伝染性紅斑(リンゴ病)、コクサッキーウイルス、アデノウイルス、RSウイルスと無痛性甲状腺炎・橋本病・バセドウ病・甲状腺癌[長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科(内分泌骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。ウイルスの病気、伝染性紅斑(リンゴ病)、突発性発疹自体の診療を行っておりません。
Summary
伝染性紅斑(リンゴ病)のヒトパルボウイルスB19で無痛性甲状腺炎・橋本病・亜急性甲状腺炎を発症、赤芽球勞・再生不良性貧血も。甲状腺癌(特に甲状腺乳頭癌)との関連を肯定する報告多い。RSウイルスは免疫不全患者(糖尿病、甲状腺機能低下症/橋本病)で重症化。アデノウイルスはプール熱、亜急性甲状腺炎。夏に流行するエンテロウイルス(エコーウイルス、手足口病(ヘルパンギーナ)・劇症型心筋炎のコクサッキーウイルス)は亜急性甲状腺炎の最も多い原因、甲状腺機能亢進症/バセドウ病との関連も報告あり。エボラウイルス病(エボラ出血熱)、デング熱ウイルスも亜急性甲状腺炎。
Keywords
伝染性紅斑,リンゴ病,ヒトパルボウイルスB19,無痛性甲状腺炎,橋本病,亜急性甲状腺炎,アデノウイルス,バセドウ病,コクサッキーウイルス,甲状腺
伝染性紅斑(リンゴ病)で無痛性甲状腺炎・橋本病発症
ヒトパルボウイルスB19感染で無痛性甲状腺炎・橋本病を発症する症例が多く見つかっています。ヒトパルボウイルスB19は、伝染性紅斑(リンゴ病)をおこす他、赤芽球勞(せきがきゅうろう)・血小板減少症・再生不良性貧血の原因にもなります。伝染性紅斑(リンゴ病)に罹り、その経過中に無痛性甲状腺炎・橋本病をおこした報告があります。(第58回 日本甲状腺学会 O-1-2 伝染性紅斑により橋本病を発症したと考えられる17症例)
特に若年女性が伝染性紅斑(リンゴ病)の患児と接触した場合、ヒトパルボウイルスB19に感染する可能性があります。
伝染性紅斑(リンゴ病)
伝染性紅斑(リンゴ病)は、小児が感染すると軽症かつ典型的です。コロナ禍の社会に置いて、子供もマスクをしているため、伝染性紅斑(リンゴ病)にかかっていても、顔面の紅斑がマスクされ気付かれない事があります。
伝染性紅斑(リンゴ病)が流行すると、保育士など子供と接する職業の人・同居する高齢者が感染します。成人の感染では小児と異なり、典型的皮疹を伴わないことが多く、皮疹を伴わないものが約40%あります(感染症誌 83:45~51,2009)。
伝染性紅斑(リンゴ病)の典型的な症状は、
- 38度以上の熱発
- 頬の蝶翼状紅斑、平手打ち様紅斑(写真 皮膚疾患ペディア より)
- 四肢の網目状紅斑
- 多発関節痛:数カ月以上にわたり関節炎が持続して、一過性に抗核抗体(ANA)が陽性になる場合や関節リウマチ・血管炎を起こす場合がある
- 数週間後に無痛性甲状腺炎・橋本病(慢性甲状腺炎)を発症する可能性
- 症状軽快後も日光暴露により再燃し、無痛性甲状腺炎も同時に再燃
と、全身性エリテマトーデス(SLE) に非常に似ています。
成人感染では、
- 38℃台の発熱
- 解熱後1週間しても手指、手関節を中心とした多発関節痛が持続する(二峰性の急性多関節炎)
伝染性紅斑(リンゴ病)の
- 検査所見;軽度の汎血球減少、軽度の肝機能障害、軽度のCRP上昇、CH50低値、抗核抗体弱陽性
- 診断;血中ヒトパルボウイルスB19 IgM抗体陽性
ヒトパルボウイルスB19で無痛性甲状腺炎・橋本病(慢性甲状腺炎)発症おこす機序
ヒトパルボウイルスB19で無痛性甲状腺炎・橋本病(慢性甲状腺炎)を発症する原因は不明です。(Viral Immunol. 2008 Sep;21(3):379-83.)
