関節痛・EMO症候群と甲状腺 [甲状腺機能低下症 橋本病 甲状腺機能亢進症 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科(内分泌骨リウマチ科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。RS3PE症候群・HTLV-1関連関節症(HAAP)・成人スティル病の診療を行っておりません。
Summary
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の関節痛①抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の副作用、ANCA関連血管炎②肥大型骨関節症(バセドウ病バチ指/バセドウ病関節症):EMO症候群(悪眼球突出,前脛骨粘液水腫,肥大型骨関節症)③骨分解亢進(高カルシウム血症と骨粗鬆症を伴う)④シェーグレン症候群、関節リウマチなど膠原病合併⑤高尿酸血症・痛風。甲状腺機能低下症/橋本病の関節痛①粘液水腫②膠原病合併③痛風。原発性副甲状腺機能亢進症で骨破壊による関節痛、偽痛風。RS3PE症候群・HTLV-1関連関節症(HAAP)・成人スティル病と鑑別。
Keywords
関節痛,メルカゾール,EMO症候群,抗甲状腺薬,甲状腺,橋本病,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,甲状腺機能低下症,肥大型骨関節症
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病に対する抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の副作用
- 肥大型骨関節症(バセドウ病バチ指/バセドウ病関節症):EMO症候群(悪眼球突出,前脛骨粘液水腫,肥大型骨関節症)
- 関節痛が主訴の甲状腺機能亢進症/バセドウ病があります。
- 甲状腺機能低下症/橋本病(甲状腺機能亢進症/バセドウ病でも)に潜在性シェーグレン症候群/シェーグレン症候群、関節リウマチを合併することが多く、多発性関節炎をおこします。膠原病関節炎は腫れない、圧痛点がないのが特徴。
ベーチェット病の合併もあり(Oxf Med Case Reports. 2020 Jan 31;2020(1):omz132.)
- 甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症/バセドウ病いずれでも高尿酸血症・痛風を起こす可能性があります。
- 甲状腺機能低下症では、粘性の高い関節液が滲出し、関節が粘液水腫のような状態になる。甲状腺ホルモン剤(レボチロキシン:チラーヂン)投与により劇的に改善。
成人は手・膝関節を含む
小児は股関節・大腿骨頭の骨端を含む
(Semin Arthritis Rheum. 1995 Feb;24(4):282-90.)
手根管症候群・深腓骨神経麻痺 を伴うとシビレも起こる
- 原発性副甲状腺機能亢進症では、副甲状腺ホルモンが骨破壊を促進して、関節痛をおこしたり、骨折しやすくなります。
- 原発性副甲状腺機能亢進症の6~10%に関節内ピロリン酸カルシウムが沈着しており、偽痛風の原因になります。
偽痛風患者の5-10%に甲状腺機能低下症を認め、特に高齢者で高率とされます (Am J Med 1975; 59: 780-90.)。一方、偶然の合併で因果関係なしとの報告もあります(Ann Rheum Dis. 1983 Feb; 42(1): 112.)(J Rheumatol. 1989 Jun;16(6):807-8.)。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病でも、稀ながら偽痛風を発症した症例報告があります(第59回 日本甲状腺学会 P1-3-3 チアマゾールによる治療中に多発関節痛を発症した1 例)(Postgrad Med J. 1992 Apr;68(798):303. )。
(甲状腺と偽痛風 )
antithyroid arthritis syndrome
甲状腺機能亢進症/バセドウ病に投与する抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の副作用で、服用後2〜3週間以内に、発熱(39度~微熱)・移動性関節痛(おもに上下肢)・皮疹がおこることがあります(antithyroid arthritis syndrome)。[J Rheumatol. 1998 Jun;25(6):1235-9.]
antithyroid arthritis syndromeは、
- 1-2%の頻度
- メルカゾールとPTU(プロパジール、チウラジール)で出現頻度に差はない
- 一年以上しておこる事もある
- 関節リウマチのような朝方におきる手のこわばりもある(第55回 日本甲状腺学会 P2-06-06 メルカゾールにてmorning stiffness が出現したバセドウ病の1 例)
- ANA(抗核抗体)が弱陽性になることもある
- CRPは強陽性
[J Clin Endocrinol Metab. 2003 Aug; 88(8):3474-81.]
抗甲状腺薬誘発性血管炎症候群とは異なる病態の副作用で、MPO-ANCA関連血管炎 との鑑別が必要です[Intern Med. 2016;55(24):3627-3633.]。
antithyroid arthritis syndromeの治療は、原因になる抗甲状腺剤の減量あるいは中止と、非ステロイド系鎮痛剤・副腎皮質ホルモン剤の投与。症状が消失するのに、1~3週間を要します。[J Rheumatol. 1998 Jun;25(6):1235-9.][Intern Med. 2016;55(24):3627-3633.]
