クッシング症候群と甲状腺[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺機能低下症 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
内分泌代謝(副甲状腺・副腎・下垂体)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科学教室で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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クッシング症候群と甲状腺(本ページ)
Summary
クッシング症候群は原発性甲状腺疾患の有病率が高い。クッシング症候群では過剰な副腎皮質ホルモンが①T4 → T3を触媒する脱ヨード酵素を抑制しFT3 低値、FT4 正常値[低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)と同じ原理]②視床下部-下垂体-甲状腺軸の調節に影響しACTHだけでなくTSH分泌も抑制(中枢性甲状腺機能低下症)。クッシング症候群腫瘍摘出後①SITSH(TSH不適切分泌症候群)②自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病、橋本病、無痛性甲状腺炎)が発症。甲状腺機能亢進症/バセドウ病がサブクリニカルクッシング症候群をマスクする。
Keywords
副腎皮質ホルモン,コルチゾール,クッシング症候群,中枢性甲状腺機能低下症,SITSH,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,無痛性甲状腺炎,甲状腺,副腎
副腎腺腫によるクッシング症候群と甲状腺乳頭癌、両方が同時に見つかった時、どちらを先に手術するか?普通に考えれば、副腎腺腫摘出後の副腎不全状態での甲状腺手術は、急性副腎不全(副腎クリーゼ)の危険があるため避けるべきです。ならば、先に甲状腺乳頭癌を摘出し、急性副腎不全(副腎クリーゼ)を回避すれば良いでしょう。
ただし、クッシング症候群下での甲状腺摘出手術は、
- 術創が治りにくい
- 術後感染症の危険
等の問題があります。
副腎腺腫によるクッシング症候群と甲状腺髄様がんの場合も同じです[J Endocrinol Invest. 2006 Feb;29(2):177-81.]。
クッシング症候群では、過剰な副腎皮質ホルモンが甲状腺ホルモンの数値に影響します。
- 副腎皮質ホルモンがT4 → T3 への変換を触媒する脱ヨード酵素を抑制し、FT3 低値、FT4 正常値に。(低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)と同じ原理)[Clin Sci (Lond). 1982 Feb;62(2):215-20.]
- 副腎皮質ホルモンが、視床下部-下垂体-甲状腺軸の調節に影響し、ACTHだけでなくTSH分泌も抑制。TSH低値の中枢性甲状腺機能低下症に。
[Metabolism. 1994 Jun;43(6):782-6.][J Clin Endocrinol Metab. 1991 Jun;72(6):1195-9.]
[図;Int J Mol Sci. 2021 Mar 19;22(6):3131.]
「TSH低値、FT3 低値、FT4 正常値」
を示し、低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)と中枢性甲状腺機能低下症の複合病変になります。ステロイド剤投与中のネフローゼ症候群、膠原病でも同じパターンになります。
もちろん副腎皮質腫瘍摘出後に正常化します。
[Endocr Connect. 2019 Aug 1;8(8):1176-1185.](日内分泌会誌.(Foliaendocrinol.jap.)59,1086~1098.1983)
同じパターンになる病態として、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に低T3 症候群を合併した場合があり、鑑別を要します(低T3,低TSH,高T4は甲状腺機能亢進症/バセドウ病に低T3症候群を合併)。
さらに重度では、「TSH低値、FT3 低値、FT4低値」
で、低T3,T4,TSH症候群(low T3,T4,TSHsyndrome)と同じパターンになります。
クッシング症候群の治療後にSITSH(TSH不適切分泌症候群)が発症します[J Clin Endocrinol Metab. 2013 Jul;98(7):2656-62.]。
クッシング症候群の治療後、急激な副腎皮質ホルモンの低下で、上記のTSH分泌抑制が解除されるためと考えられます。
クッシング症候群は原発性甲状腺疾患の有病率が高い
クッシング症候群の患者は、原発性甲状腺疾患の有病率が著しく高いとされます。
- 甲状腺腫(30.5%;約40%びまん性、約20%結節性)
- 原発性無症候性甲状腺機能低下症(23.7%)
- 甲状腺機能亢進症(8.4%)
- 甲状腺自己免疫抗体が陽性(56.1%)
[Eur J Endocrinol. 2002 Sep;147(3):305-11.]
クッシング症候群の治療後に自己免疫性甲状腺疾患(甲状腺機能亢進症/バセドウ病、無痛性甲状腺炎)が発症
副腎皮質ホルモン(コルチゾール)はステロイドホルモンなので、自己免疫を抑える作用があります。クッシング症候群を治療した後、急激な副腎皮質ホルモンの低下で自己免疫性甲状腺疾患[甲状腺機能亢進症/バセドウ病、無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)]が発症・増悪する場合があります。(Gland Surg. 2021 May;10(5):1627-1637.)[Intern Med. 2021 Jan 1;60(1):99-103.][Clin Endocrinol (Oxf). 2000 Jul;53(1):13-9.]
クッシング症候群患者における甲状腺自己免疫抗体の陽性率は、手術前後で26.7%から86.7%に上昇したとされます[Eur J Endocrinol. 2002 Sep;147(3):305-11.]。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の発症例は
- 副腎腫瘍の切除前は、低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)と中枢性甲状腺機能低下症の複合病変
- 副腎腫瘍の切除後は、視床下部-下垂体-甲状腺軸の調節が狂い、一端、SITSH(TSH不適切分泌症候群)
- その後、急激な副腎皮質ホルモンの低下で自己免疫が活性化され、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が発症
(Intern Med. 2021 Jan 1;60(1):99-103.)
また、クッシング症候群の治療後に亜急性甲状腺炎を発症した報告もあります[Virol J. 2009 Jan 12;6:5.][Eur Thyroid J. 2014 Mar;3(1):69-72.]。その原因として、コルチゾールの減少でTh1/Th2バランスが変化した可能性が考えられます[Ann N Y Acad Sci. 2004 Jun;1024:138-46.]。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病がサブクリニカル クッシング症候群をマスク
元々、甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、
- 血中コルチゾール分解も亢進
- 全身の代謝が亢進しているため、末梢組織でのコルチゾール必要量(消費量)は増加
するため、相対的副腎不全状態にあります。[Endocrine. 2014 Feb;45(1):136-43.]
そのため、甲状腺機能亢進症/バセドウ病においては、サブクリニカル クッシング症候群がマスクされてしまいます。(第64回日本甲状腺学会 35-1 バセドウ病によりコルチゾール過剰が不顕在化したサブクリニカルクッシング症候群の一例)
クッシング症候群でのプロラクチン(PRL)値
クッシング症候群での血中プロラクチン(PRL)基礎値・TRH試験での反応は正常との報告が多いです(J. Clin. Endocrinol. Metab., 51: 1048-1053, 1980.)。
クッシング症候群での成長ホルモン(GH)値
クッシング症候群での成長ホルモン(GH)基礎値、hGRH負荷試験による反応共に抑制されます。ただし、1-12週の短期間の副腎皮質ステロイド薬投与は、hGRH負荷試験による反応に影響しないとされます。(Nat Rev Endocrinol. 2013 May;9(5):265-76.)(Life Sci. 1988;42(9):979-84.)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,浪速区も近く。