ヒトパルボウイルスB19は、赤芽球勞・再生不良性貧血の原因にもなる事から、血球系に影響し、自己免疫を抑える制御系に障害をもたらす可能性を考えています。(あくまで、私見ですが)
伝染性紅斑(リンゴ病)で、関節リウマチ・血管炎が起こるのも同じ機序と考えられます。
ヒトパルボウイルスB19で亜急性甲状腺炎
ヒトパルボウイルスB19で亜急性甲状腺炎をおこした報告例もあります(Ugeskr Laeger. 1994 Oct 10;156(41):6039-40.)
ヒトパルボウイルスB19で甲状腺がん
ヒトパルボウイルスB19と甲状腺癌(特に甲状腺乳頭癌)の関連を肯定する報告が増えています。特に興味深いのは、多種の甲状腺組織におけるヒトパルボウイルスB19のDNA、RNA、タンパク質の持続的な発現です。甲状腺乳頭がんおよび良性甲状腺結節患者でパルボウイルスB19感染率が高いとされます[Am J Otolaryngol. 2022 Mar-Apr;43(2):103345.]。ヒトパルボウイルスB19が甲状腺癌の直接的な原因になっている証拠はありませんが、間接的な役割は否定できません。(Tumour Biol. 2017 Jun;39(6):1010428317703634.)
また、ヒトパルボウイルスB19は、タンパク質レベルで甲状腺乳頭癌、橋本病と高い相関を示します。さらに、甲状腺未分化癌 とも相関し、甲状腺未分化癌組織におけるヒトパルボウイルスB19タンパク質の核から細胞質への移動は、何らかの病的意義を持つ可能性があります。(Thyroid. 2011 Apr;21(4):411-7.)
RSウイルス感染症は、小児呼吸器感染症の代表的なもので、風邪から肺炎まで重症度は様々です。急性細気管支炎が有名で、上気道炎が下気道へ及ぶと
- 呼気性喘鳴(鼻水と共に、ヒューヒューした喘鳴が聴こえます)
- 多呼吸、胸骨上部と肋間に陥没呼吸→呼吸困難
- チアノーゼ
が出現します。
以前は秋から初春の感染症でしたが、最近は夏も発生し、ほぼ通年性です。
潜伏期は4-6日、感染力が強く、保育園・小児科病棟では集団発生・院内感染、早い話、アウトブレイクをおこします(新型コロナウイルスに似ています)。隔離が必要で、RSウイルス感染患児を気付かず手術すれば、手術室がウイルス汚染されます。
免疫力が低下した状態で感染すると重症肺炎に至る危険性があります。特に
- 慢性肺疾患、気管支肺異形成症
- 先天性心疾患
- 免疫不全患者(糖尿病、甲状腺機能低下症/橋本病)
- ダウン(Down)症候群;甲状腺機能低下症/橋本病の合併多く、さらに重症化しやすい
- 在胎35 週までの早産
の児が重症化しやすい。免疫力の低下した子供が多数いる小児科病棟のアウトブレイクでは死亡者が出ます。
急性細気管支炎をおこすと、喘息の様なヒューヒュー、ゼイゼイした呼吸になります。
呼吸器以外の合併症として、
をおこす事もあります。
RSウイルス感染症が誘因となり甲状腺クリーゼ をおこした思春期の甲状腺機能亢進症/バセドウ病女性の報告があります(Int J Pediatr Endocrinol. 2011;2011:138903.)。
RSウイルスの診断はRSウイルス迅速測定キットで簡単に行えます。
アデノウイルスはプール熱など夏場に多い印象ですが、春から初夏が最も多く、通年性です。アデノウイルスは亜急性甲状腺炎 の原因ウイルスの一つ(Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2003 May;67(5):447-51.)