MPO-ANCA関連血管炎
特にANCA関連血管炎をおこした場合の関節炎は、抗甲状腺剤を中止。肺・腎障害がある場合、副腎皮質ホルモン剤が必要です。別の抗甲状腺剤も使用不能になり、アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療・手術療法(甲状腺全摘出)しかありません。
MPO-ANCA関連血管炎は、関節炎・皮膚炎・神経炎(多発性単神経炎)、ANCA関連腎炎、肺腎症候群、間質性肺炎、心血管障害で心筋梗塞を伴います。
詳しくは、 MPO-ANCA関連血管炎 を御覧ください。
EMO症候群は、
- 眼球突出(exophthalmos)
- 前脛骨粘液水腫(myxedema circumscriptum pretibiale)
- 肥大型骨関節症(osteoarthropathia hypertrophicans)
の頭文字を取ったものです。日本では約20例の報告があるのみで極めてまれです(J Dermatol. 1991 Oct;18(10):598-604.)。
E→M→Oの順に出現することが多いです。バセドウ病に合併する頻度は、悪性眼球突出 0.8%、前脛骨粘液水腫 0.5~1.0%で、肥大型骨関節症はさらにまれです(日本内科学会雑誌 Vol. 83 (1994) No. 2 P 308-310)。
EMO症候群は、バセドウ病の自己免疫が原因と考えられます。リンパ球浸潤や、抗TSH受容体抗体・種々のサイトカインにより線維芽細胞が刺激され、コラーゲン、プロテオグリカン、IGF-1(インスリン様成長因子)産生亢進がおこるとされます。[N Engl J Med. 1992 Jun 25;326(26):1733-8.][N Engl J Med. 1992 Jun 25;326(26):1772-3.]
肥大型骨関節症の
- X線写真は、けば立ったような骨膜肥大(診断難)
- 関節エコー所見は、不規則な骨の隆起と肥厚(容易に診断できる)
[Intern Med. 2022 Jan 15;61(2):273-274.] - テクネシウム-99mピロリン酸骨シンチグラフィーで局所蓄積[J Nucl Med. 1976 Sep;17(9):791-3.]
- MRI磁気共鳴画像法は、骨膜の変化を見るのに有用[Eur Radiol. 2001;11(6):1058-62.]
EMO症候群の治療に関する報告はほとんど無いが、隈病院の報告では全例甲状腺全摘手術になったそうです。バセドウ病抗体(TRAb,TSAb)が最も下がるのは甲状腺全摘手術なので理にかなっています。(第65回 日本甲状腺学会 P1-5 当院で経験したEMO症候群の6例)。
関節痛が主訴の甲状腺機能亢進症/バセドウ病があります。近位指節関節、中手指節関節、手首(手関節)、足首(足関節)、膝関節[甲状腺ホルモン異常と変形性関節症(OA)]などの痛み。骨分解の亢進によるもので、高カルシウム血症と骨粗鬆症を伴っている可能性があります。(Mol Clin Oncol. 2017 Feb;6(2):258-260.)
鑑別が必要なRS3PE症候群(Remitting Seronegative Symmetrical Synovitis with Pitting Edema):60歳以上の高齢者に好発し,急性に圧痕浮腫を伴う対称性滑膜炎です。関節リウマチと似ていますが、関節でなく腱の滑膜炎で関節破壊はありません。関節エコーにて腱の滑膜の増殖を証明します。
血清中の血管内皮成長因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)濃度が著明に増加、血管透過性が亢進し、対称性滑膜炎による末梢関節痛、両側手背・足背の浮腫、手指屈筋腱の炎症による疼痛がおきます。手足の浮腫で甲状腺機能低下症と鑑別・関節痛で肥大型骨関節症(バセドウ病バチ指/バセドウ病関節症)、関節リウマチ合併橋本病と鑑別。
VEGFは腫瘍の血管新生に中心的役割を果たし、RS3PE症候群悪性リンパ腫など悪性腫瘍(Clin.Exp.Rheumatol.,17: 266-267,1999.)、シェーグレン症候群などに合併することがあります。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病でも、甲状腺内の血管新生にVEGFが強く関与しますが、甲状腺機能亢進症/バセドウ病とRS3PE症候群の関連を示す症例は報告されていません。
HTLV-1関連関節症(HAAP)と甲状腺関連関節症との鑑別
HTLV-1と自己免疫性甲状腺疾患[橋本病(慢性甲状腺炎),バセドウ病]との関連
HTLV-IキャリアーのみならずHTLV-1関連ぶどう膜炎、HTLV-I関連脊髄症(HAM)患者も、橋本病(慢性甲状腺炎)・バセドウ病の合併が報告されています[J. Int. Med. 230, 89 (1991)]。
