強い衝撃が加わると簡単に骨折します。
眼窩底骨折では、目を動かす神経、血管、眼筋などが同時多発性に障害され、複視、眼球運動障害などを起こします。
写真は、1カ月前に左眼部に野球ボールが当たり、複視(物が2重に見える)が続く症例。上を見た状態で、左下直筋の伸展障害により、左眼が上に向きません。ぱっと見では、骨折している様には見えず、野球の話が無ければ片眼性のバセドウ病眼症(甲状腺眼症)と誤認するかもしれません。
外傷性視神経症
外傷性視神経症では、外傷後に視野全体が暗く感じます。対光反射(スインギングフラッシュライトテスト)は、患側眼の光刺激で患側・同側ともに不完全になります。
バセドウ病眼症(甲状腺眼症)と誤認された眼窩の硬膜外血腫の報告があります。ゆっくりと進行したため、硬膜外血腫と分からなかったようです。離れた場所の頭部外傷が原因でした。(J Clin Neuroophthalmol.)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,浪速区,東大阪市,生野区も近く。