アデノウイルスの急性扁桃炎は、ウイルス感染症なのに、細菌感染症と同じく、白血球増多、血清CRP高値と炎症所見を認めます。重症アデノウイルス感染症では血清LDH値上昇、フェリチン高値になります。
流行性角結膜炎の治療は、アデノウイルスに効力のある抗ウイルス薬は存在しないため、
- 細菌の混合感染の予防に抗菌薬点眼
- 角膜上皮下混濁の予防にステロイド点眼
ただし、ステロイド点眼薬で眼圧が上昇するステロイドレスポンダーには、角膜改善作用と消炎作用があるムコスタUD点眼(防腐剤フリー)
※ブロナック点眼は角膜障害を引き起こす可能性があるので、流行性角結膜炎には使用しない方が良い
- コンタクトレンズ装用不可
また、他者に感染させないために
- 流水で頻回に手洗いしてウイルス除去
- 家族よりも後に入浴
- 登校・出勤不可
流行性角結膜炎は学校保健安全法の「第二種感染症」(学校で流行しやすい飛沫感染)で、患児の中学校における出席停止期間は、医師が感染の恐れがないと認めるまでです。
アデノウイルス感染による咽頭結膜熱(プール熱)は、夏のプールで集団発生します。潜伏期間(5〜7日)で、発症する2日前から他人に感染します。咽頭結膜熱(プール熱)の症状は、亜急性甲状腺炎に似ていますが、子供の病気なのでまず間違えることはないでしょう。
- 38-39度の高熱
- 喉(のど)の痛み
- 強烈な結膜炎;充血、流涙、眼脂、眼瞼(まぶた)腫脹
などの症状です。
咽頭結膜熱(プール熱)は、学校保健安全法の「第二種感染症」(学校で流行しやすい飛沫感染)で、患児の中学校出席停止期間は、症状が治まり2日経過するまでです。
アデノウイルス感染による交叉免疫で一般コロナウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルス、インフルエンザウイルスに罹りにくいとされます。(J Infect Dis .2019 May 24;219(12):1913-1923.)
果たして、新型コロナウイルスに対する交叉免疫があるかは不明ですが、日本を含むアジアはアメリカ・ヨーロッパに比べ圧倒的に致死率が低い理由なのかもしれません。(なぜアジアよりアメリカ・ヨーロッパの方が致死率が高いか? )
エンテロウイルスは腸管内で増殖するウイルスの総称で、コクサッキーウイルスやエコーウイルスがあります。日本の無菌性髄膜炎の最も多い原因で(2番目は流行性耳下腺炎のムンプスウイルス)、夏に流行します(ムンプスウイルスは通年性)。
未治療甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者において、甲状腺組織の20%にエンテロウイルスRNAを認め(健常人コントロールでは0%)、甲状腺機能亢進症/バセドウ病発症の一部にエンテロウイルスが関与している可能性があります。(J Med Virol. 2013 Mar;85(3):512-8.)
また、夏に流行するエンテロウイルス(エコーウイルス、コクサッキーウイルスA/B、特にコクサッキーウイルスB4)は亜急性甲状腺炎の最も多い原因ウイルスと考えられています(J Endocrinol Invest. 1987 Jun; 10(3):321-3.)(J Clin Endocrinol Metab. 1990 Feb; 70(2):396-402.)(Ann Intern Med. 1991 Jun 15; 114(12):1063-4.)。
コクサッキーウイルスA群感染症
コクサッキーウイルスA群感染症は、
- 流行性筋痛症
-
ヘルパンギーナは小児、特に乳幼児の咽頭のみに小水疱が好発し、手足口病とは異なる分布をします。
-
ウイルス性髄膜炎(無菌性髄膜炎)
- 亜急性甲状腺炎の原因の一つです。(亜急性甲状腺炎の原因)(J Endocrinol Invest. 1987 Jun;10(3):321-3.)
手足口病は夏風邪の一種。9割が5歳以下の乳児/幼児で、飛沫感染・接触感染により保育園などの集団感染がおきる。コクサッキーウイルスA10、A16およびA5、エンテロウイルス 71が主な原因。潜伏期は3~5 日。
手足口病の症状は
- 手の平(手掌)、足の裏(足蹠)、口内(咽頭)に2~3 mm の赤い斑点、丘疹、水疱状の発疹が発生
肘頭、膝蓋、殿部にも皮疹を生じることが多い - 約3割が発熱
- コクサッキーウイルスA群の種類によっては全身に発疹
- 稀に髄膜炎・脳炎
まれに成人も発症し、小児より重症化。
コクサッキーB8による手足口病に続いて亜急性甲状腺炎をおこした2.7歳男児の報告があります。[Eur J Pediatr. 2011 Apr;170(4):527-9.]