橋本病ではHTLV-Iキャリアーの占める率が高く、ウイルスの関与が疑われます[医学のあゆみ,160,203(1992)]。
バセドウ病経過中に成人T細胞白血病(ATL)やぶどう膜炎を合併した症例では、B細胞主体の通常のバセドウ病と異なり、浸潤リンパ球は集簇部ではT・B細胞が相半ば、濾胞間や上皮間ではCD4陽性T細胞が混在するも、B細胞はほとんどみられなかったとされます(第5回日本臨床電顕学会抄録集,1993,p.Sl53)。
成人スティル病(成人発症Still病:Adult Onset Still's Disease:AOSD)とは
成人スティル病(成人発症Still病:Adult Onset Still's Disease:AOSD)は、若年男性に多く、症状は
- 発熱(1日1回のスパイクで、発熱と発熱の間は平熱に戻る)
- 咽頭痛(咽頭に発赤)
- 関節痛(多関節痛、移動性)
- 癒合傾向のあるサーモンピンク疹(リウマトイド疹)が持続
- リンパ節腫脹や脾腫も伴います。
- 血球貪食症候群をおこす場合も[Ann Rheum Dis. 2006 Dec;65(12):1596-601.]。
成人発症Still 病に続発した血球貪食症候群を
薬剤アレルギーも多いため、薬剤誘発性過敏症と見誤るため要注意。
風疹と似た症状ですが、発疹の形状が異なります。また、風疹にしては長く続き過ぎます。伝染性単核球症にしては肝障害が軽度で、やはり長く続き過ぎます。
膠原病が疑われるも抗核抗体陰性、リウマチ因子陰性。ANCA関連血管炎が疑われるもMPO-ANCA・PR3-ANCA陰性。
結局の所、成人スティル病(成人発症Still病)は除外診断となり、決め手になる特異的な自己抗体は見つかっていません。しかし、著明な高フェリチン血症があれば疑い濃厚。治療はステロイド。
発熱、関節痛が主体で血清フェリチン値が軽度上昇、サーモンピンク疹(リウマトイド疹)が はっきりしない成人スティル病(成人発症Still病)は診断が難しいです。その際は亜急性甲状腺炎との鑑別も必要で、成人スティル病様の経過を示した破壊性甲状腺炎の症例が報告されています。
スパイク状高熱は腫瘍熱・CVカテーテル感染症・マラリアでもおこります。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病でメルカゾール投与中に発症した成人スティル(Still)病
甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療中に成人スティル(Still)病を発症した症例が報告されています。メルカゾール投与中に甲状腺機能亢進症/バセドウ病再燃、2ヵ月後、38~40℃の発熱、咽頭痛、皮疹、肝酵素上昇あり。メルカゾール副作用の薬剤熱 、薬剤誘発性過敏症 、無顆粒球症を疑い、メルカゾール中止しても症状改善なく、後頸部、両肩、足関節の痛みも出現。さすがに、ANCA関連血管炎・全身性エリテマトーデス(SLE)、SLE様症状、血球貪食症候群を疑いますが、ANCA・抗核抗体陰性、しかし、成人スティル(Still)病の診断基準は満たします。
成人スティル(Still)病と甲状腺機能亢進症/バセドウ病の合併報告は極めて稀です。ステロイド剤を投与すれば、両方を抑えられますが、減量すれば少なくともバセドウ病はリバウンドします。抗甲状腺薬(メルカゾール・プロパジール)の副作用として発症した可能性を否定できないため、薬物治療はあきらめてアイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療か手術療法(甲状腺全摘出)するしかありません。
(Nihon Rinsho Meneki Gakkai Kaishi. 2011; 34(5):426-30.)(第59回 日本甲状腺学会 P4-3-1 バセドウ病再燃後に成人Still 病を発症した1 例)
海外でも甲状腺機能亢進症/バセドウ病と成人スティル病(成人発症Still病)が同時に見つかり、日本の報告とほぼ同じ経過を辿っています。(Open Rheumatol J. 2014 Jul 11;8:9-12.)(Immunopharmacol Immunotoxicol. 2010 Dec; 32(4):696-9.)
1型、2型糖尿病問わず甲状腺疾患の合併が多いとされます。詳しくは 甲状腺と糖尿病 を御覧下さい
糖尿病では変形性関節症(OA)が早くから始まり、重症になります。
糖尿病性手症候群(デュピュイトラン拘縮)は手がこわばり、繊細な運動が障害されます。握力低下に始まり、指と手のひらを合わせられなくなります。
(上)糖尿病性手症候群(デュピュイトラン拘縮);手のひらの腱が固まり、ボコボコした腫瘤になります。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)
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