コクサッキーウイルスB群感染症
コクサッキーウイルスB群感染症は、
- ウイルス性髄膜炎(無菌性髄膜炎)
- インスリン依存型糖尿病(1型糖尿病)、劇症1型糖尿病と密接に関連
- 劇症型心筋炎
- 亜急性甲状腺炎の原因の一つです。(亜急性甲状腺炎の原因)(J Endocrinol Invest. 1987 Jun;10(3):321-3.)
エボラウイルスは、エボラウイルス病(エボラ出血熱)の病原体です。感染動物(フルーツコウモリ、チンパンジー、ゴリラ、サル、レイヨウ、ヤマアラシなど)の体液に、人が濃厚接触すると感染、その後、人から人へ飛沫感染しアウトブレイクを起こします。エボラウイルス病の致死率は50%前後です。
エボラウイルス病(エボラ出血熱)に感染したが、集中治療で助かり、発症後34日目に亜急性甲状腺炎を起こしたスペイン人の報告があります。(Lancet Respir Med. 2015 Jul;3(7):554-62.)
エボラウイルス病(エボラ出血熱)治療薬のレムデシビルは新型コロナウイルス肺炎に対しても使用されます。(新型インフルエンザ治療薬アビガン®(ファビピラビル)、エボラ出血熱治療薬レムデシビルが効く? )
デング熱はネッタイシマカ(熱帯のみ)、ヒトスジシマカ(日本にも生息)の蚊によって人から人へ媒介されるデングウイルスの感染症です。熱帯が流行地なので、ほとんどが海外で感染し、日本国内へ持ち込まれます。
デング熱ウイルス感染の大半は無症状ですが、
- 発疹、頭痛、骨関節痛、嘔気・嘔吐、解熱時期に発疹
- 重症化してデング出血熱(口、鼻など粘膜からに出血)、脳炎、デングショック症候群
の症状まで様々です。
デング熱ウイルス感染で
- 結膜炎と亜急性甲状腺炎(J Coll Physicians Surg Pak. 2016 Jun;26(6 Suppl):S33-4.)。
- 脳内出血と亜急性甲状腺炎(BMC Infect Dis. 2012 Oct 3;12:240.)。
- 急性横断脊髄炎と亜急性甲状腺炎(Exp Ther Med. 2016 Oct;12(4):2331-2335.)
を起こした報告があります。いずれも亜急性甲状腺炎単独でない点がポイントです。
デング熱ウイルスに安全かつ効果が高いワクチンはまだありません。
サル痘は、人とサル両方が感染する人獣共通感染症で、サル痘ウイルスが原因。サル痘ウイルスは天然痘ウイルスに近いウイルスですが、天然痘に比べ症状は軽いです。
1970年、アフリカのザイール(コンゴ民主共和国)でサル痘のヒトへの感染が初めて報告され、2022年5月以降、欧米を中心に、アフリカ渡航歴のない人でサル痘感染のクラスターが増えています[BMJ. 2022 May 17;377:o1239.]。2022年7月25日に日本でも第一例が出ました。
サル痘の潜伏期は7~14日(最大5~21日)で、
-
発熱、頭痛、リンパ節腫脹(顎下、頸部、鼠径部など);亜急性甲状腺炎と鑑別
-
1-3日後に発疹;顔面・四肢(手掌や足底にも→水痘と異なる点)、隆起して水疱、膿疱、痂皮になる→2次感染
-
気管支肺炎、敗血症、脳炎、角膜炎を起こすことも
動物実験では壊死性結膜炎と共にサル痘甲状腺炎が発症します。結膜からはサル痘ウイルス抗原が検出されますが、甲状腺からは検出されませんでした[Lab Invest. 2001 Dec;81(12):1581-600.][Endocrinol Metab (Seoul). 2022 Sep 28.]。筆者が思うに、亜急性甲状腺炎はウイルス感染後、2次的に惹起される免疫反応なので、別にウイルスが甲状腺に存在する必要はありません。
サル痘は天然痘ワクチンで約85%の予防効果があります。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。